MMJ 12月号 に取り上げられていた論文で気になったもののタイトルを列記してみると、、、
BMJ『ハンズフリー装置電話でも交通事故リスク上昇』
・・・科学警察研究所の方のコメントがあるのだが、反則金・罰金の減少を恐れての?コメントが痛々しい。運転中の携帯電話使用の罰金は100万円にすれば、誰も電話しなくなると思うが、いかが?
BMJ『データを捏造した論文には特徴がある』
・・・妙に納得する部分があるのだが、それは“人為的な操作が加えられた報告値には、直近の5や10に丸められているなど、特定の数字が使われやすい傾向がある。”
何に納得したのかは、ナイショ!
Nature Genetics『因果関係の推定とバイアス』
・・・case-control study では“見方によって色々に解釈出来る”という色々な問題を孕んでいる訳だが、物理学の世界では 0.00004%以内の誤差で正しいことが予測できる法則があるという。
Nature December 22, 2005 ではアインシュタインの E=mc2 を検証しているのだ。私なんぞ、この公式自体の“精度”なんて考えても見なかった訳で、そういう意味でも驚きなのだが、その結果が『E = mc2は0.00004%以内の誤差で正しい』ことが報告されたそうだ。
疫学研究も、現象を一般化して、未来を予測したいと言う事では同じなのだが、医学の分野でも E=mc2 のようなスマートな公式が発見されないものかねぇ~!!
BMJ『過剰診断で見かけのメラノーマ発症率上昇』
・・・メラノーマの発症率が上がっても、死亡率は変わってないんだから、ホントのところは“過剰診断で発見されてるだけで、がん自体の発症率は変わってないじゃないの”ってな内容。。。。贔屓目に見れば・・・とか、我田引水に通ずるところがあって面白いジャン。こういうのって、良くあるよね、色んな分野の色んな所に!!
JAMA『喫煙者の肺がん発症リスクが減煙で低下』
・・・「一本たりとも吸っちゃ駄目」「止めなきゃ効果が無い」みたいな“ど根性精神論”がまかり通る禁煙指導の現場に、一石を投じる論文だな!!
1日15本以上吸っている人(喫煙者のほとんどは15本以上吸っている)の場合は、それを半分に減らすだけで肺がん発症リスクが低下するって内容だ。
スウェーデンのストックホルムで開催された第27回欧州心臓病学会(ESC)最終日の9月7日、名古屋市立大学循環器内科の杉山雅也氏が発表した『喫煙習慣のある健康な男性は、1週間禁煙するだけで、血管壁の状態が回復する』なんてのも有ったりして、禁煙までしなくても、減らせば、それなりに効果があるって報告があったし・・・・。
しかぁ~し、本人は良くても、周りが“迷惑”だって感じるなら、そん時ゃ、吸う理由には使えないぞっと。
JAMA『当直明けの覚醒度は日勤後の飲酒時並み』
・・・なんの話かって????お医者さんの注意力の話だよ。夜勤明けは、酔っ払い診療と同じなんだってさ。。。アメリカの医療界は日本ほどじゃないんだろうけど、やっぱり、こういう問題、あるんだねぇ!!なんて言って良いやら・・・・。
と、まぁ、こんな感じになる訳で、やっぱり気になるのは『えっ!!』って感じるものになっちゃう。『~~~は効果がある』『有意に~~~を抑制』なんて、ポジティブなデータを示す論文は、一瞬だけ『ふぅ~ん』となるものの、本丸を攻撃できる内容には程遠く外堀にかすってるだけで、翌日には忘れちゃってるしね!
毎日毎日、玉石混淆な論文(ほとんど石ばっかり)にまみれている今日この頃、皆様、いかがお過ごしですか?(きっこ風)私は、先ほどの休憩時間に読んだ新聞(薬事日報)にも気になる記事があったので、急にエントリー追加を思い立ったところです。
それは、来春の薬学部進学希望者が2割減少するって記事であります!!
やっぱりねって思ってたし、当然なんだけど、これは薬学会がもっとも恐れていた事だと思う。薬剤師会は読みが甘かった(自分に甘い解釈しかしない)と言う事だね。
薬学会にすれば、4年制のまま質の高い(偏差値の高い)学生を他学部に取られずに確保したい訳だ。薬学部という学部は世界中どの国にもあるのだが、薬学部が創薬研究者を輩出しているところが日本の薬学部が他国の薬学部と違うところだとのプライドがあるからだ。
事実、日本の製薬企業での研究者は半分が薬学出身者であり、他国では理学部や工学部・農学部出身者に占められているのと大きく違う。
薬剤師会は6年制にする事で、自分達がそうだったように、医学部と同じ年数の大学教育を受ける事に自尊心を擽られると、世の中の高校生も同様に感じると読んだのだろう。
ところがどっこいだ。
さらに、薬剤師会は、薬学部に4年制と6年制が併存する事を、何故か嫌っている。公の理由は意味不明だ。
研究指向の学生は早い段階で研究室に入り込みたい訳で、さらに早く修士・博士の学位が欲しいわけだ。病院だ薬局だって実習なんてやってる暇はない。さらに国立大学薬学部(旧七帝大)の薬剤師国家試験の合格率を見れば明らかなように、偏差値の高い学生は“薬剤師免許を使わない”という事がはっきりしている。
というわけで、併存すれば6年制薬学部の偏差値の方が低くなるのは、明らかなわけだ。従って、下衆の勘繰りをすれば、偏差値の低い薬剤師の卵達を、偏差値の高い研究指向の学生と同一の学部にぶち込んで、良く見せたいという偏差値コンプレックス故に4年制と6年制が併存する事に反対すると考えられるのである。
そして、6年制1本を悲願とする日本薬剤師会には、日本の創薬研究の一翼を担う薬学者を輩出することを薬学部に望んでいる人間はいないということをも示している。
しかし、偏差値が高ければ“良い医療人”に成れるのかという理屈もある。これも一理あるわけだが、それを言うなら、“薬剤師の資質”などと“非常に曖昧”な定義の上に成り立った“資質向上”が果たして、日本の医療に役に立つのか?という疑問も呈されるだろう。
文部科学省や厚生労働省が薬学部を6年制にした本当の理由は、以前にも指摘したが、日本に処方箋の“繰り返し使用”を実現したいからに他ならない。(というか、これ以外、私には思い付かない。)いわゆる慢性疾患の経過観察を、薬剤師にやらせて、医療費を抑制するという“政策”がらみの理由からだ(注1)。
お薬手帳や薬剤情報提供などの薬剤師の“技術料”は、患者の満足を満たす事はあっても、医療の質の向上には役立たない。個別のケースでは重複投薬を免れたと言う事例も、ほんの少数はあるだろうが、IT技術の進歩により患者情報の共有が実現すれば手帳は必要ない訳で、医療費が抑制される事もないだろう。(その昔は、驚くべきことに医薬分業が医療費を抑制するなんて本気で言っていた)患者個人の満足を満たすだけの“薬剤師の技術料”に公的な保険で賄うというのは、原資が尽きたら最初にカットされる部分だ。病棟に出て行く、いわゆる臨床薬剤師に対費用効果が認められないのは、アメリカで実証されてしまったから、何も言いますまい。病院の薬剤師達だって、無料で仕事する訳にはいかないからね。
こんな状況の中で、薬剤師教育に6年も費やし、しかも“資質向上”を歌い文句にしているのだが、具体的に、どんな資質を向上させたいのかも、誰も、ハッキリとはさせていない。(事実、20年も薬剤師をやっている私にさえ“薬剤師の資質”ってのが、どんなものなのかわからない。が、もし専門領域の知識とするなら、生涯学習を続ければ良いだけの話で、何も学部教育を2年間増やしたからって、“資質向上”するとは思えない。しかも、そこで余分に学んだ知識なんて5年もすれば使い物になら無くなる訳で、たかが知れている。)
こんな時にこそ、薬剤師会は薬剤師教育にイニシアチブを取り、未だ示されていない政府のビジョンを鑑み、慢性疾患の経過観察できる能力を持った薬剤師を育てるなどと、具体的な方向性を示すべきなのだ(注2)。4年制の薬学部とは決別し、薬剤師養成専門学校として割り切るくらいの気持ちがないと、薬剤師教育なんて出来る訳が無い。
のらりくらりと“美味しいポジション”に陣取ることしか、考えていないように見える現状、すなわち、アカデミックも捨て切れず、免許取得後すぐにでも情報提供と服薬指導が出来ることを目指すような教育じゃ、6年間の授業料はどぶに捨てるのと同義になってしまう。
医療の中で必要とされる職業にならなければ、薬剤師免許では霞しか食えない事になるということを、薬剤師会には目を逸らさずに対応してもらいたい。
政府は2010年には医療費のオンライン請求を目標にしている。薬情、お薬手帳で点数が稼げない時代が直ぐそこまでやってきている。情報過多の時代に定型の情報を提供してお金を貰おうなんて、時代に取り残されてしまう。もう、尻に火が付いているといっても過言ではないんじゃないかな。
先日、ある人からこんな事を聞かれた。その方の従兄弟の子供が、この春、薬剤師になって病院に勤め始めたのだが、すでに『止めたい』って言っているんだと。その人のお子さんも薬学部にいきたいって言ってるのだけど、どんなもんかな?って。
アカデミックな世界で生きたいのなら、別な学部もありですよと、アドバイスしたのは言うまでもない。
気になったタイトルから、全く脈絡無く、話は学校教育に及んでしまった。薬剤師会への苦言と言う事で、いつかは書こうと思っていたので、こじ付けで書いてしまった訳だが、ちょっと修正をしたり、ヌルくしすぎたかもしれない。
■注1:単純に国家予算70兆、そのうち40兆が実際の収入、そのほとんどを医療費で食いつぶしている。。。。何とかしなきゃ、、、、ねっ。『10年後、1ドル250円の時代が本当にやってきちゃう』って本が売れてるらしい。。。。そして、薬剤師に経過観察させるって案は、6年制にして見込みがなきゃ、公にされずに葬り去られる。薬剤師って職業も合わせて葬り去られなきゃいいんだけど・・・。薬剤師会の対応次第って訳だ。薬剤師会が動かなきゃ、薬剤師に経過観察させるもなにも無い訳よ!自分達の職業を守るのは、誰でもない、自分達薬剤師な訳なのだが、その辺のところ、薬剤師会って、意識が希薄なんだよねぇ!!奇麗事が好きな人は多いみたいだけどね。
■注2:慢性疾患の経過観察なんてミニ医師教育だ!なんて理屈をぬかす奴はいつまでも“理想の薬剤師像”を追いながらマスターベーションやってろ!職業ってのは、理想を追求しても必要なきゃ、なくなるんだよ。鍛冶屋のようにな。って煽ってみる・・・。苦笑。