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2005年06月 アーカイブ

2005年06月11日

清潔でガン

British Medical Journal誌2005年6月4日号に、興味深い論文が掲載されている。


『乳幼児期に清潔にしすぎると、小児白血病になり易い』というものだ。

≪乳児期からの集団保育は小児白血病にかかるリスクを半減させる--英国研究≫

 生後早くからほかの子どもたちと接触し、一般的な感染症にかかる機会がある子どもは、代表的な小児癌のひとつである急性リンパ性白血病にかかるリスクが大幅に低い――こんな研究結果が明らかになった。英癌研究所のClare Gilham氏らの研究で、種々の感染症に暴露する頻度と、小児の急性リンパ性白血病(ALL)の関係を調べ、生後早い時期から、集団保育などの機会がある子どもは、ALLのリスクが半減することを明らかにし、British Medical Journal誌2005年6月4日号に報告した。

 小児の白血病と感染の関係は、1940年代から論じられてきた。1988年、乳児期に病原体に暴露されることが少なかった子供が、幼児期に入って多くの感染を経験すると、小児白血病の代表型であるB前駆細胞型ALLを発症するのではないかという説が提唱されている(Greaves、Leukemia誌2巻120-125ページ)。

 大規模な集団ベースのケース・コントロール研究である英国小児癌研究(UKCCS)では、この仮説の検証を目的の1つとして、英国10地域で1991-1996年に実施された。実際に、様々な感染病原体への暴露の可能性を調べることは困難であることから、著者らは、自宅外で他の子どもたちと接触する社会的活動の頻度を代替変数とした。

 分析の対象は、2~14歳で、癌には罹患していない小児6305人と、ALL患者1286人(うちB前駆細胞型ALL患者は798人、そのサブグループとなる染色体過剰=hyperdiploid ALL=患者は420人、TEL/AML1融合遺伝子が見られるALL患者は139人)、そして参照集団としてALL以外の小児癌の患者が1854人。

 研究グループは、小学校入学までの特定の活動への参加頻度や活動の内容を、親を対象とする面接により調査した。社会的な活動とは、定期的に(週1回以上)自宅外で行われ、兄弟以外の子供が参加するものとした。保育は、託児所、保育園、プレイグループなどに週1回以上参加すること、正規の保育とは、4人以上の子供と一緒の、半日の活動を週2回以上行うこととした。

 2歳以上の子供を持つ母親の86%が、生後1年間に自宅外での社会的活動に参加していたと答えた。何らかの活動への参加によりALLリスクは減少した。活動に参加していなかったグループと比較すると、全ALLでオッズ比0.66(95%信頼区間0.56-0.77、以下同)、B前駆細胞型ALLで0.67(0.55-0.82)、hyperdiploid ALLは0.64(0.50-0.83)、TEL/AML1 ALLは0.59(0.38-0.90)となった。また、非ALL小児癌も減少が見られた(0.78、0.68-0.90)。

 いずれの場合も、ALL発症リスクは活動頻度が増えるにしたがって低下した(傾向のP値は、TEL/AML1 ALLと非ALL小児癌で0.04、あとは<0.001)。次に、全ALLと非ALL小児癌を比較したところ、他の小児癌に比べALLのリスク減少が有意となったのは、正規の保育への参加だった(オッズ比0.69、0.51-0.93)。

 保育などに通い始めた時期(生後3カ月未満、3-5カ月、6-11カ月)とALLリスクの関係を調べたところ、早期の参加がリスクをより下げる傾向は明らかではなかった。が、正規のデイケアに3カ月未満から参加していた子供のオッズ比は、非ALL癌を参照グループとした場合にも有意に低かった(0.52、0.32-0.86)。

 これらの結果は、生後数カ月間に感染の機会が少ないと、ALLを発症するリスクが上昇するという仮説を支持した。同様の関係は、1型糖尿病やアレルギーでも見られているという。生後早くからの適当な感染の機会は、子供の健康にとって重要だと考えられる、と著者らは結論付けている。

 日本でも最近、過度な潔癖の問題点を指摘する議論が出始めている。早くから、ありふれた感染を繰り返すことで免疫機能が育ち、大きな病気を防ぐ可能性を本論文では指摘している。子供同士がふれあう機会は、健全な精神的発達にも欠かせない。定期的に外に出ることで、母親のストレスが減少すれば、家庭内での母子関係もよりよいものになるだろう。

 本論文の原題は「Day care in infancy and risk of childhood acute lymphoblastic leukaemia: findings from UK case-control study」。

Hygiene Hypothesis が登場してから、アレルギー、自己免疫疾患につづき、とうとうガンにまで言及するエビデンスが揃ってしまった。

Q&Aの No.560 『補足説明:常在菌の存在意義』でも書いたことだけど、最近の“除菌・抗菌ブーム”には、呆れるばかりだ。


---人間の浅知恵で「よかれ」とおもってやることなんて、全く当てにならないな---


これは、常々思っていたことだ。
医学が日進月歩しても、生命の全貌を100としたら、まだまだ『1』くらいのところでうろちょろしているようなもんだろうって思う。


人間は、なかなか、自分のしてきたことを否定できないものだ。
特に役人などは、前例を頑なに守る。前例を作った人を否定することになるからだと聞いた。

前例なんて、クソくらえだ。自分のしてきたことが誤りだったら、ころっと手のひらを返せば良いじゃないか。良かれと思ってたことでガンが増えるなんて、青天の霹靂なんだから。

衛生環境にもJカーブがあると言うことが、これで明らかなにったのだから、マスコミは無知な国民を間違った方向に導かないように、即刻、あのアホなコマーシャルは中止すべきだ。


でも、マスコミって馬鹿だから、今度は不衛生を喧伝しかねない。こまったもんだ。
 
 
 
閑話休題

ブラックジッャクの愛読者だった私は、ふと、思い出した言葉がある。

『生き死にはものの常なり。医の道は他にあり。』(だったかな・・・)

この言葉は、刀鍛冶が死ぬ間際に残したものだったか、本間丈太郎が語ったものだったか、失念してしまったが、人間の智慧が及ぶ範囲なんてたかが知れているということを、当時、私に強烈に印象づけた言葉だった。


---また、読み返してみようかな---


20050611bj_13.gif

ふと、そんな気になってしまった。

2005年06月13日

大衆迎合とスタチン

毎朝、ズームインスーパーを見るにつけ、思うことがある。

---月曜日のコメンテーターは駄目だな---

一言で言うと、大衆迎合主義で、判官びいき。受け狙いのコメントしかしない。今朝だって、ニート(働かないばか者)の原因を一部上場企業や大学に求め、産・官・学が協力して問題解決にあたらなければならないなんて、頓珍漢なコメントをしている。

本気で思っているのなら、救いようの無い馬鹿だ。

どんな時でも『強きをくじき弱気を助ける』姿勢を見せていれば“受けが良い”なんて考えているのだろう。“大衆”も舐められたもんである。薄っぺらな善意を振りかざしても、本気で問題を解決しようと考えている人達の神経を逆なでするだけだ。

この人なら、うつ病の患者に同情して頑張れ!と励ますであろう。その程度にしか物事を考えない、思慮の欠けたコメントである。
 
 
 
 
閑話休題

相変わらず、スタチンで“ガンが予防出来た!”って報告が続いている。(トピックス参照)
相変わらずなんて表現してしまったのは、作用機序から考えれば当たり前のことだからだ。効果が100%じゃないのは、その癌細胞の増殖が、ras 系にどれだけ依存しているのかって事だろう。

スタチンで抑制されるコレステロール生成は最大で30~40%位だろう。供給される中間産物ファルネシル酸が減少するのも同じ事だ。これが Ras への転移酵素の効率が100%じゃないとして(これら酵素にしたって効率の個人差がある)、このような微妙な?ファルネシル化 Ras の減少が、細胞の増殖に影響を与えていることになる。

微妙な差だからこそ、100%の予防にならない訳だ。ある人にとっては、その程度のファルネシル化 Ras の減少では、細胞増殖の抑制にまで至らないと言うことだ。

生体内で細胞増殖を100%抑制しちゃう薬を使ったら、人は死ぬ!当たり前のことだ。中学生でもわかる。個人(ガン細胞)を殺して国(生体)を生かにゃならん訳だから、最初から難しいのはわかっている。

ならば、この微妙な“ファルネシル化 Ras の減少”のどこに、ガンの予防に役立つ人と役に立たない人の差を見出せば良いのか?

今のままでは、平均値としては予防効果があるのはわかるけど、個人にとっては何のエビテンスにもならない。わかるのはこの薬に予防効果があるらしいということだけだ。頭痛の時に服用するバファリンなら、程度の差こそあれ、万人が鎮痛する。このような薬なら、大規模臨床試験によって求められる個人差を無視した古典的な平均値でも“エビデンス(証拠)”として通用するが、半分の人には全く無意味な薬の服用が、このような大規模試験で“エビデンス”になるわきゃないのは明白だ。


同じ臓器から発生するガンだって、その遺伝子プロフィールに個人差があることがわかってきたことだし、もうそろそろ、臓器別に知見を貯えるような意味の無い報告は止めにして、遺伝子プロフィール別に知見を貯えるべきだ。試験のプロトコールそのものを見直おさなきゃならない。


それでこそ、予防薬としてのエビデンスになる。これ以外には無い。


もしかしたら、こんな分野(医学・医療)にも、臨床試験の意義・意味のわからない低レベルの医療従事者や素人相手にペーパーを乱発するレベルの低い研究者がいるのかもしれない。

大衆迎合主義なのか、はたまた、本当に馬鹿なのか?判断は難しい・・・・。
┐(´∀`)┌ヤレヤレ

2005年06月18日

Peer Review

以前、WebMaster's impressions『新聞紙上での本音』でも触れた事だが、つい先日は、医学会が事実を公表した。

腹腔鏡手術、半数が不合格…一線の医師対象に初テスト


新聞紙上でも、きっちりと同門を評価する事が言えるようになってきて、非常に好ましいと思っていたのだが、ついに、白い巨塔の内部からも同様の声が出てくるようになったのは素晴らしいことだと思う。


さて、ここ WebMaster's impressions は、誉めるだけのブログじゃないので、ひとつ“Peer Review”を切り口に強烈な関節技をお見舞いしてあげようと思う。当然、対象は薬剤師だ。(薬剤師の方には気分を悪くされる方もいらっしゃるだろうから、そういう方は読まない方がいいかも。)


Peer は ネットワーク (LAN) 用語では、Peer to Peer のように使用される。ネットワーク (LAN) といえば、サーバー/クライアント(S/C)型のネットワークが主流だから、Peer to Peer なんて知らない人がほとんどだと思うけど、2台のパソコンのネットワークカード (NIC) を10baseT のクロスケーブルで直結するネットワーキングだ。

どちらかがサーバでどちらかがクライアントという訳じゃなくって、お互いに対等なネットワークなのだ。

ちなみに、ハブを介して接続する S/C 型ネットワークでは“ストレートケーブル”を使用する。ネットワーク初心者がケーブル購入時に“クロス”の存在を知らずにうっかりストレートと間違えて“クロスケーブル”を購入ミスするのは、隠れた笑い話だ。


で、“Peer Review”。直訳すれば“同僚による評価・監視”と訳せる。知らなかった人は、Peer Review ってググって(google)下され。
 
 
 
さて、その“Peer Review”、薬剤師会のお偉方の先生達は、知っていても知らん振りを決めたいところだろう。まして、程度の低い薬剤師達は言葉すら知るよしもない。
知ってたとしても、職場内でお互いの知識を評価し合うなんて、とてもとても出来ないことだと思う。なにしろ、みんな仲良くがモットーの次元で仕事してる薬剤師がほとんどだからね。

“知識”と言う言葉を出したのは、今回の問題提起になった医師の内視鏡技術に対応するものが薬剤師の知識と言えるからだ。

薬剤師は薬学部を卒業して国家試験に受かると、何故か、お互いに知識の差を比べることを避ける傾向にある。これは、実体験にも基づく。不勉強で知識不足を指摘しようものなら、全く別次元の仕返しをしてくることもある。(事実、勉強会と言う場で知識不足を指摘したら、非常に憤慨して『煙草を止めろ』と言われたことがある。)


薬剤師って、薬の専門家だよね?自称でも他称でも『薬の専門家』っていうなら、医療に供される薬の作用機序に、わからないものがあるなんて、赦される訳が無い。

薬剤師にとっては、薬の知識だけが、唯一、薬剤師を薬剤師たらしめるものなのだから、1に知識、2に知識、3、4が無くて5に知識。6番目くらい接客態度とか、話し方とか、が大切になってくる。
まさか、錠剤の数え方やハサミの使い方にテクニックが・・・とか、秤量の仕方、ドラフターで無菌性剤の調製方法にテクニックが・・・なんていうやつは、いないだろう。(慣れれば、誰でも出来る仕事は薬剤師の仕事じゃない)


だけど、、、面白いことに、薬剤師仲間の間では、1~5までについて真面目に向かい合う事はタブーで、みんなが一緒に知らなくて、一緒に学べる6以降をせっせせっせと勉強する傾向がある。薬の勉強と言っても、メーカーの新薬説明会位がせきのやまだから、ここでも、ポケーっとしてみんなで“拝聴”するだけで、質問も出やしない。事前に知ってる薬だったとしても、理解しているわけじゃないので、質問も出来ないのだ。

学術大会と称する場でも、“学術”の定義をしなおさなければならない内容だ。一度、参加したことがあるが二度と、行く気はしない。(実は、これに関しては、立場のある方から聞いた興味深い話があるのだが、ここでは書けない。残念!)


『あの薬局にいる薬剤師は、程度が低い』とか、『我が薬局にいる○○と○○は程度が低い』ということを言えない。
 
 
 
何故、Peer Review が出来ない事を問題にするかと言うと、その薬剤師の質を一番正確に評価できるのが一緒に働いている薬剤師であり、同じ地区で働き顔の合わせる機会の多い薬剤師だから、だからこそ、その同僚が評価しないで、誰がする?ということなのだ。


どうして薬剤師は peer review が出来ないのか?

逆にいえば、peer review が出来る人間は、“公益を重んじる利他的な人間”だ。

薬剤師は“公益を重んじる利他的な人間”とは言えないから、peer review が出来ないのだ。

薬剤師仲間でギスギスした人間関係を作りたくないからと考える人は、すでに“公益を重んじる利他的な人間”ではない。


なぜならば、薬剤師は、患者さんにとって存在する職業だからだ。だから、患者さんの利益を最大限に考慮しなければならない。これが薬剤師にとっての公益だ。

患者さんにとっての最大の利益とは、薬剤師の資が高い事であり、具体的には薬についての圧倒的な知識だ。(知ってるだけじゃなく理解してなきゃだめ!職場の人間関係は、優先順位をつけるとすれば患者さんより低いはず。peer review が出来た上で人間関係がよければ言う事はないが、まず、人間関係のために、思った事も口に出せない薬剤師がほとんどだろう。)

そして、薬剤師の質を高める為には peer review が最も効果的だ。いつも身近にいて、お互いに緊張感を与え合い、勉強する事のモチベーションを持ちつづける為には、もってこいの存在が“同僚薬剤師”だ。その同僚の目が“peer review”というわけだ。


いくら6年間勉強しても、免許を取得してからほとんど勉強しなければ、水準の知識を維持する事すら難しい(医学知識の賞味期限は長くて5年がいいところ)。毎日やるのならまだしも、月に1~2度の説明会や研修会に出席しても、メーカーを呼んで説明会を開いても、それは“害にはならないけど、資質向上なんて望めるわけはない”。

薬剤師は、患者さんのために、勉強に対する真剣な態度が必要なのだ。

評価し合うことと、人格を否定しあう事は、全く関係ない。知識の足りない部分を指摘されたって、他に自信のある分野があれば、素直に指摘・評価を受け入れられるものだ。素直に、指摘・評価を受け入れられないのは、全てにおいて劣っているから人格まで否定された気になるのだろう。つまり、自分が悪いのだ。


話は変わるが、この間サッカー日本代表がワールドカップ出場を決めた。選手同士、特に中田選手が仲間に檄を飛ばしていたらしい。誰かが“嫌われ者”ならなきゃ・・・って言って。“嫌われ者”にならなきゃならない環境も悲しいものがあるが、これが、日本人同士の現実なのかもしれない。

20050618yanagisawa.jpg悲しいけど、敢えて実行するのは、海外の選手と共にプレーしているからなのか?やっぱり海外組みには違うものを感じる。チームがレベルアップすることなら、それ“peer review”が普通に出来るの環境なのだろう。日本でプレーしているモチベーションの低い連中は徒党を組んで群れたがるように見えてしまう。

しかし、プロと名の付く世界では“peer review”は当たり前なのかもしれない。当たり前の事が出来ていないのが、そろそろ、薬剤師だけ・・・。


薬剤師の世界で“peer review”が素直にできる時期は、はたして来るのだろうか?

2005年06月20日

旅行者下痢症に rifaximin

『旅行者下痢症に FDA が抗菌剤を認可』との記事(トピックス参照)に、、、


---またかよ!(菌を)殺しゃいいってもんじゃねぇだろ---


20050620.gif

antibiotics よりは sysbiotics , probiotics に心地よさ、生き物としての自然さを感じる私にとっては、当然、そう感じる訳だが、、、、。


一般名、rifaximin はイタリアで開発され1988年から使用されているらしい。気になって、ググってみたのだ。そして、rifaximin は消化管からほとんど吸収されずに、下痢時のターゲットオルガンのみで抗菌作用を発揮してくれるらしい。英語の諺では、「旅は心を広げ、お腹をゆるめる」とあり、フランスでは、「トゥーリスタ」(旅行者下痢)なる言葉もあるくらい、旅行=下痢との認識があるみたいだ。


ほとんど、国内のみで海外旅行をしない私にとっては、ついつい、日本の衛生環境が世界の何処でも同様なのだという感覚(錯覚)が染み付いていて、旅行=下痢じゃないし、抗生物質をやたらに使うことに抵抗感がある為、こういう記事には違和感を感じるのだが、こんなことで、まだまだ地球上にも私の知らない衛生状態が存在することも気づかせてくれる。
 
 
 
海外旅行は、したくないわけじゃなく、その反対で、いろいろなところに行きたい。

その為、クリティカルな感染症の予防接種に関しては、常々、気を付けているのだが、“下痢”程度の“腸内細菌叢の乱れ”には殆ど注意を払っていなかった。

特に行きたいところは、イタリアから地中海を時計回りに・・・ヘラクレスの柱まで、って、考えてみれば下痢しそうだ。日本のように魚介類流通にコールドチェーンがあるわけじゃなさそうだし。

下痢すれば、ホテルに缶詰になるし、予定がおお狂いだ。下痢しないに越したことは無い。

それに、rifaximin は耐性菌を生じにくいらしい。機序の情報を正確に掴んだ訳ではないので、なんとも言えないが、“抗生物質乱用による耐性菌の出現助長”のような良心の呵責に苛まれることもないだろう。
 
 
 
というわけで、 sysbiotics , probiotics 党の私にも rifaximin は抵抗無さそうだ。でも、フランス語に「トゥーリスタ」ってのが有るのには笑った。フランス人は日本人より“抗生物質”が好きらしいからね。

2005年06月21日

スタチンのガン予防効果の新機序?

ほほぉ!なるほどっ。って感じた内容だよ!今回のは。


この論説は、、、
大衆迎合とスタチン』で触れたガン予防の機序にあらたな追加をすることになるのか?
 
 
 
nature japan cancer update の web サイト上で HIGHLIGHT として6/20 付けで掲載されている『治療 的外れ効果』がネタになっているのだが、スタチンのガン予防効果に関して言及している論説ではない。

Ras のファルネシル化を阻害すれば、Ras の活性化を阻害できる。その為、ファルネシル基をRasに付加する酵素を阻害する薬が“抗がん剤”として使えるのでは?とのロジックから開発途中に有る ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)阻害因子(FTI) の機序についての論説だ。

この論説では、FTase を阻害するだけが FTI の抗がん効果の理由ではなさそうだ。別の経路(FTaseとは関係ない経路) でも、その“抗がん効果”が証明できる。と解説している。

理解を深める為にも、まずは、これをご覧くだされ。
Office Oh!NO トピックスにも収録してあるので、後で参照したくなったけど URL を失念したので見られないなんて場合にはこちらを利用してね。

治療:的外れ効果 McCarthy Nicola

ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)阻害因子(FTI)は、癌遺伝子RASを阻害する目的で開発されたが、FTIのin vivo効果は散発的で、RASの活性化とは無関係であることが明らかにされている。Lacknerらは、FTIの雑多な挙動の原因を明らかにする的外れ効果を解明している。

Ftaseは、さまざまなタンパク質の翻訳後修飾にきわめて重要なプレニルトランスフェラーゼ3種のひとつである。Ftaseはゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ1 (GGT1)と密接に関わっていることから、FT1によるGGT1阻害の逆スクリーニングがすでに実施されている。RABゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(RABGGT)の構造は、FtaseおよびGGT1とは明らかに異なっていると考えられ、FTIが的を外す可能性は低いということになっていた。

Bristol-Myers SquibおよびExelixisの研究チームは以前に、FtaseまたはGGT1の阻害とは独立した機序によりアポトーシスを引き起こすFTIがいくつかあることに言及している。Lacknerらは、上記阻害因子の活性に関する理解を深めるため、線虫Caenorhabditis elegansを用いた。この線虫の生殖細胞には、成熟途上で自発的にアポトーシスを来すものがあり、この研究チームはまず、一部のFTIにアポトーシス生殖細胞の数を増大させる能力があることを突き止めた。

この研究チームは、新たなFTIターゲットを特定するため、順遺伝学的な化学的突然変異誘発スクリーニングおよび逆遺伝学的スクリーニング(RNA干渉:RNAi)を用いて、同じく向アポトーシス表現型を与える遺伝子の獲得または消失がないかどうかをみた。この研究チームは、順遺伝学的方法を用いて、破断された遺伝子座4部位を特定し、生殖細胞の最も高いアポトーシスレベルと相関する1部位について、さらに分析した。この変異遺伝子は、タンパク質移動に関与するタンパク質VSP41をコードしていた。Lacknerらは、RNAiノックダウンスクリーニングにより、VPS41と結合してHOPS複合体を産生する別のタンパク質5個を酵母で特定した。

HOPS複合体はRAB7 GTPaseとともに、エンドソーム-リソソームおよびオートファゴソーム-リソソームのドッキングおよび融合により、タンパク質移動を促進している。タンパク質移動に関与し、RABGGTによって修飾されるC. elegansのrab-7およびrab-5を標的としたRNAiを実施したところ、生殖細胞系のアポトーシスが誘導された。しかし、酵母の自食作用特異的遺伝子相同体を標的としてRNAiを実施してもそうはならず、向アポトーシス反応にはエンドソーム-リソソーム機能の破綻が重要であることがわかる。

では、アポトーシスを引き起こすFTIは、RABGGT経路に影響を及ぼすのだろうか。Lacknerらは、線虫のRABGGT活性を阻害すると、向アポトーシスFTIに反応してアポトーシスレベルが高くなり、このことがRABGGT阻害能と相関していることを明らかにしている。これは、哺乳動物の細胞にも当てはまるのだろうか。FTIをさらに19種類スクリーニングしたところ、FTIによるアポトーシスとRABGGTの阻害とのつながりが強まった。さらに、Lacknerらは、ヒト肺癌細胞系を用いて向アポトーシスFTIとアポトーシスを引き起こさないFTIとを比較し、両化合物ともFTase を阻害するものの、RABGGTを阻害するのは向アポトーシスFTIのみであることを突き止めた。さらに、哺乳動物細胞のRABGGT を標的としたsiRNAによってもアポトーシスが誘導された。

Lacknerらはこのほか、RABGGTの - または - サブユニットをコードするmRNAが、正常組織と比較して、さまざまなヒト腫瘍試料にきわめてよく発現していることを示している。このように、上記所見からは、RABタンパク質の翻訳後修飾の阻害によってアポトーシスが誘導されることがわかり、これが一部のFTIの作用様式を明らかにしている。しかも、RABGGTおよびおそらくはリソソーム-エンドソームの移動が今後、治療標的となりうる。

さて、この論説からわかることは、これまた、明快だ。

本来、酵素阻害剤は基質特異性があるので、結合できない酵素には影響を及ぼさないと考えられる。FTI は FTase には結合できるけど、RABGGT には結合出来ないはずだった。

だけど、何故か、ある種の FTI は RABGGT の働きを阻害する。

RABGGT は、エンドソーム-リソソームおよびオートファゴソーム-リソソームのドッキングおよび融合により、タンパク質移動を促進している蛋白質をゲラニル化する酵素だ。
結局、このゲラニル化が上手く行かないと、その細胞はアポトーシスに陥る。(論説では、RABGGT のターゲット蛋白である rab-7 , rab-5 を RNAi でノックアウトしてこのカスケードを破綻させて見ているが、同じ事だ。)


この事実から、スタチン系のガン予防を考えてみると、結局、HMG CoA reductase 阻害により、ゲラニル化の原料が減少する訳だから、RABGGT を阻害するのと同様に、アポトーシスが誘導されると。

結局、スタチン系のガン予防効果は“増殖の抑制とアポトーシスの促進”の二本立てで考えられると言うことだ。
 
 
 
って、尤もらしい機序を展開してしまったが、全くのシロウトの理屈のこねくり回しである為、そのまま覚えないで貰いたい。また、考えが誤りであったり、或は、そんな事は周知の事実だよっていうのであれば、どうぞ、指摘してくだされ。
(回りに指摘してくれる人がいない時にこそ、ネットの威力を痛感します。有りがたいですよね。)

2005年06月22日

サプリメントでも目から鱗が落ちことがある

思い込みは危険だ。
しかも、盲信してしまっている事は、疑うことすらしないし。


JAMA誌2005年6月15日号に、『Fish Oil Supplementation and Risk of Ventricular Tachycardia and Ventricular Fibrillation in Patients With Implantable Defibrillators』っていう論文が掲載されている。

埋め込み型除細動器使用者では魚油サプリが逆効果(催不整脈)を示すと言うのだ。

今の今まで、魚油は良いことはあっても、悪い事は一つもないだろうって思ってた。
何で、思い込んでいたか、今更、理由なんて思い付かない。さしたる根拠、証拠もなしに、そう思い込んでいたのだ。エスキモーの人達に心血管疾患が少ないのは、魚を食べてるアザラシを主食にしているから、オメガ-3多価不飽和脂肪酸(PUFAs)を多量に摂取している・・・なんて話は頭にこびりついている。それくらいしか、思い付かないのだが、何故か、盲信していたところがあった。


MMJ (JAMA 日本語版の頃からだが) の付録で Evidence Based Supplements (EBサプリメント) なる雑誌が付いてくるのだが、『フン、サプリメントなんて』・・・って半分眉唾ながらも、ペラペラめくって読んでいるのだが、これがなかなか、効果の理屈が理論的だし、臨床データも馬鹿にならない。でも、魚油に付いては、新しいトピックスも無いだろうって思い込みから、じっくり読んだことも無い。
 
 
 
そんなこんなで、今までは、セイヨウオトギリソウくらいは、医療用医薬品との併用に注意してあげてもいいかって位の位置づけだったサプリメントだが、魚油も要注意の一つとして、脳味噌に叩き込まなきゃならなくなった。
 
 
 
何故、こんなショッキング(予想と反対)な結果が出たのか?

これにも、思い込みが関係する。つまり、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)は突然死を惹起するものだとの思い込みだ。
論文では埋め込み型除細動器使用者の心臓突然死と関連付けている訳じゃなく、あくまでも不整脈が惹起されるとしている。
魚油の効能を調べるにあたり、エンドポイントを突然死に置いている試験では、魚油は突然死を防ぐ効果があるとの結果が出る訳だが。。。
今回の結果は、逆に、オメガ-3PUFAsによる心臓突然死予防効果は、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)の抑制を通じて得られているのではないことを示唆しているとも言えるわけだ。

もともと、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)と突然死は因果関係がないのなら、ショッキングでもなんでもないデータのなだが、本能的にも不整脈は“命がヤバイかも”って思わせるから、心情的には納得がいかない。
 
 
 
不整脈と突然死の関係も単純じゃない!ことにも驚いたが、もしかしたら、見かけ上、不整脈と突然死が因果関係有りとされていることも、実は、全く関係ない因子が関与している可能性も有るって事だ。


兎に角、コレステロールの生合成経路一つ取ってみても、最終段階の産物だけが生理機能に関与している訳じゃなく、複雑なの段階にあるそれぞれの産物も、また、生理機能を担っている訳だし、心臓の生理だって単純じゃない事は想像に難くない。単に今ある知見だけを根拠にいろいろ治療している訳だが、結果オーライなだけかもしれないいと思うと、やりきれない。(そう言えば、スタチン系薬剤服用者では CoQ10 の de novo 合成も抑制されるのでサプリメントで補充した方が良いなんてものあった。理由は左心室機能パラメータが改善するからだってさ。横紋筋融解と CoQ10 が関係有るってなデータが出ると面白いんだけどね。)


でも、やりきれないのは医療従事者の立場としてであり、個人的には、生命の神秘に迫れるので、楽しい!!

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