抗うつ薬服用者が自殺するなぞを解明
『自分には関係ないね』と感じる事では“道徳心”という琴線に触れる事は無いけど、『他人事じゃない!』って事では“道徳心”が首をもたげてしまうのだろうか?
病気や有害反応を特定の遺伝子と結びつける事に対して嫌悪感を持つ人たちは、この知見にどのように反応するの興味がある。要するに『抗うつ薬で自殺する人はもともとそういう遺伝子をもっている人だから、そういう人だけ心配すればよい』って事なんだけど、多分、のっけからこのような表現はマズくて『抗うつ薬で自殺する人はもともとそういう遺伝子をもっている人だから、持っていない人は心配しなくて良い』としなきゃならないんだろう、、、、?(『手術は99%失敗します』はマズくて『手術の成功率は1%です』に似ている?)
〔米オハイオ州クリーブランド〕抗うつ薬が投与されている抑うつ患者のなかに、自殺に走る人がいるのはなぜか。この問題は、患者の家族や抗うつ薬を処方する医師だけでなく、該当する抗うつ薬のリスクに関して警告を発し、薬剤の安全性を監督する規制当局をも長い間悩ませてきた。しかし、米国立精神保健研究所(NIMH)のFrancis J. McMahon博士らがAmerican Journal of Psychiatry(2007; 164: 1530-1538)に発表した研究により、ようやくこの矛盾への解答が得られそうだ。同博士らは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)citalopramを14週間服用した患者を調査し、自殺念慮の増大に関係する生物学的な基礎要因を明らかにした。
選択した68個の遺伝子のうち768個の一塩基多型に対する遺伝子型を決定した患者1,915例で、GRIA3 と GRIK2 の 2 個の遺伝子が変異していたことがわかった。両遺伝子ともグルタミン酸受容体のコードに関与しており、120例に自殺念慮が認められた。通常はまれな症状とはいえ、これらバイオマーカーの発見は自殺念慮の解明への道を開き、綿密なモニタリングや代替治療薬、また専門治療で救うことができる高リスク患者の識別に役立つと考えられる。
抗うつ薬に関しては、わりとサラリと“有害反応”と遺伝子を関連付けてるんだけど、、、、(もっとも、専門誌だから“そういうこと”に配慮しなくてもいいのかもしれないが・・・)こと、インフルエンザに関しては、タブーみたいだ。インフルエンザは誰しもが罹患し、その治療薬は誰でも?服用するから『他人事じゃない』って感じるのだろうか?タミフルを服用して有害反応が惹起されるのは、遺伝子とは関係ない・・・なんてよもや思っている人も居ないとは思うのだが、まさか。。。。
下の引用は、日経メディカルオンラインで『抗インフルエンザ薬、使う?使わない?』というコンテンツに寄せられたコメントなのだが、混乱というか、遺伝子型に触れずに反応・対処しようとすると、こんなにも“混乱”するんだよという事を示したくて引用した。
【抗インフルエンザ薬は基本的に不要】
◆タミフルは、1日早く解熱するといわれているが、根拠となる治験データを見ると中央値には23時間の差がある。しかし、3日目でプラセボ患者の40%近くが解熱しており、タミフルとの差は、約10ポイント程度である。日本の医師は、先入観で効果を過大評価しがちと考える。元々、自然治癒する疾患であり、高齢者を除けば死亡率は低い。タミフルの作用機序からも即効性は期待できず、早期に起こる小児の脳症を阻止できる証拠もない。新型インフルエンザでない限り、一律の使用は必要ない。(50歳代・内科勤務医)
◆元来インフルエンザ治療は、安静・水分補給のみで十分と思われるが、マスコミの報道等により抗インフルエンザ剤を投与しなければいけないような風潮が見られる。当院では飲まなくても治ることを説明し、どうしても希望する人にのみ投与することにしている。(50歳代・小児科勤務医)
◆もともと抗インフルエンザ薬は脳症以外では使用しないつもりです。以前は患者側(小児科ですので報道に踊らされた親)の要求度が強く、多忙な救急外来では面倒で処方していましたが、最近は断りやすいのでよいです。(20歳代・小児科勤務医)
◆以前から、なるべく抗ウイルス薬は、患者が希望する時以外は使用しないようにしていた。4年前から、小児には例外を除き使用していない。基本的にはリスクの高い人以外は治療は不要と考える。(50歳代・内科開業医)
◆基本的には抗インフルエンザ薬は使わない方針ですが、患者からの強い希望があったり、高齢者で呼吸器系の基礎疾患がある場合などは使用する予定です。(30歳代・勤務医)
【耐性ウイルス、新型のパンデミックが心配】
◆100%安全な薬はない。耐性菌の問題もある。使用しなくても治る可能性が高い場合は原則使わない。ただ、最近のインフルエンザは前より長引く傾向にあると思われるので、今年の傾向を見極めて慎重に投与する(20歳代・外科勤務医)
◆リレンザやタミフルの予防投与は一定の効果があるかもしれないが、いざ新型インフルエンザのパンデミックが起きたとき、十分な在庫がない事態を招く恐れがあるので、安易に行われるべきではない。また流行の媒介者となる小児へのワクチン接種は、社会の安全を考えると強制接種しかない。このまま手をこまねいていると、はしか騒動がもっと悲惨な形で繰り返される。(40歳代・内科勤務医)
◆今まであまりにも安易に(特にタミフルが)使われてしまった影響で、今後抗インフルエンザ薬の耐性化が心配。予防注射より、抗インフルエンザ薬による治療のほうが無料になるシステムもおかしい。高齢者への予防注射料金一部補助以外に、一般民衆への補助も検討しないと、今後も薬好きの日本人から抗インフルエンザ薬投与を減らすのは難しいと思う。また、マスコミはタミフル副作用で医療側を叩いて大騒ぎするより、予防注射の必要性および薬の副作用はある一定割合で発生するものだと啓蒙してもらいたい。(30歳代・アレルギー科開業医)
【抗インフルエンザ薬は有用だ】
◆よく欧米との比較で批判されるが、病医院へのアクセスが異なる国と比較して使いすぎと言われるのは困りますね。結果的に治るのですが、その間の辛さは患者でないと分からないので、少し治るのが早くなる程度で使うなという主張はQOLを無視している。(40歳代・内科開業医)
◆タミフルの副作用が問題になっているが、何も薬が使えなくなると逆に脳症等の発症が増え問題になると思う。(30歳代・内科勤務医)
◆タミフルの副作用で、患者が死んでいるわけではない、インフルエンザ自体の夜間せん妄によるものである、厚生労働省は、科学的根拠が全くないのに、マスコミと被害者の会のプレッシャーに負けて、タミフルの使用制限を出してしまったのは、まことになさけない。責任をとらない官僚主義には、怒りをおぼえる。(50歳代・内科開業医)
◆タミフルによる異常行動が問題となっているが、頻度は低く成人なら十分に説明の上、希望があれば投与すればいいと考えています。特にA型インフルエンザには投与による症状軽減効果は確実にあると思われるので、もし今シーズン自分がインフルエンザに罹患したら迷わずタミフルを内服すると思う。(40歳代・内科開業医)
◆タミフルの効果は切れがよく患者さんのニーズも高い。特に小さなお子さんがおられ、何日も仕事を休めないお母さんが多くなっているため、すばやい解熱を望まれる傾向が高い。対症療法のみで治るのは確かだが、一度タミフルの効果を体感された方からの要望は今年もあると思う。しかし、今年は処方しない。副作用の調査があまりにも不十分であり、自分の子供にも処方できない薬は患者さんには到底出せないからだ。麻黄湯やアセトアミノフェンなどの解熱薬で対処する例が増えそうだ。(30歳代・循環器科勤務医)
◆インフルエンザ治療薬による治療で明らかな死亡率や合併症発現の低下があれば、今後も積極的に患者の希望を聞きながら使用したい(50歳代・内科開業医)
同じ薬なのに、こんなにも臨床医の印象と使い方の主義主張が混乱を極めるのも、遺伝子に触れられないからに他ならない(これじゃ、まるで祈祷医療だ!)。『差別に繋がるから・・・』なんて言ってると、こんなになっちゃう。
ところで、このコメント群に関しては、全く別の解釈も出来る。
自然治癒傾向が極めて強い一過性の感染症などについては、まさに“患者さんのニーズ”が大切であり、これを見ると医療は“サービス業”であり“顧客満足度”を重点におかねばならない事が浮き彫りになる。(QOL ってのは便利な言葉である)
“サービス業”であってはならない医療の領域も存在する事は間違いないのだが、どこで線を引くのかの話も、また、タブーなのだろう。
本来この線引きを境に、方や100%医療費給付をすべきだし“顧客満足度”を満たすだけの医療であれば“保険免責”は当然だと思うんだけどねぇ。
だけど、これも話は簡単じゃない事だけは、うすうす理解はしている。小児医療においても“親の満足度”が猛威を振るっている事は間違いないので、十把一絡げで『保険給付せよ』に反対したいのは山々なんだけど、そうしないと大衆が“子供を作れない”って感じちゃうなら、その無駄な医療費も“少子化対策”なのかと・・・・・。その為に小児科医が疲弊しきっている事も、少子化対策の為なら無視する事が・・・・・。
来年の診療報酬改定では、上げるべき所は上げるそうだが、すずめの涙程度を上げて貰っても“焼け石に水”って意見はタブーなんだろうね。既に産婦人科医療は“デスマーチ”に陥っているということを、国と大衆は認識しないと解決は出来ないのだが、産婦人科の技術料を今の2倍にするべきなんて意見は、『一般大衆の感覚からはかけ離れている』って事で一蹴されるんだろうなぁ。
さて、先の抗うつ薬だが、飲んだら自殺願望が芽生えちゃうって恐ろしい一面も(特定の人には)あるのだが、飲んだら寿命が延びるって副作用なら、飲みたい人が増えちゃうんじゃないかな?
食事制限による寿命延長の基盤と似た機序ってことだから、SIRT3、SIRT4 遺伝子に関係してるんだろうか?これならサーチュイン遺伝子ファミリーの一員だから、NAD依存性脱アセチル化酵素群であり、体内で非常に重要な役割を担っている酵素だから、遺伝子多型は無い?だとすると、誰にでも効果は出る??
ところで、このサーチュインファミリーでにあるSIRT1やSir2は、あの赤ワインの成分でも活性化されるって事だし、赤ワインで寿命が延びる程度なら、わざわざ、抗うつ薬を飲むまでも無いとは思うけど。
生理:抗うつ薬で寿命が延びるNature vol.450 (7169), (22 Nov 2007)
線虫(Caenorhabditis elegans)の寿命を延長させる化学物質を探索する大規模なスクリーニングから、意外な結果が得られた。
ヒトで抗うつ薬として用いられている化合物ミアンセリンが、3週間という線虫の寿命をほぼ3分の1延長させるのである。
ヒトの場合には、この薬物は神経伝達物質セロトニンによる神経シグナル伝達を遮断するが、線虫に対する寿命延長効果にも、セロトニン受容体が関与しており、食事制限による寿命延長の基盤と似た機序がかかわっていることが明らかになった。
1つの可能性として、ミアンセリンが、実際の飢餓ではないが、飢餓と感じられる状態を誘導することが考えられる。
食欲刺激はヒトでのミアンセリンの副作用であることから、食欲と寿命の間に関連がある可能性が高くなってきた。
Letters to Nature p.553