さてさて、私の職場では、薬学部の学生実習を行っておりますが、これの“意義”については諸説あれど、国が決めたことですから、我々、現場で働く薬剤師の責務であると思っております(師の付く職業は徒弟制度で培われるとも言われてますし)。しかし、職場の環境によっては、「忙しくて、それどころではない」とか、色々ありまして、薬学生の指導は“強制的”に割り当てられるというものではありません。要するに、学生を受け入れるかどうかは、最終的には、現場の判断というわけです。
というわけで、私のところも、諸般の事情により、一期分“お暇”を頂くことになりました。
というわけで(といったら暇そうにしているおもわれるのも癪ですが)、来年の4月いっぱいまでは、比較的、思いつくままにブログを更新しようかと思っているわけです。
で、タイトルの「ゲノム倫理指針は4年に一度改定」ですが、今回は、2012年12月12日に開催される厚生労働科学技術審議会技術部会で改定案が提示されるようです。
ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針って、何?って、俺たちになんか関係あんのか?って思われるでしょうが、かなりというか、スゲェ~関係あります。
“個の医療”という言葉を聞いたことがあると思いますが、基本的に人体には“個性”がありますから、薬の飲む量ひとつとってみても、オーダーメイドが理想なのはよくわかると思います。しかしながら、現状は、個性を無視した“古典的平均値”を用いた指標で、ものごとは進んでいきます(個の医療、ちょっとずつは進んでいます。例えば非小細胞肺癌患者におけるALK融合遺伝子の検査とか。これ日本人の場合、このタイプは、全肺がん患者の5%で、この5%の人たちのために作られた薬でもあり、それ以外のがん患者には使えません)。
では、何故、それが出来ないのか?
理由は簡単です。指標が無いからです。 じゃ、さっさと作ってくれ!! ほいきた、がってん・・・・とは、行きません。この指標を作るためには、どうしても個人情報に触れなければならないからです。個人が特定できないようにしつつ、うまい具合に研究を進めるには、、、、、
健康で長生きできる為に働いているであろう遺伝子多型や組み合わせ(発現も含め)のパターンなら、漏れたって、大した害にはならないでしょうが、その逆な遺伝子を持っている人の情報だったら・・・・。
純粋に科学的な好奇心が旺盛な科学者にとっては、その遺伝的な情報が人体にどのような“影響”を及ぼすのか?が最大の関心事であり、その他のことには無頓着、、、この資質は研究者にとっては大切であるわけでして、結果的にその事を責めることはできません。
でも、研究者と言ったって、ピンからキリまでいるワケで、、純粋で無垢な人たちばかりじゃなく、、全ゲノムシーケンスの解析はすでにに1000ドルになっているらしいですから、誰でも簡単に出来る、、、、
「だから、倫理規範が必要だろ!」ってことで、このようなものを4年に一回改定しているわけです(多分・・・苦笑)。
ふーん、じゃ、内容はどんなものなの?
・・・・(はっきりいって、読む気がしません。読みたい人はリンクを辿って読んでくだされ)
というわけで、一昨日の「30 年間のマンモグラフィ検診が乳癌発生率に及ぼした影響」でも指摘した通り、個の医療が不可能な現状では、当然、事前に「この治療が、この人に効果があるのか?」なんて、わかる由もないのです(前出のクリゾチニブなどのように、理論的にこの人には効かないって方は、ちょっとずつわかりつつあるけど)。
だから、いきおい、古典的な平均値にのっとり、ブロイラーのように、(がんが)見つかりゃ、ハイ治療しましょ・・ってなるわけです。
そもそも、厳密な意味での“がん”が定義できてないわけですから、「念のため」とがんの診断基準を甘くすると・・・・がん患者が増えて、、、、当然、放っておいても自然に治癒しちゃう“新生物”が出来ちゃった人までもが“がん患者”にされるから、見かけ上の“治癒率”は向上し、、、、それが、「早期発見のおかげ」だと、マスコミとかが、言いふらすから、国民は勘違いし・・・・・・って構図なのでしょう。
さて、こういうロジックで話を進めると、当然、不要な治療を行わない事が出来るようになり、不要な治療の副作用で苦しむ人を救える半面、、、、「不治の病の人を見捨てるためのイイワケ作りか?」と非難される恐れもあるわけです。
「人間は、みな、平等なんだろう?」
「治ろうと、治るまいと、同じ治療を受けさせろ!」
とか。
でも、これにしたって、厚生労働省が認可している“抗がん剤”に完治をうたっている薬は無く、その効果は、せいぜい数か月の延命なのです。それにもかかわらず、「抗がん剤はがんを治癒させることが出来る薬だ」と勘違いしているから、「治療を受けることに意義がある」とばかりな感情もわいてくるんだと思います。
でも、この“数か月の延命”が、どれくらい“貴重”で“かけがえのないもの”なのかは、人によって、さまざまですよね。
それに、発病してない人に、「あなたは将来・・・・」っていう権利がだれにあるのか?
難しいですね。
ここまでくると、そもそも、「個の医療を性急に求めることは是なのか?」とも思っちゃいます。個の医療を進めるということは、良い面の他に、必要のない人には無駄な治療は行わないという残酷な面も持ち合わせているわけですから。
多分、こういう問題を、科学者や医療提供者だけで論じることに、無理があるんだと思います。
でも、しかし、個の医療とは別に、データベースつくりの為に、ヒトゲノム・遺伝子解析研究には、十分な予算を付けてほしいもんです。「機が熟してから始めよう」では、日本の医療費の=貴重な税金の半分は“外資系企業”の懐に入っちゃうわけですからね。
今回改定される指針が主に想定しているのは、主に遺伝病(頻度は極めて稀ですが、疾患発症のリスクの高い一つの遺伝子によって発症する疾患)の遺伝子解析とのことだそうですが、これが研究の足かせにならないことを願います。
そして、研究予算の配分、、、次の政権に期待します。間違っても民主党のような「二番手じゃいけないんですか」みたいなことを考えている人たちには、任せたくありません。