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2014年04月 アーカイブ

2014年04月04日

ヒト繊維芽細胞から作製された肝細胞

そうなんだよなぁ!!

多能性幹細胞は“生物学的”には、非常に非常にとっても興味深いものなんだけど、医療への利用となると、この論文にあるような細胞の方が、断然、イイんだよなぁ。

ようするに、ワープロ機能が欲しい時、パソコンに“ワープロソフト”をインストールしてワープロとして使うか、ワープロ専用機を使うかのどちらかなんだけど、その“機械”をワープロだけにしか使わないとすれば、パソコンはいらない。

肝臓を再構築するだけなら、なにも、パソコンに“ワープロソフト”をインストールするより、最初からワープロ専用機を使った方がイイ。

パソコンは、汎用性を求めるあまりワープロとしては使い勝手が悪いからね。

iPS 細胞は、まさに、パソコンであり、その汎用性から期待されてるんだけど、そのままでは人体に移入できない。分化させて(肝臓の細胞にさせて)からでないと“いろいろと”マズイからそうするんだけど、分化させちゃうと、今度は増えて欲しい時に増えてくれないってジレンマ。

“いろいろと”マズイってのは、iPS 細胞のまま移植して“筋肉”に分化したんじゃ具合悪いし、なんだかわけわかんない細胞の“塊”になっちゃったんじゃ、ヤバいってこと。

その為、確実に“肝臓の細胞”になってくれる、この論文の細胞がイイわけ。もっとも、生理的に“必要なときに増え”なくてもいい組織や臓器の細胞なら、今回とは違う視点で考えなきゃならないだろうけど。

Nature 508, 7494

2014年4月3日


これまでの研究で、ヒトの胚性および誘導多能性幹(iPS)細胞から肝臓細胞を作製したことが報告されているが、そうした細胞を用いて肝臓組織を再生させる試みには、移植細胞が増殖しないことが障害となってきた。

今回H Willenbringたちは新しい戦略を取り、ヒト繊維芽細胞を成熟肝細胞に変換させて、マウスの肝臓を再生させた。

この方法では、ヒト繊維芽細胞を誘導万能性状態(induced pluripotent state)まで到達させず、誘導多能性前駆細胞(iMPC;induced multipotent progenitor cell)状態に再プログラム化する。

著者たちは、iMPCから、内胚葉前駆細胞(iMPC-EPC)を得て、移植後に成熟して増殖できる代理肝細胞を作製した。

この研究は、in vitroで作製されたヒト肝細胞によるマウス肝臓の顕著な再生が実現可能であることを実証しており、この系がヒト肝疾患の自家治療の研究モデルとして有望であることを示している。


Letter p.93
doi: 10.1038/nature13020


ところで、一般的な話として、移植後、様々な種類の細胞の塊に成長するというのはテラトーマ形成能のことを指している。

ES細胞やiPS細胞を未分化のまま移植するとテラトーマ=奇形腫になる。

生物学的な研究としては、このテラトーマ形成能があることが、いわゆる多能性とか、俗にいう万能性とかを確認するひとつの手段となっている。

もちろん、STAP 細胞も、テラトーマ形成能がある。

その一方で、その技術を医療に応用したら、分化させたはずの集団に、もし未分化の細胞が混ざっていたらがん化しちゃう場合も考えられるじゃん、てのが以前から言われている問題点ってワケだ。

でも、iPS細胞でテラトーマを作らせると、移植された個体がもつ免疫の攻撃を受けて「塊」(腫瘍)ができにくいということが報告されている。iPS細胞には、後から“がん遺伝”をぶち込む為か、免疫系に対して「自分、がん細胞なんですけど、なにか?」って言ってるようなもんだから、免疫系に排除されちゃうのだろう。

、、、、マスコミあたりでは、テラトーマ形成能の実験報告と、再生医療でやろうとしている「分化させた細胞の移植」の話をごちゃ混ぜにし、(倫理的にも)頓珍漢な理論を展開しているのはおいといて、、、

だから、iPS 細胞を臨床応用すると、がん細胞になりやすいから「ヤバイ」って主張する人と、その性質で危険な細胞は排除されやすいんだから「ES より安全」って主張する人に分かれる(絵は、人間の認識や価値観に絶対はなく、いつも相対的ってゆーか、不安定を示したつもり。右目はブルーに見えるけど実際はグレーで左目と同じ)。

かと言って、人じゃES 細胞は倫理的に問題ある。

そこで、STAP 細胞が登場した、、、んだけど、、、、、現時点では、STAP 細胞は、本来の意味とか、存在意義とかからはかけ離れたところで“人気者”になっている。以前には、iPS 細胞とどっちが優れているかとか、大衆が喜びそうな質問したりして。


ハッキリ言って、STAP 細胞論文疑惑は小保方さんを悪者にして終わらせられる問題じゃない。こんなことで、iPS 細胞やES 細胞に変わる多能性幹細胞の研究にお金が回らなくなることが、一番の問題だからね。

それに、確実な臨床応用を望むなら、マスコミは、世間をビックリさせられるような論文じゃなく、Nature 508, 7494 に掲載されたコツコツと努力しているこのような論文を、もっと多く取り上げるべきだと思うな。

2014年04月11日

クリゾチニブのS体にこんな作用があったとは!

久しぶりに、ちょっとだけ興奮しました。

クリゾチニブのS体にこんな作用があったとは!って。

というより、作用点が違うから、S体は別の薬のハズなのに、結局、同じような病気に使える薬だった・・・・ってゆー、小説ってゆーか、笑い話のような話。

クリゾチニブといえば「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」というレアな病気にしか使えない薬だ。

ここで、おさらい。

ALK融合遺伝子、正式?には“EML4-ALK融合遺伝子”と呼ばれ、染色体転座によって“生成”される、本来はあり得ない遺伝子。

増殖因子受容体である ALK と 微小管会合たんぱく質の EML4 が融合することにより、リガンド無しでチロシンキナーゼ活性をもつ増殖因子受容体として機能してしまうことにより、細胞が増殖し続ける原動力を担うものだ。クリゾチニブはこの活性を抑制する。

全肺がん患者の5%程にしかみられないため、レアと表現したが、若年肺腺がんの約3割を占め、非喫煙者に多いという特徴がある。

ターゲットが明確な為、フィラデルフィア染色体を持つ白血病のように薬物治療が奏功しやすいと考えられている。このような、本来、正常な細胞には存在しないターゲットに働く薬を(狭義の)“分子標的薬”と呼ぶ。

ターゲットがはっきりとしている事と、“分子標的薬”という名前のイメージから、他のターゲットがあるようには思えない“思い込み”が今回の根底にある。

立体異性体は、分子式は同じでも3次元構造は違うのだから、ターゲットとなる蛋白質への親和性が違うのは直感的には分かるし、もしくは、全く結合できない場合がある事も理解はでき、全く別のターゲットに結合する場合もあるのもわかる。

そして、別のターゲットに結合する場合は、いわゆる“薬効”は想定できない。

そんなこんなで、全く別のターゲットに結合しているにもかかわらず、同じ“抗がん剤”として使えそうというのには、、、、いささか、ビックリしてしまったわけだ。

医薬品業界では、光学異性体をより分け、より“効く”医薬品として販売する例が、過去にもあった。「タリビッド」から「クラビット」なんかがその嚆矢だ。この場合は、光学異性体でも働きは同じだったが、全く関係ないところに作用してるにもかかわらず、結果的に同じ“抗がん作用”。。。

そう、可能性としては考えられるけど、実際、見たこと無いUFOとか宇宙人とかと一緒なわけだね。


さて、S体のそのターゲットだけど、、、、「MTH1」っていう、損傷した塩基(酸化されたヌクレオチドを分解することで)のDNAへの取り込み防止に関わっているタンパク質らしい。

まずは、こちらを。

がん: MTH1はRasに関連するがん治療標的である

Nature 508, 7495

2014年4月10日


がん遺伝子Rasに生じた変異は予後不良と関連する。

MTH1は、損傷した塩基のDNAへの取り込み防止に関わっているタンパク質で、その過剰発現はRasが誘導する老化を阻害することが知られていた。

T Helledayたちは、損傷したデオキシヌクレオチド(dNTP)ががんを促進する仕組みを解明する研究を行い、MTH1の活性が形質転換細胞の生存に必須であることを明らかにし、MTH1の低分子阻害剤としてTH287とTH588の2つを見つけた。

これらの加水分解酵素阻害剤の存在下では、がん細胞だけがそのDNAへ損傷ヌクレオチドを取り込み、その結果として細胞毒性が生じてマウスの異種移植がんモデルで有益な応答が誘導された。

一方、G Superti-Furgaたちは、Ras依存性がんで使用するために開発された低分子薬SCH51344の標的を探索し、この分子がMTH1を不活性化することを見いだした。

この結果からさらに、MTH1の新しい強力な抑制剤で鏡像異性体選択的に働く(S)-クリゾチニブが見つけられた。

大腸がんの動物モデルでは、この薬剤が存在すると腫瘍増殖が抑制される。


Article p.215
doi: 10.1038/nature13181
Article p.222
doi: 10.1038/nature13194


T Helledayたちは、MTH1 を最初からターゲットにした TH287 と TH588 を開発し、G Superti-Furgaたちは、機序が不明ながら、抗がん作用のある SCH51344 と名付けられた化合物のターゲット探しから MTH1 にたどり着き、その結果から、 s−クリゾティニブに辿りついたということだ。


実は、恥ずかしながら、私、この「MTH1」は今まで知らなかった。

多分、まだまだ、私には知らないことの方が多い。しかし、だからこそ、この分野は面白いんだと思う。

というわけで、「MTH1」を調べてみた。

「MTH1」の研究では、九州大学の中別府雄作氏が有名らしい。「MTH1」で検索すると、最初にヒットするのが、氏らの「蛋白質 核酸 酵素」に掲載された総説だ。

http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2005&number=5008&file=DsiW8Mrs7Mq2IoztxV/Efg==

簡単に言うと、MTH1の機能は、核酸の酸化された状態を改善する役割をになってる。

がん細胞はその環境からさまざまなストレスにさらされており、酸化された核酸を遺伝子に取り込むと、細胞は死ぬ。これを防ぐ一つのメカニズムとしてがんではMTH1分子の発現を上昇させて、生存を維持している。

だから、その機構を抑制してやれば、、、がん治療の補助薬として使えそうだと、2005年の段階で指摘している。

この総説で気になるのは、脳腫瘍で上の事を考察しているのだが、正常な脳組織では、MTH1 は発現しておらず、パーキンソン病で高発現しているという下りだ。

中別府氏は、パーキンソン病のドーパミン神経細胞では酸化ストレスが更新していることが知られ、種々のヌクレオチドや DNA の酸化による有害な影響を排除する目的で発現が誘導されてるのでは、と書かれている。


本当だとすると、MTH1 を抑制する薬は、パーキンソン病患者には使えないということだし、MTH1 を高発現することで恒常性を維持している組織では、副作用として出てしまうかもしれない。

が、、、どちらにしても、MTH1 を過剰に抑制すると、OGG1(DNA に蓄積した酸化ストレスを取り除く別の酵素)とダブルノックアウトした細胞に見られたように、細胞へのダメージが強すぎて死んでしまいそうなので、病気としての“がん”だけにはならないようだけど。。。

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