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2011年05月 アーカイブ

2011年05月06日

“恐怖の希釈”

“早期癌”と診断された時、人はどのように“感じる”のだろうか?

その昔、私が子供の頃は、“がん”は死の病で“がん”になったら確実に死ぬってイメージだった。でも、今はどうだろう?

みのもんたなどは、「がんは、もはや“死の病”ではないんです。治療で治るんです」と言っている。市井の人々は、この言葉をどのように受け取っているんだろう?医学が進歩して、昔は治せなかったがんが治せるようになったと思うのだろうか?

それにしては、がんで死ぬ人が減っていないのは解せない。それどころか、増えてる。

ここ、50年で確実に減ったのは“結核”などの感染症くらいなもので、1990年代に死因分類が「ICD-10」」(「第10回修正国際疾病、傷害および死因統計分類」のこと。WHO加盟国で疾病等の分類を共通化するもの)に変更された為、心疾患や脳血管疾患の数が変動しているが、合わせりゃ変わりなく、「一体、なんなの?」って位、医療の貢献が見えてこない。

もっとも、平均寿命(余命)が増えてるんだから、死因の年次変化に年齢軸を加えればグラフはそっちにシフトするわけで、「加齢を加味すれば、がんが増えて当然!」って開き直ることも出来るんだけど。。。


ところで、一杯のエスプレッソに入っている“カフェイン”の量は、10倍に薄めて、ミルクをたっぷり加えて、甘くまろやかにしても、全部を飲み干せば、変わりは無い。

現代医療における“早期判断”は、まるで、“がん”を10倍に薄めミルクをたっぷり加えているみたいに見える。。。

がんと“診断される人”は増える。でも、死ぬ人の数は、あまり変わらない。(早期がんを診断して、根治的切除を行っても、経過観察と大差はないことを示す論文を引用する。もちろん、この論文での結論は違う表現をしているけど)


これは、まるで、“恐怖の希釈”といえないだろうか。(本当に実現したい早期診断は、確実に死ぬがんを早期に見つける事で、経過観察=無治療でも死なない人を増やすこと、すなわち希釈ではない)

早期前立腺癌における根治的前立腺切除術と経過観察の比較

Radical Prostatectomy versus Watchful Waiting in Early Prostate Cancer

A. Bill-Axelson and others


背 景

2008 年にわれわれは、前立腺癌による死亡率は根治的前立腺切除術により、経過観察と比べて低下することを報告した。その後 3 年間追跡し、15 年の推定結果を報告する。


方 法

1989 年 10 月~1999 年 2 月に、早期前立腺癌患者 695 例を、経過観察と根治的前立腺切除術のいずれかに無作為に割り付けた。追跡調査は、生検標本と根治的前立腺切除術標本の病理組織学的再検討と、盲検下での死因評価とし、2009 年 12 月までに終了した。Cox 比例ハザードモデルを用いて、相対リスク(95%信頼区間 [CI])を推定した。


結 果

中央値 12.8 年のあいだに、根治的前立腺切除術群の 347 例中 166 例と、経過観察群の 348 例中 201 例が死亡した(P=0.007)。手術群の 55 例と経過観察群の 81 例の死因は前立腺癌であった。15 年の時点での前立腺癌による累積死亡率は手術群 14.6%、経過観察群 20.7%となり(6.1 パーセントポイントの差、95% CI 0.2~12.0)、手術による相対リスクは 0.62(95% CI 0.44~0.87、P=0.01)であった。生存上の利益は、9 年間の追跡期間の前後で同等であり、低リスクの前立腺癌を有する患者でも認められたが、65 歳未満の患者に限られていた。死亡 1 例を回避するための治療必要数は、全体では 15 例、65 歳未満の患者では 7 例であった。根治的前立腺切除術群において、被膜外浸潤を認めた患者では、認めなかった患者と比較して、前立腺癌による死亡リスクが 7 倍であった(相対リスク 6.9、95% CI 2.6~18.4)。


結 論

根治的前立腺切除術は、前立腺癌による死亡率の低下に関連していた。被膜外浸潤を認める患者には、局所療法や全身療法が有効である可能性がある。(スウェーデン対がん協会、国立衛生研究所から研究助成を受けた。)


N Engl J Med 2011; 364 : 1708 - 17.
Copyright(C)2011 Massachusetts Medical Society.


ところで、、、

恐怖の希釈は、はたして“善い事”なのだろうか?


私が感じる“世間の価値観”では、恐怖の希釈は“善い事”のようだ。殆んど人が、この価値観にしたがい、言葉を発し行動をしているようにみえる。

いや、そう見えるのは、新聞やマスコミの作為なのかもしれないけど。

でも、確実に新聞やマスコミに刷り込まれた“価値観”に踊らされている人の数のほうが多いのは間違いない。


恐怖の希釈は、現実からの逃避を助長する。

私の知る限り、現実から逃避して“良い結果”が得られることは無いのだが、どうだうろう?

もっとも、当の本人が悪い結果を“悪い”と気付いてないなら、それはそれで、ある意味“しあわせ”なのかも知れないけど。
 
 
 
さて、恐怖の希釈とは違う“現実逃避”の3連休では、私は、黒豹のプチ改造を目論見、日産のディーラーに向かったのだった。

早い話、フロントグリル内の LED 化ってヤツだ。写真の BMW VISION のように、青くピカピカしたいわけ。カッコししでしょ?!

で、「やってもイイカナ?」に対し、ディーラーからは「フロントからの空気の流れを遮るようなものはダメ」と、なんとも曖昧なことを言われてしまって、、、、。しょうがないから、純正のデイライトを付けてもらって、後は、その配線を利用し、 LED テープをペタペタしようかと。。。。


と、いうような現実逃避は、実は、とある理由(利回り悪すぎ)で、この先、何度も何度も不動産屋に足を運ばなければならないのかと思うと憂鬱で憂鬱で、、、ってことなのでした。だって、自分が動けるのは“休日”に限られるし、休日が、楽しくない事で“潰れる”のは、、ねぇ。。。

まっ、しかし、人生とは、うまくいかないもんですね。“利回り悪すぎ”ってのは、ギリシャ神話的“悲劇”なわけですよ。決してシェイクスピアの悲劇的なものじゃない(ある時点までは利回りなどと評価する対象ではなく生活に必須のものだったのに、ある時からそうなってしまった)。今回の件では、結局、損をする事になる(これも憂鬱)。

でも、、私が損をするってことは、誰かは利益を得てるわけだから、人助けとも考えられるわけで、、、、、、、

ハッ!!イカンイカン、今回の損が人助けなんて、こんなの互恵的利他主義じゃない。。。。これじゃ恐怖の希釈だよっ!

2011年05月13日

プログラニュリンが関節炎を防御する(Progranulin Protects)

「関節リウマチ」っとぉーお呼べぇ~ばぁ~、「腫瘍壊死因子-α(TNFα)」っとぉ答ぁ~えるぅ♪

なんてくらい、今じゃ、治療のターゲットとしても、TNF-αはリウマチの世界では当たり前の存在になっている。でも、その名前が示すとおり、発見された当時は、抗がん物質であり、夢の治療薬と称えられ、それから一転して“がん悪液質の本態”と紆余曲折?を経て、、、基礎でリウマチとの関連が解明されて、、、、ってわけなのだが。。。。超ど級のキャラだったので、、、病態に対する影響度も大きいんじゃないのか?と期待半分、有名になったんだけど、、、、

とはいえ、やっぱり、それが“リウマチを説明できる全て”ではないことは、臨床で、経験されていくことになる。。。

でも、それまで全てが闇の中だった病態が解明され・・・・・ってことになると、やっぱり、期待は膨らんで、、、問題は一挙に解決する・・・・って、人は思うもの。ほんとは、リウマチの原因全部の中の“一部”なのに、その“全部”が闇の中だから、イメージ的に“TNF-α”が大きくなってきて、、、、

最近でこそ「その機序が全てではない」と、すぐに言えるようになったんだけど、昔は、こんな感じて“形成”されたイメージは、「それが全てだ」みたいに、業界を挙げて固定してしまってきたんだろう。。。。

例えば、「痛みと痛み止め」。痛みの原因は、、、炎症があるから、、、ブロスタグランディンが、、、ブラジキニンが、、、、と、治療薬も、ほとんど、そんな感じで、無理やり説明し、効かない言い訳は、他に求めたり・・・・・。


というわけで、久々に、リウマチの世界に、新しい?キャラクターがお目見えしたので、固定化されそうなイメージをリセットするのに、丁度いいかな?と、取り上げてみた。

Science April 22 2011, Vol.332

関節リウマチは全身性の自己免疫疾患で、主に膝、指、腰、手首等の関節に影響をもたらす。

炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNFα)が、この病気の発生に寄与しており、TNFαを標的にした治療法が現在用いられている。

抗-TNFα治療の治療効果と副作用が患者によって異なるために、新たな治療法を見出すことが必要である。

Tangたち(p. 478,3月10日号電子版; Wu and Siegelによる展望記事参照)は、増殖因子であるプログラニュリンが関節リウマチの治療における治療標的になり得るかも知れないと述べている。

プログラニュリンは直接TNF受容体1と2に結合し、そして受容体結合に対して TNFαと競合する。

プログラニュリンの欠乏により、この病気の複数のマウスモデルにおいて炎症性関節炎の発生が効率的に抑制された。

更に、プログラニュリンのペプチドフラグメントからなる遺伝子操作によるタンパク質はTNF 受容体結合を保持しており、マウスモデルにおいて炎症性関節炎の発生を押さえ、かつこれを治療に用いた時にマウスの病気の症状が緩和された。

The Growth Factor Progranulin Binds to TNF Receptors and Is Therapeutic Against Inflammatory Arthritis in Mice
p. 478-484.


さて、プログラニュリン、、、全く新顔のキャラなのかというと、そうじゃない。TNF-αが“がんの世界”で、それも“夢の新薬”なんて取り上げられていたことがあるように、プログラニュリンも、別の世界では、有名だった。

それが、リウマチの治療薬として、突如、脚光?を浴びるようになった?のだ。

当然なのだが、、、、TNF-α も現在、知られている作用以外に、、、もっと、凄いことに関わっている?可能性はある。

そのプログラニュリン、グクれば、色々とヒットするので、詳しく書かないけど、もともと、神経の分野で、有名になったみたいだ。ステロイドの神経幹細胞からの神経新生の促進、神経細胞の変性や細胞死の抑制などの作用の一部を、リウマチにおける TNF-α のこどく、補完している。。。っていうか、仲介しているっていうか。

そもそも、ヒトの前頭側頭型認知症の原因として、プログラニュリン遺伝子の変異が発見されて登場したキャラなんだけど、その後、プログラニュリン・ノックアウトマウスに、攻撃性や不安傾向の上昇などの行動変化が見られることが明らかになったり、、、と紆余曲折?を経て、、、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の病態解明に役立つのでは?なんて言われたこともあり、、、、なんと、リウマチで、再発見!!
 
 
 
このような、一つの物質に色々な働きを担わせ、また、一つの働きに、いろいろな物質が関与する、、、、生命の冗長さには、度々、驚かされるんだけど、以下も、その口。


その昔、某大学の院生から「Q&Aコーナー」に質問をもらって、回答したことがあったんだけど、、、ズヴァリ・・な方向が見えまして、、、ここでも Nature 473, 7346 (May 2011) の論文を引用したんだけど、、、

、、、すげぇ~よっ !!!

こういうのって、今までのように浅知恵?(当時はそれが限界だから浅知恵はかわいそうなんだけど)でターゲットを絞ると、、、、しっぺ返しをくらう、、すなわち、「がんを治そうとして、がんを作ってしまう」って事になるのを、如実に示している。

現代の“放射線療法”や“がん化学療法”も、大きな意味では“諸刃の刃”だけど、分子の目で見ても、ここまで、二律背反なのは、ある意味、清清しい。

医学:Notchシグナル伝達と腫瘍抑制

Nature 473, 7346 (May 2011)

Notch経路における活性化突然変異は、T細胞白血病の腫瘍形成を促進する。

今回I Aifantisたちは、これと同じ経路が骨髄性白血病の発症を抑制していることを見いだした。

造血幹細胞でNotch経路を不活性化すると、慢性骨髄単球性白血病(CMML)に似た骨髄性疾患が発症し、またCMML患者ではNotch経路の遺伝子に変異が見つかっている。

Notch経路は、骨髄球系の分化プログラムを抑制することが明らかになった。

これらの発見は、Notch経路が造血系で発がん性と腫瘍抑制性の両方の機能を果たすこと、また重要な細胞運命決定を調節していることを証明している。

Letters to Nature p.230
News and Views p.159


さて、本日は、久しぶりのブログ更新なんだけど、、、いろいろあって、忙しくって、書いてる暇がなかったのです。こんな、オレでも。

で、何が忙しかったのかというと、EXCEL との格闘がです。

で、、いやいや、わかりましたよ。極めましたよ。EXCEL を使うか、ACCESS で行くかの分岐点。

この業界に身をおいていると、なにかと、データを記録せにゃならなくなってきます。そんな時、EXCEL を使うか、ACCESS で行くのかは、迷うところ。

簡単に言うと、EXCEL で済むなら、圧倒的に簡単だから、EXCEL を使えばよい。

じゃ、どういう時に、ACCESS を選べばいいの?ってことなのですが、、、、逆に、こういう必要がなければ、EXCEL で十分って事を書いておこうかな・・・。

私、ACCESS には、いささか自身があります。っていうか、RDB のロジックは、データ管理は言うに及ばす、仕事の合理化、割り振りなどの管理にも欠かせない考え方です。

で、私は、ACCESS では、当たり前のように出来る、DLOOKUP が EXCEL で出来ないことに気付き、、、、いや、最終的には自力で DGET を探し出したんだけど、、、EXCEL で DGET を多用するなんて、、、、邪道。っていうか、最初から、ACCESS で行くべき。。。。と。EXCEL のデータベース的な使い方には制限多いし、関数、貧弱だし、、、、

簡単に言えば、データの記録が主目的なら、EXCEL でもいいけど、二次利用に DGET を使わなきゃならないなら、膨大になる前に、ACCESS に乗り換えしたほうがよい。ってことです。


面白いのは、RDB には、正規化の知識、考え方が必須なのだがが、これ、生命の冗長性とは正反対に、冗長を極力廃するんだよね。

まったく、両極端なんだけど、両方に興味があるんですよ・・・・。私。

で、EXCEL と格闘しなきゃならなくなった原因は、、、来週から薬学生が2名、やって来る。その前に、・・・ってワケです。

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