盲点
『灯台下暗し』ってより、『盲点』に入ってしまったものが見えた!ってくらい、『えっえ~~~~~~~』ってことが、Nature に掲載されていた。
Nature June 29, 2006生物学では数十年前から、哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。しかし最近、ハーバード大学のある研究室が行った2つの研究が、この定説に疑問を投げかけた。
その1つ目の結果では、雌の性腺は成体になってからもずっと卵母細胞の再生能力を保持していることが示唆された。
もう1つはさらに意外なもので、卵母細胞が血液または骨髄の細胞に由来している可能性を示していた。
これらの研究は、化学療法を受けたり、早発閉経が起こったりした女性でも受胎能が回復する見込みがあるという点で関心をよび、多くの注目を浴びてきた。
そのため、これらの結果の一部を疑問視する論文が6月14日のネイチャー電子版に発表されると、この問題に関する議論が再燃した。
今週号に掲載されているこの論文で、ハーバード大学の上記とはまた別のグループは、2匹のマウスの循環系を合体させた実験について報告している。
骨髄細胞または循環血中のほかのいかなる細胞についても、成熟した卵母細胞の生成が可能であることを示す証拠は得られなかった。
血流によって卵巣に移動した細胞は、血液中にある正常な白血球の性質を示したのである。
そうなのだ、『哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。』って事は、『そういうものだ』って、今の今まで、当然のように思っていた。多分、高校の生物学あたりで仕入れた知識だから、掛け算の“九九”のように、それ自体を疑うなんてことは、有り得なかったのだろう。
知ってしまえば、これ自体が驚く事じゃないので、『えっえ~~~~~~~』は、内容にびっくりしたんじゃなくって、その事に疑いの目をむけたことに対してなのだが、普通の人は、そんなことには目をむけないのだから、『灯台下暗し』ってよりは『盲点』の方が、ピッタリするかなって感じた今日この頃である。
それから『やっぱり、そうか!!』ってのが、コレ!
Science June 23, 2006, Vol.312概日時計は、短期間、光に当てることで新しい位相にリセットされるが、このリセットの分子レベルの解明は未だに不明確であった。
ショウジョウバエでは、光感受性タンパク質であるクリプトクロム(cryptochrome)は、光に反応してコンフォメーションを変化し、クロック成分のタンパク質であるTIMELESS(TIM)と結合する。
この相互作用がトリガーとなってTIMを分解し、その結果クロックのリセットをする。
この光誘発性リセット感受性の弱い変異体のハエをスクリーニングすることで、Kohたち(p. 1809)は、JETLAG(時差ぼけ)と呼ばれる遺伝子を同定した。
この遺伝子は光を受けた後、TIMを分解するのに必要である。
JETLAGはTIMと複合体を作って存在し、分解のためのタンパク質のタグ付けとなるユビキチン結合を増加させる。
このように、JETLAGは、ユビキチン結合させるためにTIMを標的とするF-boxタンパク質である。その結果、光に反応して急激な分解をする。
ハエでの結果だけど、ヒトでも同様だろう。(私が断言する事は憚られるけど)生理現象を“タンパク分解”を以って行なっている“系”は多いはず。
ハエ続きでもう一つ、、、
Nature June 29, 2006PINK1遺伝子が常染色体劣性若年性パーキンソン病に関連することが最近明らかになったが、今回2つのグループがPINK1に対応するショウジョウバエの遺伝子について研究し、この遺伝子がin vivoではミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの機能に必須であることを示している。
またこの遺伝子は、家族性パーキンソン病に関連するもう1つの遺伝子で、パーキンというE3ユビキチンリガーゼをコードしているparkin遺伝子とも遺伝的な相互作用がある。
ショウジョウバエのpink1-parkin経路は、神経変性の分子的機序に関する研究や、治療に役立つと思われる薬物のスクリーニングのための有力な手段となるだろう。
このパーキンソン病も“タンパク分解”がキーワードだ。
閑話休題
日本人を象徴している言葉だと思う。例を挙げればきりがない。『前例に無い』は一旦作ってしまった制度・法律・やり方・方法などなどなどなどを、自分が当事者の時に“変更”したくないという事だ。どうでもいい事は『自分の功績だ』って言うくせに、『もしかしたら責任を取らなきゃならなくなる?』って事に対しては、及び腰である。
その昔、サイエンスの分野でも“分解系”は“軽く見られて”いた。しかし、、、
今、“分解系”の勢いは止まらない。
生命現象において、作ったものは秩序正しく“壊される事”が大変重要だということが理解されたからだ。
人間が太古の昔から、自分の目で見えている現象だけで考えた事、例えば、家畜やペット・作物は、死んだり腐ったりしたらその辺に捨て、知らないうちに土に帰っていたので、“分解”なんてものは、『なんとなく進むもの』なんだと、アプリオリに脳に定着してしまったのだろう。高校の生物学で『哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。』って学んだのと同じように、それは、“疑う”対象になっていなかった。
しかし、現在の生命科学の分野では“分解系”なくして、生命現象は語れない。
“分解系”が上手く機能しなくなると、例えば、脳ではアルツハイマーやパーキンソン病になるわけだ。
日本が世界一の“老人国家”になったらしい。
そして、そのしわ寄せが、これだ。
お産ができない! 激減する産婦人科医 柳田邦男(やなぎだ・くにお) 「現論」記事:共同通信社
提供:共同通信社【2006年6月30日】
昨年春、島根県沖に浮かぶ隠岐の島を訪ねた。町民対象の隠岐学セミナーの講師を引き受けたのだが、島の人々の悩みごとを聞いて驚いた。「来年(つまり今年)3月でこの島には産婦人科医が1人もいなくなるので、その先は島でお産ができなくなるのです」というのだ。
私は事態を想像し絶句した。自分がこの島の若者で伴侶が妊娠中だったら、と。出産の日を待つとは、みずみずしい期待感に胸がふくらむ思いの日々のはずだ。誰でも胎児の定期健診や出産を支えてくれる医療機関が身近にあるのをあたり前だと思っている。
島の若い世代は今後、どうするのか。隠岐の島々には約2万3000人が住んでいる。隠岐病院の産婦人科医は1人だけだった。年間に約130件の出産がある。つまり医師1人が毎月10件余りの出産を担当してきたのだが、高齢出産の増加により、難しい出産に直面することもある。
陣痛はいつ始まるかわからないから、医師は年間を通じて24時間態勢でいなければならない。難産後のケア、未熟児のケアもあれば、外来もある。息抜きもできない過労を強いられていた。最後まで頑張った医師が事情があって退職するというのだ。
▽米紙も報道
私はそのことが気になっていたので、最近になって、隠岐病院の運営に携わる人に聞いた。やはりこの4月から産婦人科は閉じられていた。
出産は松江や出雲などの総合病院に行かなければならない。本土まではフェリーで約2時間半、悪天候で欠航することが多い。出雲までの航空便は1日1便で満席が多い。妊婦は1カ月位前から、本土に渡り、宿泊先で待機しなければならない。もう1人子がいると大変だ。経済的にも精神的にも負担が大きい。
町では急ぎ予算を組んで、本土での出産者に宿代・交通費として1人17万円を補助している。今年4月から11月までの出産者と出産予定者は70人に達している。この日本の異常さは、最近アメリカのワシントン・ポスト紙にルポ記事として大きく報道された。
この国は壊れつつある。続発する高級官僚、銀行、新興投資企業、一流企業などの不正事件や、若者や少年少女の凶悪事件。その報道に接する度に、そう感じる。そこに、「安心して子どもを産み育てられる」ための基盤さえが壊れ始めたのだ。
▽逮捕の衝撃
産婦人科医の減少が加速している。高齢出産などによる異常分娩(ぶんべん)や障害児出産の増加の中で、産婦人科医が医療ミスを提訴される例が全診療科の中で一番多いため、若い医師が産婦人科医になりたがらないのだ。とくに昨年福島県で帝王切開のミスを問われた医師が逮捕、起訴された事件は、研修医や医学生に衝撃を与えた。悪意でないのに凶悪事件と同じに扱われるのはいやだと。
毎年4月に全国の大学病院産婦人科に入局する新人医師数は、3年前までは300人前後だったが、今年は100人近くも激減し213人だった。大学病院の産婦人科は自らの診療態勢の維持が精いっぱいで、地域への医師派遣に苦労している。
産婦人科医が過労に陥らずに安定した診療を行うには、1病院に常勤医が2人以上必要だ。だが、大学病院以外の病院・診療所の産婦人科医数は昨年7月現在で、1施設当たり平均1.74人。1人きりの施設が多い。しかも、全国の産婦人科医の4分の1は60歳以上。10年後を考えると、慄然(りつぜん)とする。
隠岐の島では町長らが医師探しに奔走した結果、県立病院が産婦人科医を増やして、今年11月から隠岐病院に2人常勤態勢で派遣することになった。1人は海外で勤務中の島根出身の女医で、ネットで事情を知り、帰国を決意したという。
隠岐の島の事態は全国に共通する。安心して子を産めない地域は若者に見捨てられ、荒廃する。それは国土と精神の荒廃につながる。この国は言葉では郷土愛を謳(うた)うけれど、未来を担ういのちの誕生を、本気で大事に考えているのか。国の少子化対策は、この問題を視野に入れていない。出生率低下は進むばかりだろう。国、自治体、医療界、医学教育界が挙げて取り組まなければ、手遅れになる。(ノンフィクション作家)
=柳田邦男氏の略歴=
やなぎだ・くにお 1936年栃木県生まれ。東大経済学部卒。NHK記者を経て作家活動に。災害、事故、科学、医療問題などをテーマに執筆。著書は「マッハの恐怖」など多数。
今まで作ってきた全ての“取り決め”(言葉の漏れがあるとイケナイので“法律”のように限定的な言葉は、敢えて避けます)を“適切にぶっ壊す為”に新しい“取り決め”を作り、その事に、日本人みんなが慣れる事が必要な時期に来ていると思う。
p.s.本日のエントリーは、自分の言葉少なく終わってみた。
このテーマで行くと、特に、医療制度と薬剤師を取り巻く環境に対しては、収拾が付かなくなっちゃうからである。
昨日の薬事日報では、“日本調剤”の日本薬剤師会からの脱会が報じられていた。薬局においては3年後からオンライン請求が始まるので、これを境に大手チェーン薬局(日本の調剤の半分以上を担っている)がこれに続くのは必至である。日本薬剤師会に所属している事に全くメリットが無いからである。
すでに崖っ縁に立たされている訳だが、これを意識している人が、会長以下、理事の間で何人くらい居るのだろう?(いつまで「薬剤師が必要だ」と国民を騙しつづけられるのか?)