清潔でガン
British Medical Journal誌2005年6月4日号に、興味深い論文が掲載されている。
『乳幼児期に清潔にしすぎると、小児白血病になり易い』というものだ。
≪乳児期からの集団保育は小児白血病にかかるリスクを半減させる--英国研究≫生後早くからほかの子どもたちと接触し、一般的な感染症にかかる機会がある子どもは、代表的な小児癌のひとつである急性リンパ性白血病にかかるリスクが大幅に低い――こんな研究結果が明らかになった。英癌研究所のClare Gilham氏らの研究で、種々の感染症に暴露する頻度と、小児の急性リンパ性白血病(ALL)の関係を調べ、生後早い時期から、集団保育などの機会がある子どもは、ALLのリスクが半減することを明らかにし、British Medical Journal誌2005年6月4日号に報告した。
小児の白血病と感染の関係は、1940年代から論じられてきた。1988年、乳児期に病原体に暴露されることが少なかった子供が、幼児期に入って多くの感染を経験すると、小児白血病の代表型であるB前駆細胞型ALLを発症するのではないかという説が提唱されている(Greaves、Leukemia誌2巻120-125ページ)。
大規模な集団ベースのケース・コントロール研究である英国小児癌研究(UKCCS)では、この仮説の検証を目的の1つとして、英国10地域で1991-1996年に実施された。実際に、様々な感染病原体への暴露の可能性を調べることは困難であることから、著者らは、自宅外で他の子どもたちと接触する社会的活動の頻度を代替変数とした。
分析の対象は、2~14歳で、癌には罹患していない小児6305人と、ALL患者1286人(うちB前駆細胞型ALL患者は798人、そのサブグループとなる染色体過剰=hyperdiploid ALL=患者は420人、TEL/AML1融合遺伝子が見られるALL患者は139人)、そして参照集団としてALL以外の小児癌の患者が1854人。
研究グループは、小学校入学までの特定の活動への参加頻度や活動の内容を、親を対象とする面接により調査した。社会的な活動とは、定期的に(週1回以上)自宅外で行われ、兄弟以外の子供が参加するものとした。保育は、託児所、保育園、プレイグループなどに週1回以上参加すること、正規の保育とは、4人以上の子供と一緒の、半日の活動を週2回以上行うこととした。
2歳以上の子供を持つ母親の86%が、生後1年間に自宅外での社会的活動に参加していたと答えた。何らかの活動への参加によりALLリスクは減少した。活動に参加していなかったグループと比較すると、全ALLでオッズ比0.66(95%信頼区間0.56-0.77、以下同)、B前駆細胞型ALLで0.67(0.55-0.82)、hyperdiploid ALLは0.64(0.50-0.83)、TEL/AML1 ALLは0.59(0.38-0.90)となった。また、非ALL小児癌も減少が見られた(0.78、0.68-0.90)。
いずれの場合も、ALL発症リスクは活動頻度が増えるにしたがって低下した(傾向のP値は、TEL/AML1 ALLと非ALL小児癌で0.04、あとは<0.001)。次に、全ALLと非ALL小児癌を比較したところ、他の小児癌に比べALLのリスク減少が有意となったのは、正規の保育への参加だった(オッズ比0.69、0.51-0.93)。
保育などに通い始めた時期(生後3カ月未満、3-5カ月、6-11カ月)とALLリスクの関係を調べたところ、早期の参加がリスクをより下げる傾向は明らかではなかった。が、正規のデイケアに3カ月未満から参加していた子供のオッズ比は、非ALL癌を参照グループとした場合にも有意に低かった(0.52、0.32-0.86)。
これらの結果は、生後数カ月間に感染の機会が少ないと、ALLを発症するリスクが上昇するという仮説を支持した。同様の関係は、1型糖尿病やアレルギーでも見られているという。生後早くからの適当な感染の機会は、子供の健康にとって重要だと考えられる、と著者らは結論付けている。
日本でも最近、過度な潔癖の問題点を指摘する議論が出始めている。早くから、ありふれた感染を繰り返すことで免疫機能が育ち、大きな病気を防ぐ可能性を本論文では指摘している。子供同士がふれあう機会は、健全な精神的発達にも欠かせない。定期的に外に出ることで、母親のストレスが減少すれば、家庭内での母子関係もよりよいものになるだろう。
本論文の原題は「Day care in infancy and risk of childhood acute lymphoblastic leukaemia: findings from UK case-control study」。
Hygiene Hypothesis が登場してから、アレルギー、自己免疫疾患につづき、とうとうガンにまで言及するエビデンスが揃ってしまった。
Q&Aの No.560 『補足説明:常在菌の存在意義』でも書いたことだけど、最近の“除菌・抗菌ブーム”には、呆れるばかりだ。
---人間の浅知恵で「よかれ」とおもってやることなんて、全く当てにならないな---
これは、常々思っていたことだ。
医学が日進月歩しても、生命の全貌を100としたら、まだまだ『1』くらいのところでうろちょろしているようなもんだろうって思う。
人間は、なかなか、自分のしてきたことを否定できないものだ。
特に役人などは、前例を頑なに守る。前例を作った人を否定することになるからだと聞いた。
前例なんて、クソくらえだ。自分のしてきたことが誤りだったら、ころっと手のひらを返せば良いじゃないか。良かれと思ってたことでガンが増えるなんて、青天の霹靂なんだから。
衛生環境にもJカーブがあると言うことが、これで明らかなにったのだから、マスコミは無知な国民を間違った方向に導かないように、即刻、あのアホなコマーシャルは中止すべきだ。
でも、マスコミって馬鹿だから、今度は不衛生を喧伝しかねない。こまったもんだ。
閑話休題
ブラックジッャクの愛読者だった私は、ふと、思い出した言葉がある。
『生き死にはものの常なり。医の道は他にあり。』(だったかな・・・)
この言葉は、刀鍛冶が死ぬ間際に残したものだったか、本間丈太郎が語ったものだったか、失念してしまったが、人間の智慧が及ぶ範囲なんてたかが知れているということを、当時、私に強烈に印象づけた言葉だった。
---また、読み返してみようかな---
ふと、そんな気になってしまった。