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医薬・生命科学 アーカイブ

2000年06月26日

いろいろあるのね。

米国で、食物繊維の大腸癌予防効果について論議がまき起こっているそうだ。--ことの発端は、NEJM誌4月20日号で、食物繊維の摂取が大腸直腸腺腫の再発を防ぐ効果は認められない、という研究結果が二つ発表されたことだそうだ。

でもって、NEJM誌の報道に対しAmerican Institute for Cancer Research(AICR:米国癌研究所)は、果物や野菜の摂取が癌を予防する可能性を示唆する研究結果はほかに多くあり、NEJM誌の研究結果を過大に解釈するべきではないという声明を発表したそうな。

おーおー、ヤレヤレってな感じ。

気になる原著のアブストラクトは、 Lounge (-。-)y-゚゚゚ の トピックス にのっけときまーース。

2000年07月09日

アスピリンよ、おまえもか!!

うーーむ、ついに、こういうデータも出ましたねぇ。アスピリン好きのアメリカ人には、つらいっすねぇ。

『アスピリン投与による心血管疾患の予防効果、血圧130mmHg未満で大、145mmHg超では逆効果』については、トピックスに掲載しました。

注意!トピックスに掲載したAbstractだけ読んで、患者さんにうんぬんするような荒業は、やめましょう。最低限、全文(英文です。URLはa href=にて記載してあります)を読んでからにしましょう。

2000年07月10日

遠隔治療

イボをおまじないで治す・・・今は亡くなられた小川町の某先生も行われていたとか。10年程前にこの話を聞いてから、すっかり信じてしまい、以来、イボは、おまじないか、ナスの蔕で直すもんだと思ってます。

でも、この間、足の裏に出来て、歩くと痛かったイボはおまじないで治らなかったので、自分でイボを火箸で焼いて治したけど・・・

2000年08月01日

サリドマイド・・・再び

サリドマイドって、ここ2~3年で、再びポツリポツリと使われてるようになってきました。難治性疾患治療薬として使ってるようですねぇ。

サリドマイドを知らない若い薬剤師諸君に、レクチャーしよう。

サリドマイドは1960年代に世界中で催奇形性のため大問題になり、(私の生まれる直前に発売禁止になった)医薬品の歴史を塗り替えた薬です。ところがFDAは「らい腫らいの合併症である紅斑性結節性らい」治療薬としてサリドマイドを承認する予定になったんですねぇ。もしかしたら、もう承認してるかも。会社はCelgene社です。

サリドマイドは腫瘍壊死因子α(TNF-α)の阻害作用が主な作用です。このためHIV感染症や結核のようにTNFを多く産生する疾患に有効と考えられています。他には、ベーチェット病、エリテマトーデス、慢性移植拒絶反応、神経膠腫、シェーグレン症候群、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患などがあげられ、さらに抗血管新生作用があるので、各種の癌、黄斑変性の治療も考えられています。

メーカーは引き続き、エイズ消耗症候群、エイズ関連の難治性下痢にも適応を考えているそうです。

発売を前にアメリカでは被害者団体も含めてワークショップを開催しましたが、同剤の完全禁止を主張するものは一人もいませんでした。あとは、どのようなコントロールを行うかに注目されました。大切なのは、既存の方法では治る見込みのない難病患者に対しサリドマイドを適切に処方し、かつ、できる限りのリスクを避けるということです。サリドマイドの有効性が示されていくと、日本でも使用の見直しが始まるでしょうが、さてさてどうなりますか。

関連記事をトピックスに掲載しました。

2000年09月07日

酒好きな方には聞き捨てならない話。

問題です。
アルコール性肝障害の発症機序に、最近、腸内細菌との因果関係が言われるようになりました。ラットの実験では、アルコール負荷前に、抗生物質処理により腸管内殺菌処理をすると肝障害の軽減が得られています。

これって、どういうことでしょう?メカニズムがわかった方には、10万円進呈しましょう。

粥状硬化の、動脈分岐部外側に生じやすい理由のキーワードは、今だ、誰も掲示板に書きこみませんねぇ。せっかく、10万円のチャンスなのに、遠慮してんのかなぁ?

(こりゃ、掲示板は廃止か???)

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2000年10月01日

Th1とTh2細胞

Th1とTh2とは?
勉強会の最後に、この話で尻切れトンボになってましたので、Th1とTh2について、私のイメージしていることを適当に書いてみます。

これのお話する前に、生体に異物が侵入した場合にどのような順序で、免疫が誘導されるか見てみましょう。

まず、異物進入⇒抗原提示細胞(APC)が捕捉⇒抗原提示⇒ナイーブT細胞の活性化(分化)。

この段階で、進入した異物に対して、どういう手段で対抗(排除)したら良いかを決定する。(ただし、この決定部分は、ブラックボックス)

◎細胞性免疫主体で異物を排除するなら、T細胞をTh1に分化させる。IL-12が必要。
◎液性免疫主体で異物を排除するなら、T細胞をTh2に分化させる。IL-4が必要。

このT細胞の分化の方向決定は、単純ではありません。最初のIL-12とIL-4を誰が分泌するのか????抗原提示細胞が抗原を判断して分泌するのか、あるいは、その環境中の誰かが、判断しているのか????

抗原の種類によって決まるのかというと、そうでもない。

AマウスとBラットに同じVというウイルスを感染させると、Aマウスは、Th1を誘導し、BラットはTh2を誘導し、Aマウスは生き残り、Bラットは死滅するという事実があります。
Vウイルスを感染させたときに、BラットにIL-12を投与すると、Th1が誘導され、無事生き残りますから、BラットがTh1を誘導できないわけではないのです。

また、BラットにTh1を誘導できるZウイルスを先行感染させた後、Vウイルスを感染させても、同様に生き残ります。

Th1を誘導するサイトカインはTh2を抑制し、Th2を誘導するサイトカインはTh1を抑制して、バランスを保っているという表現が論文に散見されますが、これは、ある意味で、間違いです。

免疫現象は、一度、どちらかに傾いたら、とことん、傾いて倒れてしまいます。ゆり戻し現象は起きないのです。免疫現象が終息するのは、その主役たちが必要なくなった段階で、アポトーシスを起こして死んでいくからです。(おいおい、フィードバックもかかってないのかい?)

この辺のところは、実は私も、腑に落ちなくて、納得いかなくて、奥歯に物が挟まったみたいで気持ち悪いので、かなりの数の論文を読み漁りました。

で、なんとなく見えてきたのは、全くの私見ですが、ヒトの場合、B細胞(APCとして)に捕捉される抗原は、Th2主体で排除され、マクロファージ系(マクロファージ、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、kupffer細胞)に捕捉される抗原は、Th1主体で排除されるような気がします。
ただし、ここで、2重3重に感染が重なっていた場合は、初感染の免疫偏向を示すことが多いです。
でも、自分にとって、なんとなく見えてきた原理を覆すような事実が、かなりの数に上るので、間違いではないにしろ、100%の正解でもないような気がしてます。

この免疫偏向を説明する場合、多くの論文では、胸腺主体のいわゆる“全身免疫系”しか考慮に入れていないことが、事実を見えにくくしている可能性があります。

どういうことかというと、粘膜腸管主体の“粘膜免疫系”の関与を考慮に入れていないのです。こちらの免疫の主体は、胸腺外分化T細胞です。(だから、自己を認識するTCRを持っていて、自己を認識します。当然、自己免疫疾患にも関与します。澤井君が解説してくれた“Vα14NKT細胞”も胸腺外分化T細胞です。)

で、現在、免疫学の興味は、胸腺外分化T細胞に移ってます。

免疫学は、胸腺主体の全身免疫系をメインに進歩してきましたから、自己と反応するT細胞が、最初から、その存在を許されているのは、当時(昔)の研究者たちにとっては、許しがたいことで、なじまなかったのでしょう。最近になり、どうしても、その存在が、イレギュラーではない事を認めなくてはならなくなり、一旦、認めてしまえば、興味は、そちらに移り、貪欲に研究を進めているのが現状です。

粘膜免疫系は、抗原を経口投与することによって、寛容状態が得られる、いわゆる、オーラルトレランスという現象があったから、昔から、認識されてはいました。
『漆職人が漆をなめて、漆かぶれを防いでいた』というアレです。
胸腺主体の全身免疫系で、何もかも説明できると思っていたところが、そうは、問屋が卸さなかったので、粘膜免疫系も含めて説明しようとしたところ、胸腺外分化T細胞が、かなり活躍している事実がわかって、興味が移ったのでしょう。

とにかく、現在では、両方の免疫系の関与を考慮に入れて、説明しなきゃ、おさまりつかないです。

このテーマ(粘膜免疫系)は、いつか勉強会で取り上げたいと思っているのですが、なかなか、雲を掴むようなところがあって、自分でも、皆さんにうまく説明が出来そうもなく、事実の紹介だけで終わりそうなので、頓挫しています。でも、いつかは、やりたいと思ってます。

最初の一文をもう一度、見てください。↓
『まず、異物進入⇒抗原提示細胞(APC)が捕捉⇒抗原提示⇒ナイーブT細胞の活性化(分化)。』

異物は、どこから進入しますか?AIDSだって、インフルエンザだって、ブドウ球菌だって、はたまた、花粉でさえ、みんな粘膜ですね。(怪我などの場合はちょっと違うけど)
粘膜免疫系が関与してないわけがありません。

それから、もう一つ、現在の免疫学の興味は、“樹状細胞”です。いわずとしれた、生体の最高の効率を誇る“抗原提示細胞”です。抗原提示する時点でTh1、Th2が決定されるわけだから、当然ですね。これも、勉強会で取り上げたいです。

余談が長くなりましたが、Th1とTh2の解説。

Th1で行くと決定されたら、Th1は、主にIFN-γを分泌して、MHCクラス1に抗原を提示してる細胞(主にウイルス感染細胞や癌化してヘンテコリンな蛋白質を産生している細胞)に攻撃を仕掛けるCD8陽性のキラーT細胞を活性化します。また、IFN-γは、NK細胞やNKT細胞を活性化して、MHCクラス1を失ってしまった(ウイルスがキラーT細胞に排除されないように、MHCクラス1を失わせる。ウイルスはこんなずるいこともやっているのだ!)細胞を皆殺しにさせます。
このように、Th1とTh2の両方を同時になんて、やらないで、片方だけで、突っ走ります。(IFN-γは、Th2を抑制する)
イムノグロブリン・・・いわゆる抗体は、細胞内に入っていけないため、細胞内のウイルスを中和出来ないので、その細胞ごと、細胞性免疫でかたずけます。

ウイルスが潜んでいる細胞を殺し終わった後や、血中にウイルスがうようよいるような種類のウイルス場合や、2度目の感染時には、抗体の出番です。免疫の主体が移ってきます。

じゃ、細菌感染の場合は、Th2がすぐ活躍するのかというと、そうじゃなくて、好中球が先発隊です。この後、リンパ節にいるTh2からのIL-4,5,6,10などが、抗体産生細胞(B細胞)を誘導し、抗体(イムノグロブリン)を作らせて、細菌の表面にくっつけて、よりいっそう、好中球の働きを効率化し、単球、マクロファージのまでも、参加させて、排除に向かわせます。

急性の炎症などで、細菌の排除が済んだ後に、もう細菌はいないのに、ノコノコとT細胞がやってきて、ダラダラ続く慢性の炎症を起こすことがありますが、この細菌感染の場にこれらの炎症細胞を向かわせるのが、ケモカインの役割です。

寄生虫感染や花粉などの場合は、Th2が最初からがんばって、抗体を産生させます。

まったく、現象だけを見ていると、こうなるのがあたりまえで、どうして、花粉ならTh2なんだ?などと考えてはいけないような気がします。神のみぞ知るってヤツなのですかねぇ?

生物の進化の過程も含めて考えてみると・・・
免疫系では、マクロファージやナチュラルキラーなどの貪食系が一番古くて、やがて、二つに分かれる。ひとつは、貪食能を高めて、好中球に。もう一つは、貪食もするけどその後に、抗原情報を別の細胞に提示できるAPC系に。ナチュラルキラーなどのリンパ球系の中からより高度な免疫を行うために、抗原特異的に処理を行う連中が登場する。APCと手を組んで。

寄生虫感染の時には、その局所にいる好塩基球が寄生虫に刺激されIL-4を分泌するから、感染初期に、その環境がIL-4に満たされて、Th2に進むといわれていた時代がありましたが、最近では、好塩基球は関係なくて、初期のIL-4は、NKT細胞由来である。という説が主流になってしまいました。

何故だぁーーーーーー!何故NKT細胞なんだ!

というわけで、Th1とTh2、わかったようで、実は、まだ、謎だらけなんです。

2000年10月18日

破骨細胞分化因子(ODF/RANKL)・・・・・

破骨細胞分化因子(ODF/RANKL)・・・・・

勉強会では、楽しそうなキーワードが飛び出しました。

ODFは、osteoclast differentiation factor で、
RANKLは、RANKのリガンド、RANKとは、receptor actvator of NF-κB ですね。

骨格系の形態や機能は、軟骨細胞による骨新生と成長に続き、破骨細胞や骨芽細胞による骨吸収と骨形成サイクルからなるリモデリングによって、保たれています。

このへんは、勉強会で一度も取り上げた事が無いと記憶してます。

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の所で、少し触れたことがあるくらいです。

面白そうなので、間に合えば、世紀末のトピックス“暫定版”に加えて、詳細な資料も用意したいですね。間に合えばですけど・・・・・・
(^_^;)

2000年11月23日

パイロットも服用出来るアレグラ錠についての私見。

 最近、ベンゾジアゼピン系薬剤で筋弛緩作用が無く、翌朝ふらつきが無い(少ない)などのふれこみの薬物が登場しているが、その理由は、以下のようなものである。

 マウスの大脳皮質や視床でおもに発現しているGABAa受容体のα1サブユニットについて、その101番のヒスチジンをアルギニンに置換する変異を導入することで、生理的神経伝達物質であるGABAへの反応を変えずに、ベンゾジアゼピン部位作用薬への感受性が失われるように出来る。

 この変異導入マウスでは、ジアゼパムの鎮静、催眠作用が見られず、抗けいれん作用も部分的に失われた。一方、ジアゼパムの抗不安作用や筋弛緩、運動障害緩和作用、エタノールによるGABA作用の増強については変わらなかった。

 これは辺縁系(α2とα5)やモノアミン作動性ニューロン(α3)、あるいは運動ニューロン(α2とα5)に発現する変異していないGABAa受容体によるものと解釈できる。

このように、ベンゾジアゼピン類が引き起こす行動反応は、神経回路ごとに特異的なGABAa受容体サブタイプによってもたらされるものであり、薬物設計上注目に値する。

 しかし、どんな薬物にしても、理論的にはそうだとしても、疑り深い私などは、『ほんまかいな?』などと思いながら、服用するので、その恩恵に与れないのかも知れない。

 脳内ヒスタミンレセプターのサブタイプもかなり発見されているので、理論的には眠くならない抗ヒスタミン剤なども設計可能なのだろうが、治験段階でも臨床使用でも、患者は『抗ヒスタミン剤』を飲んでいる事を認識しているのだから、私のように午後、毎日、寝不足で居眠りをこいている人なら、“これは薬の副作用である”と思うだろうなぁ!!

 こんなんだから、絶対『アレグラ錠60』でも、眠気の副作用は出るだろうねぇ!!

2000年11月24日

歯医者さん

 今朝、用事があって、近所の歯科医院に行った。朝も早くから『キぃー~~ーン』って削られている音がしている。「あぁーあっ、痛そう!あーは、なりたくないねっ」などと思いながら帰ってくる途中、ふと思い出した事があった。ついこの間のことなのだが、新聞だったか、なんかの雑誌だったか、『歯槽膿漏が糖尿病のリスクファクター』という文章である。

 よくよく考えてみれば、慢性の歯槽膿漏は、血中のTNF-αを上昇させ、TNF-αにより、インスリン感受性がダウンレギュレートされる。よって、高インスリン血症を惹起し、やがて高脂血症、高血圧、糖尿病への道へと続くのであろう。

 『TNF-α繋がりで、歯槽膿漏と糖尿病かぁ』と再発見し、目からちょっとだけうろこが落ちた。

2000年12月11日

バナナの効用

 やっぱり、バナナは偉かった。
昔は、入院するくらいのすごい病気をしないと食べられないくらいの高級品だったと記憶している。
“バナナを食べられる”=“病院にお見舞いに行ったとき”の図式が小さい頃にはあった。
FDA(米食品医薬品局)はバナナに血圧降下の働きがあることを、商品のラベルに明示してもよい、ことを承認した。これは、すぐれたカリウム摂取源であるという事が公的に認められた事である。(トピックス参照)

カリウム摂取源として、真っ先に連想するのは、川島先生あたりも同様だと思うが、『ゴルフの最中、足がつらない』ことである。

ということは、バナナを食べれば、『ゴルフ中の筋肉痙攣を予防できる』という効能も承認されるかも・・・・という事はないだろうけど、患者さんに『ゴルフの最中足がつって、困ってる』と相談されたら、自信をもって『バナナをたべなさい』と指導できますね。

2001年01月26日

なぜアスピリン腸溶錠100mg錠をドイツ・バイエル社は推奨するのか

 トピックスに入れるまでも無いので、こちらに書きますが、バイエル社は、抗血小板剤として臨床効果を確実に得るにはアスピリン100mg/日以上の投与量が必要だと言ってます。
 ふーーん、ってな感じだが、理由は以下のようなものらしいですよ。

 これまでに行われたさまざまな適応症に対する臨床試験で、アスピリン100mg/日投与の有効性が実証された事実である。

 世界的にみて専門医の多くが、高リスク患者における心血管系疾患の合併症の予防において、100mg/日以上の投与が非常に効果的であると推奨していることもその理由の 1 つであるという。なかには、「100mg/日未満では抗血小板効果を十分に得られない患者がいる」とするMoerlooseらのように、アスピリンの低用量投与に疑問を呈する研究家も少なくない。

 なお、実際に臨床で投与されているアスピリンの 1 日用量は、米国では70~80%が300mg/日以上であるという。また、国際共同研究ATT(Antiplatelet Trialists Collaboration)の最新報告では、アスピリンの投与量は中等量(160~325mg/日)がもっとも優れているとしており、投与量と臨床効果にいわゆる「Jカーブ現象」があることを示唆している。

 現在のところ、アスピリンの最少有効量についての世界的コンセンサスはまだ確立されていない。そのため、十分な臨床効果を得るためには、薬理作用が発現する最少用量をいくらか増量した用量を投与する方法が理に適うという考え方が、アスピリン100mg/日を推奨する 3 番目の理由となるという。

2001年02月16日

発想の転換迫られる心不全の薬物治療

日経メディカルの特集で、タイトルのような特集が組まれている。

“慢性心不全の診療に関する常識が、大きく変わろうとしている。今まで禁忌とされていたベータ遮断薬が、予後を改善する重要な薬物という位置付けになってきた。また、心機能を評価できる血液マーカーが登場、早期診断やフォローでの活用が期待されている。今後、軽症患者の拾い上げが進むとみられるだけに、診療への開業医の参画が不可欠だ。今必要なのは、心不全は難しいという固定観念の打破といえそうだ。”

勉強会でもこの辺のところは、フォローしていたつもりですが、また、改めて取り上げてみましょうか?
薬物治療の他に心不全の病態、メカニズムにもせまりたいですね。“心筋リモデリング”がキーワードになるでしょう。

2001年03月24日

『癌』と『がん』

 ところで、みなさん知ってますか?

 漢字の『癌』と仮名で書く『がん』あるいは『ガン』は同じものと思われているかも知れませんが、正確には違っているのです。「癌」と漢字で書けば上皮細胞、たとえば胃の粘膜上皮細胞や肺の気管支上皮細胞の悪性腫瘍であり、「がん」と仮名で書けば、これらも含めたもっと広い意味での悪性腫瘍の事を言います。英語では前者はcarcinoma、後者はcancerと使い分けています。ですから、胃癌や肺癌と書き、国立がんセンターと書くんですねぇ。
 薬剤師の間では知らない人のほうが多いと思いますが、血液の『癌』と書いたら恥ずかしいので注意しましょうね!!

2001年03月30日

α溶血性連鎖球菌噴霧療法で小児の急性中耳炎を予防

鼻腔内に溶連菌を噴霧しちゃう、過激な治療法とは・・・むむむ。

『α溶血性連鎖球菌噴霧療法で小児の急性中耳炎を予防』

 Lundby病院(スウェーデン・イェーテボリ)耳鼻咽喉科のKristian Roos准教授らがBritish Medical Journal(322:210)に「一般的な病原体の増殖を阻止する能力を有する一部の細菌は、急性中耳炎に罹患しやすい小児の予防に利用でき、抗菌薬の使用量の減少にも役立つ」とする研究結果を発表した。

 この研究では、急性中耳炎にかかりやすい小児108例( 6 か月~ 6 歳)が対象となった。小児には抗菌薬を 1 日 2 回、10日間にわたり投与。さらに、その後α溶血性連鎖球菌(以下連鎖球菌)またはプラセボ溶液を鼻腔内に10日間噴霧投与した。60日経過した時点で、さらに10日間、同様の噴霧投与を行った。試験開始後 3 か月の時点で、健康で感染症が認められなかった小児は、連鎖球菌噴霧群では22例(42%)であったのに対し、プラセボ投与群では12例(22%)であった。同准教授らは「急性中耳炎の併発疾患として認められることの多い分泌性中耳炎の再発についても、同様の差異が認められた」と付け加えている。

 同准教授らは「皮肉なことに、これらの小児患者では抗菌薬の反復投与が感染症の再発の原因となっている可能性がある。大部分の抗菌薬は自然な生体防御の一部となる正常細菌に影響を及ぼすためである」と説明し、「連鎖球菌を用いる治療法は、易感受性小児患者での抗菌薬使用量の減少に役立つ可能性がある」と結論付けている。

2001年04月14日

慢性骨髄性白血病の夢の“特効薬”

 慢性骨髄性白血病 (以下 CML ) の新しい治療薬として、最近、グリベック-Glivec(STI571)という抗がん剤が噂になっているが、この薬の作用機序はかなり明快である。そして、「がん治療薬で、しかも単独の薬で、98%の好成績をあげたというのは前例がない」とNCI(米国立ガン研究所)のリチャード・カプラン博士が、驚きのコメントを寄せているように、非常に“効く”のである。

では、、そのグリベックはどんな薬か?

 CML では第 9 番染色体と第22 番染色体との間で相互転座と呼ばれる変化が起こり、通常ではありえない特別な遺伝子の配列が起こるのはご存知だと思うが、これにより 「bcr-abl」と呼ばれる異常な DNA 配列が作り出される。ちなみに、この異常な染色体をフィラデルフィア染色体と呼んでいる。

 で、この異常な遺伝子は、情報として生かされて、細胞内情報伝達を担う蛋白が作られてしまうのである。この異常な蛋白質は「BCR/ABL チロシンキナーゼ」と呼ばれている。
※ちなみに、染色体転座により DNA が融合する前(正常な)の ABL 遺伝子は細胞増殖を抑制しているのだが、転座が起きて BCR と融合して BCR/ABL となると細胞増殖を促進するようになるのである。

 CML 患者の場合、染色体検査でフィラデルフィア染色体が検出できなくても、DNA の配列を調べれば、必ず bcr-abl と言う異常な DNA 配列ができ上がっている。よって CML の病態を引き起こしているのはここから作られる「BCR/ABL チロシンキナーゼ」と考えられるのである。

 というわけで、みなさん、もうお分かりですね。そうです、「BCR/ABL チロシンキナーゼ」を分解したり、働きを阻害してやる薬ができれば、CML が治ると考えたわけです。

 近いうちに勉強会で、染色体転座、細胞内情報伝達なども含めて『この辺のところ』をやりたいと思ってます。
こうご期待!ふぅ。(^^ゞ

2001年04月20日

化膿連鎖球菌ゲノム、解読される。

むむむ、恐るべし、化膿連鎖球菌。ウイルスのゲノム取りこんでいるとは・・・・。

『解明された人食い細菌の遺伝子---ゲノム解読がワクチンへの道を開くのか?』

 のどの痛み、しょう紅熱、トキシックショック症候群、膿痂疹(とびひ)、リウマチ熱、そして稀に発生する人食いバクテリア症である壊死性筋膜炎。これらは、いずれも化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)という強力な細菌が原因となっている。このほど解読された化膿連鎖球菌ゲノムの塩基配列は、この細菌が人体を蝕む際に利用する一連の遺伝的武器の詳細を明らかにしている。

 オクラホマ大学保健科学センター(米国)のJoseph Ferrettiらは、5年間を費やして、約200万個の塩基によって構成される化膿連鎖球菌ゲノムを解読、解析した。この細菌は、他のどの細菌よりも多種多様な疾患を引き起こす。

 Ferrettiの研究チームは、化膿連鎖球菌の1本の環状染色体上にある約2000個の遺伝子の中から40個を超える「ビルレンス遺伝子」の候補を発見した。ビルレンス遺伝子は、化膿連鎖球菌が組織損傷や疾患を引き起こす能力を高める。「ビルレンス遺伝子には、有害な産物を作り出す抜群の能力がある」とFerretti は言う。

 「このように凶悪な細菌であるからこそ、大いに関心がある。」こう語るのは、英国の公衆衛生局付属研究所呼吸器感染・全身感染研究所の所長であるRobert George である。「ほとんどの人の場合、一生に一度は不快な連鎖球菌性咽頭炎にかかる。」ところが化膿連鎖球菌が血液や筋肉に入り込むと、トキシックショック症候群や壊死性筋膜炎のように生命にかかわる疾患を引き起こす可能性がある。

 化膿連鎖球菌の内部には、4種類のウイルスのゲノムがある。「化膿連鎖球菌は、この4種類のゲノムを取り込んで、その武器を増強した」とFerrettiは言う。このウイルス遺伝子には、重症の感染症に見られるような死の危険がある免疫系の過剰反応を引き起こしうる数種類の「スーパー抗原」類似のタンパク質が含まれている。「この細菌に感染すると、症状は急速に悪化する」と彼は言う。

 ずる賢い化膿連鎖球菌がヒトに感染するためのもう1つの戦略は、ヒトのタンパク質を模倣することである。化膿連鎖球菌遺伝子のうちのいくつかは、コラーゲンに類似したタンパク質をコードしている。コラーゲンとは、腱のような結合組織にあるタンパク質のことである。このコラーゲン類似タンパク質に対する免疫反応が起こると、自分自身の身体組織を攻撃し始める可能性があり、このようにリウマチ熱の症状である関節炎を説明することができる。

 化膿連鎖球菌ゲノムは大腸菌ゲノムの半分の大きさしかない。化膿連鎖球菌ゲノムには、自ら増殖するための代謝経路がないのである。「化膿連鎖球菌はヒトを利用する。」例えば、のどの裏側の組織を攻撃することによって「自らが増殖するために必要なものを手に入れている」とFerretti は説明する。

 「化膿連鎖球菌とヒトとの付き合いは、数百万年にも及んでおり、化膿連鎖球菌はヒトのことを非常によく知っている」とFerrettiは言う。彼は、これで化膿連鎖球菌をより効果的に叩けるようになったと考えている。「(ゲノム配列の解読)によって効果的なワクチンを考案できることになったのは、とても興味深い」とGeorge も認める。

2001年05月07日

危険・・・?

 知ってますか?

 例えばC型肝炎の診断には現在6000円程度の費用がかかっていますが、そのうち数十%がC型肝炎ウイルスの暗号をみつけたアメリカや、PCRという解析方法を発見した企業への特許料として支払われているんです。

 これは、どういう事を意味するかというと、この分野(遺伝子、ゲノム関連)の研究の遅れが、医療費の高騰を招きかねないということです。なにしろ、医療における知的所有権のほとんどが欧米に独占されかねないのだから。実際、日本はかなり、遅れているし・・・。

 ゲノム研究そのものは生命科学の基礎であると同時に、IT関連と共に、今世紀の産業基盤をなす重要な分野です。われわれ、末端の薬剤師は、研究という面では貢献できませんが、少なくとも医療に関する分野の技術については、理解しておきたいもんです。診断にしても、治療にしても、その内訳は、どんな技術的な基盤に立っていて、パテントはどのようになっているかね。まぁ、パテントはいいかっ!株でもやるなら別だけど・・・。

2001年05月23日

肥満・糖尿病関連のトピックス

第16回米国高血圧学会(2001年5月17日米サンフランシスコ)にて、『レジスチン』が発表されていた。この発表は、基本的には今年の1月のNatureに掲載された論文のレビューである。

やっぱり、今年の、肥満・糖尿病関連のトピックスは、『肥満と糖尿病を結びつける新たなホルモン、レジスチンの発見』で決まりかもね。

トピックスの“ワード検索”で『レジスチン』と入力して検索してみてください。
糖尿病と肥満を結ぶもの---真打ちの登場か? と題して、掲載されてます。

2001年06月12日

アメリカ、薬の副作用で約10万人が死亡

 医薬品の臨床効果や副作用などは人種差、個人差があることは知られている。一般的に、既存薬の1/4~1/3では、患者が応答しない、あるいは応答しにくいといわれている。

 アメリカの報告によると、『1994年の処方箋約30億枚のなかで、約200万人が副作用で入院して、約10万人が死亡している。これは全米の死因の第4位で、副作用により派生した医療費は約8.4兆円にもなる。』といわれている。

 この一因として今日の医薬品はその開発の段階で、個人差を無視した集団に対する(古典的平均をめざした)統計学的情報を、(多様性に富む)個人個人に適応させている事によるといわれている。

 この姿勢は、添付文書の頻繁な改定にも現れている。ごく少数の副作用例をあたかも、万人に出る可能性があるかのように、改定するのは、いかがなものか。

 近い将来、この添付文書にもSNPsの情報が載るだろうと言われている。薬物治療の最終的な砦である薬剤師は、当然、この分野にも精通しておく必要がある。

 個人個人に合ったオーダーメイド医療が実現される為の知識は、知らず知らずに医療費の抑制にもなっていることを心のどこかに留めておこう。この分野を勉強するモチベーションの1つとして。

2001年10月08日

食欲の秋

そろそろ、牡蠣のおいしい季節になりますね。生牡蠣というと、当たる当たらないが話題になる。牡蠣による中毒は腸炎ビブリオのような細菌だけではない。ウィルスも原因になる。

Morse DL, Guzewich JJ, Hanrahan JP, et al. Widespread outbreaks of clam- and oyster-associated gastroenteritis. Role of Norwalk virus. New England Journal of Medicine 1986; 314: 678-81.

また貝による中毒は病原体とも限らない。海藻から虫下し、カイニン酸がとれたことを思い出されたし。その海藻やを食べた貝の中に虫下しの類が濃縮されるのですよ。ちょうど水俣湾の魚の体内にメチル水銀が濃縮されたようにね。

Shellfish: From June to October, especially on the Pacific and New England coasts, mussels, clams, oysters, and scallops may ingest a poisonous dinoflagellate ("red tide") that produces a neurotoxin resistant to cooking. Circumoral (口の周りの)paresthesias (しびれ)occur 5 to 30 min after eating. Nausea,(嘔気) vomiting,(嘔吐) and abdominal cramps (腹痛)then develop, followed by muscle weakness and peripheral paralysis. Recovery is usually complete, but respiratory insufficiency may result in death.

ドーモイ酸はカイニン酸のアナログである。Sigma なんかで売っている立派な神経毒である。牡蠣じゃなかった、下記の報告はドーモイ酸中毒の症例である。剖検例で、海馬のアンモン角がやられている。ドーモイ酸中毒の場合も、貝(ここでは牡蠣じゃなくてムール貝なんだが)がドーモイ酸を作るんじゃないんだよね。実は、湾内で運悪く変な海藻が大量発生した時に採れた貝を食べたもんだから、その貝の中に海藻が作るドーモイ酸が濃縮されて、それを食べた人は海馬がやられちゃったんだよねえ。興奮毒性のとんだ人体実験ってなもんさ。これは神経科学者の間では、結構有名な話だから、海外の学会で(といってもほとんどの場合、アメリカになるだろうが)シーフードを食べながらの会話でいいネタになるから、覚えておいて損はないよ。

Teitelbaum JS, Zatorre RJ, Carpenter S, et al. Neurologic sequelae of domoic acid intoxication due to the ingestion of contaminated mussels. New England Journal of Medicine 1990; 322: 1781-7.

ネズミの神経学

いきなりでなんですが、、、、ラットは片側の大脳皮質を切除しても片麻痺は起こらないんですってね。Paxinosの名著、The Rat Nervous System を読んでも、確かにそう書いてある(らしい。自分じゃ読んでないケド)。そればかりではなく、かなり複雑な学習例えば Morris の水迷路も障害されないとのこと。

”あいつら、大脳皮質なんか使っていないんですよ。そんな動物を使って学習とか行動とか実験して、人間の病気の研究をしようってんだから、笑っちゃいますよね”と、ラット学習のプロは言い放つだと。

学習はともかく、片側の大脳皮質を切除しても片麻痺が起こらないなんて、かなりショックだよ。大脳皮質から内包、中脳脚、錐体交差、脊髄前角細胞に至る錐体路は、神経内科学では、象徴的な伝導路であり、こんな基本的な伝導路がラットと人で根本的に異なるなんて思ってもいませんでした。

こんな基本的な伝導路さえ、ネズミとヒトで大きく違うのだから、神経科学でネズミを材料にしてヒトの病気を考えることにどれだけの意味があるのだろうかと、改めて考えてしまう。

2001年10月15日

日本のとった呆れかえる狂牛病対策

雑誌ネイチャーの9月27日号に以下のような文章が載った。

日本の役人の体質というより、日本人の体質だよなぁ。こりゃ!危機管理意識の問題でしょ!狂牛病だけじゃないよね。平和ボケしきってるからなぁ。そもそも、判断すべき資質も知識もない人間が、喧喧諤諤やってるわけだから、ろくなもんじゃないんだね。

(Nature, vol. 413 P.333, 27 September 2001)

先週、日本国内で狂牛病が発生していたことが発覚し、これに伴って変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が起こりかねないという恐れが高まってきている。国民の健康が危機にさらされた際の日本国政府の従来の対応を見ていると、今回も適切な予防措置が確実にとられるとはとても信じられないというのが実状だろう。

牛肉は日本人の好きな食べ物であり、とくに若年層に好まれていて、150万トン程度の安定した年間消費量が見込まれている。そういうわけで、先日、ウシ海綿状脳症(BSE)にかかっているウシが一頭見つかったことは、相当な不安を引き起こした(p.337参照)。そして、ヒトがかかる神経変性疾患である新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の出現についての懸念が広がり始めている。この病気はBSEにかかったウシの特定の部分を食べることで起こると考えられているからだ。

この恐怖感をより差し迫ったものにしているのは、日本政府がこのような公衆衛生にかかわる事件の際に適切な処置をとるとはとても信じられないことがわかっていることだ。

1950年代から1960年代にかけて、水俣で起こった水銀中毒症(水俣病)を隠蔽し、その被害を拡大させたことについて、政府に共同責任があることは、そのもっとも明らかな例といえる。専門家はその地域にある工場の工業廃棄物によって汚染された魚が原因であることを突き止めていたにもかかわらず、政府は長い間なんの対応策も講じなかったのだ。その結果、続く数十年間にわたって、この病気による死亡者、あるいは一生の間廃疾状態のままとなる犠牲者が続出したのである。そして政府と当該の企業に対する訴訟は今でも続いている。

日本政府の対応の遅いことは、他の事件の場合にもよく示されている。1985年から1986年にかけて、血友病患者にHIV汚染血液製剤が投与された。これが起こったのは、安全なことがわかっている加熱処理血液製剤に当然切り替えられているべき時期よりもずっと後のことだったのである。また、厚生省は1997年になって遅まきながら、脳外科手術で使われる移植用脳硬膜について、ドイツで生産された汚染されたものの輸入と使用を禁じているが、これも米国食品医薬品局が対応策を講じたのにほぼ10年の遅れをとっている。そして、この移植用硬膜を使った外科手術を受けた患者の76人が、致死的なクロイツフェルト・ヤコブ病の変種の一つに罹患した。その数はまだ増えつつあるのだが、適当な対策がとられていれば、このうちの多くについては感染せずにすんだと考えられている。

今回のBSEについても、日本政府はまたすでにおなじみとなった手口をとろうとしているようだ。EUの執行機関・欧州委員会の担当官によれば、各国におけるBSEの危険を調査した報告書をまとめるのにあたって、発生の危険性が高いという委員会の評価はあたっていないと日本政府が主張したため、実質上その作成が阻止されたそうである。そして、政府が狂牛病にかかったウシが存在することをついに認めたときにも、報じられているように、農林関係省庁の官僚は伝染を防ぐためにそのウシを焼却処分したと断言したが、結局はその直後にウシが飼料製造業者に渡されていたことを認めることになった。現在、彼らは原因の究明と食物連鎖における広がりの程度を見極めるために大騒ぎをしている。

1990年代初頭には、英国が自国で売れなくなった肉骨粉飼料を、けしからぬことに日本などのアジア諸国で投げ売りするという事態が起こった。今回、BSEがアジア、特にこうした肉骨粉を大量に輸入したインドネシアやタイに広がるのではないかということがかなり心配されている。日本は、高価だが必要なテストを行って適切な制限処置をとるための経済力と、規制に関する実際的知識を持っていると考えられる。この国は、流行の可能性がある伝染病を未然に防ぐのにどういう対策をとればよいか、それを日本ほど裕福でないアジアの近隣諸国に教えるモデルとなることもできたはずだ。ところが、日本は完全に遅れをとってしまった。他の国は、反芻動物から作った飼料を同じ反芻動物に与えることを制限する処置をとっているのに、日本は、場合によっては無視されてきたと報道されている、法的拘束力のない「行政上のガイドライン」で満足していたのである。日本政府がこういうガイドラインを強制力のある法規にまで格上げしたのは、狂牛病にかかった最初のウシが見つかった後になってからのことなのだ。

日本政府は欧州委員会の報告書を確証がないと考えられるとし、いたずらに大衆を動揺させるだけだろうと述べて批判した。この「科学的な証拠が無い」というのは、以前のいくつかのケースにおいても何の対応策もとらないことの口実として使われている。本当の理由は、政府と産業界、あるいは政府と医療機関が癒着していることだと考えた方がよさそうである。こうした馴れ合いは、関係省庁の官僚が退官した後に大企業に天下りすることで強化されることが多く、このような騒ぎのもととなるのだ。

日本は欧州委員会が提供しようとしたような、偏見のない評価を必要としている。そういうものに耳を傾ければ、国民にとって致命的にもなりかねない不適切な判断を下すこともおそらく無くなるのではないだろうか。

2001年10月24日

Web Master の腰部MRI写真

昨日、撮影した私の腰部のMRI写真です。
専門医による画像診断の結果は、
L5-S1 level に椎間板ヘルニアを認める。
axial image では左神経根を圧迫している。

椎体には明らかな異常を認めない。
その他の異常を認めない。

とのこと。

L5-S1 level なので、今回の坐骨神経痛には関係ないだろうということです。
坐骨神経痛ならL4-L5椎間(両側腸骨稜の頂点と同じレベルにある)にヘルニアを認めるそうである。(自分が病気すると、勉強になります。)

痛みは、相変わらずなのですが、痺れが加わってきて、例えていえば、肘を思いっきりぶつけて『ジーン』となっているような痛みでなのです。(椎間板による圧迫じゃないとすると、筋肉疲労なのだろうか?)

これから、ストレッチなどをはじめて、リハビリです。

しかし、MRIは撮影時間がかかって、非常に五月蝿いのですが、この解像度はサスガですね。
皆さんの後学のために、写真を公開します。
(ただし、axial image は載せてません。このMRI写真だけからじゃ、L5-S1 level のヘルニアは確認できませんよ!念の為。axial image は lectuer に載せてあります。これははっきりと神経根の圧迫が確認できます。)

2001年11月05日

ニフェジピン舌下投与の中止勧告

 先日開催された、日本高血圧学会で、興味深い報告がポスターでなされた。

『まさに、こういうところにこそ、薬の使用方法に詳しい(はずの)薬剤師の出番があるのではないか?』と、感じてしまった。

そのポスターとは、『ニフェジピン舌下投与の中止勧告、「知らない」医師が8割』というもの。


 米国や日本の高血圧治療ガイドライン(JSH2000)では、短時間作用型カルシウム(Ca)拮抗薬のニフェジピンの舌下投与が「望ましくない」とされているが、この報告を行った鳥取大学第一内科の大田原顕氏らによると、同大学附属病院の在籍医師307人を対象に行った調査では、勧告を知っていたのは17.7%だったそうだ。(アンケート回収率60%)
(JSH2000については、トピックスでも紹介したから、目を通した方は、ご存知のはず!!)

 少なくとも中止勧告が「周知の事実」ではないことは確かなようだ。

 ニフェジピンの舌下投与は、拡張期血圧が120mmHg以上に突然上昇し、眼底出血や激しい頭痛などの症状がみられる「高血圧クリーゼ」などに対する緊急処置として、広く行われてきた投与法。しかし、まれに急激な血圧降下や反射性の頻脈などを引き起こすことがあり、投与量が“さじ加減”で左右される不確実性も相まって、現在では「原則として用いない」(JSH2000)とされている。


 この報告によると、面白いことに、ニフェジピンの中止勧告を知っている医師と知らない医師との間で、1年間にニフェジピン舌下投与を行った回数に違いはみられない。このことは、中止勧告が医師の行動には変化を及ぼしていないことを示唆している。

 また、ニフェジピンは腸管で吸収されるため、経口でも舌下でも吸収速度は変わらないが、ニトログリセリンからの類推か、6割強の回答者は「経口摂取よりも舌下投与の方が早く吸収される」と誤解していたそうだ。


 うーーむ、なんと言ってよいやら。でも、ほんとは薬剤師の方がもっと知らなかったりしてね。アハハハハ。

2001年11月12日

へぇー!って感じた事

もぉー、いいかげんにしてくれってな感じ・・・。ヘルニア。ひどくは無いけど痛い。おかげで、かなりのヘルニアサイトを制覇してしまった。
そんでもって、長引く・・・という事だけは、確かなようだ。
マッタク(-_-)。

自然消退する機序は、レクチャーに入れとくとして、以下のような、一見、まともっぽい、だけど、かなり怪しい文章があったりして、ナカナカ、奥が深いです。ヘルニア。紹介してみましょう。

●腰椎椎間板ヘルニアを捉えなおす

今から65年前、アメリカの生んだ偉大な生理学者であるW・B・キャノン博士が「Wisdom of body」、日本では「からだの知恵」という本を出版しました。これは生体に備わっている「恒常性維持(ホメオスターシス)」という概念の発見でした。

恒常性維持とは分かりやすく説明すると、生物はその「種」の生命を維持する為に、生体の内部環境を外界からの刺激に応じて時々刻々と変化させて、生命維持の為の機能を一定の状態に保たせるように働くという概念です。

その為の対応として発熱・発汗・嘔吐・下痢・咳・鼻水・痛みの発生・関節の変形・筋の異常収縮等を発現するというものです。

この考えの延長上で「病気」というものを捉えてみると、病気は悪い反応ではなく、生物の生命維持の為の「恒常性維持機構」を守る反応として捉えることが出来るのです。

「病気」や「痛み」、「骨の変形」等は「悪」としての対応・反応ではなく、生体を元の状態に戻すための「正」の対応・反応として捉え直す必要がありそうです。

よくよく考えてみれば「一日も早く死を迎えよう」と生きている生物は存在しません。

その「生」をまっとうしようと生きているのです。

65年前にW・B・キャノン博士が提唱したこの概念は、生理学の世界に多大な影響をもたらしました。

しかし65年後の今日、この基本概念がどこかに忘れ去られ、細かく細分化され“迷路”に迷い込んだ現代の生理学の姿があるのです。これをどう修正していくのか、私はW・B・キャノン博士の概念の復活を叫ばずにはいられないのです。

それでは今回テーマとする「腰椎椎間板ヘルニア」という、人体に起こるある種の変形に対して、キャノンの理論を背景に総合的なアプローチを試みてみたいと思います。

腰椎椎間板ヘルニアとは脊柱の下部にある、腰椎に起こる椎間板の脱出状態を指しています。

この椎間板の脱出(ヘルニア)という、ある種の変形が脊髄神経を間接的に圧迫することで、その神経の支配領域に痛み・痺れ・麻痺・運動障害等が起こるという病気です。

腰痛を引き起こした方が、病院で腰椎椎間板ヘルニアと診断されるケースが圧倒的に多くなっています。

その大部分が腰椎の4・5番間、或いは第5腰椎と仙骨間に「ヘルニア」が発見されるのです。

この検査法は以前は関節造影剤を注入してレントゲン診断に頼っていたのですが、現在では「MRI」という機械によって簡単に内部の様子が画像として映し出されるようになりました。近代科学的思考法に洗脳された現代人は、目に見えるものしか信じないという“幻想”を生み(詳細は「ヘッドギアは外せない」「目に見えるものしか信じない現代人」参照)モノ・コトの見方が大変狭くなっています。しかし、このMRIという今迄見えなかった身体の内部を映し出せる機械の登場によって、逆に「目に見えるものしか信じない」という“幻想”が覆されようとしています。

MRIという機械の登場により、これまでの椎間板ヘルニアという病気を捉え直さずにはいられなくなりました。

MRIの腰椎画像の中に、はっきりとヘルニア像が映し出されているのにも関わらず、その人はまったく無症状なのです。

これまでの腰椎椎間板ヘルニアの診断と所見と治療手段は造影剤によるX線撮影により、脱出した椎間板が脊髄神経を間接的に圧迫することによって痛み・痺れ・麻痺が発生するという機序を説明し、その圧迫を除去するために腰椎牽引や手術による除去をその治療手段としていました。

しかしこの理論を覆さなければならない症例が、MRIの画像検査によって続々と登場するようになったのです。

アメリカの医学誌の報告によれば、MRI検査においてアメリカ人の約六割の人にヘルニア像が確認されるそうです。

そしてこの内のほとんどの人が、腰痛や下肢の痺れ・麻痺・運動障害を訴えない人だというのです。

症状のある人は、その内の一割にも満たないという報告です。(朝日メディカル)

それともう一つ、アメリカの椎間板ヘルニア手術後の経過報告では、2年後には30%、5年後には70%、10年後には 100%ヘルニアは再発すると発表しています。これらの報告は何を意味しているのでしょうか。

W・Bキャノンが65年前に発表した「恒常性維持機構(ホメオスターシス)」の基本理念からこれを解くことは可能です。

また、日本伝承医学の人体観・生理観をもってしても可能なのです。この二つから以下解説してみましょう。

前述したアメリカの報告にあるように、アメリカ人の約六割にヘルニア像が映し出されるということですが、これが日本人ならもっと増え約7割近くの人にヘルニア像が映るとある学者は発表しています。

これはどうして起こっているのでしょうか。近代科学的思考法に洗脳された現代人は、暗黙の内に身体の中は生まれてから死ぬまで変わらないと考えています。つまり「不変」だと考えているのです。

しかし、これを機械に置き換えて考えてみると10年・20年~50年と使っていくうちに必ず磨耗が起こり、多少の変形が起こってくるのは当然です。これと同じことが人体にもいえるのです。

ヘルニアが存在しても、これは“許容”出来る範囲の変形であると捉えることが出来ます。

死ぬまで使っても、何ら支障は起こらないのです。故にヘルニア像は映っても“無症状”なのです。

このことは我々に何を教えてくれているかというと、身体というものを時間の経過の中で捉えるという基本概念が欠落していることを意味しています。生物は時間の経過の中で、時々刻々と変化しているのです。

唯物的思考法に洗脳されている現代人には、目に見えるものだけを信じ、物は永久に変わらないという“暗黙の誤解”が生じてしまっているのです。

また「ヘルニア」というものが、どういう機序で起こるかも説明がついていないのが現状です。

局所に起こっているヘルニア像は目に見えても、その起こる機序は説明できないのです。

これはどうして起こるかというと、これは全体の姿勢の変化の中で起こってくるものであり、これを詳細に説明したものが「人体積木理論」という考え方です。

人体は大小の形の異なる骨が積木を重ねたように連なっている姿であり、積み方に乱れを生じるとそれに修正を加えなければ、高く積み上げることは出来ません。積木の積み方に変化が生じ、応力の集中が一点に起こり、時間の経過の中で「骨」と「骨」のクッションの役目を担う椎間板が脱出した姿がヘルニアなのです。

つまり、身体全体に歪みが生じて、腰椎の下部に応力集中が起こりヘルニアが生じたのです。

このように、局部に起こっているヘルニアも、全体との関連の中で捉えなければ正しい対処法は生まれてきません。(詳細は人体積木理論参照)

また、神経生理学的に考察してみると、「神経」というものはある一点をピンセットでつまんでも、痛みや痺れ・麻痺は起こりません。ではどうすると神経に生理的変化が起こるかというと、“引き伸ばされた”時に痛み・痺れ・麻痺が起こるのです。故に腰椎の4番・5番間、腰椎5番・仙骨間に局所的に見られる椎間板の脱出によって局所的な圧迫が起こり、痛み・痺れ・麻痺が起こるという説は信憑性を欠くことになるのです。

全体の姿勢の大きな変化によって神経が引き伸ばされた状態が生じた時、痛み・痺れ・麻痺は起こるのです。

つまり、全体の姿勢の変化が実は痛みの本体なのです。故に「椎間板ヘルニア」に対処し再発を防止するためには、全体の姿勢あるいは脊柱全体を正しい「形」「仕組み」に戻してやる必要があるのです。

こういった処置を施さない限り、一時的に症状は軽くなっても必ず再発するのです。

このように、椎間板ヘルニアという局所に起こった変形を時間の経過の中で考え、全体との関連の中で捉えなければその正しい全体像は見えてきません。

また「痛み」というものに対しても、キャノンの提唱したホメオスターシスという概念から考察すると、身体を元の状態に戻す為ために身体が発する“危険信号”という考え方も出来るのです。

「痛み」を単なる局所的なものと捉えるだけでなく、内部に異常が発生しかかっていることを知らせる“シグナル”とみる必要があるのです。

MRIという機械の登場により、見えないものが見えるようになり、目に見えるものだけを信じるという“幻想”に変革が起こりつつあります。椎間板ヘルニアに対しても、これまで述べたような多面的なアプローチが求められる時代がやってきたのです。

「ヘルニア」に苦しむ多くの方々に、椎間板ヘルニアを正しく捉える一助になれば幸いです。

2001年11月24日

お金、かかるんだね!

JAMA日本語版11月号の日本分子生物学会・会長インタビューを読んでいたら、興味深いことが書いてあった。

・・・今、DNA配列の決定は技術的に向上しているので数十万円で遺伝子1個を解析できます。しかし、蛋白構造の決定には1個あたり1千万円くらい必要です。・・・

どうりで、蛋白質って構造のわかってるのが少ないわけだ!

直接、蛋白構造解析とは関係ないけど、『ポストゲノム時代にはプロテオミクス』と言ってるけど、これも金がかかるのは想像できるよね!DNAチップ1枚作るのも、大金がかかるんだからね!

製薬メーカーもこの分野に投資しないと生き残れないのは明らかだし、ますます、メーカーの淘汰が進むんだろうね。(ゾロとか作ってる場合じゃ無いんだろうけど、でも、ゾロも必要って中医協あたりじゃ話題になってるらしいし。。。)

しかし、DNA配列の決定にしたって、昔は大変な金がかかったのに、PCRなどのノーベル賞クラスの技術が、1個の遺伝子配列決定をこの値段にまで下げることを可能にしたのだから、蛋白質構造決定に応用できる技術の開発も、ノーベル賞クラスの研究になるんだろう。

我々の仲間の多くも働いている製薬メーカーの研究者の中から、ノーベル医学・生理学賞受賞者が出てほしいものである。

2001年12月07日

喫煙は高齢化社会対策

つい最近知ったのだが、こんな凄い論文が、こんな凄い医学雑誌に掲載されていたんですね。

何かって言うと、『喫煙は高齢化社会対策』というもの。

高齢化社会に対する有効な対策を見つけられずに、世界中どこの国でも問題になっている。
その解決策なのか???

よく読んでみると、凄い内容だ。

『たばこをやめると健康になり長生きするので、短期的には社会的なコストは低くなるが、長期的には禁煙は高齢化社会を助長し、社会的コストは上がるというものである。』

New England Journal of Medicineの97年10月9日号に掲載された論文である。


よーするに、喫煙を推奨して、国民みんな不健康にすれば、年寄りがバタバタ死んで、みごと高齢化社会は改善される・・・・・・とは言ってないみたいだが、まぁ、そういうことだろう。

一瞬、『おお、煙草を推奨しているぞ!喫煙者の肩身も広くなるって・・・・・?ん・・・?』
なんだ、これって、喫煙者の味方ってワケじゃないじゃん!吸ってりゃ早死にするっていってるんだもん。

まぁ、でも、タバコが発ガンの原因と成りうるかどうかは、個人のSNPに関係する事だから、これを見て、嫌煙派の人は『煙草止めなさい』って言わないよ~に!

2001年12月17日

薬の薬理効果が否定されたのではありません

医薬品の再評価の結果、効能が削除され、薬価削除を余儀なくされる薬が最近増えてきている。

別にそれをどうのこうのというわけじゃない。
メーカーからの説明に、よく、『薬の薬理効果が否定されたのではありません』って言葉が使われることを、ふと、思い出していた。

自分でも、服薬指導時に、言葉をやわらげるつもりで、『良くなっている人もいる事は事実だし、薬の効果が否定されたのではなく、たまたま、再評価という厚生労働省の試験に落ちてしまっただけです。』なんて、苦し紛れに、とってつけたような説明をしているし・・・。
間違っても、『あなたが飲んでいた薬は、ニセ薬と認定されました』なんて言えねぇーもんなぁ。


日本人って、過去の過ちを素直に認めない性質なんだなぁと。
いいじゃんねぇ!人間なんだから、間違いはあるんだし、素直に認めちゃえば。
『あの、バカにつける薬は、実はイカサマだったのです。』
『残念ながら、あの頃の医学レベルでは、それを証明できなかったのです。』
『でも、よい事もあります。毒にもなりませんでした。』ってね。

スッキリすんだろうなぁ!!

そーいえば、厚生労働省のお役人も同じ事言ってるよなぁ!
『薬の薬理効果が否定されたのではありません』って。


これは、薬物体内動態の話を書くための伏線なのでした。
“セリバスタチン悲劇”や“眠くなる水溶性医薬品”など、間違いだらけ?の古典的薬物動態の解釈をいかに素直に改めるか?って話。

この話は、後日。

2002年01月05日

英文和訳、和文英訳のギャップ

新年あけまして・・・、うーーむ、完全にボケてしまっている。
というわけで、ボケた頭を正常に戻すために、こんな事をしてみた。

まずは、以下の英文を読んでみてくだされ・・・。
これは、Nature 2002年 1月3日号で feature されている3編の論文のうちの1つの summary である。

★p53 mutant mice that display early ageing-associated phenotypes

The p53 tumour suppressor is activated by numerous stressors to induce apoptosis, cell cycle arrest, or senescence. To study the biological effects of altered p53 function, we generated mice with a deletion mutation in the first six exons of the p53 gene that express a truncated RNA capable of encoding a carboxy-terminal p53 fragment. This mutation confers phenotypes consistent with activated p53 rather than inactivated p53. Mutant (p53+/m) mice exhibit enhanced resistance to spontaneous tumours compared with wild-type (p53+/+) littermates. As p53+/m mice age, they display an early onset of phenotypes associated with ageing. These include reduced longevity, osteoporosis, generalized organ atrophy and a diminished stress tolerance. A second line of transgenic mice containing a temperature-sensitive mutant allele of p53 also exhibits early ageing phenotypes. These data suggest that p53 has a role in regulating organismal ageing.

・・・まさか、正月早々(正月じゃなくても)、自分で和訳する人などいないだろうけど、まぁ、そんなことは、今回の主題ではない。

この英文を、とある翻訳サイトで和訳させてみた。しかも、医学辞書を使って和訳させてみたんだよ!!

以下が、その結果である。(このサイトの名誉の為、URLは伏せておく)
じっくりと読んで、そして、笑ってください。

★早期老化を伴う表現型を示すp53変異マウス

apoptosi、セル・サイクル逮捕か、senescenceを誘発するためにp53 tumourの抑制器は多くのストレス者によって起動されます。 急行carboxyのターミナルp53の破片をエンコードすることができるtruncatedのRNA、あだ、変化させられたp53の関数の生物学効果を研究するために、私たちは1番目6exonのp53 geneでの削除変化でネズミを発生させました。 この変化は解散されたp53よりむしろ起動されたp53で一貫したphenotypeを授与します。 (p53+/+)がらくた仲間、野生型だ、ミュータント(p53+/m)ネズミ明細表は匹敵された自発的なtumourに対する抵抗を高めました。 p53+/mのネズミ年齢として、彼らは老化と連想されたphenotypeの早い襲撃を表示します。 これらは減少させられた長寿を含み、osteoporosiは、オルガン萎縮および減らされた応力耐久力を一般化した。 またp53の温度の敏感な突然変異のalleleを包含するtransgenicのネズミの2番目のラインは老化phenotypeを早く展示します。 これらのデータはp53が有機体老化を規制することにおける役目を持っていることを提案します。


 
 
いやー、ひどいもんですね。こりゃ、日本語とは言えないし、意味不明だぁ!
翻訳サイトや、翻訳アプリケーションなど、これじゃほとんど信用できないよね。

この場合、和訳だから、『おかしい』ってわかるんだけど、自分の作った日本語文章を英訳する場合には、この『おかしい』がわからないところが、恐いんですよね。

私など、ホームページの『著作権』ページをカッコつけて、英文にすることがあるんだけど、日本語で書いた文章を、このサイトで英訳して、そのまま、使ってたりします。英語を使える人が読んだら、この日本語並に、おかしなことになってるんでしょうねぇ!ああ、はずかしい!

まぁ、『著作権』の英文が『おかしい』って、誰からも指摘された事がないので、ここを見ている人は、私と同程度の英語力ってことになるのかな。ワハハハハ。
(。_゜)☆\(ーー;)バキッ
 
 
 
(ここからは自慢モードだから、癪に障る人は読み飛ばしましょう。(^o^)丿)
ちなみに、私など、この程度のサマリーなら、周辺の知識が豊富だから、日本語訳など無くても、意味はわかるんだけど、わからない人のために、わかりやすい日本語で書かれたサマリーを掲載しておきましょう。
(。_゜)☆\(ーー;)バキッ


★早期老化を伴う表現型を示すp53変異マウス

腫瘍抑制因子p53は、さまざまなストレス要因により活性化され、アポトーシスや細胞周期の停止、もしくは老化現象を引き起こす。我々は、p53の機能変化が生体にどのように影響するかを調べるため、p53遺伝子の1~6番のエキソンが変異で欠失したマウスを作製した。このマウスは、カルボキシ末端をもつp53断片をコードできる短縮型活性RNAを発現する。この変異により現れる表現型は、不活性化したp53ではなく、むしろ活性化したp53と一致する。変異(p53+/m)マウスは、同腹の野生型(p53+/+)に比べ、自然に生ずる腫瘍に対して強い抵抗性を見せる。p53+/mマウスが年をとると、老化に伴う表現型が早く現れる。これらの表現型とは、短命化、骨粗鬆症、全身の臓器萎縮、ストレス耐性の低下などである。温度感受性のp53変異対立遺伝子をもつ別系統のトランスジェニックマウスも、早期老化の表現型を示す。これらのデータは、p53が生体の老化を制御するのに関与していることを示唆するものだ。

2002年01月15日

あちらを立てればこちらが立たず

癌になるのを防止するタンパク質の量が多すぎると、マウスでは老化が早くなることが見出された。このことは、前回、書き込んだ英文の通りだ。この結果からすると、哺乳類は長生きする為に、ジレンマに陥る事になるのか??


この研究結果が興味を引くのは、何と言っても、p53が老化に関わっていることを初めて示したものであることだ。このp53遺伝子によりコードされタンパク質(WAF1)は、細胞の防御機構に関わっている主要なタンパク質の1つで、細胞分裂の停止、損傷を受けたDNA の修復、細胞死の誘発など、細胞が癌化するのを防止するための多くの機能を担っている。

(詳しくは、勉強会でも取り上げた通り、CDKを抑制するのだ。CDKが何の事かわかんない人は、ちょっと勉強不足です。復習しましょう。)


そして、この発見の経緯が、ちっょと、面白いので、紹介する。
ヒューストンにあるベイラー医科大学のLawrence Donehowerらは、このp53をコードしている遺伝子を取り除くことを試みていたのだが、一対の遺伝子のうちの片方が部分的に欠けたマウスができてしまった。がっかりしたので、このマウスは飼育室の隅っこにつっこんで放っておいたそうだ。

ところが数ヶ月後、この変異体マウスは、正常なマウスに比べて腫瘍の発生が大幅に少ないことに彼らは気づいた。一部が欠けているp53はどういうわけか、正常な遺伝子が過剰に活動するという事態を引き起こしたのである。

しかし、この癌に対する防御効果にはかなりの犠牲が払われていたことがわかった。この変異体は生後1年(マウスでは中年にあたる)程度までは正常なものと変わらないのだが、その後は急激な衰えを示したのである。

癌にならないマウスでは体重や筋肉量が低下し、背骨の湾曲、骨粗鬆症の進行が見られ、皮膚は薄くなって傷も治りにくかった。変異体マウスの平均寿命は96週と、正常なマウスの118 週に比べるとほぼ20%短かった。


怪我の功名と言うか、面白いですね。でも、凡人なら失敗作のマウスに注意を払う事もしなかっただろうから、この点で、やはり、発見されるべくして発見されたと言えるのかも。
 
 
 
ところで、細胞が紫外線照射などによって受けた損傷が、老化の原因となることは広く知られている。今回のp53の結果について、ニューヨーク州にあるコールド・スプリング・ハーバー研究所で細胞生物学を研究しているScott Loweは「老化を引き起こしたのは損傷ではないようで、損傷に対する細胞の応答の仕方の方だという可能性がある」と述べている。

そして、『この結果は目立って刺激的なもので、いろいろなことについて従来の考え方を変えるものだと』と述べているそうだ。
 
 
 
では、どうして、癌に対しての防御が強化されると、老化が早くなってしまうのだろう??

この発見者のDonehowerは、こう考えているそうだ。
『癌に対する防御作用が強化されると、幹細胞にまで影響が及ぶために寿命が短くなる。』と。

成体では皮膚や筋肉、骨の補充は幹細胞に依存して行われる。正常な状態ではp53 はこういう幹細胞には影響を及ぼすことはなく、悪性化して分裂に歯止めが利かなくなった細胞の働きを止めることだけを行っている。

しかし、変異体ではp53分子が過剰に働きすぎて、体を維持していくための細胞まで押さえ込んでしまう。速やかに分裂を行う細胞を含んでいない組織では同じような老化の兆しは見られなかった。変異体マウスでは白内障は起こらなかったし、脳が異常な変性を示すこともなかった。
 
 
 
ということは、若年期を癌にかかることなく過ごすと、その代償として年取ってから体が脆弱になるということなのだろうか??

その答えは、、、これからの研究に期待しましょう。
 
 
p.s.全くの余談なのだが、奇しくも日経メディカル1月号が“老化”の特集なのだ。こちらでは、老化現象を解明するカギとして、加齢に伴うホルモン分泌不全に焦点を当てている。

2002年03月16日

“hygiene hypothsis 説”

“hygiene hypothsis 説”・・・聞いた事が無い言葉だと思いますが、最近よく耳にするようになったプロバイオティクスと合わせて注目されている言葉です。

いま、私が取り組んでいる“粘膜免疫”とも非常に関連が深いです。

気が向いたら、Lecture に総説を掲載するつもりです。


ちょっとだけ、解説・・・
プロバイオティクス:抗生物質( anti-biotics )に対比される用語で生物間の共生関係を意味するprobiosisに由来する。一般には、Fuller が唱えた“宿主の腸内フローラの制御を通して、宿主に有益な影響をもたらす生菌”のことを言う。

臨床応用としては、潰瘍性大腸炎の緩解維持の為、非病原性大腸菌をプロバイオティクスとして投与したところ、5-amino-salicylic-acid に匹敵する効果が得られている。などなど。


“hygiene hypothsis 説”:アレルギー疾患が増加している原因の一つとして、『乳幼児期に種々の感染症に暴露される機会が激減した為』というもの。
小児期のツベルクリン反応陽性は、その後の・・・・・
小児期の麻疹罹患は、その後のアトピー性・・・・・
Hopkinらの行った疫学調査により・・・・・生まれてから2歳までの間に抗生物質の投与があると・・・・・


気になりますか??うふふ。

あとは、Lecture に載るのを待っていて下さい。

2002年04月22日

TLR

しかし、TLRが発見されてから、Th1/Th2バランス制御の周辺も、ちょっとすっきりとしてきたよなぁ!
DCがナイーブT細胞に抗原提示する時、何故、IL-4なのか?何故、IL-12なのか?ってのが、TLRからの情報入力で、ある程度、説明がつくようになってきたもんねぇ

もやもやしてた空の雲が切れて、光が射し込んできた感じ!!

2002年08月23日

生命現象を分子の目で見る為に

 ポストゲノムシーケンス時代の一研究動向として、細胞内に発現しているタンパク質を全体として把握しようとするプロテオーム解析やDNAチップを用いた遺伝子発現解析が盛んに行われている。

しかし、細胞内で機能する分子はタンパク質だけではない。タンパク質をコードしないRNA、すなわち「非翻訳RNA分子」もまた様々な生命現象のキーファクターとして働く。tRNAやrRNA、U snRNA、snoRNA(まめ知識参照してね)など遺伝子発現の最も基本的な場面で働く低分子RNAは言うに及ばず、性染色体の不活化あるいは活性化に関与するRNA(哺乳動物Xist RNA、ショウジョウバエroX RNA)やテロメラーゼに含まれるテロメアRNA、ショウジョウバエの生殖細胞の発生に関与するミトコンドリアlrRNA、線虫の発生のタイミングを調節するlin-4やlet-7に代表されるたった20塩基程度の低分子RNA(stRNA)など多種多様な非翻訳RNA種が存在する。

また最近ではRNA interference (RNAi)や post transcriptional gene silencing (PTGS)といった現象の分子メカニズムが明らかになりつつあり、二本鎖RNAとやはり20塩基程度の短いRNA(siRNA、先のstRNAと併せてmiRNAと総称される)を介した新たな遺伝子発現抑制機構の存在が示された。(Lectuer を参照してね)

これらの現象は線虫やショウジョウバエ、植物、アカパンカビなどに見られ、トランスポゾンの不活性化(まめ知識参照してね)やウィルスに対する防御、外来遺伝子の発現抑制などに関与する。それぞれの生物種における関連因子の同定からその機構は進化的に保存されたものであることが示唆されている。

今や生命現象を分子レベルで把握するためにはDNAやタンパク質とともに非翻訳RNA分子種についても理解を深めることが必要である。

2002年08月30日

脳にはビックリさせられるぜ!!

大麻による不快な記憶の消去で、ビックリしたかと思えば、今度は記憶そのものの、ビックリする話・・・・。

老化による物忘れが、実は、酵素を使って、積極的に忘れていたとは・・・・。
私ら、若い時期の記憶も、積極的に忘れてんのかなぁ!
記憶を分解する酵素・・・、これ、この酵素を阻害できれば、1回覚えれば忘れないってことなのか??

うーーん、サスガに人体最後の砦だ!脳は!!これからもビックリするような話が、バンバン飛び出してくるんだろうな。

2002年09月19日

薬としてのRNA !リボザイムじゃないよ。(うっかり送信電子メールの回収?)

トピックスで紹介した『新しい抗凝固薬』(Nature 2002年9月5日 Vol. 419)なんだけど、“抗凝固薬”として優れているから取り上げたんじゃなくて、物質としての特性が、治療薬として合目的なので、紹介したわけなのだ。

最近、RNA の周辺がにぎやかになっている。アプタマーってのは、蛋白質に結合する事が可能な“短い RNA”のことで、抗体のように特定の分子と結合出来る。
この特性を応用して、血液凝固カスケードで重要な働きをしている蛋白質に結合して、その働きを阻害してしまうってのが、今回の薬の話。

でも、それだけじゃ、別に驚く事でもないし、『新規の化合物が出来たんだ』くらいにしか思わないんだけど、驚くのは、その後の話なのよ!!


RNA が薬物になっているとすると・・・・・・、そうです、勘の良い(このホームページで良く勉強している人)はおわかりですね!!

RNA なんだから、相補的な RNA で“ハイブリダイズ”出来ます。ということは、解毒剤が簡単に、、、っゆーより、治療薬が出来た時点で、同時に解毒剤も出来るって事なのです。(まぁ、そんなに簡単ってワケじゃなさそうなんだけど、理屈としては簡単だ!)

手術中に用いられるヘパリンと手術後に用いられるヘパリンの解毒剤からは、有害な結果が生じることが多いし、もう1つの一般的な抗血液凝固薬であるワーファリンは、投与量の調節がえらく難しく、しかも、解毒剤はない。というわけで、画期的な事なんだよ。
 
 
 
で、さらに話しは飛躍する。だったら、他の薬もコレ(アプタマー)で出来れば、副作用が出た時にすぐに解毒剤を注入できるジャンって。

この開発者チームの一人である Sullenger 氏もこう言っているらしい。
麻酔、化学療法、そして子供や高齢者の治療では、患者毎に投与量の異なる薬剤が用いられるが、これがアプタマーと解毒剤の組み合わせで作り出せるかもしれない。このような組み合わせができれば、投与した薬物によって悪影響が現れた場合や誤診があった場合に投与した薬剤の効果を打ち消せるようになるかもしれない。『それは、うっかり送信してしまった電子メールを(相手に届く前に)回収できるようなものだ。』ってね。

2002年10月18日

汗臭い話 (汗の中の抗生物質)

人のかく“汗”に抗生物質が含まれているという話は、以前、トピックスでも紹介した([452] 汗に含まれる抗生物質---体の洗いすぎは逆効果になるかも)が、やはりというか、当然なのだけど、この分泌能にも個人差があるという話しが、N Engl J Med 10 October 2002 Volume 347, Number 15 に載っている。

この論文は、アトピー性皮膚炎患者の二次感染?(病態形成の原因?)である皮膚感染と内因性の抗菌性ペプチドの分泌量との関係を考察していて、『これらペプチドの濃度がアトピー性皮膚炎患者の皮膚ではより低いことを見出した』としている。だから、黄色ブドウ球菌感染が起こりやすいのだと。
(興味のある人は、・・・・自分で探すか、購入して見てね)

腸内細菌が人によって様々なのと同じように、皮膚常在菌も人によりバラエティに富んでいる。その理由の一つが、これなのかもしれないね。

ならば、こう考えても良いのだろうか?(みんなの意見を聞きたいよ!!)
粘膜免疫システムを思い出して欲しい。抗原に対する免疫応答に個人差がある理由の一つに腸内フローラの多様性が挙げる事が出来る。つまり、食物アレルギーが“出る、出ない”は、その人の腸内フローラのバリエーションによっているところがあるというアレだ。(かなり、端折っているが、まぁ、気にしないでね)
GALT の成熟には細菌が欠かせず、腸管粘膜から吸収される蛋白・アミノ酸は全身性(胸腺)の免疫応答をアネルギーするというアレだよ。
とするならば、皮膚常在菌がバラエティに富んでいるという事は、皮膚から侵入する抗原に対する免疫応答にも、個人差があるのだろうか?

また、プロバイオティクスの考え方の延長で行くと、正常な皮膚常在菌の形成が、正常な皮膚を作る事になるから、除菌・抗菌などとやたらと細菌を排除するのは、皮膚において正常な免疫応答を形成できない!?って考えて良いのだろうか??(だとすると、清潔にし過ぎる事が、感染防御を損なうだけじゃなく、アトピーの原因の一つとも考えられるのだが。。。。)

“栄養を吸収しなきゃならない”と“異種蛋白から身を守る”という、相反する機能を要求される腸管粘膜と皮膚とを同一のシステムと考えるのには、無理があると思うが、気管支などのように栄養吸収するワケじゃない所にも MALT など存在する事を考えると、まんざら、的外れな考えでもないのかも・・・って思っている。

もっとも、アトピー性皮膚炎の抗原侵入門戸が皮膚とも限らないしなぁ!うーーむ、やっぱり、アトピーは考慮しなきゃならんファクターが多すぎるよ!


この間テレビで、『民間アトピー療法に頼って、金をボラれて、症状が悪化・・・・』なんてのをやってて、『民間療法に騙されないで、病院に行こう』っていう趣旨だったけど、病院に行ったからって治るわけじゃないところが、悲しいところでもあるよね。医師・・・というより研究者だって原因がわからないんだからしょうがない。だから、藁をも縋る気持ちで、マユツバ療法に手を出しちゃうんだろうね。

でも、民間療法と病院での治療の決定的な違いは、病院のそれはエビデンスに基づいているってこと。個人の経験に基づく民間療法とは一線を画している。

薬剤師のみなさん、スキンケア程度のアドバイスならOKだけど、民間療法まで含めてのアドバイスは慎重に行なおう。

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2002年11月01日

ゲノム創薬

最近、分子標的治療薬と呼ばれている薬剤が良く目に付くようになってきた。CMLのグリベックや、最近、副作用で新聞を賑わしているイレッサなど、疾患の原因や症状の原因分子を標的にしているため、このように呼ばれている。今後ますます、このタイプの薬剤は増えていくものと思われるし、テーラーメイド医療(個人に合わせた医療)が主体になっていくと思われるので、その作用機序を理解する為にも、この分野の勉強は怠れない。

ところで、“ゲノム創薬”という言葉も良く耳にする事と思う。分子標的治療薬を開発する為の手段なのだが、この言葉が、その本質が理解されないまま広く使われているようである。この辺のところもキチっと押えておかないと、メーカーの学術の方とも話しが出来なくなるから、心してかからねばならない。

で、そのゲノム創薬だが、ゲノム的な解析手法を駆使して薬剤開発の対象となりうる標的分子を見つけ、これを手がかりに薬剤を開発する、すなわち、“エビデンスに基づく薬剤開発”の考えが基本となっている。従って、多くの方が誤解しているような、ゲノム配列や cDNA 配列から蛋白情報を獲得して蛋白の構造解析をすれば、簡単に薬剤の開発が出来るような簡単なものじゃない。細胞外に分泌される蛋白やレセプターを網羅的に収集して、機能解析しても、あまり意味が無い。病気の発症の特定や症状に関係するのかどうかという点を見極める事が薬剤開発につなげる事が出来るかどうかの決め手なのだ。

この薬剤開発の為の標的分子(シーズ)となるのは、疾患や症状の原因分子に他ならないのであるが、これらの分子を見つける為には cDNA マイクロアレーやチップを利用した体系的な発現情報解析と SNP などを大量・高速に解析していく体系的遺伝子多型解析を組み合わせたアプローチが重要である。

すなわち、病気との関連を見つけ出すという根本的なステップがなければゲノム創薬は実現しないのである。


今後、開発されてくる薬剤の作用機序の理解は、ますます、難しいものになっていくと思われる。薬の専門家である薬剤師の皆さん、取り残されない様に頑張りましょうね。

ところで、、、、また、いつもの独り言なのだが・・・・
これらの事を理解する為には分子生物学や遺伝子工学などの基本が欠かせないのだが、生物学すら履修していない薬剤師もいるのだから、分子生物学の知識など推して知るべしであり、受験・教育システムにも問題があるといえる。また、国家試験に出題される問題さえ解けるようにすれば良いという風潮なのかもしれないが、基本的な学力、理解力の欠除している新米薬剤師のなんと、多い事か。もっとも、ベテラン薬剤師の学生時代は有機化学一辺倒なのだから、状況はもっと寒いものなのだが。。。。

2002年11月15日

『病は気から』のウソ

またまた、というか、いつもの事なんだろうけど、BMJ・・・・。すごい視点の論文が掲載された。“「癌と闘う姿勢が予後を左右」説に確たる根拠なし”だってさ。

“病気に対する前向きな気持ち”や“笑うことは免疫力を・・・”などの事って、どうなっちゃうんだろう。 vitro では確かに NK 活性に上昇が見られるのは事実だが、vivo では問屋が卸さないって事なのだろうか。

学問としての免疫学は理論が非常に明快だし、これで実際の現象も説明できると、机上の知識だけの私など、ついつい思ってしまうのだが、臨床は一筋縄では行かないんだね。

今回は、単純に『へぇ~』っいう感じと、今までの自分の知識で計れないデータが出てきて『焦るぜ』って感じかなっ!

2002年11月19日

スタチン系薬剤の作用機序

トピックスで、【スタチンで多発性硬化症をストップ】【スタチンがリンパ性悪性疾患を増加か、日本の症例対照研究が示唆】 と立て続けに2本紹介した。以前から、スタチン系の細胞周期に及ぼす影響は紹介しているのだが、スタチン系の作用機序を考えれば、当然のように理解出来る現象なのだが、しかし、いくら作用機序を知っていても、これらの現象を予測することは出来ない。人体の複雑さを思い知らされる。

今回紹介した2本も、全く関係ない様に見えるが、実は、作用機序に基づく現象として理解出来る。結局、スタチン系を細胞増殖抑制薬として認識していれば簡単なことなのだ。

【スタチンがリンパ性悪性疾患を増加か、日本の症例対照研究が示唆】の中で、『冠動脈疾患患者など、スタチン系薬を必要とする患者がいることは確かだが、安易な増量や、骨折やアルツハイマー病などの予防効果を期待した安易な適応拡大には警戒を要する』と東京大学大学院循環器内科の岩田洋氏も述べているように、本来は、“要注意”の薬剤で、言葉を替えれば“抗がん剤”とも言えるのだ。

大切なことなのだが、日常業務をしている時には、ついつい忘れてしまいがちになる。自戒の意味を込めて、作用を記しておく。


基本の経路
●HMG-CoA→メバロン酸→ファルネシルピロリン酸→・・・コレステロール

1)HMG-CoA 還元酵素を阻害することにより、コレステロールが低下
   (これは、保険適応の効能だ。)

2)HMG-CoA 還元酵素を阻害することにより、ファルネシルピロリン酸低下
Ras は、ファルネシル基転移酵素の作用を受けて、ファルネシルピロリン酸よりファルネシル基を付加される。このファルネシル基は、Rasを細胞膜の内側に留めておく為のアンカーの役割をしていて、細胞膜の内側に位置していないと、SOS(Rasアクチベーター)によってGDP結合型からGTP結合型に変換されず、従って、それ以降に続くRafの活性化→MAPキナーゼの活性化が起こらないため、細胞増殖が起こらないといういうわけだ。

Ras の経路
●EGF(上皮増殖因子)を例に取って説明してみる。
EGFがEGF受容体に結合すると受容体細胞内領域のキナーゼが活性化し、これまた同じ受容体細胞内領域のチロシン残基がリン酸化される。

リン酸化チロシン残基に、SH2ドメインを持つ物質(Ash/Grb2)が結合する。

Ash/Grb2はアダプター蛋白と呼ばれていて、SH2で受け取った情報を次に伝える事しかしないのだが、このAsh/Grb2の次に結合する蛋白の1つに、Sosがある。

Sosは、Rasアクチベーターと呼ばれていて、GDP結合型(不活性型)RasをGTP結合型(活性型)Rasに変換する働きがある。
↓(★スタチン系は↑に作用して細胞増殖を抑制するってワケだ)
Sosによって活性化されたRasは、c-Raf-1を活性化する。(複雑な活性化機構なのだが、それは、省略。)

活性化したRaf(c-Raf-1)は、MAPキナーゼ系の活性化につながる。

実は、Raf自体がMAPキナーゼキナーゼキナーゼとして、機能するのだ。
(MAPキナーゼキナーゼキをリン酸化して活性化する酵素ってわけだ。)

リン酸化されたMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)は、MAPキナーゼをリン酸化し、このMAPキナーゼが、標的分子であるmycなどの転写因子のリン酸化を介して、転写活性を調節しているのだ。(ちなみにMAPキナーゼは、mitogen activated protein kinase の名が示すように、細胞分裂を促進するセリン/スレオニンキナーゼとして発見されている。)

そして、mycなどにより、S期に必要な初期遺伝子が転写され、細胞はM期(分裂)に向けてスターを切る事になる。
(myc自体の産生の調節はCDK、p53、Rbなどのキーワードでおなじみの制御系が担っている。)


3)上記経路のメバロン酸以降の代謝物の減少により、G1→S の移行が停止する。
G1→S へは、cdk2 の活性化が必要。
cdk2 の活性化には cyclin E が必要。
cdk2 の抑制には p27(Kip1)とp21(ご存知p53によって転写・翻訳される蛋白。別名 waf1,sdi1,cip1。)が関与。

cdk2 は、Rb をリン酸化。→ Rb は E2F を遊離。→ E2F は核に移行してS期移行に必須の myc 遺伝子を転写促進。(myc の活性調節は Ras-Raf-MAPキナーゼ系に委ねられる)

G1→S の移行停止には、p27の減少の抑制が関与。
※メバロン酸以降の代謝物の減少により、p27 がタイミング良く減少してくれないので、cdk2 と 複合体を作ったままで、cyclin E にリン酸化されても、E2F を遊離しないのである。(ただし、メバロン酸以降のどの代謝物の減少が p27 の減少を抑制するのかは、わかっていない)

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2002年11月25日

究極のがん免疫?

NEJM 21 November 2002 Volume 347, Number 21 にヒトパピローマウイルス 16 型に対するワクチンが有効であったと報告が掲載されている。(トピックスで紹介しているから、気になる人は目を通してね!)

ご存知のように、HPV はヒト子宮頚癌の原因ウイルスだ。子宮頸ガンを引き起こす HPV は20種以上の系統があるが、このワクチンは、全子宮頸がんの約半数の原因となっている「HPV-16」という系統に対応するワクチンである。(メルクの研究所で作られたようだ)

“がんのワクチン療法”というと、がんそのものを排除する為に免疫系を賦活するタイプの療法を思い浮かべてしまうが、今回、報告されたのは、原因ウイルスの感染を予防するという、究極のがん予防法なのだ。


これだけを聞くと、『なぁーんだ、そんな事か』と思いがちだが、これは、なにげに凄いのである。
いろいろな“がんウイルス”が発見されてから、かなりの年月が経つが、いわゆる“麻疹のワクチン”のように1度の接種で感染予防できるワクチンの開発は成功していない。(一生、予防効果があるのかどうかは、まだ、わかんないけどね!)
しかし、どうして、今まで不可能だったワクチンが、今回、可能になったのだろう。どのようにして記憶T細胞、記憶B細胞を誘導できたのだろう?NEJM の報告は臨床成績だけなので、この辺の仕組みが知りたいところである。


今後、ウイルス感染が原因のがんは、ワクチン接種で発病予防が当たり前の時代になるんだろうか?
もし、ウイルスの持続感染が、生体に何かしらの益をもたらしている可能性があるとするなら、それが、他の病気の発症を抑制しているとしたら?究極のがん免疫は、究極の選択を迫られることになるのかな?

2002年12月26日

Cancer Update

Nature Cancer Update ニュースレターで届けられた中から、簡潔にまとめられたトピックスを紹介しよう。

Cancer Update だから、ガンの診断・治療に関係するものだよ!今年最後の Web Master impressions だから、このての総括っぽいのがいいね。Office Oh!NO で勉強している方には特に問題なく理解できる内容となっている。

本年は、娘が誕生し、父親となる人生最大のイベントを経験した。当然なのだが生活のリズムが大きく変わった。自宅にて Lecture の原稿書きが全く進まない。ここを楽しみにして下さる方々には、もう暫く我慢して頂く事になる。


しかし、新生児の脳の発達っていうのは、驚くばかりだ。日に日に変化しているのがわかる。『教育は1歳までが勝負』と言われているのが理解できる。
利根川 進、久保田 競、澤口 俊之らの書いた脳科学関連の書籍は結構読んでいるので、脳の発達や知性・知能の獲得の方法など、浅くだが理解しているつもりだ。そんなわけで茉莉の成長を見ながら『ふーーむ、今、茉莉の脳ではこんな事が起きてるんだな』などと、一人で唸りながら納得している。


話がそれてしまったが、以下の4つを紹介する。

★治療法 阻害作用をもつ合成低分子RNA:効率よく発癌性変異を不活性化し、p53経路を回復させる道具 Martinez, L. A. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 14849-14854(2002)

RNA干渉法という技術がさかんに利用されるようになり、狙った遺伝子だけを破壊する遺伝子機能ノックアウトを創り出してさまざまな研究が進められている。ところで、この技術を医療現場に移し、癌患者の治療に使えるのだろうか。Martinezらは、干渉作用をもち、野生型p53と点変異を起こしたp53を区別することができる短いRNAを作製した。これらの干渉性RNAを利用して、野生型と変異型の両方のp53タンパク質を発現する腫瘍細胞中の変異型p53タンパク質を選択的に検出することができ、一人一人の患者にぴったり合うテーラーメード治療の基礎がつくられるだろう。


★診断法
前立腺癌を検出する血清プロテオーム解析パターン
Petricoin, E. F. et al. J. Natl. Cancer Inst. 94, 1576-1578 (2002)

現在、前立腺特異的抗原の発現量が増加している男性が前立腺癌かどうかを確認するには、診断検査のために患者から生体組織を採取しなければならない。Petricoinらは、前立腺癌患者と、良性腫瘍患者または病気ではない人を区別できる生命情報科学アルゴリズムを開発した。血清のプロテオーム解析パターンから、前立腺癌患者の95%と良性腫瘍患者の78%が正確に予測された。


★免疫療法
二重の特異性をもつT細胞は増殖性と抗腫瘍活性を兼ね備えている
Kershaw, M. H., Westwood, J. A., & Hwu, P. Nature Biotech. 20, 1221-1227 (2002)

抗腫瘍免疫にはT細胞の活性化が必要だが、腫瘍抗原は一般に免疫原性に乏しい。生体内で腫瘍反応性T細胞を拡張するため、Kershawらは二重の特異性をもつT細胞を作出した。このT細胞は、免疫原に応答することができるだけでなく、卵巣癌に関係がある葉酸結合タンパク質(FBP)という抗原を識別することもできる。二重特異性をもつマウスT細胞は、試験管内で同種抗原とFBP発現性腫瘍細胞の両方に応答し、生体内で同種細胞による免疫感作に応答して拡張した。二重特異性をもつヒトT細胞も作出された。


★治療法
ツーハイブリッド法で同定されたRas/Raf-1相互作用の阻害物質はヒト癌細胞のRas依存性形質転換表現型を復帰させる
Kato-Stankiewicz, J. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 14398-14403(2002)

RASおよびRAFタンパク質を通して作用する情報伝達カスケードは、かなりの数の腫瘍 で活性化されているので、RASとRAFの相互作用の阻害は治療戦略になる可能性がある。この相互作用を阻害する数種の低分子量化合物が、2種の融合タンパク質(two-hybrid)間の相互作用を検出するツーハイブリッド法を用いて同定された。これらの化合物は、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ経路の活性化を阻止し、種々の種類の細胞において形態への影響、浸潤性、足場非依存性増殖など、RAS遺伝子によって形質転換された表現型のいくつかを復帰させた。

2003年01月21日

ALLHAT 発表で・・・

『悪性腫瘍は遺伝子の病気であり、変異により複数の遺伝子が活性化されたり、ガン抑制遺伝子が不活性化されたりして起こる。』

現在、この発癌パラダイムに異論を挟む余地が無いことは、誰でも知っている。
1980年代、Kunderson による網膜芽細胞腫における 2hit 理論で予見された遺伝子のクローニングは、がん抑制遺伝子の Rb の存在を決定付けた。

その当時、Kunderson の 2hit 理論はあまりにも単純すぎて、すんなりとコンセンサスが得られたわけではなかったそうだ。しかし、その単純さが、がん抑制遺伝子の発見へとつながるのである。

残念ながら、このような考え方が出来る日本人研究者は皆無だそうだ。
例えば、
『~~大規模試験による~~ないとの結論を提示したが、そのことに異論はない。しかし、有用性が同じなら~~どうかは別問題である。たとえば、~~ことをどう考えたらいいだろうか。』
などのコメントや枝葉末葉の反論を寄せる日本の有名大学教授のなんと多いことか。

綺麗な言葉でいえば、現象を単純化・抽象化するのが苦手なことによるらしが、裏を読むのが好きな、私にしてみれば、枝葉末葉のような自分の研究が否定されてしまう事に危機感を覚え、自分の精神的面も含めて、自分を慰めてるようにしか見えないのである。

保身に走るようになってしまったエライ教授様たちは、さっさと若手研究者に道を譲るべきである。エライ教授様達のおかげで、日本が世界に通用する研究結果を出せないでいることを、誰か、彼らに教えてあげてくれ。


関係ない話が長くなってしまったが、昨年末発表された ALLHAT(The Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial) の内容は、凄い。誰も異論を挟む余地が無いだろう。あとの枝葉末葉は、患者個々のケースで対応すればよい。そう、SNP を考慮してテーラーメイドの薬物治療だ。
(東大中村教授もイレッサの使用できる人を選別するために立ち上がった。素人でもわかりやすい、SNP , DNAマイクロアレー の臨床への応用だね。)


トピックスと JAMA を見てない人の為に、ぶっちゃけ、簡単に紹介しておく。

●かつてないスケール 42,418例の高血圧患者を対象に複数の降圧薬の有用性を比較した、高血圧大規模臨床試験である。
●過去の降圧薬による大規模試験は、効果をプラセボと比較していて、2種類以上の降圧薬の効果を直接比較した成績は、皆無である。
●65歳以上の被験者が全体の約57%を占めている。
●血圧を135/75mmHg(5年後の平均値)にまで下げた。(これは凄い)
●多種多様な人種をサンプリング。

以上の条件で、Ca拮抗薬アムロジピンとACE阻害薬リシノプリルの効果が利尿薬クロルタリドンと比較したのである。結果は、、、、
★冠疾患死、非致死性心筋梗塞の頻度は有意差なし。
★二次評価項目(冠動脈疾患、冠動脈血行再建術、狭心症、脳卒中、心不全、末梢血管障害など)の比較結果で、アムロジピン群で心不全がクロルタリドン群より多かったが、他のイベントに関して有意差は無し。
★従来の短時間作用型Ca拮抗薬で懸念された、心筋梗塞の発症を増加させるというFurberg氏らの警告は完全に否定された。
★リシノプリル群ではクロルタリドン群に比べ、脳卒中、狭心症、心不全が有意に高頻度であった。(ACE-I は心不全治療に使っているのに、効果が利尿剤に劣る。)


◎素人の私がまとめてみると、『どんな降圧剤でもいいから、血圧をばっちり下げる事に全力を傾ける。あとは個々のケースでちょこちょこと味付けをすればよい』っなことになりますか。

そしたら、医療費抑制のためにも、安い薬のほうが良いですよね。枝葉末葉にいちゃもんつけて、高い薬を薦めるエライ教授様達は、メーカーから金でも貰ってるのかしらね?

2003年02月14日

お江戸でござる

昨日、NHK テレビの“お江戸でござる”を何気なく見ていたら、風間杜夫ふんする“武士”が『口は悪いが、頭はカラッポ』なんて言って、観客の笑いを誘うシーンがあった。
ほんとは、『口は悪いが、腹には何も無い』と言うところなのだ。

このギャグで笑えるなんて、つくづく、自分は日本人なんだなぁ、なんて、しみじみしてしまった。日本人にとって『腹』って、食べ物を単純に消化するだけじゃなくって、“気持ち”とか“心”なんかを現している。日本語には、この『腹』に関係する言葉が、結構、多い。(アメリカ人に『腹がカラッポ』って言葉があるから、『頭がカラッポ』が生きてくるなんて言っても、解ってもらえまい。)

日本人は昔から『頭でも考えるけど、腹でも考える』って捉えていたんだ。昔の人はスゴイね!

で、冒頭では笑ってるんだけど、良く考えてみると(ギャグを深く考えちゃいけないんだけど)、何で、笑えるんだろう??良くわからなくなる。

何が良くわかんないんだかも、よくわかんない。すっきりと言葉に出来ないのだ。


うーーん、うーーん。気持ち悪いなぁ。なんて考えてるうちに、腸神経の事が頭に浮かんできちゃった。そう、『腸』、単純に解ったつもりでいると、大変な事になるぞっと。
腸が『おいおい、そんなに、簡単に考えないでくれよ。みくびってもらっちゃ困るぜ』って言ってるようだ。

そうなのだ!その昔、西洋医学が日本にやってきて、『腸は消化吸収をする臓器』って教えられたもんだから、西洋コンプレックスのある日本人たちは、自分たちが『腸は考える』って知ってたのに、その事実が『間違ってる』って思ってしまったんだね。

でも、言葉だけは残るから、よくわかんないうちに、両方を理解してしまって、時と場合によって、無意識に頭を切り替えていたわけだ。
 
 
 
最近になり、『腸』の凄さは、再確認?されてきている。それも、西洋医学のガイジンたちから。

西洋の人たちは、自分たちの間違いに気づいたとき、それをあっさり認めて、事実を受け入れる“腹の太さ”を持っている。
権威のある大学教授が『これこれこうだ!!』って言ってたら、たとえ、新発見により、それが間違いであるとわかっても、間違いと認める事も憚られる日本とは大違いだ。
北里柴三郎がドイツに留学中、『脚気の原因は病原菌ではない』との論文を発表した為に、帰国後、日本で受け入れてもらえなかったのは、有名な話だ。“脚気病原菌説”は東大での北里の恩師の学説だったからだ。日本では天下の東大に逆らう人はいなかったんだね。

日本人は、腹でも考えると知ってたのに、腹の太さ(寛容さ)は持ち合わせていないようだ。それから、うやむやにするのは上手、『私の言ってきた事は、新事実をなんら否定するものではない』なんて、話をまとめるのも上手だよなぁ!


腸管主体の粘膜免疫は、胸腺主体の全身免疫系と両輪と考えられるまでになったし、腸の神経系の研究も進んできている。

腸の働きに関する神経は、自律神経系である交感神経と副交感神経のほかに、腸壁に内蔵された腸管神経(壁内神経)系から構成されている。しかも、腸神経系は末梢神経系に属するくせに、他の末梢神経系と違って、脳-脊髄神経系の支配下に無く、独立して機能し、脳からの司令を受ける事が無い。自分で考えて、ホメオスタシスの維持を遂行しているんだね。

このことが、最近、腸を second brain と呼ぶ所以でもあるわけだ。

腹にも中枢神経系と連絡する自律神経は存在するが、その線維数は腸神経細胞数と比べると、圧倒的に少ない。前者が神経節で2000と言われているが、後者は1000万を超すと言われている。それゆえ、M.D.Gershon は、この中枢神経の支配を受けない腸神経が圧倒的に多い状況を『脳の声は、腸では確かに聞こえるが、腸のどこでも聞こえるわけではない』と、うまいことを言っている。
 
 
 
さて、この“非を認めない”、“うやむや上手、ごまかし・すり替え上手”の日本人が、今日の構造的な不況を招いていると考えるのは、私だけではあるまい。
とにかく、一度、決まった事は、むなかなか、変えられない。リストラ本来の言葉の意味を正しく理解している日本人は、少ないのでは??(まっ、この辺のトンデモ英語の話は、いずれ書きたいと思っている。)

この間の、スペースシャトル事故に関しても、アメリカでは、原因を徹底的に調べ上げ、責任の所在をはっきりさせ、調査結果は公にして、二度と過ちを起こさないように、最大限の努力をする。ところがもし、日本だったら、責任や原因は、もし、わかったとしても、公にする事はなく、なんとなく、皆が忘れるように、関係当局だけで穏便に済ますところなのだろう。おそろしい。
また、アメリカでは、性的犯罪を犯した人などが、出所後に生活を始める地区では、必ず、住民にその犯罪者のプロフィールが事前に公表されるという事だ。日本では、犯罪者の人権を考えて・・・・・、あぁ、やってられない。罰も軽いし、ある意味、日本では、犯罪者のパラダイスなのかもね。
 
 
 
 
おっとっと!!今回は“お江戸でござる”から取り止めも無く、かなり飛躍してしまったようだ。この辺で終いにしよう。

2003年02月26日

ノスカールの副作用、ゲノム解析で『容疑者』割り出し

どこかで、見たタイトルかな?って思った人もいるかと思うが、そう、日経バイオビジネスである。私も、インターネットでタイトルだけ見て、凄く読みたくなったんだけど、なにしろ年間購読するしかないので、ある人にお世話になり、読んでみた。

それによると、ノスカールで肝障害を起こした人は、起こさない人と何かしら遺伝子が違うのでは?との予測のもと、いろいろ調べてみたわけだ。でも、遺伝子サンプリングに問題があったのか、いまいち、すっきりとしない結果に終わってる。


どんな遺伝子をどんな理由で候補にあげたかと言うと、、、、
薬物代謝に関わる遺伝子13種類。
肝臓細胞のアポトーシスが起こっているのではないかとの仮定からアポトーシス関連遺伝子9種類。
活性酸素による細胞障害を疑って、活性酸素消去系に関わる遺伝子9種類。
インスリン抵抗性改善作用そのものが、肝臓組織を障害している可能性を検討する為に、インスリンに関わるシグナル伝達系、さらにトログリタゾンの標的である PPARγ2 のシグナル伝達系にかかわる合計20種類。

全部で51種類の遺伝子を調べた結果、肝臓傷害群と非傷害群とで有意な違いが認められたのは、、、、。


と、内容をここに書いてしまうのは、なんだか、マズイ?(著作権)かもしれないので、書かない事にするが、紙面でも研究チームのリーダーも言っている。なんだか割り切れない結果だと。


ヒトゲノムのドラフトシーケンスに続き、詳細なシーケンスまで手に入れてしまった私たちは、すっかり生命現象を理解したつもりでいるけど、じつは、とんでもない勘違いをしているのかもしれないって、気が遠くなってしまった。

単純に転写されて蛋白質に翻訳されれば機能する遺伝子もあるんだろうけど、同時に発現する遺伝子産物とのクロストークっていうか、相互作用もやっぱりあるんだろうなって。
で、そういうのが、プロモーターやエンハンサーに働きかける事もあるだろうし、スプライシングに影響する事もあるだろうし、翻訳される量にも影響があるんだろうなって。

Nature February 20, 2003 号に載ってたレプチン受容体みたいに、目的に応じて細胞内情報伝達系の経路を使い分けてる、この使い分けを制御しているのって、一体、誰?ってかんじもあるし。いや、もしかしたら、すべての受容体って、主経路以外にも情報を流していて、その時々の環境に応じて、同時に発現する遺伝子産物が主経路以外を調節しているって考えたほうが、生体の冗長性にはあってるのかも。

ほんと、翻訳される蛋白質の量まで考慮しなきゃならないなんて、そんなのって無限に組み合わせ、あるじゃん。でも、無限の組み合わせでシビア反応してたんじゃ身がもたないから、どれか遺伝子の発現が鈍くても、或いはつぶれても作用を補完し合うってゆーか、一つの遺伝子の変化が、すぐさま、表現形には結びつかないような、柔軟なシステムになってるんだろうなって。

コンクリートは硬いけど、脆い、壊れちゃう。ゴムまりなら、どこか突っつかれても一部凹んで、また元に戻ることで衝撃は吸収できる。限界を超えれば別だけど。生体ってこんなイメージかも知れない。

遺伝子の発現をDNAチップでキッチリと調べるのは、凄い意味がある事なんだけど、10や20の比較的シンプルな遺伝子の機構が解明できても、すべを一般化するわけにはいかないということかもね。

まだまだ、先は長そうである。

2003年03月07日

花粉症ワクチン??

今朝の日テレ、ズーム・イン朝で、『花粉症のワクチンが出来た!』ってやってた。よく見ると、ペプチド減感作療法の事だ。朝食を取りながら毎朝、見ているのだが、毎度の事、マスコミの医療・医学関係の報道のイイカゲンさには辟易する。

そもそも、ワクチンという言葉を使う事自体、どうかと思うが、まぁ、それは、今回は見逃してやるとするが。。。。。

きっと、あの慈恵医大(だったかな)の先生のコメントもテレビ局の都合の良いところを切り抜かれたものだろう。『まったく、安全です!!』ってね。

確かに今までの“減感作療法”とは全然違うから、それと比べりゃ安全だけど、異物を直接体内にぶち込むんだから、それなりのリスクはあって当然!!!
(ここを見てる人は、何故安全なのか、わかると思うけど、わからない人は、まめ知識 記事No:199『花粉の抗原と抗原エピトープ』を見てね)

しかも、素人の局アナが、夢の新薬で、体質改善とまで言い切っている。あきれて物も言えない。
夢の新薬はいいとしても、体質改善は、まずいだろう!!“体質改善”はサプリメントや如何わしい健康食品にのみ、許される表現だ。正真正銘の治療法では許される表現ではない。


でも、T細胞アネルギーの制御機構って100%解明できたわけじゃないから、理論はバリバリ最先端の免疫学の知識を駆使してるわけだけど、結果が付いてこない可能性が高い。
その意味では、医療従事者も『体質改善』って言葉に頼らなきゃならないかもしれない。治療が巧く行かなかったときのエクスギューズとして。
 
 
 
なにはともあれ、マスコミの無責任な報道で、花粉症は治る病気だと思っている人の、なんと、多い事か!!プンプン!

でも、日テレ・・・GO!GO!ゴジラをやってるから、許してやるけど、今度やったら、ただじゃおかないからな!

2003年04月05日

重症急性呼吸器症候群(SARS)

Nature News Serviceの最新のライフサイエンス関連ニュースを提供しているオンラインマガジン BioNews より、連日、マスコミを賑わしている、あの“重症急性呼吸器症候群(SARS)”の記事を紹介しよう。

今回の騒動も、マスコミにとっては格好のネタだったらしく、事の重大さを“航空業界打撃”とか“マスクの生産追いつかず”などと同等に扱っていて、相変わらずの“マヌケ振り”を発揮している。

ここをご覧になっている賢い諸兄は、マスコミのいい加減な情報に振り回されること無く、事の本質を見抜いて下され。


(以下、Nature BioNews より)

■謎の肺炎の病原体に迫る---流行は予測できなかったか

広範囲に流行している謎の肺炎の病原ウイルスの正体の方は世界中の研究所が追求中だが、それに伴って、こういう流行を予期して専門家はもっと準備しておくことができたのではないかとの批判が出てきている。


この重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染者は、今までのところ世界中で264人に及び、9人が死亡している。病気の症状はインフルエンザに似ており、高熱と呼吸困難が特徴である。先週、世界保健機構(WHO )が異例の警告を行ってから、この病気に対する恐れが高まり始めた。


香港、ドイツ、およびシンガポールの研究所は、病原が新種のパラミクソウイルスである可能性を示す特徴を持つことを見出した。つまり、呼吸器疾患やはしか、おたふくかぜを引き起こすウイルスの仲間らしいというのである。ウイルスの遺伝物質の塩基配列や電子顕微鏡で観察された形態的特徴は、ともにパラミクソウイルスのものに一致していた。


免疫学の研究者たちは、パラミクソウイルスが今回の肺炎の原因であると断定するのは時期尚早である点を強調している。このウイルスは偶然一緒に感染したものかもしれないからだ。確かな証拠を得るには、病原を調べている研究所が協力して、患者全員について証拠のウイルスRNA が検出され、血液中にウイルスに特異的な抗体が含まれていることを明らかにしなくてはならない。


もし専門家が疑っているようにパラミクソウイルスが犯人だとしたら、この病原体に効く薬剤はごくわずかしかないしワクチンは存在しないと、ユニフォームド・サービス大学(メリーランド州ベセズダ)で、パラミクソウイルスについての研究をしているChristopher Broderは語っている。試す価値がありそうなのはリバビリンという薬1つだけで、これは子供の呼吸器合胞体ウイルス感染症を引き起こすパラミクソウイルスに対して使われている。
 
 
 
警告はできなかったのか


新種のパラミクソウイルスで死者の出た例は過去に二度あるが、どちらも動物からヒトに伝染したものだ。1994年にはオーストラリアで、厩舎で働いていた二人が、馬が感染するヘンドラウイルスの感染症により死亡した。1998 年には、マレーシアで、養豚農家の105人が近縁のニパウイルスに感染して死亡した。このどちらの場合も、馬やブタが最初に、オオコウモリのウイルスに感染したのである。


こういう先例があることから、一部の専門家の間では、最近の流行がなぜ予知できなかったのか、その理由が問われている。ジョンズ・ホプキンス大学(米国ボルティモア)で感染症の蔓延について研究を行っているDonald Burkeは、「組織がまとまって態勢が整っていたら、こういう流行を予見できたろう」と述べている。


Burkeは、新種のパラミクソウイルスをもっと迅速に同定する診断テストを開発し、動物の間に広まっていてヒトに感染しそうなウイルスについて調べておくだけの時間は十分にあったと論じている。彼は、「ヒト以外の生物種に感染するパラミクソウイルスの系統的な調査に取りかかる準備が全然されていない」とこぼしている。


こうした懸念は、偶然にも今週発行された米国医学研究所の報告書中でも繰り返されている。報告書の著者たち(Burkeもその一人である)は、新種の病原体への対処が世界的に不十分なままであると警告している。報告書は、危険をもたらす可能性がある細菌やウイルスの調査と対応策を促進するために予算を増やすべきだと要求している。


しかし、一部の専門家はもっと楽天的である。コロンビア大学(ニューヨーク市)で感染症の研究をしているStephen Morseは、今回の流行に対する対応は、比較的迅速でしかも効果的であったと考えている。もっとも最近の流行は2 月に起こったのだが、香港保健省は流行が始まってすぐに、最初に感染したうちの7人が九竜の同じホテルに宿泊したことをつきとめた。


そして、流行の拡大は、感染の疑いのある患者を隔離することで部分的にくい止められているように見える。今までのところ、感染者は、患者の近くに居た家族や、病院関係者が主である。それにしても、セント・ジュード小児病院(テネシー州メンフィス)でインフルエンザの研究をしているRobert Websterは、これが「極めて恐ろしい」状況であると認めている。

2003年06月10日

SARSの治療薬?

先日、ファイザーにお願いしてあった、AG7088 の資料が届いた。
例の SARS 治療に使えるかも知れないという薬の詳細だ。

以前、トピックスで紹介したライノウイルスをやっつける“風邪薬”について、私は、掲示板『井戸端会議』でこんなコメントをしている。

【トピックス記事No:486『新型のかぜ薬を開発--原因ウイルスに直接効く』で見たけど、しかし、スゴイね!プレコナリル。(米での商品名ピコビール)
風邪、7日で完全治癒するところが、なんと、6日間で済むんですって!!
うーーむ、対費用効果を考えると、アメリカ人が服用するとは考えられないな!
そういえば、インフルエンザのリレンザも、4日間の高熱が3日間に短縮されるって宣伝してたっけ。
これも、ナンダカナア!?の薬だよね。いや、作用機序は立派なもんで、よくわかるけど、臨床効果がコレじゃ、説得力無いよね。】


これって、『なんだかなぁ!』どころじゃなくって、凄い事だよ。

こんな意味の無い(失礼)薬の開発でも、時と場合によって、おお化けする良い例だね。


ファイザーには AG7088 のターゲットであるプロテイナーゼがコロナウイルスの生活環の中で果たす役割に付いて聞いたのでした。(自分で調べても良かったんだけど、時間が無かったので手っ取り早く聞いてしまったのだ。)

『社内資料なので、くれぐれも・・・・・』とのことなので、ここで紹介する訳にもいかないんだけど、まぁ、理屈くらいなら書いても良いだろう。


簡単に言うと、、、、
・ライノウイルス、コロナウイルスは共に、1本鎖のRNAウイルスだ。(positive-stranded RNA viruse)
・細胞に侵入したウイルスは宿主の翻訳機構を利用して、1本の蛋白質を合成する。
・この蛋白質は、ウイルスがコードする酵素(proteinase)によって、段階的に切断される。
・これらの分解産物(非構造蛋白)がウイルスの複製と転写に関与する。
・この1本の蛋白質を段階的に切断する酵素が、ライノウイルスとコロナウイルスで似ている。
・そのため、AG7088 はライノウイルスのみならず、コロナウイルスにも効果がある。

ということだ。

まぁ、世界一の大きな企業であるファイザー社は、自社の利益だけではなく、人類の利益を考えて医薬品開発に取り組むということだろう。


まぁ、何にしても、うかつに『くだらん』なんて言うのは、控える事にしよう。

2003年06月19日

また、甘草の抗ウイルス作用かよ!

『甘草の主成分、グリチルリチンに、SARSウイルスの増殖抑制効果があることがわかった。培養細胞を使った試験管内実験で、SARSの治療に使われている抗ウイルス薬のリバビリンなどよりも、SARSウイルスの増殖を効果的に抑制した。』という研究結果が、Lancet誌6月14日号に掲載された。

これをみて、タイトルの『またかよ!』と同時に思い出した事がある。18年前の『グリチルリチンがHIVの増殖を抑制』という記事だ。何処で見たのかは思い出せないが、薬剤師になりたての私は、妙に興奮したのを覚えている。

漢方の原料である“甘草”にそんな凄い作用があるなんて、『漢方なんて効かないよ』と漢方の知識も無いくせに知ったかぶりして漢方を馬鹿にしていた私には、目から鱗が落ちる経験だった。

グリチルリチン・・・名前は生薬の試験で何度も暗記していたから、グリチルリチンについて何でも知っているつもりになってしまってたのだ。

そして、この事がきっかけで、“自分の無知”を思い知らされた。
急に自信が無くなり、自分の周りの薬剤師達は、こんなことは当たり前に知っているんだろうなと思えてきた。(後になって勘違いだとわかったのだか・・・・)

こんなことでは、この世界(薬剤師)で自分は取り残されてしまうのではとの焦燥感から、なんでもかんでも貪欲に勉強をはじめた。とくに、自分にとって難しかった“免疫学”はがむしゃらに勉強した。(その勉強は今でも続いているが。)


一方、グリチルリチンがその後どうなったかは、皆さんよくご存知の通り。
とても、臨床使用に耐えうるものでは無かった。
 
 
 
18年前と今では、情報量は雲泥の差がある。私の駆け出しの頃の少ない情報量が、私にとっては、良い面に作用したのだろう。少ないがゆえに、情報に飢えて、貪欲に勉強したい欲求が強くなったのだと思う。

現在は、情報の洪水の中での“情報”の取捨選択は、自分ではうまく出来ていると思っている。これも、『グリチルリチンがHIVの増殖を抑制』というひとつのエピソードのおかげなのかもしれない。

『グリチルリチンがHIVの増殖を抑制』の情報そのものは、その後意味をなさなくなってしまったのだが、私にとっての意味は非常に大きいのである。

2003年06月20日

薬としてのRNA !その2『B型肝炎ウイルスを抑制』

トピックスを読んでる方は気づかれたと思うが、最近、ほんとに、RNA の周辺がにぎやかになってきている。これもひとえに、RNAi のおかげ?
(今、RNAi がわかんない人は、かなり、焦ってください。知らないとマズイよ!Lecture で勉強してね!)

トピックス記事No:1135『RNAiへの期待は過熱気味---RNAだって目立ちたい、のかもしれないが』でも紹介したけど、まだまだ、解決すべき問題があるということも、踏まえておかねばならないでしょう。

メンバー登録してない方の為に、一部をここに紹介する。
『・・・・・問題の1つは、RNAがこわれやすいことだ。RNAはDNAの100万倍も壊れやすい。溶液中では、RNAは数分以内に分解してしまうので、ヒトの体内で治療効果を発揮させられるだけ長く、RNA 分子を安定化させる方法を見つけなくてはならない。

他にも難問はある。その1つは、治療に際して、特定の病気毎にそれぞれどんな組み合わせの塩基が最適となるかを探らなくてはいけないということである。薬剤開発企業であるアイビス・セラピューティクス社(カリフォルニア州カールスバード)のRichard Griffeyは、「RNAが標的以外のものを絶対攻撃しないようにする必要がある」と語っている。

もっと難しいのは、RNAが体内の目標の臓器に入り込み、さらにその臓器中にある目標の細胞へ、さらにその中の小器官へとまちがいなくたどり着かなくてはいけないという問題だ。「RNAi にかけられている期待を裏切らないようにするには、この輸送の問題が鍵となるだろう」とJoyceは述べている。』


今回取り上げる『B型肝炎ウイルスを抑制』もその一つだと思う。標的以外のモノを攻撃しないようにしなきゃならない。
HBVのシーケンスは解明されているから、あとは、ヒトDNAシーケンスの問題なのだけど、ヒトゲノムプロジェクトが完了したのは、あくまでドラフト・・・おおざっぱにって事だから、もしかしたら、ヒト DNA の中に、この治療RNAと反応しちゃう配列がないとも言いきれない。

でも、あれか!“うっかり電子メールの回収”が出来るから、そんなに考えすぎなくてもいいのか!

まぁ、それにしても、よく発見したよね!RNAi。遺伝子の機能を調べる実験でもメチャクチャ貢献してるしね。これからも RNA の治療薬はバンバン出てくるだろうな!

2003年06月30日

これのどこが“分子標的薬”だよ?

FDAが多発性骨髄腫の治療薬として、2003.5.13日にbortezomib(商品名:Velcade)を承認した。(開発時はPS341と呼ばれていた)

この薬、一般には(多分、大多数の薬剤師にも)、分子標的薬として認識されているみたいだ。
しかし、患者さんが分子標的薬と認識するのはかまわないが、薬剤師が、この薬剤を“分子標的薬”と考えるのは、『えっ、ちょっと待ってよ!』って感じだよね!私に言わせれば、これのどこが“分子標的薬だよ?”ってことになる。


『転写因子や細胞周期制御蛋白質は言うに及ばず、恒常性を維持する為に作られた蛋白質は、特異的分解経路によって、“負”にも制御されている。』

今でさえ、この重要性を、まだ、よくわかっていない人がいるのだが、実は、このことは、つい最近になってわかってきた事だから、無理も無いかもしれない。

この機能蛋白質を負に調節する分解経路がユビキチン-プロテアソームシステムである。
その分解の際には、基質蛋白質がユビキチン化され、それが指標となってプロテアソームによる分解が起こる。
(このプロテアソームを阻害するのが bortezomib だよ。生命現象の根幹を揺るがすようなこの薬物がのどこが“分子標的薬”なのか?)


ところで、ユビキチン-プロテアソームシステムは、免疫系の鍵をも握っているのだが、これを知っている人は少ない。
APCからT細胞に抗原提示が行われるところで、機能するのだが、この事実を知った後は、これに異常を来すと全く免疫系が働かないという事がよくわかると思う。(bortezomib の副作用を考える上で必要な知識だ)


JSI(日本免疫学会)の Newsletter で、この辺の事情を良く知る人(当事者)の手記が公開されていた。ついでだから、ちょっと古いけど、面白いので、ここに紹介する。(1998年に書かれた文章である。)

“疑似免疫学者”の独白 田中 啓二 Keiji Tanaka ●東京都臨床医学総合研究所

 私にとって“免疫の世界”との邂逅は偶然の所産である。しかし、この「出会い」は、その後の私の研究に計り得ない影響を与えた(事実、この一文を書く動機にもなっている)。その“事件”に私は、現在から7年前に遡る1991年の暮れに唐突に遭遇した。
それは、私が欧米の著名な免疫学者(彼らが大物であることは、後に知ることになったが)から多くの手紙を受け取ったことに始まる。

 それまでの私はタンパク分解機構の研究をしており、生命科学研究の興隆期にあった当時、華やかなテーマで世の中を席巻していた領域とは大きくかけ離れた地味な世界に埋没していた。今日、プロテアーゼの研究は、細胞周期やアポトーシスの世界で脚光を浴びているが、これらはごく最近の出来事であり、それまでの時代は、「プロテアーゼは不必要なものを処理する」ための酵素であり、生命科学研究の核心に迫る研究テーマであるとは誰しも想定していなかったのである。これは、タンパク質分解の世界に長い間身を置いてきた当事者としての正直な感想である。 

 さて、私が受け取った手紙は、おしなべて曰く「貴君の酵素プロテアソームは、免疫にとって革命的に重要かも知れぬ。…ところで、遺伝子と抗体を分与願いたい」と。 

 青天の霹靂とは、正しくこのような言辞をさすのであろう。“プロテアソームと免疫!”、私の脳裏には、かつて去来することのなかった言葉である。 科学者は善くも悪くも自意識過剰な人種である。私も、人並みに自意識過剰な研究者として、擦れ合う友にあまねく悪癖を振りまいてきたと感慨する。しかし、意識を超えた事象には、知ったかぶりをすることも科学者の一つの見識である(称して、無知とも言う)。私は、この青天の霹靂を素直に歓ぶことにした。“疑似免疫学者”の誕生である。 

 その後の経過は、プロテアソームが内在性抗原のプロセシング酵素であることの概念を確立した。私の研究は、プロテアソームが生化学史上他に類を見ない巨大で複雑なスーパープロテアーゼであることを、生化学的および分子生物学的に明らかにしてきたことに尽きる。それは、米国の親しい友人に「貴君の研究は分子クローニングは巧いが、頭は要らないね」と言われて私を立腹させた研究史でもある。しかし、私にも誇るべき一分がある。なにしろ私は「免疫プロテアソーム」と言う言葉を造成した張本人なのである。これには、詭弁による自己陶酔だと非難する向きもある。しかし、この用語は巧いと絶賛してくれる免疫学者も多い。この造語は、免疫の世界に些か貢献したとの私の自負の現れでもある。“疑似免疫学者”の面目躍如である。 

 ともあれ、プロテアソームは MHC リガンドを生成する酵素となった。この発見は、免疫学史において“事件”と形容しても満更、誤ちとも言えぬであろうと思っている。と言うのは、MHC リガンドの生成は、分子のレベルで「自己」と「非自己」を識別する鍵であるからである。将来、この概念を変容せざる事態に至れば、私は科学者として「自決」を計るより術がない状況に追い込まれている。何しろ、国内外を問わず、免疫に関わる多数の雑誌に「総説」を限りなく上梓してきたからである。このような背景から、最近、私は免疫学者に比喩されることが多い。しかし、“免疫学者”の衣は私にとって不釣り合いな意匠なのである。この意匠を自ら剥ぎ取り、私における免疫の意味を再検証する時期かも知れないと考えている。これらの感想を敷衍して、私は本文を“疑似免疫学者の独白”とした。

 “疑似免疫学”の世界に彷徨いこんだ私にとって何よりも貴重であったことは、世界のトップランナーとして活躍されている多くの真の免疫学者と直接に会い見える機会が、数え切れない位に得られたことであった。科学的にも、また人間的にも触発される機会を限りなく得たことは、私の貴重な体験であり、また私の夢を助長させる匂いを醸し出した。この意味では、免疫の素人に目を掛けて頂いた多くの先生方に真摯に感謝したい。 

 とは言っても、今でも不釣り合いな世界に身を置いていることの気まずさを屡々感じざるを得ないことがある。それは、本当の意味で免疫学者としての確信がもてないからであり、“疑似免疫学者”と自称する所以でもある。従って、にわか仕込みの免疫学者を装っている私は、化けの皮を剥がされる前にこの世界から撤退すべきであるのかも知れないが、今暫くはこの見識を捨て甘い誘惑に満ちている免疫の世界の妖しい香りを楽しむことにする。

2003年08月23日

新説!SSRIの作用機序 --- トリビアの泉

いゃー、久しぶりに、『へぇー』x10って感じ!!(トリビアの泉みたい。でも、これは、無駄な知識ぢゃ無いね)

『多くの抗うつ薬は、数日で脳内の化学物質濃度を上げるのに、効き目が出るまでには、なぜ数週間もかかるのだろうか?』

うんうん!今まで、なんかスッキリしない説明に、無理矢理、納得させられてしまってたけど、これは、、、、
(*≧∇≦)bグッ! だよ。


詳しくは、トピックスを見てもらうとして、一般的に言うと、新説がコンセンサスを得られるまでには、色々と批判的な意見も多い。この説に対しても、『この薬には、別の脳内での作用があり、それがうつを抑えるのかもしれない』という可能性が指摘されている。さらに、『マウスの不安をテストすることにより、人間のうつを模擬することはむずかしい。』とも。

この反論も、ごもっともである。脳の新皮質と古皮質の違いはあるにせよ、ねずみちゃんたちは、ヒトとは“脳の使い方”が違うみたいだし。。。。“[60]ネズミの神経学”参照。
そもそも、ねずみに“鬱”なんかあるのかぁ?って疑問もあるし。


まぁ、実際に、ヒトで海馬において新しい神経細胞の誕生が引き起こされる事が証明できれば、この説は完璧?になるんだろうね。久しぶりに、豪快な“説”にワクワクしてしまったのでした。

2003年09月27日

I型インターフェロン(IFN-αとIFN-β)の抗がん作用の機序解明?

 インターフェロンって、生物活性が多彩なため、作用機序といわれても、いまいちピンと来なかったのではないだろうか?そういう私も、なんとなく解った気でいたのだが、抗がん作用に関して、スカッと、p53 に繋げてくれた論文がホームページ(Nature Cancer Update)上で発表されたので簡単に紹介したい。

 トピックスに入れようと思ったんだけど、『フーン』ではなく『おおっ!』だったので、やっぱり、こっちです。

 p53はアポトーシスの前段階に作用するタンパク質で、DNA損傷に応答した腫瘍細胞がプログラム細胞死を起こすのに必要である。一方、I型インターフェロン(IFN-αとIFN-β)は、抗ウイルス免疫応答に関与することが知られている。IFN-α/βはヒトの特定の種類の癌の治療に使われ、好成績が得られているにもかかわらず、p53とIFN-α/βの関連はわかっていない。マウス胚繊維芽細胞(MEF)と肝癌細胞系HepG2細胞をIFN-α/βで処理すると、IFN-α/βの投与量に依存してp53タンパク質の産生量が増加することがわかった。

 IFN処理はp53タンパク質の半減期には影響しなかった。また、p53タンパク質の分解もIFN処理によって増加しない。IFN-βはMEFによるTrp53mRNA発現を誘導したので、Trp53遺伝子の転写が増加すると考えられる。マウスとヒトのTP53遺伝子には、プロモーター領域または最初のイントロンにインターフェロン応答配列(IFN-stimulated response element、ISREと略す)が存在することが明らかにされている。ISREは、IFN調節因子9(IRF9)を含有するISGF3という転写因子複合体によって活性化されることが知られている。


 Irf9-/-MEFではIFN-βに応答したp53タンパク質の誘導は観察されなかった。IFN-βで細胞を刺激してもp53タンパク質のセリンのリン酸化とその後の活性化は誘導されず、p53の標的遺伝子群の誘導にはまったく影響が見られなかった。

 この結果から、I型IFNはp53を活性化しないが、p53タンパク質の産生量を増加させることによりp53を活性化するストレス刺激に対する細胞の感受性を増大させるのではないか、と論文著者のTakaokaらは提唱している。続いてTakaokaらは、IFN情報伝達経路とp53経路が相互に作用し合って腫瘍とウイルスの両方に対する防御機構に影響を及ぼすことを示した。ヒトパピローマウイルス(HPV)タンパク質E6はp53の分解を誘導する。

 また、HRASなどのもう1つの腫瘍タンパク質と共同作用して初代MEFの悪性形質転換を誘導することができる。ところが、この系にIFN-βを加えると、p53タンパク質の量が元の状態に回復し、悪性形質転換されるコロニーの数が大幅に減少した。これと同様に、IFN-βは、アデノウイルスE1A腫瘍タンパク質を発現するMEFのX線照射に応答したp53依存性アポトーシスを増加させた。抗ウイルス応答に関しては、種々のウイルスに感染させたMEFおよびHepG2細胞ではp53タンパク質のリン酸化の顕著な増加が見られた。p53タンパク質が媒介するウイルス感染細胞のアポトーシスは、IFN-α/β受容体1(IFNAR1)の欠損したMEFではかなり抑制されていたが、p53タンパク質のリン酸化は依然として起こっていた。

 この結果から、IFNを介した情報伝達はp53の活性化ではなく誘導によるp53応答の増強に必要だとする説が支持される。水疱性口内炎ウイルスに感染したp53欠損MEFは野生型MEFよりもウイルス産生量が高かったので、(IFN-α/β情報伝達により促進される)p53依存性アポトーシスはウイルス複製の制御に重要だと考えられる。

 Takaokaらの研究から得られた結果は、癌の治療に重大な影響を及ぼしかねない。この結果によれば、IFNで処理した細胞はDNA損傷作用を有する5‐フルオロウラシル(5-FU)などの化学療法剤に対する感受性が上昇しているはずであり、投与する化学療法剤の量を減らせるからである。この予想は当たっていた。単独で最小限の効果を与える量の5-FUを投与した場合にHepG2細胞が死ぬ比率が、IFN-βの併用によって増加することが示されたのである。

2003年09月30日

プロバイオティクス probiotics

プロバイオティクスの研究も、かなり進んできているなぁと実感する今日この頃である。乳児期の腸内フローラだけでなく、母体への投与も、新生児のアレルギー疾患を抑制する為に有効だと報告があった。

“hygiene hypothsis 説”、、、より確かなエビデンスを得て、コンセンサス得られる日も近いのではないだろうか。私個人としては、“hygiene hypothsis 説”を知ってから、生まれてから2歳までの間は“抗生物質を服用させない”を実践している。

姪や甥にも実践したし、今、娘の茉莉にも実践している。3~4回くらい風邪を引いたけど、抗生物質はおろか薬は一切飲ませていない。おかげ(かどうかはわからないが)で、みんな、アトピー性疾患とは無縁である。


腸内細菌と粘膜免疫系のクロストークに関する研究は、これからますます重要性が増してくるだろう。週刊《医学のあゆみ》の特集号『粘膜免疫の分子機構とその破綻』を再び読み返しているところである。(Lecture の“Oral Tolerance(経口免疫寛容)”続編として掲載を考えてます。)


■興味があれば、以下もお読みください。

周産期のプロバイオティック投与 --- 出生時の幼児期アトピー性皮膚炎を低減

 トゥルク大学中央病院小児科のMarko Kalliomaki博士らは、妊婦および新生児にプロバイオティック(Lactobacillus rhamnosus GG、ラクトバシラス)投与により、4 歳時におけるアトピー性皮膚炎発症率が約40%低くなったとLancet(361: 1869-1871)に発表した。ラクトバシラスは乳幼児に対しても安全である。


効果の根拠は「衛生仮説」

 ラクトバシラスは、喘息または鼻炎に対する予防効果は示さなかったが、筆頭著者のKalliomaki博士らによると、アレルギー性鼻炎児および喘息に罹患した幼児の数は群間で差がなかったものの、呼気中の一酸化窒素濃度はラクトバシラス群よりもプラセボ群のほうで有意に高く、プラセボ群には呼吸器アレルギー疾患の診断が見落とされている例、あるいは無症状例がより多い可能性が示された。

 この結果について、同博士は「通常、呼吸器アレルギー疾患はより年長になってから発現するので、これに対する影響を最終的に評価するのはまだ不可能である」と述べている。

 同博士らは質問票と臨床検査によりアトピー性疾患を診断し、乳酸菌群では53例中14例がアトピー性皮膚炎を発症し、これに対しプラセボ群は54例中25例が発症したことを明らかにした。また「皮膚プリック試験に対する反応性は、乳酸菌群の50例中10例、プラセボ群の50例中 9 例が陽性で、両群で同等であった」と述べている。

 同博士らの研究は、衛生仮説という理論に基づいて行われた。同博士は「衛生仮説によると、未感作の免疫系が健全に成熟するためには、乳児期における腸内定着微生物叢の組成が特に重要と考えられる。この観点からプロバイオティックは、健康な乳児の腸に特有の有益な生菌の培養菌により、微生物叢を刺激する」と述べている。


乳酸菌株がリスク軽減

 Kalliomaki博士は「衛生仮説の免疫学的基礎は、ヘルパーT(Th)1型とTh2型の免疫反応のバランス調節の逆転を意味している」と述べている。また「ビフィズス菌叢の組成はヒト免疫系が非アトピー状態へと成熟するのに重要である。のちに抗原特異的免疫グロブリン(Ig)E抗体を生じる乳児では、そうでない乳児と比較して、出生直後の便中クロストリジウムが多く、ビフィズス菌が少ない。Lactobacillus rhamnosus GGなど特殊な乳酸菌株は、抗炎症性のインターロイキン(IL)-10やトランスフォーミング成長因子(TGF)βを産生し、この機序によりアトピー性皮膚炎のリスクが軽減されるものと示唆される。なぜなら、抗原特異的IgEの濃度は少なくとも 4 歳までには低下していなかったからである」と述べている。

 今回の研究は、Lancet(2001; 357: 1076-1079)に報告された二重盲検ランダム化プラセボ対照試験における 2 年間の結果に引き続き、4 年のフォローアップを行ったものである。この報告で同博士らは、ラクトバシラスの摂取がどのように 2 歳児のアトピー性皮膚炎発症率をプラセボに対し半減させたかを示した。

 これによると親、子または配偶者が 1 人でもアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息に罹患している妊婦に対し、ラクトバシラスを投与し、出産後は新生児に生後 6 か月まで投与した。1 歳児132例中46例(35%)がアトピー性皮膚炎と診断されたが、プラセボ群の68例中31例(46%)に対しラクトバシラス群では64例中15例(23%)と半数であり、対照的に、喘息は 6 例、アレルギー性鼻炎は 1 例であった。


投与時期が重要
  1 歳時のアトピー性皮膚炎を半減させたという成績に対するLancet(2001; 357: 1057-1059)の論評で、王立自由大学(ロンドン)小児消化器センターのSimon H. Murch博士は「注目すべき数値であり、追試により確認され、他のアレルギー性疾患へも適用できれば、ラクトバシラスは重要な治療の進歩を意味することになるだろう」とコメントしている。

 同博士は、ラクトバシラスの投与時期が重要だと推測している。「成長後にラクトバシラスを投与した場合に通常認められる成績よりも大幅に改善された」と同博士は指摘し、「免疫療法の成功の秘訣は、タイミングなのかもしれない」と付け加えた。そのタイミングとは、出産前 2 週間の妊婦への投与と、その後新生児に生後 6 か月まで投与することである。

 同博士は「この処方は、乳児と母体の菌叢の一致度を高めるようだ」と説明。また「特筆すべき点は、もとは無菌状態の腸に最初の菌が定着すると、糖衣(glycocalyx)の特異的、永続的糖類化の誘導や腸細胞の遺伝子発現調節により恒久的なニッシェが確立され、そのため後から来た菌は競合的な不利を被るということである。そのため、帝王切開出生児と経腟分娩出生児とでは腸内菌叢が永久に異なり、2 歳のアトピー児と非アトピー児の間の明確な違いも持続する」と述べている。

 ラクトバシラスがアトピー性疾患の発症を抑える正確な機序は推測の域を出ないものの、同博士は「糞便中菌叢から胎盤免疫系への特異的インプットが、粘膜における免疫寛容の確立と維持に不可欠であるとするエビデンスが急速に増加している」と述べている。

 同博士はさらに「すべてのラクトバシラスが同じ効果を示すわけではなく、乳児皮膚炎のすべての例が同じ病因で生じるわけではない」と付け加えている。


大腸癌への効果も期待される

 バルセロナ自治大学(スペイン・バルセロナ)のFrancisco Guarner博士とJuan-R Malagelada博士は、健康と疾患における腸内細菌叢(プロバイオティック、プレバイオティックを含む)の役割を幅広く扱った総説をLancet(361: 512-519)に発表したが、このなかで「プロバイオティックは、ヒトの腫瘍イニシエーターとして働く遺伝毒性化合物を産生することが知られている酵素の糞便中活性を抑えることが示されている」と指摘している。しかしこの総説によると、プロバイオティックやプレバイオティックは種々の動物モデルにおける大腸癌を防止することが示されているものの、ヒトの大腸癌リスクを低下させるかどうかは確立されていない。

2003年10月04日

自然免疫系のお勉強への薦め

数年前に TLR が発見されて以来、がぜん、自然免疫が注目されている。

どうして、こんなに注目を浴びているかと言えば、今まで、確認されていた現象でうまく説明できなかった事、APC から TCR へのシグナル入力によって免疫応答に差があった事が、PAMP の TLR へのシグナル入力の加味して考慮すると、無理なく説明できるのである。

う~~~~~~~~ん、すばらしい!!!!グレイト!!ワンダフォ~~~~~~!
久しぶりに、目から鱗が落ちました。

どうしてがんは、免疫応答で排除されないのか?
どうしてアジュバントを加えると、免疫応答を増強できるのか?
どうして、自己免疫疾患は、感染症が引き金になる事があるのか?

人間はつくづく環境(ウイルス、細菌、その他)と共存しているのか思い知らされる。


以前 2002-04-22 に、『TLR の発見で Th1/Th2 免疫偏向の理由(仕組み)の謎が融け始めた』って喜んでいるが、この1年で、まさに、超特急の勢いで、研究が進んでいる。

来年には、もっと凄い事になっているかもね!今から、楽しみである。

2003年10月31日

話を聞かない男、地図が読めない女

うひゃ~~~~~。またもや、今までの常識を覆すような発見が・・・・・。

何かといえば、“脳の性分化”だ。いままで、アンドロゲンシャワーによって性分化が起こると考えられていた説が、妊娠中期という早い段階で、遺伝子によって決定されているという研究結果が、Nature に報告されたのである。

アンドロゲンシャワーによって決定されるという証拠の為に、オカマの発生率と戦争(戦争の恐怖による妊婦のホルモンバランスの変化)の影響まで調べている研究者までいるんだよね。

『話を聞かない男、地図が読めない女』の著者は、メゲずに、これを利用してまた一儲けを企むのだろうか?

う~む、それにしても、やっぱり、遺伝子なのか。。。。

でも、遺伝子の発現は、環境によって左右されるから、環境とのクロストークを把握できなきゃ、また、“人騒がせなキワモノ”論文になりかねないよね。

2003年11月01日

過敏症・アトピー・アレルギー

アレルギー性疾患の話をする時に、いつも思う事は、この領域の言葉の定義の“あいまいさ”である。“アトピー”を例にとって見ると、本来の“花粉症や喘息などの発症し易い家族性の体質”という意味以外に、アトピー性喘息のように“IgE 依存性アレルギー”のこととして使用されるケースが多い。

ヨーロッパアレルギー学会ではこのような混乱を避ける為に、アレルギー疾患に関する用語の改定を提言しているそうだ。

それによると、、、

過敏症:正常被験者には耐えられる一定量の刺激への暴露により、客観的に再現可能な潮紅を引き起こす疾患の事。

アレルギー:免疫学的機序によって開始される過敏性反応

アトピー:低用量のアレルゲンに反応して IgE 抗体を産生し、喘息、鼻粘膜炎、湿疹などの典型的な症状を発症し易い個人的または家族性の体質。


従って、アトピー性喘息ではなく、“(IgE依存性)アレルギー性喘息”と統一し、アトピーという用語は皮膚炎を除き、家族性の体質を現す場合以外使用しないのが望ましいと言う事になる。。

過敏症とアレルギーを厳密に区別す目点も重要だ!

そうする事で、化学物質過敏症は免疫反応が介在しない事、アレルギーではない事が明確になる。これって、良くいるよね!化学物質過敏症をアレルギーとごっちゃにしている人(医療人)。

食物アレルギーにおいて使用されてきた“仮性アレルギー”という用語は、“非アレルギー性食物過敏症”に統一されるのである。


やっぱり、言葉の定義は大切だね。特に、免疫学は範囲が膨大で難しいので、特にハッキリとしておく事が重要な分野だね。でも、肝心の免疫学の内容を理解していない人には、いくら言葉を定義しても、意味が無いのは言うまでもないけど。

2003年12月22日

キノホルム復活劇

今年最後の WebMaster's impressions は、やっぱりこれ。最後の最後に『へぇ~~~~~~~』ってなっちゃったよ!まだ、今年は終わってないけど、もう、『へぇ~~~~~~~』はないだろう。論文雑誌も正月休だろうからね。


で、その『へぇ~~~~~~~』は、『キノホルムがアルツハイマー病に有効、第2相試験結果が発表』だ。だいたい、キノホムなんて作用機序も知らなかったし、スモンの発症機序も知らなかったから、尚更『ヘェ~、ほぉ~』となったワケだ。


アルツハイマー病に関しては、γ-セクレターゼとその構成蛋白のプレセニリン、切り出されたAβを分解するネプリライシン、重合したAβによるタウ蛋白のリン酸化などが、病態や治療薬の理解に欠かせない“キーワード”となっている。

・・・が、これに、年末最後に“キノホルム”が加わったのだ。


うっひょ~~!!
昔、散々、悪者のレッテルを貼られた“薬物”の復活劇が続いてるのだ。キノホルムはサリドマイドに続く、第二弾だね。

薬剤師にとっては、職業の存続を計る“試金石”になるのかな?
 
 
 
しかし、最近、つくづく思う事だけど、人間(日本人?)って、大人に成れば成る程、問題の本質を突く事を止め、どうでも良い周辺の事象を問題化して、解決の解決を先送りする傾向が強くなると感じる。

いろいろと理由はあるんだろうけど、見ていて非常に歯がゆい。

イラクへの自衛隊派遣の問題。
北朝鮮の問題
少年法の問題。
凶悪犯罪の精神鑑定。

それぞれ、根本は簡単なのに、わざわざ、複雑にしているように見える。
要するに、不毛な議論を繰り返す事で、給料を得ている人たちは、問題が解決しない方が良い?
また、マスコミは、この手の問題ではますます頓珍漢な議論を展開して、常識の無い日本人を洗脳していく。(あなたたちは一体どこに向かっているの?と問いたい。マスコミに)


しかし、薬剤師として一番、興味深く見ているのが、医薬品販売規制緩和に関するドタバタである。

薬剤師会は『国民の安全』なとという大義名分を掲げているが、すでに、消費者(お客さん)には見抜かれている。

大体、薬剤師の手を介せば、医薬品の副作用が無くなるなんてことはありえない。
真実を伝えない職業に未来はない!!早く、気づいてよ!薬剤師会さん!


では、真実とは何か!簡単な事である。

副作用の発現を確実に予測するには、副作用の出た人の DNA 情報をデータベース化して、尚且つ、その個人の DNA 情報と照らし合わせて可能になるものだ。決して販売時点で薬剤師と話をしても未然に防げるものではない。

また、日々、刻々と変わるその個人の遺伝子発現状態と、特に薬疹などは未知のウイルス(遺伝子)感染による影響も考慮に入れなければ、予測を 100% に近づける事は無理だ。


副作用には2種類あって、予測できる副作用と、予測できない副作用がある。
勉強を重ねて知識が豊富な薬剤師なら、“予測できる副作用”を未然に防ぐ事は可能だろう。
この意味でなら、(勉強している)薬剤師による、医薬品販売は意味があるけど、一体、日本の薬剤師で“勉強している”って言える薬剤師が何人いるのか?

馬鹿な薬剤師は、“予測できる副作用”すら防げないから、コンビニエンスストアで高校生のアルバイトに“マニュアル”渡して販売してもほとんど変わり無い。

“予測不可能な副作用”に関しては、勉強してようが、してなかろうが、結果は同じ。


結局、薬剤師が販売時点で確実に言える事は、例えば『この薬は、最悪の場合、失明の可能性もある薬です。確かに症状は楽になるけど、病気そのものを治す訳ではありません。だから、服用する、しないは、御自身の判断にお任せするしかありません』と。


薬剤師会が、どうして、この“本当の事”を言わずに、『国民の安全の為に、薬は薬剤師に』と言い切れるのか、私には非常に不思議だ。本気で言っているとすれば“かなり高慢”か“無知”のどちらかだろう。


でも、どうも、私が見るところ、SNPs が薬の効き方に影響する理由が理解できない、副作用の出方に影響する理由が理解できない、そもそも、SNPs の発音も意味すら知らない“お偉いさん”が跳梁跋扈するところだから、実態は“後者”のような気がする。


カッコ付けて『国民の味方』を気取っても、やがて訪れる“薬害を防げない事実”を突き付けられて、オロオロするしかない姿が目に浮かぶ・・・。


そんな事になるくらいなら、出来る事と出来ない事をはっきりと言うべきじゃないかな。
予測して防げる副作用と予測不能(遺伝子を調べないと)がある。風邪薬をのんで失明にまでなる SJS や TEN は、アレルギーじゃないんだから、どんなに過去の服用歴や副作用の発症歴を聞いても、予測できない。

すなおに、現代医学の限界を伝えて、『後は、御自身の判断で服用して下さい』と。
 
 
 
でも、実は、素直になれない理由は、私にもわかっている。
要するに、薬剤師の世界は『売って、なんぼ』の世界だから、口が裂けても、『飲まない方が良い』と言えないのだ。

こう言うと、『そんな事はない!医薬品の全てが薬剤師の手から供給されれば、売らない事も出来るのだ!』と反論されるお歴歴もいらっしゃるだろう。
まっ、そうあって欲しいもんだけど、すでに、コンビニで胃腸薬が販売できるようになっちゃったから、もう、自分達(薬剤師達)が販売規制しても意味が無いと、無節操に販売する為のエクスキューズも出来ちゃったからねぇ。


『医薬品販売規制緩和反対!』『我々の食い扶持を奪うな』と堂々と言った方が、よっぽど潔く正直だと思うんだけどねぇ!
どの業界だって、『自分達の食い扶持を奪うな』って言ってるんだから、今時、『医療は特別』なんて言っても、説得力無いよね。
 
 
 
ところで、“薬害”といえば、最近の医薬品販売規制緩和に際して、この被害に会われた方々から、規制緩和すべきではないとの声が上がっている。この方達の主張には、大いに疑問符が付く。(薬剤師会にとっては、何よりの援軍?)

この方達に共通しているのは、自分のとった行動(服薬)に対して、自分の責任を感じていないところである。いわゆる自己責任の欠落が感じられるのだ。
だいたい、薬剤師から『危ないよ』って言われなかったから、自分は薬のんでこんな様になっちゃったんだと主張しているように感じられるのである。

『薬の本質は“毒”である』。この人達は、わかっているようで、わかっていない。

また、この人たちは、“人が良い”のか、人を疑う事をしない。
薬剤師には“副作用を未然に防ぐ知識と能力がある”と本気で思っているのだろう。『この薬剤師の言う事を信じて良いのか?』と疑う目を持っていれば、薬害になんてあわなかったのに。

薬好きや病院好きには、ミュンヒハウゼン症候群もいるし、被害に遭って、かえって喜んでいるのかも・・・。(これは無いかっ?!)

とにかく、この方達の主張は、『国民は、全員無知で弱い立場だから、こんな危ないものは、薬剤師が居ないところで売らないでくれ』という、なんとも、筋の通っていない主張なのである。
本来なら、『製造するな!』と怒りを露にするのが筋だろう。
(素人が自己判断で服用出来る薬なんて、本来、“必要ない”んだからね。勘違いしないでもらいたいのは、苦痛を取り除いてあげたいのは私だって同じである。安全が100%なら、自信を持って“服薬”薦める。)

何故、そんな持って回った言い方をするんだろう?誰かにさせられているのか?
本気で、薬剤師を信用しているのか?
公共の情報媒体を使っているのだから、薬剤師に対して、失礼にならないようにしているのか?

薬剤師に任せておけば副作用は未然に防げるなんて本気で考えているなら、全く "naive" な人たちである。(英語の naive にポジティブな意味は無い)


私は、『薬は薬剤師に』とするならば、まず、教育だと考ている。幼稚園、小学校、中学校、事ある毎に、『薬は毒である。ただし、自然治癒しない病気になった場合は、“毒もって毒を制する”こともあるけど、自然治癒する場合は、基本的に薬は必要ない。』と“真実”を伝える事だと考えている。


医薬品副作用被害者の会の方々のような人にこそ、ぜひ、真実を伝えてあげたいし、また、薬を飲むのに“自己責任”が欠落するような人を作りたくない。全ての日本人が『薬は危険!だけど、それを上回る利益があるから服用する。』という考えを持ってもらいたい。
 
 
 
薬剤師会は、最初から『我々の食い扶持を減らすような規制緩和は止めよ!』と言っていれば、議論に破綻を来さないのに、『国民の安全の為』などと、カッコ付けるから、アッチコッチでボロが出るのだ。

2004年02月20日

ウイルスが『対細菌ミサイル』に使える日

Nature Biotechnology February , 2004 に報告されているバクテリオファージをモチーフにした新しい“抗菌剤?”の話は、古くからある治療法にヒントを得たものだったんだね。

私は、全く知らなかったんだけど、JAMA 2月号に『抗生物質以前の療法に注目集まる』と題した NEWS が掲載されている。それは、、、
1940年代、まだ、一般には“クロラムフェニコール”の入手も難しかった頃、腸チフスの治療に“バクテリオファージ”を用いた事実があったというものだ。
で、それがよく効いて、それこそ、あっという間に治ったと、当時の記録にあると。


バクテリオファージの存在が初めて文献に登場したのは、1896年だそうだ。当時、ガンジス川とヤムナ川の水がコレラ菌を殺すと報告されている。

1930年代では、英国の軍隊がコレラの流行を防ぐ為にファージを用いたそうだ。植民地の一部では、英国軍の協力を拒んだ為、結果、残念な事?に大規模臨床試験の“対照群”となってしまった。つまり、ファージの散布を受け入れた村では、コレラは流行せず、拒否した村ではコレラによる死者が大量に出てしまったのだ。


で、現在、抗生物質の全く効かない耐性菌が出現してしまった以上(新薬が出てもいたちごっこは目に見えてる。製薬メーカーは馬鹿の一つ覚えの抗生物質開発はやめろ!)、この『古い療法』に頼らざるを得なくなってしまったというわけだ。
それに、血行不良で抗生物質が使えない糖尿病性潰瘍のような一部の創傷には、すぐにでも応用可能な治療法であると考えられるようになった。


バクテリオファージは、めったやたらに細菌を殺しまくる事はしない。特定のファージは特定の菌だけにしか感染しないからだ。まさにミサイル療法だ。
これは、抗生物質使用で微生物環境が乱される事による弊害(アレルギー、自己免疫疾患など)を防ぐ為にも、ちょうど良い。それどころか、ウイルス刺激により TLR を介して、免疫調節・増強をも期待できるかもしれない。
 
 
 
現実的には、トピックス記事No:1580『ウイルスを模倣して抗生物質を開発する。』で紹介したような“医薬品”の方が現実的だと思うけど、血管経由で目的地まで到達できなきゃ効果も上がらないんだから、“荒療治”ではあるけれど、バクテリオファージそのものの治療が認可されても良いんじゃないかな!


これぞ、『温故知新』って感じだね。

2004年04月16日

生命誕生のシナリオが崩壊?

『もし自然界のDNAもこれと同じことができれば、地球上での生物の起源はDNAであった可能性が生まれるのだ。』

ここんところ、生命科学分野でビックリする内容が無かったのだが、ここで、久しぶりにあったのだ。
それが、冒頭の言葉であり、『うーーむ』と、唸ってしまった一言だ。


今まで信じていた地球に生命が誕生するシナリオでは、 RNA ワールド以前はチオエステルワールドと言う事になっている。 DNA ワールドが誕生するのは RNA ワールドの後の話しだ。

私は、この事を、フランスの生理学者C.D.デューヴの著書『細胞の秘密』で知った。注1
『ふぇ~っ、こんな所まで解明されてるんだぁ!』
『なるほど、生命の誕生に筋が通ってる!』

今まで、こんなに詳しく“地球の生命誕生”に触れている書籍を読んだ事が無かったので、色んな意味でカルチャーショックを受けた書籍の一つだった。
(生物学の教科書には2~3行に渡って書いてある程度の内容が、本1冊のボリュームになって詳しく書いてあるんだから当然だけどね。)


話は変わるが、レトロウイルスが発見されて、逆転写酵素の機能が解明された時、それまで近代生物学のセントラルドグマであった、DNA → RNA が崩壊していく様を見て、度肝を抜かれた人たちがいた。常識を覆す事実だったからだ。

残念な事に、私は、この時は、この“常識”が身にしみていなかった(不勉強)為、研究者達が驚いている時に、一緒に驚けなかった。


しかし、今回のは、一緒に驚ける。
なんの疑いも持っていなかった、生命誕生のシナリオが崩壊するかもしれないなんて・・・。もしかしたら、生命の進化にも影響はあるのか?
そしたら、『病気はなぜ、あるのか---進化医学による新しい理解』(注2)を読んで、“目から鱗を落とした”内容も、修正を迫られるのか?
 
 
 
ただし、今回、Journal of American Chemical Society に発表されたのは、“DNA分子間の結合を触媒する“デオキシリボザイム”を作り出した内容なので、自然界でこの“デオキシリボザイム”が存在する証拠を突き付けた訳ではない。

しっかし、DNA 自体はスゲー不安定なので、よくぞこんなツールを作れたなぁなんて、それだけでも驚きだけど、何故、RNA じゃなくて DNA なのか?DNA である必然性はあるのか?
RNA じゃ誰も驚かないから、DNA でやるしかないのはわかるんだけど、使い道がわかんない・・・・。


やっぱり、ただ、人を驚かせたかっただけなのか?疑問は残るが、純粋にびっくりさせられる内容だ。


私は、この論文が発表されたのを Nature BioNews で知ったので、その内容を知りたい人は、どうぞ、トピックスを参照して下され。
(とは言っても、メンバー登録していない人も、ここを見るだろうから、Nature BioNews の記事は以下に載せておく事にする。)

注1:『細胞の秘密』
C.D.デューヴ
販売元: 医学書院
定価: 3,990円(本体価格:3,800円)
販売価格: 3,990円(本体価格:3,800円)
出版年月: 1992/11


注2:『病気はなぜ、あるのか』---進化医学による新しい理解
R.M.ネシー 著/J.C.ウィリアムズ 著/長谷川 眞理子 訳
販売元: 新曜社
定価: 4,410円(本体価格:4,200円)
販売価格: 4,410円(本体価格:4,200円)
出版年月: 2001/04
 
 
 
 
Nature BioNews から引用

■進化したDNAはDNA連結酵素にもなる --- それならば地球上の生命の起源はDNAかもしれない

他の分子の手助けなしにDNA分子同士を連結させることのできるDNA断片が、このほど人工的に作り出された。自然界に存在するDNAの場合には、DNA同士の結合、突然変異の修復やDNA の自己複製の際に酵素の助けが必要となる。


このように「超」有能なDNAが作り出されたことは、自然界でもごく一部のDNAが進化して、同じような能力を持つようになったかもしれないことを示唆している。もしそうであれば、生命の起源に関する従来の考え方は見直しを迫られるだろう。


RNA分子は、DNAに刻まれた情報をタンパク質に翻訳する機能を持つが、そのRNAが酵素のような挙動を見せることがある点については、数十年前から研究者の間で知られていた。この特殊なRNA であるリボザイムを発見した研究者は1980年代にノーベル賞を受賞した。それ以来、細胞内に数種類のリボザイムが発見されている。


エール大学(米国)のRonald Breakerたちは、酵素のように振る舞うDNAであるデオキシリボザイムを作出しうることを既に明らかにしていた。「私たちは、この点でRNA が特殊な分子でないことを実証していた。(Breaker)」


このほどBreakerたちは、研究を一歩進め、DNA分子間の結合を触媒するデオキシリボザイムを作り出し、その成果をJournal of American Chemical Societyに発表した。このような結合の形成は、DNAの自己複製過程において極めて重要な一部分となっている。


もし自然界のDNAもこれと同じことができれば、地球上での生物の起源はDNAであった可能性が生まれるのだ。


一方、多くの研究者は、最初の生物の構成単位がDNAではなくRNAだったと考えている。RNAは酵素のように振る舞う能力を持っているから、というのが理由の1つだ。RNA が地球上の生物の起源であることを示す証拠は、このほかにも数多く存在している。しかし今回の研究結果を見ると、地球上の生物がRNAから始まったのは、RNAが特別な能力を備えていたからではなく、単なる偶然だったと考える方が妥当なように思われる。


「地球のような惑星を千個ほど見つけてきて、それぞれの惑星で生命の起源のシミュレーションをすれば、その様子が地球とは大きく異なるものも出てくるかもしれない」とBreaker は言う。彼は、地球の生物がRNAではなくDNAから始まった可能性があると考えている。
 
 
 
遅い効果


Breakerの研究チームは、自然界のDNAを試験管内で人工的に進化させることでデオキシリボザイムを作り出した。この実験で、DNA鎖はランダムに切り混ぜられ、そこから酵素のような作用を見せるDNA が選別され、この切り混ぜ過程を何度も繰り返すことによって酵素作用に微調整が加えられていった。その結果、DNA分子の連結には2種類のデオキシリボザイムが必要なことが判明した。


これまでのところ、デオキシリボザイムの効果は、自然界にあるDNAポリメラーゼという酵素よりも10万倍も遅い。しかし、この点が改善されれば、デオキシリボザイムは生物工学の研究者の役に立つだろう。


マサチューセッツ総合病院(米国ボストン)のJack Szostakは、その実現可能性を肯定的に考えている。「RNAのできることは、すべてDNAにもできることがわかっても、私は驚かないですよ」と彼は言う。


人工的に作り出したRNA分子を使って医薬品を作り出したり、毒素のような他の分子の検出に応用できないかどうかを調べる研究が行われている。RNAは、RNA同士を連結させる際に酵素を必要としないため、有用な分子だと考えられている。しかし、いくつかの欠点もある。例えば水に入れると分解する傾向があり、DNA よりも人工的に作り出すことが難しい場合もある。


「研究者は、可能ならばDNAを使いたいと考えるだろう」とSzostakは言う。デオキシリボザイムは、そのチャンスとなるかもしれない。

2004年05月12日

わかる実験医学シリーズ

今回、入手した本のタイトルは『受容体がわかる』だ。
羊土社の実験医学シリーズは私のお気に入りで、すでに、かなりの冊数を購入している。私の勤務する会社が“本屋もやっている”為、いちいち、本屋さんに行かなくても良いので、ついつい、買ってしまうのだ。(専門書のたぐいは、大体、高額な本が多いので社員割引がありがたい。うらやましいでしょ?)

でも、悲しいかな、この手の本は“鮮度”が命だから、10年以上も前に入手した本は“使えない”事になる。まるで、“食べ物”みたいだ。

しかし、私はこの分野の専門家だから、この本に書いてある事は、私の知識の“肉”となり“成長”する事になるので、『無駄になる』ことはない。


『無駄になる』のは、コンピュータ関連の書籍だ。

この世界のハード、ソフトの進歩の速度は、医学・生物学の比ではない。(専門家じゃないから余計に速く感じるのかもしれないが・・・)
たとえば、私は以前、RDB を使いこなそうと思い立ち、マイクロソフト社の Access を Basic 言語を含めて勉強した事がある。取り敢えず、アプリケーションと言える位のものは作れるようになった。(ゴルフのスコア管理をするものなのだが・・・)

しかし、マイクロソフト社の Access のバージョンアップの速度は速かった。
私が習得したバージョンの Basic は次のバージョンでは“私には使えない”状態だった。

専門家じゃない私にとってプログラミングは、骨格が無いところに“肉”を付けるようなもだから、“身に付かず”“応用が利かない”状態なのだ。この道のプロ達は、バージョンアップの速度が速くたって、プログラミング言語の互換性が少なくたって、“どうにかしてしまう”ことは簡単な事だろう。しかし、私にはそんな事は出来ない。

かくして、私の Basic 言語の知識は“過去の遺物”と化し、関連書籍は“書棚のこやし”となったのである。

今では、過去に自分が作ったスクリプトの解析も出来ないありさまだ。

全くもって、部分的な知識で、その場限りの物まねのプログラミングだから、仕方が無いと言えばそれまでなのだが・・・。


書棚が本で一杯になり、整理せざるを得なくなった時、まず処分されるのがコンピュータ関連の本や雑誌だ。紐で束ねて有価物で出す事になるのだが、この時が、つくづく『もったいないことしたなぁ』と感じる瞬間だ。


しかし、趣味の世界だからこれでいいのかもしれない。
熱くなっていた時は寝る時間も忘れる程、熱中できたのだから、楽しんだ代価として考えれば安いものだ。


さて、タイトルの『受容体がわかる』だが、本日、納品(^^)の為、まだ読んでいない。先日、納品された『悪魔に仕える牧師』もまだ読み終わってないのに、すぐ、次の本が欲しくなっちゃうのは、身近に本屋さんが居るデメリットなのか???

贅沢な悩みである。

2004年09月14日

ウジ治療

何度かトピックスでも紹介してきたが、、、、“ウジ療法”、すごい!!
ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!!!!

今回紹介した、記事No:2041『糖尿病性足潰瘍の新治療法 --- ウジを這わせて壊疽を清浄、足を切らずに治す』では、写真と共に動画も収録してある。

とにかく、一度、見たら忘れられなくなる事、請け合いだ。


普段『DNA だ。RNA だ。』『遺伝子発現は・・・』などと言っている私にとっては、対極に位置する現象だと思う。

これも、医療なんだなぁとしみじみしてしまう。


しかし、もっとスケールを小さくしてみると人間は、非病原性細菌を体内に住まわせる事で、病原性細菌の活動を押え込んでいる。

考え様によっちゃ、延長線上・・・・、でも人間の知恵と言うより自然の理から教えてもらった・・・、こんなこと考え出すと、医学そのものが、すべて自然の理から教えてもらっている。

現代医学は、進化医学の目を通して検証し直す時期に来ているのかもしれない。
(加齢に伴う身体の変化、内的・外的環境の変化に伴う身体の適応を“病気”として見ているのが『現代医学』と定義出来よう)

2004年09月25日

そういうものなんかい?

うむむむむ、そういうものなんかい?!小児科の臨床は!

トピックス No.2067『軽症クループに対するデキサメタゾン単回経口投与に関する無作為試験』を掲載したのは、そういう理由からだ。

トピックスは、タイトル下にも書いてる通り、WebMaster が独断と偏見で収集している。
内容自体はたいした物じゃないのだが、びっくりしたのは、この治療法で得られる利益を評価する項目に“保護者側のストレス”というのがあったからだ。


正直なところ、この項目には目を疑った!あの BMJ に掲載される論文ならわからないでもないが、NEJM でこんな論文が収載されるなんて、青天の霹靂である。


小児科の臨床において投薬される50%は親の安心の為とは、よく聞く話であるが、そんなものは現場において(無知な)親の要求に抵抗できず、各医師の裁量で仕方なく行われている行為だと思っていた。

ところがどっこい、当の小児科の世界では、本人の利益以外に、『親の安心』までもが大真面目で論じる事が常識の世界だったとは?!


今回の論文では、『親の安心』以外に、患児本人の利益が選られているので、この治療法自体に問題が有る訳ではない。
実際、私の娘がクループになったら、このステロイドによる治療法を受け入れる心の準備は出来た。


まぁ、多分、おそらくは、『親の安心』以外の部分で患児本人の利益が得られた治療法だから、小児科の問題でもある“親の心配による要求”を解決する為にと、評価項目に『親の安心』を加えただけだと思うが、これが大真面目にプライオリティのある問題だと認識しているのなら、私は小児科の治療行為の正当性(エビデンス)を信じる事は出来なくなる。


子供の病気に対して、親が過剰に心配する気持ちはわからないでもないのだが、その大部分は、無知から来ている事も事実だ。

生意気なのは承知の上で言わせてもらえば、子供の病気に関して真剣に勉強も出来ない親は“親”とは呼べないと思う。

2004年10月15日

ユビキチンによる精子の品質管理

本年度のノーベル化学賞はイスラエル工科大のアーロン・チェハノバ教授(57)、アブラム・ヘルシュコ教授(67)、米カリフォルニア大のアーウィン・ローズ博士(78)の3氏に授与すると発表した。

授賞理由は「ユビキチンが媒介するタンパク質分解の発見」。


まめ知識やQ&Aコーナーにも、ポツポツ書いている分野だ。分野と言うほど狭い領域じゃなくって、生命現象の根幹を成すシステムだから、いろんな分野にまたがって書く事になってしまっている。

何故、重要なシステムが今頃になって発見されたのか?
最先端のサイエンスはミクロな部分に目が行き過ぎている為、マクロな部分に盲目的になってしまったのだろう。『木を見て森を見ず』の状態だったのだろうね。


このユビキチン-プロテアソームシステムの機構は、簡単だ!


分解の必要のあるタンパク質は、ユビキチンという目印を付けられ、その目印をつけられたタンパク質はプロテアソームという分解酵素によって分解されるというものだ。

誰が目印を付けるのか?

目印を付ける役割は、それこそ、組織ごと、細胞ごと、システムごとに違っている。
その為、共通した分解系を利用していることに気づかなかったとも言えるのだろう。

その役割を担う分子は、知られている場合と、まだ知られていない場合とがあり、例えば、p53により発現が増強する遺伝子である MDM2 は、ユビキチン-プロテアソーム経路のE3リガーゼとして p53の急速な分解を促進する、みたいに、フィードバックシステムの中で活躍する場合もあれば、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症など様々な神経変性疾患における未分解なタンパク質が蓄積することで発病するという、生理的なタンパク分解場面で活躍する分子もある。


要するに、タンパク質を分解するシステムがあるから、『そうと決まったら、プロテアソーム系に仕事を任せれば良い!』といった感じか!

または、廃棄物処理を廃棄物処理業者に任せる現代社会のシステムそのものといったらイメージしやすいだろうか。

コンピュータネットワークに詳しい方は、OSI参照モデルにおける例の7層から成り立っているシステムをイメージすると良い。例えば“第5層 セション層”での決め事の変更は、下位の“第4層 トランスポート層”の仕様に影響を与えない・・・と言う考え方である。

“第7層 アプリケーション層”で“タンパク質を分解する”とされたリクエストは、“第1層 物理層”で、実際、どの酵素で使って分解するかまでは規定しない。どの酵素を使用するのかということは、あくまで“第1層 物理層”で決める事である。

このようなシステムの優れている所は、『各層(レイヤ)では機能別にバラバラで考えればいい』ということで、『途中の層(レイヤ)の機能に変更があっても、その層(レイヤ)以外に影響が及ばない』ということだ。

人間に当てはめて考えてみると、人間は生物だ。単細胞生物から進化してきた。
進化の途中で、多細胞になり、色々な細胞に分化して、より機能的な生化学反応を遂行できるように臓器などというまとまりをもった細胞集団が出来上がる訳だけど、単細胞の頃から“タンパク質の分解”ってのはやっていたワケだ。

進化に伴って、全てのシステムを構築し直すよりも、出来上がったシステムを利用する方が、はるかに合理的だ。

最終的に分解されるまでの、ルールの変更やシステムが複雑になったとしても、『タンパク質がユビキチン化されれば、分解』という単純な取り決めを守っていれば、全体としてのシステムには破綻が無いと言う訳である。


多分、コンピュータネットワークを開発した科学者達は、生命にこんなに似たシステムが存在する事など、知るよしも無いのだろうが、合理的に物事を考えると言う事は、遺伝子に刷り込まれている気がしてならない。

ヒトは、こんなに、合理的で無駄の無いシステムを作り上げられる一方で、非常に無駄の多いシステムを構築している事も事実だ。どこの誰とは言わないけれど。

実は生命にも、非常に冗長な部分・システムが存在している。その冗長さが全体としての安定をもたらしているもの、また、事実だから、非合理的な無駄を多く含んだシステムを構築してしまうのも、遺伝子に刷り込まれているのかもしれない。


・・・なんか、話が、抽象的になってきてしまったが、タイトルの『ユビキチンによる精子の品質管理』、これはまだ紹介していなかったから、ノーベル賞の話題のついでに、記しておこう。

■男性不妊症の解明と男性避妊薬の開発

細胞を監視する役割を果たす有名なタンパク質が、欠陥のある精子に目印をつけて、破壊されるようにしむけることが、このほど発表された研究において示唆された。

このタンパク質とはユビキチンのことである。

ユビキチンは、通常、細胞内をパトロールし、欠陥のある細胞内物質を生物的のゴミ溜めに送る。今回主張されているプロセスは、精子の品質管理にとって重要なことと思われることから、男性不妊症の解明が進み、男性避妊薬の開発にも役立つかもしれない。


ユビキチンは、'ubiquitous'(広範に分布する)に由来する名前が示すように、全身に分布しているが、細胞内でのみ作用すると考えられてきた。ところが米国ビーバートンにあるオレゴン保健科学大学の細胞生物学者Peter Sutovskyらは、ユビキチンが細胞外でも巡回しているという見方を示している。

精巣近くに位置し、射精前の精子を保存する組織である精巣上体において、奇形のある精子が成熟すると、ユビキチンで標識されることをSutovskyの研究チームが発見した。

標識の付いた精子は、その後、精巣上体細胞によって包み込まれ、破壊される。

「もしSutovskyらの主張が正しければ、ユビキチンにとって全く新しい世界が広がることになる。」こう語るのは、1980年代にユビキチンにつき数々の先駆的研究を行なった英国ノッティンガム大学のJohn Mayerである。「私は、この観察結果には極めて説得力があると思うが、このプロセスの原因メカニズムは解明されていない」と彼は言う。
精子の品質管理は、ヒトの体内で実際には少数派となっている健康な精子が妨害を受けずに卵子に到達する上で役立っていると考えられている。
「[いったん射精された]精子は、基本的に密集状態に置かれる」とSutovskyは言う。そうなるとブラブラ過ごしている欠陥精子が、健康な精子を邪魔するかもしれないのである。
Sutovskyらは、雄牛、水牛、ガウル(雌牛の近親種で絶滅の危機に瀕している)、マカクザルやヒトから採取した欠陥精子にユビキチンを発見した。

また光学顕微鏡では正常に見えたユビキチン標識の付いた精子の中には、電子顕微鏡で異常が判明するものもあった。「ユビキチンは、何らかの形で内在的な欠陥を認識している」とSutovskyは言う。ユビキチンが欠陥精子の普遍的な標識であるように見えるため、Sutovskyは、この標識によって欠陥精子を全て特定し、解析すれば、男性不妊症の研究者の役に立てるのではないかと考えている。ただ男性不妊症の治療という点では、ユビキチン標識はさほど役に立たないかもしれない。

「当センターの患者の場合、欠陥精子の標識が役に立つのは、患者全体の約1%に過ぎない」とロンドン不妊治療センターのSonya Jerkovicは言う。不妊症の男性の大多数は、精子数の減少あるいは運動性精子が極端に少ないことに苦しんでいると彼女は説明する。さらにユビキチンは、男性向け可逆的避妊薬の有力な候補となりうるかもしれない。正常な精子にはユビキチンが含まれている。もし薬物によって全ての精子をだまして、一時的にユビキチンを発現できたなら、精巣上体から精子は射精されなくなるだろう。

「この点については、かなりの研究を積み重ねなければならないが、そのような可能性は存在している」とSutovskyは言う。

2004年10月30日

遺伝子組換

遺伝子組換食品・・・、よく聞く言葉だ。そして、健康ヲタクのおじちゃん、おばちゃんに最も嫌われている言葉かもしれ無い。

で、この手合いは、直接、遺伝子組換は嫌いだけど、間接的に遺伝子が組み換わってしまう生物を生み出す“抗生物質”は大好きだ。鼻水を垂らすと『自分にはコレ(抗生物質)が効く』と宣う。

話は変わるが、Q&Aコーナー No:418 『ヘリコバクターピロリ菌と胃がん』には、興味深い話の続きがある。

その前に、最近、よく感じる事だが、人間、良く分からない事、聞きなれない事には、神秘的な力があると考えるようだ。しかし、そのものの本質が理解できてなくても“聞きなれて”しまえば、神通力も無くなる。

良い例が CoQ10 とビタミンB1 だ。

CoQ10 が体の中の細胞の中のミトコンドリアの中で、NADPH , FADH とともに電子伝達系で補酵素として・・・などと話し始めると、さっぱりわからないと言う。
しかし、ビタミンB1 がピルビン酸を解糖系からTCA回路にぶち込む為の補酵素として働くと説明しても、同様にさっぱりわからないらしい。

でも、大きな違いは、ビタミンB1は“聞きなれた言葉”で CoQ10 は“聞きなれない言葉”なのだ。すでにビタミンB1 に御利益はない。
聞きれている言葉は、本人が全く理解していなくても“本質まで解ってしまった”気でいる事が多い。逆に、聞きなれない言葉に対しては、本質を理解できていなければ、“神秘的な力”を感じるようだ。

CoQ10 に、老化防止、若返りの効果などあるはずも無いのに“聞きなれない言葉”の為に“神秘的な力”があると信じているのだろう。せっせ、せっせと消費している(らしい。というのも、取引先の卸から、長期欠品扱いになっていると聞いた。)。まっ、莫迦な消費者から詐取するというのは、今に始まった事ではないし、CoQ10 を飲まされつづけても“毒にも薬にもならない”から“社会悪”ではないのだが、“遺伝子組換”は嫌いなのに“間接的遺伝子組換え物質”が好きで消費するのは“社会悪”だと思う。

一旦、当の本人が理解出来ていなくても“本質まで解ってしまった”と勘違いしているモノっていうのは、後から、その“真実の姿”を見せてあげて、教えてあげても、一向に思い込みを改められるものでは無い。(新興宗教の洗脳を解くように難しい)

本当は抗生物質が効く疾患ではないのに“神秘的な力”を信じている信者は、いくら医者が『必要ない』と言っても、欲しがる。
このこの薬物(抗生物質)乱用?が“遺伝子が組み換わり、人知を超えた生物(微生物)を生み出している”ことなどは、全く考えていない。

この微生物の遺伝子組換は、ヒトの安全など(当たり前だが)全く考えてくれていないが、遺伝子工学に基づく遺伝子組換は、絶対とは言えないが、ヒトが知恵を絞って安全な改変を行っているというのに。

そして、この“知ったかぶり”パワーは逆に、自分の理解できないものを“神秘的な力”と考えずに“忌み嫌う”場合もある。
良い例が“遺伝子組換”だ。


余談が長くなった。
『ヘリコバクターピロリ菌と胃がん』の続きの話だが、実は、ピロリ菌の細胞壁の合成阻害を示す物質を、胃粘膜細胞は作っている。ムチン層深部の粘膜細胞では、O-グリカンと呼ばれる特定の糖蛋白質が生成される。それがコレだ!!

進化医学の考え方で見てみれば、別に驚く事ではないのだが、つくづく自然はうまく出来ているなぁと感激する瞬間でもある。

H. pylori細胞を溶解し、質量分析による生化学分析で細胞壁の成分を調べたところ、増殖に不可欠となるコレステリル-α-D-グルコピラノシドというH. pyloriに特有のコレステロールを見出した。さらに実験を進めた結果中、α1,4と結合したN-アセチルグルコサミンに覆われたO-グリカンがH. pyloriのコレステロール合成能を阻害することが確認された。

で、これが、遺伝子組換と何が関係あるかと言うと、この研究を Science に発表した研究者が以下のようなコメントをしている。

『今回発見された天然のコレステロールは、胃潰瘍の安全な治療薬デザインのためのきわめて具体的な標的となり、長期的にはH. pyloriによる胃癌予防にもつながるだろう。遺伝子組み換え大豆を飼料として牛を育て、α1,4と結合したN-アセチルグルコサミンに覆われたO-グリカンを含有する牛乳を生産することが可能であり、発展途上国の患者に対して安価な治療法を提供できる。牛乳の生産にトランスジェニック牛や遺伝子組み換え作物を使用することができれば、H. pyloriの感染を撲滅し胃癌を予防できるだろう』と。


遺伝子組換で作られている医薬品は、実は、既に臨床使用されているのだが、彼の手合いらは、自分の知らない分野の事なので、『反対』の狼煙を上げる事も無いのだが、こと、食品となると“知ってるつもり”の虫が頭をもたげる。

正義の味方(莫迦な消費者)のナンセンスな行動によって、この優れた遺伝子組換食品が“日の目を見る事が無い”などとならないようにしなければならない。


p.s.
『議会制民主主義の世の中では、国民のレベル以上の政府は作れない』とは良く言った物で、『国民のレベル以上の医療も提供できない』というのも実感する。
すべからく、教育が重要なのだと実感する。義務教育の国庫負担を減らす案を反対している人達がいるが、金太郎飴製造機関のような現在の学校を存続させても、日本に未来は無い。教育にお金がかかるのは当然だが、お金をかければOKと言うものでは無い。

2004年11月15日

ウイルスの驚くべき戦略

ウイルスの免疫回避機構は、Q&A No:172『HIV の免疫系回避』などでも、ちょこちょこと紹介してきたが、ここに来て、ユビキチン化の研究と繋った。

毎度のことだけど、進化医学の目でみれば、ウイルスだって自分の遺伝子を残すというベクトルでいろいろやってるんだから、当たり前の事だけど、でも、びっくりの事実である。


その最近、わかってきた、ウイルスの免疫回避の方法を簡単に紹介したいと思う。
それは、ウイルスが抗原提示関連分子である MHC class-Ⅰ , B7-2 , ICAM-1 をユビキチン化する分子を持っているというものであるる。

現在、Kaposi 肉腫関連ヘルペスウイルス (KSHV) がコードしている K3 , K5 と呼ばれる蛋白の機能が解明されつつあるということだ。その活性ドメインは BKS-PHD/LAP zinc inger と名付けられており、RING ドメインに構造上極似している。

K3 は MHC cllass-Ⅰ を標的とし、K5 は MHC cllass-Ⅰ の他に B7-2 , ICAM-1 をも標的に出来る。K3 , K5 によって標的分子はエンドサイトーシスを受け、おもにリソソームにて分解される。


・・・・ちょっと待ってよ!!リソソーム?

って思った方は、エライ!!

何故、プロテアソームじゃないんだ?と。

そうなのです。ついつい、ユビキチン-プロテアソーム系と呼んでいるので、ユビキチン化されれば、即、プロテアソーム系にて分解されると思い思い勝ちですが、ユビキチン化は、プロテアソーム系の為だけに存在しているわけじゃないのです。

E3 リガーゼで“ポリユビキチン化”されれば、プロテアソーム系にて分解される目印にこそなれ、ユビキチンが1つだけ標的に付加された“モノユビキチン化”状態では、蛋白の輸送(だから、ウイルスの“出芽”にもユビキチン化が関係している。この辺も最新のトピックスだ。)、転写調節などなど、いろいろな生理作用を担う場面で、目印にされているのである。


まったく“ユビキチン”はすごいヤツだよ。『生きてる』って現象の関係するありとあらゆる分野で、縦横無尽に活躍出来る。

ウイルスまで、自分の遺伝子を残す手段に利用してるんだからね。

2004年12月04日

花粉症予防イネを栽培

お米の遺伝子組換だから、基本的な考え方はペプチド減感作療法で、作らせる蛋白質は TCR エピトープ、すなわち、スギ花粉主要アレルゲン(Cry j 1)だろう。独立行政法人農業生物資源研究所のホームページの“スギ花粉症緩和米の研究開発”でも書かれている。

[東京新聞12/3]“花粉症予防イネを栽培へ”は、具体的な方法を書いてないのでなんともいえないけど、、、、(イネの遺伝子をどんなにいじっても、免疫細胞に蓋をするような抗ヒスタミン物質が作れるわけじゃないし、Cry j 1 以外の物質が出来きたとしても、TCR で認識できなくなるので、免疫細胞に対しては目的以外の悪影響どころではなく、全く影響を及ぼせなくなるだけで・・・あっ、他のTh細胞がアネルギーに陥ったりして・・・)。


このペプチド減感作療法の何処が危険なのだろう?
イネに作らせるペプチドは既知のものだし、遺伝子の変化を気にする人がいるけれど、遺伝子の変化なんて、トランスポゾンやレトロウイルス、紫外線などなど、日常的に見られるものだし、、、。
生態系への影響を心配している人もいるけれど、人類の存在そのものが、すでに数え切れないほど“破壊”をし、また、現在進行形で“破壊”を進めていることは、どう考えるのだろう?

遺伝子組換技に反対する人達は、漠然とした“不安”を一般化して、『遺伝子組換=未知の技術で危険』と結論したいのだろうが、ライフサイエンス分野で、危険がゼロで、理論的にも全く心配の無い技術・理論など有り得ようか?

人に適応する医薬品でさえ、作用機序の100%解明されているものなどないというのに・・・・。
というか、一般の人のサイエンスに対する感覚ってのは、『今、世間のコンセンサスが得られていて、一般的に行われている行為は、全て100%の理論も解明されている』ではないだろうか?(アスピリンの作用機序に不明な点がいくつもあるって言ったら、ビックリするんだろうね!)

サイエンスは、理解が深まれば深まるほど、解らない問題が湧き出てくるものだ。

しかも、研究者が研究を続けるモチベションって“興味”“好奇心”以外の何があるんだろう?

もしかしたら、世の研究者と呼ばれる人達は、みな神様みたいな“善人で、人格者で”って、全ての研究は、世の為人の為にしているって思っているのかも知れない。
良く言われる『研究者が興味本位で~~~』という言葉も理解できる。


しかし、本当は、こういった誤解を逆手とって、踏ん反り返っている人達がいる事も事実だ。この手の人達にとっては“訳知り顔を保つ”という点において、事実は知らせない方が良いと言う事になる。


サイエンスは、一般人が簡単に理解できないところまで来てしまっている。理解度は、これからも、どんどん乖離するだろう。だから、専門家と一般人とのギャップは広がるばかりだ。
専門家がやさしく説明すれば良い、と言う人がいるが・・・、正確さを期すなら、専門家ならやさしくなど説明できない事は知っている。誤解を恐れないならば、簡単に説明する事は出来るけど。

しかし、だからと言って、説明しない理由にはならないし、研究者が暴走しない為にも“シロウトさんの抑止力”は大切な事だと思う。

2004年12月13日

スプライシング・スキッピング

今年最後の WebMaster's impressions は、これか??(多分、最後になる?)私にとっては、『へぇ~』が2つ程ついた内容だ。

Q&A No:170『ゲンタマイシンによる筋ジストロフィーの治療』でも触れてるが、現象として“筋ジストロフィーには、ナンセンス変異によるスプライシングスキッピングという現象もあり”なのだが、『ついに』というか『やっと』というか、人為的に RNA スプライシングを制御し、この現象を治療に役立てる日が近づいている。

これが、『へぇ~』の素だ。


早速、トピックスにも収録したのだが、考え方はあっても、実際、どうやったらいいのか考え付くのが素晴らしい。

それによれば、アデノ随伴ウイルスを使って、snRNA を筋肉細胞に送り込むそうだから、定期的に施術しなきゃならないのだろうが(まっ、上手く行きゃ宿主遺伝子に取り込まれるけど:注1)、全く治療法が無い疾患なので、この際、どんな方法でも受け入れざるを得ないだろう。

snRNA については、まめ知識 No:268『核内低分子RNA(snRNA)と核小体低分子RNA(snoRNA)』を見てもらうとして、この論文ではマウスで成功しているとの事だ。

マウスでの成績をすぐヒト様に応用できるのか?という意見はあるだろうが、何事もやってみなければ前進はない。(しかも、遺伝子組換や遺伝子治療のキーワードに引っかかるから、大変だよ!)
 
 
 
 
ところで、今、常識に囚われていると、前進はないということを痛感させられる“本”を読んでいる。タイトルは『脳の中の幽霊』だ。読んだ方も多いと思う。まだ、読んでない人は、是非、読む事を薦める。文中に出てくる“ノーベル賞を受賞した物理学者の多くが研究生活に入る前に読んだと言う『微生物を追う人々』という著書”、日本では『微生物の狩人』として販売されているが(私が読んだのはこの“狩人”となっている本だ)、この中の登場人物達の研究の着眼点も、独創性に富んでいる。

“・・・狩人”の方は、読んでなくても、顕微鏡のレーエンフックや細胞性免疫のメチニコフ、パスツールにコッホ・・・その他何人か(10年以上前に読んだので失念)を思い出せば、『あぁ、そうだね』となるはずだ。

脳の中の幽霊に戻れば、昨日(12月12日)、偶然にも、大掃除をしながら見ていたテレビで、この著者の事を取り上げた番組をやっていた。ナガラで見てたので内容は不正確かもしれないが、その中で、何故か、栗本 慎一郎氏が登場し、みずからの脳卒中で失った左半身の機能回復に、ラマチャンドランの考えを実践したような方法を応用していた。

『脳からの神経が切れちゃったのだから、逆に、指先から脳へ神経が伸びるのを助けてやれば良い』という独自の理論で、鏡を使ったリハビリを考案したらしい。

そんな理論、生理学や解剖学を“まとも”に学んで“常識”のある人からは『そんな馬かな・・・非理論的な・・・』と一笑に付されてしまうだろう。
(私も、栗本氏の“指先から神経が伸びる”という“持論”を聞いて笑ってしまった。)
でも、その常識のある病院でのリハビリでは、かれの左腕はピクリとも動かなかったらしい。

で、オリジナルのリハビリで、機能が回復したのだと。

テレビ番組なので、100%信用出来ないけど、事実なら、スゴイ。シロウトの一本勝ちだ。

脳に限らず、人間の・・・と言うより生物の・・・システムとしての統合的な機能は、脳・神経系が代表だか、これと同じく免疫系の機能もシステムとしての統合の結果を見ている訳だが、非常に理解しにくい。理解しにくい為に、まやかしの治療法などがはびこる。(単一臓器の機能だけで理解できる血圧などには、マヤカシは存在しない。シロウトでも理解できるからマヤカシは存在できない。)

しかし、逆に言うと、現代医学・生理学分野で解明されている(だけの)理論や常識で考えても答えの出ない時は、常識から一歩踏み出て(常識を破って)試してみる価値に値する“まやかし”があるのかもしれない。(花粉症の治療法なんて、いろいろやってみた方が良いということだ??)

私自身は、この“常識”を第一とするタイプで、うっかりすると全て常識で判断してしまう。そんな自分を戒める為にも、この『脳の中の幽霊』は有意義な本なのだ。
 
 
 
遺伝子治療そのものが、遺伝子を絶対的に効率よく送り込み、しかも、送り込んだ遺伝子の発現をコントロールする技術が発見されてない現在(注2)、その遺伝子産物である snRNA によるスプライシングまでコントロールしようと言うのは、時機尚早というか、見のほど知らずと言うか・・・・って、ん?まてよ!!

もしかしたら、この論文の主は、取り敢えず、『やってみた』だけって可能性も・・・・??

んまっ、なんでも、結果が良ければ、オーライなのかな?!

“常識”に囚われずに、見守りたいものだ。
 
 
 
 
注1)
遺伝子を細胞に送り込む方法の一つに、ウイルスを利用したものがある。

・レトロウイルスの一番大きな利点は染色体に取り込まれるということ。
染色体に遺伝子が取り込まれれば細胞が分裂しても導入した遺伝子も分裂しても一緒に分裂するということで遺伝子が細胞分裂によって薄まることは理論上なく極限すれば生涯にわたる遺伝子発現が期待できるわけだ。

・それと鏡面関係にあるのがアデノウイルスだ。
アデノウイルスは細胞に感染しても染色体に取り込まれることはない。よって細胞が分裂するごとに遺伝子は薄まってしまい最後にはなくなってしまう。よって永続的な遺伝子発現は期待できない。

いい事だらけのレトロウイルスベクター以外のウイルスベクターが開発されるのには、訳がある。ではレトロウイルスの欠点はなんだ?

これは、細胞に感染する力が弱いということ。特に分裂を盛んにしている細胞にしか感染しない。これはあまり細胞分裂をしない造血幹細胞には感染しにくいことを意味しているし、筋肉の幹細胞もしかり。

そこで、、、
・アデノ随伴ウイルスの出番だ。
分裂してない細胞にもよく感染し、またレトロウイルスのように染色体に取り込まれる可能性もある。ただ大量にウイルスを作成することが難しいのが難点。

注2)私は、間違ってコントロール不能で怪物のような生物が誕生する事を恐れている訳では無い。こんなSFに登場するような遺伝子の誤った使われ方はありえないということは、知っているので突っ込まないように願います。

2005年01月07日

思わぬ薬の思わぬ作用

Nature 2005 1月号に、『おやっ』と思わずビックリの論文が掲載されている。
2005年度の WebMaster's impressions は、こいつで幕開けだ。

で、その内容は、トピックスにも掲載したのだが、抗生物質による ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療だ。※注1


ゲンタマイシンによるスプライシングスキッピング作用は、年末にも紹介しているが、今回のは、β-ラクタム系抗生物質による、遺伝子の転写制御機能の発現である。

今まで、β-ラクタム系の作用機序と言ったら“細胞壁の合阻害”で、一件落着していたが、(進化医学の側面から)考えてみれば、β-ラクタム系の物資を生合成する生物(微生物)は、他の生物との生存競争を勝ち抜く為にそれを合成しているのだから、その作用が“細胞壁の合阻害”だけって事の方が、無理がある。

一つの物質で一つの作用しかないのなら、他の生物の数だけ“anti-biotics”を揃えなきゃならなくなるが、1つの物質が複数の作用を持つなら、より合理的であり合目的であるわけだ。


ところで、遺伝子転写活性は、β-ラクタム剤の構造式中の“細胞壁の合阻害”とは別の場所だろうから、分離出来れば、分離した方がいいのは言うまでもない。
でも、この論文では、そこまで言及していないので、構造式中のどの部分かまでは同定できてないのだろう。(ってゆーか、サマリーしか読んでない俺が言うことじゃないかも!!)


俗に(俗にじゃないか!正式か?)抗生物質と呼ばれる医薬品に、抗菌作用以外の作用が見つかったのは、マクロライド系が最初だった。瀰漫性汎細気管支炎にエリスロマイシンの少量長期投与が抗菌作用に依らないとわかった時には、びっくりした。
シクロスポリンや FK506 (私にとってはタクロリムスより FK506 の方が親しみやすい)もマクロライド系の物資だ。抗菌作用は無いけれど。


今、いわゆる“風邪”に抗生物質を使うのを止めさせようとしている動きがある。

風邪はウイルスが原因だから、抗生物質は効かない。そればかりか、耐性菌の出現を助長したり、乳幼児期の服用は、正常な免疫系の発達をも妨げるという理論も展開されている。
(胎児期の Th2 優位な免疫環境が生後、Th1 に移行・移行するのがさまたげられるというアレである。)

これはこれで、実証されてることだし、この副作用は、我々にとっては不都合なことだし、医療費と言う資源の適正な分配と言う視点からも推進されるべきだと思うが、抗生物質に抗菌作用だけじゃなく、風邪の治癒を促進させる効果があるとしたら(例えば、インターフェロン産生増強、、これは有り得ないけど。)、それは早急にその作用を分離して、医薬品を作る努力が必要だと思う。
(まっ、所詮、風邪というところが、いまいち弱いんだが・・・・)

不必要になったといって、医薬品メーカーが新規の抗生物質の探究を止めてしまうことの無いように願いたいものだ。
 
 
 
※注1:簡単に説明しておくと・・・
神経興奮作用のあるグルタミン酸は過剰だと神経毒になり、その神経の永久的な脱落を惹起する。シナプスで、このグルタミン酸の不活性化は、グルタミン酸塩のトランスポータ“GLT1”による再取り込みに一部、依存している。
そして、既存薬で、この“GLT1”の発現をコントロールすることは不可能だった。

β-ラクタム剤は、この“GLT1”の転写を促進し、シナプスでのグルタミン酸の不活性化に一役買っていることが発見された。

動物実験で、β-ラクタム剤の投与は、ALS モデルマウスのマウス生存を増加させた。

ということです。

2005年01月18日

ヘリコバクターピロリはキッカケ?

Nature Cancer Update の HIGHLIGHT の記事にビックリだ。

ヘリコバクターピロリ菌による最終的な胃がん発症には、この炎症部位に集まる骨髄由来の炎症細胞が関与しているというものだ。

つまり、ピロリ菌感染者の胃がんの元になる細胞は、ピロリ菌に呼び寄せられた骨髄系炎症細胞だというのだ。

胃がんとピロリ菌との因果関係は、諸説、色々とあるのだが(Q&A No:420『疑問点って何?』スレッド参照)、この説によれば、今までの疑問点も氷解する(ように思える)。
すなわち、ピロリ菌の感染者がすべて胃がんになる訳じゃない。
胃がんの発症者のすべてが、ピロリ菌の感染者では無い。
ピロリ菌以外の慢性胃炎患者が胃がんに移行する道筋を無理なく説明できる。


しかし、この結果は“マウス”だ。人様に当てはめてもいいのか??という疑問は残ったままだ。

ヒトで試験するなら、人道的な面を無視すれば、ピロリ菌感染者に炎症細胞の遊走阻止薬(抗炎症薬)とプラセボを対照としたプロスペクティブな試験を組めば良いのだが・・・。

もしかしたら、ステロイド、免疫調節薬、免疫抑制薬、抗炎症薬を服用していたピロリ菌感染者は、それらのおかげで発がんを免れた、あるいは、発症を先送り(遅らせた)可能性も考えられる。したがって、レトロスペクティブに症例集めで、見えてくるものがあるかもしれない。


そう言えば、NSAIDs の発癌予防の対象には大腸ポリポーシスがあった。
COX-2 の抑制でがんを予防するってアレだ。
もしかしたら、adenoma-carcinoma sequence 発がん抑制は、骨髄系炎症細胞の抑制と関係ありや?


それにしても、すごい着眼点だ。
でも、どうして今までだれも気づかなかったのだろう?
誰しもが『胃がんだからその起源起源は胃だろう』という先入観から抜け出られなかったのか?


まっ、なんにしても、もしこれがヒトにも当てはまるなら、炎症細胞を胃に集めなきゃ、がんにならないわけだから、治療薬の選択肢も増えるってもんだ。


気になる人は、トピックスをご覧くだされ!!

2005年04月01日

歴史的瞬間か?

高脂血症治療ストラテジーに意識改革が迫られる?

Nature japan の Web site Drug Discovery にこんな Reviews が掲載されている。New England Journal of Medicine に掲載された論文を取り上げて、高脂血症治療に使用する薬剤に関する最近の知見を織り交ぜ、治療戦略の意識改革と治療薬開発のターゲットが換わる可能性を示唆している。

大雑把にまとめると、、、、
高脂血症を治療するのは続発する心血管イベント発生を抑制することに他ならないわけだが、この目的なら、コレステロールを下げなくても炎症をコントロールすれば目的は達成出来るよ!(そもそも CRP が下がるのは LDL が下がったからじゃなくて独立している機序だと。でも、LDL を下げることは、これはこれで意味がないわけじゃないと。)

と言っているのである。


スタチン系薬物が抗炎症作用を有したり、Ras , Rho 系に影響を与えるという趣旨の論文は5~6年前(もっと前かも?)からあった。自主的に回収したあのセリバスタチンは、武田薬品が特に“抗炎症作用”に力を入れて宣伝していたと記憶している。


コンセンサスが得られるキッカケって、こんなケースなのかもしれない。

セリバスタチンは“抗炎症効果”が強いんだから、目先のコレステロール低下作用だけで用量設定せずに、抗炎症作用(CRP濃度で判定)で目標値をクリア出来る服用量で販売していたら、もっともっと、息の長い薬として臨床の現場で活躍してたかも知れない・・・なんて思ってしまった。(でも当時は、こんなエビデンスも無いんだから無理だよね)


大袈裟かもしれないけど、今回の論文と論説によって治療法と治療薬の方向が変わるとしたら、歴史的瞬間に立ち会ったことになるのかも・・・・。だとしたら、訳も無くちょっと嬉しい。

2005年04月04日

存在意義

アメリカの「心身医学」(Psychosomatic Medicine)っていう医学雑誌に『血液中のコレステロール値が高い人は記憶力、集中力など精神的能力にすぐれている』と報告された!

これって!
えっ!?

なんかタイミングが・・・・。

雑誌掲載の厳密なタイミングはどっちが先かわかんないけど、『心血管イベントはコレステロール値よりは炎症のコントロールが大切』という Nature のレビューもあったばかりで、前回取り上げた。


---お年寄りに飲ませるスタチンって---


FH を見ればわかる通りコレステロールがアテロール粥腫の元凶なのはハッキリしているのだが、結局、コレステロールはキッカケを作るけど、最終的に病気になるのは“炎症”が原因だった。(Archives of Internal Medicine誌2005年3月14日号に報告された『白血球数は心血管系イベントの独立した因子』も裏付けている)

コレステロールの過度な低下が、老人の認知症の原因とまでは言わないけれど、一つの原因となっていることは確実なのかもしれない。

理想的な心血管イベントの予防には、、、、やっぱり、意識改革が必要なのだろう。
 
 
 
話は変わって。

中世ヨーロッパにおいて、王様の侍医が毒を盛るのを防ぐ為に“薬剤師”が誕生した。
時を経て、その職業の存在意義は“過剰な薬物が大衆に供給されないように”となった。 
 
 
現在、この事実(コレステロール)を知ってしまった後、(日本の)薬剤師は何が出来るのだろう?


このスタチン系を高脂血症治療に用いる是非は、まだまだ議論すべきことも多いのだけれど、どういうコンセンサスが得られるにせよ、その時、薬剤師はどういう行動を起こすべきかは考えておかねばなるまい。(というかコンセンサス形成には積極的に関わるべきだ!薬剤減量の方向で!)


待った無しに親分(薬剤師会)の出番だ。

エピメテウス(エピ-後で、メテウス-考える)じゃ困るから、プロメテウス(プロ-前もって、メテウス-考える)になって欲しいのだが、その考えが“見て見ぬふり”にならないように祈るばかりである。
 
 
 
p.s.薬学生の実習が終了した。

他の薬局ではどんな事をしていたのか気になるところではあるが、この実習を受け入れる薬局には、指導薬剤師が必要だ。これはこれで良いのだが・・・・

“指導薬剤師”自体が、経験年数と講習会に参加しただけで認定される構造なので“指導者の質”は全く担保されない。

試験を課せば良いと思うのだが、薬剤師会は何故か“ペーパー試験”を行わない。
現場の薬剤師には思いも付かない“試験を行わない理由”があるのだろうが、是非、聞いてみたいものだ。『まずは指導者の数を確保する為』などと墓穴を掘るような理由でないことも、合わせて祈っておこう。

2005年04月12日

デブの客には態度が悪い!?

アメリカでの話だ。
『肥満の客は冷遇される--実験で確認された』と。
アメリカには「産業組織心理学会」(Industrial and Organizational Psychology)なる学会が存在し、そこで報告されたとこのと。
(日本にもある。いや、アメリカの存在を知ってから調べたらあった。)

米テキサス州にあるライス大学の大学院生が、学部の学生からボランティアを集めて、実験を行った。

方法はこうだ!

まずはじめに、学生たちは、買い物客を装って、ヒューストンのショッピングモールに出かけ、店に入って店員と接触した。

その後、学生達らはいったん戻って、パッドがたっぷり入った衣服に着替えて、外見が肥満な人に見せかけて、再び同じ店内に入って、店員の接客態度を見た。


結果は、店員は太った客に対しては、普通の体格の客に比べて、明らかに、ぶっきらぼうで、冷たい態度で、スマイルも少なかったということだ。
 
 
 
---そんなもんかなぁ!?---


私自身も接客業?(人と接する、話をする仕事)だけれど、太っているかどうかで区別(差別)しているつもりは無い。

ここだけの話、ステキな女性にはやさしく丁寧に、そうでない方にはぶっきらぼうで最低限の会話で済ますことは多いが。

結局、肥満に対する感じ方が、日本人とは決定的に違うんだろう。
これって、アメリカに行って『ヤイ!このデブ』なんて言ったらシャレで済まなくなっちゃうんだろうね。
 
 
 
こんな時こそ、日本では体格で差別を受けることはありません!ってアピールすれば良いのにって思ってしまう。
日本人は、自分に自信が無いのか、ついつい、こんな時の“感じ方”まで真似してしまう習性があるように思う。


感性を真似することはおかしい。
だけど、アピールするという文化は真似しなきゃならない。何も言わない“奥ゆかしい”では理解してもらえないから。


民主党の仙谷由人って人が、記者会見で、ヨハネ・パウロ二世の葬儀に日本の首脳が出席しないことについて、『少し (感覚が) ずれているのではないか』と発言したみたいだけど、ずれてるのは、本人じゃないかな。私には日本の首脳が出席する方が違和感を感じるけど。(それに、どこぞのアホが鬼の首でも取ったかのように“政教分離”を持ち出さないとも限らないし。)
むしろ、この人は、普段、何も考えてないから何も感じない。何も考えてないことがばれるとかっこ悪いから、それらしい“感覚”を表明してるだけかもしれないが。
 
 
 
アメリカで日本人が軽々しく『オー・マイ・ゴッド』とか『ジーザス』なんて口走ると、良識を疑われるそうだ。あなたの国の神ではないでしょうと。

そして、日本人が自国の文化・伝統に無知なことに驚くらしい。(極端な話じゃなく、日本人はみんな空手が出来ると思われてるらしい)


自分の知識や判断、感覚に自信が無いのか、質問調に語尾を上げながら話しをする人がいる。私はとても嫌いなのだが、英語にも同様に嫌われる話し方があるようだ。

会話の合間に "you know?" を挟むのがそれだ。頭が悪く見られるらしい。

そう言えば「頭がいい人、悪い人の話し方」なんて本が流行っているところをみると、話方を気にしている人って、案外、多いのかもね。


頭が悪く見える話し方もあるんだろうけど、話す内容や文化に対する無知でも頭が悪いことがばれちゃうから、そこんんとこも、気を付けないといけないね。

2005年04月18日

デセプション・ポイント

今月に入ってから、AⅡ受容体拮抗剤を販売しているメーカーが『低血糖が起きました』と頻繁に連絡に来ている。

このAⅡ拮抗剤のインスリン感受性 UP のメカニズムは、以前から指摘されていた。


インスリンの血糖降下作用の本流の機序は、、、インスリン受容体にインスリンが結合すると、IRS蛋白がリン酸化されてPI3-キナーゼとのカップリングが起こり、糖の輸送担体である GLUT4 が細胞膜表面に移行して糖が取り込まれるということだ。

平時(基礎代謝状態)のブドウ糖取り込みは、細胞膜に常駐している GLUT1 が担っていると言われている。インスリンの影響は受けない。

そして、AⅡによるインスリン感受性への影響は、まず、AT1受容体を介して“IRS蛋白のリン酸化”を阻害し、インスリン抵抗性を惹起すること、それから、AT2受容体を介して“AT1の逆の作用”、すなわち最終的に GLUT4 のトランスロケーションを促進し、インスリン抵抗性を改善することが挙げられる。

尚、この詳細な情報伝達系は解明されていない。(私が知らないだけかも?)


血管壁細胞での高濃度インスリン刺激は、内皮細胞のACEや平滑筋細胞のアンジオテンシノーゲンを増加、 AT1受容体の発現を増強するというのは、高インスリン血症が高血圧を誘導する説明に使われる。


AT1受容体拮抗剤の中で、インバースアゴニスト作用のある薬剤を販売しているメーカーに、ずばり、低血糖の誘発機序を聞いてみたことがある。(AⅡの受容体は G蛋白共役型だから、ただの拮抗薬では、血圧が下がってメカニカルストレスが解除されたことに伴うAT1の活性化抑制機序が排除できないからだ。)


それによると、『AT1受容体刺激をブロックすることでAⅡの作用を阻害し、AT1受容体に結合できないAⅡがAT2受容体を刺激することにより、GLUT4 のトランスロケーションを増強する』という、まさに、お約束の回答が帰ってきた。
 
 
 
---な~んだ、それだけかよ---

“IRS蛋白のリン酸化”を阻害する具体的な情報伝達系路やAT2受容体の“反AT1受容体効果”の詳細な情報伝達系路が説明され、『これこれ~なので、低血糖が起きました』なら、興味津々で聞くってもんだ。

その症例は、PPARαやPPARγのリガンドが併用されていたり、IKK-βの生成に影響を与える薬剤の影響が考えられますとのコメントと共に情報提供がなされれば、少しは“質の高い情報”となるんだろうけど、これじゃいつものように、情報の垂れ流しだ。“低血糖を起こした患者の SNPs の解析情報もあった方が良いのだが、これらは、何故か提供されない。調べてないのかも?!


これじゃ、ハイリスク患者への投薬を回避するのに何の役にも立たないし、そもそも、ハイリスク患者の特定も出来ない。

そして、いつもの通り、『ハイハイ、了解しました』と手渡された資料はごみ箱に直行となる。
 
 
 
---もっと、情報を出せよ!---

吟味した情報も出さないくせに、情報そのものも出し渋っている。
 
 
 
閑話休題

今回、言いたいことは、メーカーのいつもながらの姿勢を批判することにあらず、『情報分析官』は誰がやるのか?だ。

20050418.jpgアメリカ大統領の周辺には優秀な“分析官”という人間がゴロゴロいる。この間、読み終えた『デセプション・ポイント』でも登場している。映画では、その分析官が主人公になる場合すらある。大統領は人物ではなく職務である。だから、その職務に就く人が最終的にそれぞれの分野で単純化されたオプションを選択できるようにそれぞれの分析官が頭を使う。


医療の第一線で“薬物治療”に携わる“職務”はこの情報を分析する能力が無くてはならない。
メーカーから齎される情報を統合し“分析”する能力が必要だ。

だけど、この『情報分析官』を誰がやるのか?ということに対して、医療業界は非常に曖昧だ。ある時はメーカーが、ある時は医師がと、行き当たりばったりだ。

医師は、最終的に簡素化された薬剤情報と、個々の患者の病態という膨大な情報を吟味して、それに応じた薬物を選択する。個々の薬剤に関しての情報を分析している“暇”はない。

メーカーにしても、何が重要なのかがハッキリとしないまま、情報の取捨選択(放出制限?)をしている。まして、メーカーが扱うデータは“個を無視した平均値”だ。

重要度が解らないのなら、情報は全部出せば良いんだけど、出しても、それを分析できる“職務”が存在していないのが、現在の日本の医療の世界ではないだろうか。


ふと、そんな事が頭に浮かんだ。

アレっ、でも、それって、自称“薬の専門家”の仕事のはずじゃ?

存在自体が臨界点 (deception point) に達しているのかもしれない自称専門家さんには、任せてもらえないのかな・・・。


それにしても、行政は『報告させた』、メーカーは『報告した』、医療現場は『報告受けた』と意味の無い情報に意味付けして、各々自己満足している・・・欺瞞の世界だが、気づいているものは少ない。。。。のかも。

2005年04月26日

MMJ (The Mainichi Medical Journal)

JAMA《日本語版》が先月3月で休刊になった。米国医師会の経営上の国際戦略の変更から、毎日新聞社が JAMA《日本語版》を発行するライセンスが中断されたのだが、毎日新聞社は、ちゃっかり、新しい総合医学雑誌を用意していた。

新しく発売されたのは、MMJ (The Mainichi Medical Journal) という名前で、臨床系の BMJ , JAMA , Lancet , ENJM , Nature などからトピックスを拾って、その内容を要約・紹介している。

いま、ざぁ~っと目を通したところだ。


---いらないかも?---

独断と偏見で、毎日、インターネットなどからトピックスを収集しているが、かなり、重複する(知っている)内容っぽい。

でも、雑誌という形態はゴロゴロしながら読めるし、それに、リアルタイムではない時に、再び『あぁ~、こんなの見たなぁ』と記憶が蘇らされるのも、いい事かもしれない。
独断と偏見だけじゃ、見落とすところも多いし。

あと、良いところは、製薬メーカーの広告が少ない所だ。毎日新聞がんばれ!

2005年05月31日

副作用は“アルツハイマー病”

久しぶりに、血圧が上昇して目が醒めた。
普段、私は血圧が低いので、朝方は脳が発火しない事が常なのだが、久しぶりにドキッとする論文が Nature に掲載されていたのだ。

原文のタイトルは『Diverse compounds mimic Alzheimer disease-causing mutations by augmenting Aβ42 production』だ。トピックスに取り上げているので、興味がある方は、そちらもご覧あれ。


まぁ、薬は健康な人にとっては“毒”なのはわかっているつもりだったが、世に出る論文の多くは、医薬品の優れた面を強調するものばっかりで、ネガティブなものは少ない。

そんなことは、わかっているのだが、ついつい、そのロジックに魅了されてしまって、自分でも『のんだ方が健康になれるなぁ』なんて勘違いしてしまう。

たとえば、アンジオテンシン系を“弄る”薬は“腎臓に良い”“糖尿病の合併症のみならず発症も遅らせる”機序が明確に記されていると、それだけで感心してしまって『目から鱗が落ちた』なんて、簡単に洗脳されてしまう。(特に遺伝子の転写を制御するロジックに弱い)
 
 
 
今回、Nature に掲載された論文には、フェノフィブレートとCOX-2選択性NSAIDのセレコキシブが、遺伝子の異常によって誘発されるAβ42の産生増大にほぼ匹敵する程、その産生を増大させるというものだ。


---アルツハイマー病誘発薬だな---

フェノフィブレートは日本でも薬価収載されている。セレコキシブは認可されていないけど、ほとんどの COX-2 阻害薬には同様の効果があり、安心は出来ない。
しかし、COX-2 阻害薬の中には逆に、Aβ42の産生を減少させるものもあるとの事だから、薬理作用から来る副作用ではなさそうだ。


しかし、アルツハイマーが“副作用”だなんて、シャレにならないよな!


幸い、私はどちらも服用していないので、ビビったわけではないけど、今、服用を続けている方(患者さん)を思い浮かべると複雑な気持ちである。
治療は優先しなければ、原疾患で不利益を被ったり、著しく QOL が損なわれたりするからだ。

だけど、、、、いや、、、、、これは、本当に難しい問題だ。治療を受ける方の人生観にも関わってくる。

健康診断を積極的にやって、初期の病気の芽を摘むことが良い事だと信じている(医療従事者には多い)人もいれば、そんな初期の病変なんて寿命まで影響を与える因子にはなり得ない場合もあるんだから、病気の治療なんてものは症状が出てから行う位で十分だと考える人も(医療従事者の中にも)いる。


結局、言い古された言葉だけど、医療のプロは、情報を提供し患者本人に選択させる事が良いという事になる。

しかし、ここには、大きな落とし穴があり、その情報を患者が100%理解できないから、正しい選択が出来ないという説を展開する人がいるが、それを踏まえて尚、患者の意志で治療は行う方が良いと思う。。。。かな。。。。(理解できなきゃ正しい選択も押し付けになり、予測不能の自体が発生したら、恩がアダにもなる)


マウスでの実験結果である為、メーカーがどのような動きを見せるかが、また、別の興味を引くところでもあるが、アストラゼネカがイレッサの情報を故意に操作したように、推して知るべしのところでもある。
ただし、自社の損に繋がる行為は、へたすりゃ、背任にもなりかねないから気持ちは分からないでもないけどね。


『同じ哺乳類とは言えマウスだから人には・・』或いは『同じ哺乳類なのだから人でも同じ・・』と両端の考えが、私の脳みそで錯綜するが、一つだけ、信念が強固になった。

それは、昔からの服薬に対するスタンスなのだが、、、、

必要の無い薬は飲むな!
念のための薬は飲むな!

である。服薬を迷って、アドバイスを求めてきた人に対して、サプリメントも含めて、いつも指導してきた事でも有る。


服薬させてナンボ、薬を売ってナンボの世界に身を置いているのだが、事実を知ってしまったからには『積極的に服薬を奨める』という行為を敢えてしない、そう、積極的な怠慢(未必の故意)をすることにしよう。

日本では“未必の故意”には情けが深いから、利用させてもらう事にする。

2005年06月11日

清潔でガン

British Medical Journal誌2005年6月4日号に、興味深い論文が掲載されている。


『乳幼児期に清潔にしすぎると、小児白血病になり易い』というものだ。

≪乳児期からの集団保育は小児白血病にかかるリスクを半減させる--英国研究≫

 生後早くからほかの子どもたちと接触し、一般的な感染症にかかる機会がある子どもは、代表的な小児癌のひとつである急性リンパ性白血病にかかるリスクが大幅に低い――こんな研究結果が明らかになった。英癌研究所のClare Gilham氏らの研究で、種々の感染症に暴露する頻度と、小児の急性リンパ性白血病(ALL)の関係を調べ、生後早い時期から、集団保育などの機会がある子どもは、ALLのリスクが半減することを明らかにし、British Medical Journal誌2005年6月4日号に報告した。

 小児の白血病と感染の関係は、1940年代から論じられてきた。1988年、乳児期に病原体に暴露されることが少なかった子供が、幼児期に入って多くの感染を経験すると、小児白血病の代表型であるB前駆細胞型ALLを発症するのではないかという説が提唱されている(Greaves、Leukemia誌2巻120-125ページ)。

 大規模な集団ベースのケース・コントロール研究である英国小児癌研究(UKCCS)では、この仮説の検証を目的の1つとして、英国10地域で1991-1996年に実施された。実際に、様々な感染病原体への暴露の可能性を調べることは困難であることから、著者らは、自宅外で他の子どもたちと接触する社会的活動の頻度を代替変数とした。

 分析の対象は、2~14歳で、癌には罹患していない小児6305人と、ALL患者1286人(うちB前駆細胞型ALL患者は798人、そのサブグループとなる染色体過剰=hyperdiploid ALL=患者は420人、TEL/AML1融合遺伝子が見られるALL患者は139人)、そして参照集団としてALL以外の小児癌の患者が1854人。

 研究グループは、小学校入学までの特定の活動への参加頻度や活動の内容を、親を対象とする面接により調査した。社会的な活動とは、定期的に(週1回以上)自宅外で行われ、兄弟以外の子供が参加するものとした。保育は、託児所、保育園、プレイグループなどに週1回以上参加すること、正規の保育とは、4人以上の子供と一緒の、半日の活動を週2回以上行うこととした。

 2歳以上の子供を持つ母親の86%が、生後1年間に自宅外での社会的活動に参加していたと答えた。何らかの活動への参加によりALLリスクは減少した。活動に参加していなかったグループと比較すると、全ALLでオッズ比0.66(95%信頼区間0.56-0.77、以下同)、B前駆細胞型ALLで0.67(0.55-0.82)、hyperdiploid ALLは0.64(0.50-0.83)、TEL/AML1 ALLは0.59(0.38-0.90)となった。また、非ALL小児癌も減少が見られた(0.78、0.68-0.90)。

 いずれの場合も、ALL発症リスクは活動頻度が増えるにしたがって低下した(傾向のP値は、TEL/AML1 ALLと非ALL小児癌で0.04、あとは<0.001)。次に、全ALLと非ALL小児癌を比較したところ、他の小児癌に比べALLのリスク減少が有意となったのは、正規の保育への参加だった(オッズ比0.69、0.51-0.93)。

 保育などに通い始めた時期(生後3カ月未満、3-5カ月、6-11カ月)とALLリスクの関係を調べたところ、早期の参加がリスクをより下げる傾向は明らかではなかった。が、正規のデイケアに3カ月未満から参加していた子供のオッズ比は、非ALL癌を参照グループとした場合にも有意に低かった(0.52、0.32-0.86)。

 これらの結果は、生後数カ月間に感染の機会が少ないと、ALLを発症するリスクが上昇するという仮説を支持した。同様の関係は、1型糖尿病やアレルギーでも見られているという。生後早くからの適当な感染の機会は、子供の健康にとって重要だと考えられる、と著者らは結論付けている。

 日本でも最近、過度な潔癖の問題点を指摘する議論が出始めている。早くから、ありふれた感染を繰り返すことで免疫機能が育ち、大きな病気を防ぐ可能性を本論文では指摘している。子供同士がふれあう機会は、健全な精神的発達にも欠かせない。定期的に外に出ることで、母親のストレスが減少すれば、家庭内での母子関係もよりよいものになるだろう。

 本論文の原題は「Day care in infancy and risk of childhood acute lymphoblastic leukaemia: findings from UK case-control study」。

Hygiene Hypothesis が登場してから、アレルギー、自己免疫疾患につづき、とうとうガンにまで言及するエビデンスが揃ってしまった。

Q&Aの No.560 『補足説明:常在菌の存在意義』でも書いたことだけど、最近の“除菌・抗菌ブーム”には、呆れるばかりだ。


---人間の浅知恵で「よかれ」とおもってやることなんて、全く当てにならないな---


これは、常々思っていたことだ。
医学が日進月歩しても、生命の全貌を100としたら、まだまだ『1』くらいのところでうろちょろしているようなもんだろうって思う。


人間は、なかなか、自分のしてきたことを否定できないものだ。
特に役人などは、前例を頑なに守る。前例を作った人を否定することになるからだと聞いた。

前例なんて、クソくらえだ。自分のしてきたことが誤りだったら、ころっと手のひらを返せば良いじゃないか。良かれと思ってたことでガンが増えるなんて、青天の霹靂なんだから。

衛生環境にもJカーブがあると言うことが、これで明らかなにったのだから、マスコミは無知な国民を間違った方向に導かないように、即刻、あのアホなコマーシャルは中止すべきだ。


でも、マスコミって馬鹿だから、今度は不衛生を喧伝しかねない。こまったもんだ。
 
 
 
閑話休題

ブラックジッャクの愛読者だった私は、ふと、思い出した言葉がある。

『生き死にはものの常なり。医の道は他にあり。』(だったかな・・・)

この言葉は、刀鍛冶が死ぬ間際に残したものだったか、本間丈太郎が語ったものだったか、失念してしまったが、人間の智慧が及ぶ範囲なんてたかが知れているということを、当時、私に強烈に印象づけた言葉だった。


---また、読み返してみようかな---


20050611bj_13.gif

ふと、そんな気になってしまった。

2005年06月13日

大衆迎合とスタチン

毎朝、ズームインスーパーを見るにつけ、思うことがある。

---月曜日のコメンテーターは駄目だな---

一言で言うと、大衆迎合主義で、判官びいき。受け狙いのコメントしかしない。今朝だって、ニート(働かないばか者)の原因を一部上場企業や大学に求め、産・官・学が協力して問題解決にあたらなければならないなんて、頓珍漢なコメントをしている。

本気で思っているのなら、救いようの無い馬鹿だ。

どんな時でも『強きをくじき弱気を助ける』姿勢を見せていれば“受けが良い”なんて考えているのだろう。“大衆”も舐められたもんである。薄っぺらな善意を振りかざしても、本気で問題を解決しようと考えている人達の神経を逆なでするだけだ。

この人なら、うつ病の患者に同情して頑張れ!と励ますであろう。その程度にしか物事を考えない、思慮の欠けたコメントである。
 
 
 
 
閑話休題

相変わらず、スタチンで“ガンが予防出来た!”って報告が続いている。(トピックス参照)
相変わらずなんて表現してしまったのは、作用機序から考えれば当たり前のことだからだ。効果が100%じゃないのは、その癌細胞の増殖が、ras 系にどれだけ依存しているのかって事だろう。

スタチンで抑制されるコレステロール生成は最大で30~40%位だろう。供給される中間産物ファルネシル酸が減少するのも同じ事だ。これが Ras への転移酵素の効率が100%じゃないとして(これら酵素にしたって効率の個人差がある)、このような微妙な?ファルネシル化 Ras の減少が、細胞の増殖に影響を与えていることになる。

微妙な差だからこそ、100%の予防にならない訳だ。ある人にとっては、その程度のファルネシル化 Ras の減少では、細胞増殖の抑制にまで至らないと言うことだ。

生体内で細胞増殖を100%抑制しちゃう薬を使ったら、人は死ぬ!当たり前のことだ。中学生でもわかる。個人(ガン細胞)を殺して国(生体)を生かにゃならん訳だから、最初から難しいのはわかっている。

ならば、この微妙な“ファルネシル化 Ras の減少”のどこに、ガンの予防に役立つ人と役に立たない人の差を見出せば良いのか?

今のままでは、平均値としては予防効果があるのはわかるけど、個人にとっては何のエビテンスにもならない。わかるのはこの薬に予防効果があるらしいということだけだ。頭痛の時に服用するバファリンなら、程度の差こそあれ、万人が鎮痛する。このような薬なら、大規模臨床試験によって求められる個人差を無視した古典的な平均値でも“エビデンス(証拠)”として通用するが、半分の人には全く無意味な薬の服用が、このような大規模試験で“エビデンス”になるわきゃないのは明白だ。


同じ臓器から発生するガンだって、その遺伝子プロフィールに個人差があることがわかってきたことだし、もうそろそろ、臓器別に知見を貯えるような意味の無い報告は止めにして、遺伝子プロフィール別に知見を貯えるべきだ。試験のプロトコールそのものを見直おさなきゃならない。


それでこそ、予防薬としてのエビデンスになる。これ以外には無い。


もしかしたら、こんな分野(医学・医療)にも、臨床試験の意義・意味のわからない低レベルの医療従事者や素人相手にペーパーを乱発するレベルの低い研究者がいるのかもしれない。

大衆迎合主義なのか、はたまた、本当に馬鹿なのか?判断は難しい・・・・。
┐(´∀`)┌ヤレヤレ

2005年06月20日

旅行者下痢症に rifaximin

『旅行者下痢症に FDA が抗菌剤を認可』との記事(トピックス参照)に、、、


---またかよ!(菌を)殺しゃいいってもんじゃねぇだろ---


20050620.gif

antibiotics よりは sysbiotics , probiotics に心地よさ、生き物としての自然さを感じる私にとっては、当然、そう感じる訳だが、、、、。


一般名、rifaximin はイタリアで開発され1988年から使用されているらしい。気になって、ググってみたのだ。そして、rifaximin は消化管からほとんど吸収されずに、下痢時のターゲットオルガンのみで抗菌作用を発揮してくれるらしい。英語の諺では、「旅は心を広げ、お腹をゆるめる」とあり、フランスでは、「トゥーリスタ」(旅行者下痢)なる言葉もあるくらい、旅行=下痢との認識があるみたいだ。


ほとんど、国内のみで海外旅行をしない私にとっては、ついつい、日本の衛生環境が世界の何処でも同様なのだという感覚(錯覚)が染み付いていて、旅行=下痢じゃないし、抗生物質をやたらに使うことに抵抗感がある為、こういう記事には違和感を感じるのだが、こんなことで、まだまだ地球上にも私の知らない衛生状態が存在することも気づかせてくれる。
 
 
 
海外旅行は、したくないわけじゃなく、その反対で、いろいろなところに行きたい。

その為、クリティカルな感染症の予防接種に関しては、常々、気を付けているのだが、“下痢”程度の“腸内細菌叢の乱れ”には殆ど注意を払っていなかった。

特に行きたいところは、イタリアから地中海を時計回りに・・・ヘラクレスの柱まで、って、考えてみれば下痢しそうだ。日本のように魚介類流通にコールドチェーンがあるわけじゃなさそうだし。

下痢すれば、ホテルに缶詰になるし、予定がおお狂いだ。下痢しないに越したことは無い。

それに、rifaximin は耐性菌を生じにくいらしい。機序の情報を正確に掴んだ訳ではないので、なんとも言えないが、“抗生物質乱用による耐性菌の出現助長”のような良心の呵責に苛まれることもないだろう。
 
 
 
というわけで、 sysbiotics , probiotics 党の私にも rifaximin は抵抗無さそうだ。でも、フランス語に「トゥーリスタ」ってのが有るのには笑った。フランス人は日本人より“抗生物質”が好きらしいからね。

2005年06月21日

スタチンのガン予防効果の新機序?

ほほぉ!なるほどっ。って感じた内容だよ!今回のは。


この論説は、、、
大衆迎合とスタチン』で触れたガン予防の機序にあらたな追加をすることになるのか?
 
 
 
nature japan cancer update の web サイト上で HIGHLIGHT として6/20 付けで掲載されている『治療 的外れ効果』がネタになっているのだが、スタチンのガン予防効果に関して言及している論説ではない。

Ras のファルネシル化を阻害すれば、Ras の活性化を阻害できる。その為、ファルネシル基をRasに付加する酵素を阻害する薬が“抗がん剤”として使えるのでは?とのロジックから開発途中に有る ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)阻害因子(FTI) の機序についての論説だ。

この論説では、FTase を阻害するだけが FTI の抗がん効果の理由ではなさそうだ。別の経路(FTaseとは関係ない経路) でも、その“抗がん効果”が証明できる。と解説している。

理解を深める為にも、まずは、これをご覧くだされ。
Office Oh!NO トピックスにも収録してあるので、後で参照したくなったけど URL を失念したので見られないなんて場合にはこちらを利用してね。

治療:的外れ効果 McCarthy Nicola

ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)阻害因子(FTI)は、癌遺伝子RASを阻害する目的で開発されたが、FTIのin vivo効果は散発的で、RASの活性化とは無関係であることが明らかにされている。Lacknerらは、FTIの雑多な挙動の原因を明らかにする的外れ効果を解明している。

Ftaseは、さまざまなタンパク質の翻訳後修飾にきわめて重要なプレニルトランスフェラーゼ3種のひとつである。Ftaseはゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ1 (GGT1)と密接に関わっていることから、FT1によるGGT1阻害の逆スクリーニングがすでに実施されている。RABゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(RABGGT)の構造は、FtaseおよびGGT1とは明らかに異なっていると考えられ、FTIが的を外す可能性は低いということになっていた。

Bristol-Myers SquibおよびExelixisの研究チームは以前に、FtaseまたはGGT1の阻害とは独立した機序によりアポトーシスを引き起こすFTIがいくつかあることに言及している。Lacknerらは、上記阻害因子の活性に関する理解を深めるため、線虫Caenorhabditis elegansを用いた。この線虫の生殖細胞には、成熟途上で自発的にアポトーシスを来すものがあり、この研究チームはまず、一部のFTIにアポトーシス生殖細胞の数を増大させる能力があることを突き止めた。

この研究チームは、新たなFTIターゲットを特定するため、順遺伝学的な化学的突然変異誘発スクリーニングおよび逆遺伝学的スクリーニング(RNA干渉:RNAi)を用いて、同じく向アポトーシス表現型を与える遺伝子の獲得または消失がないかどうかをみた。この研究チームは、順遺伝学的方法を用いて、破断された遺伝子座4部位を特定し、生殖細胞の最も高いアポトーシスレベルと相関する1部位について、さらに分析した。この変異遺伝子は、タンパク質移動に関与するタンパク質VSP41をコードしていた。Lacknerらは、RNAiノックダウンスクリーニングにより、VPS41と結合してHOPS複合体を産生する別のタンパク質5個を酵母で特定した。

HOPS複合体はRAB7 GTPaseとともに、エンドソーム-リソソームおよびオートファゴソーム-リソソームのドッキングおよび融合により、タンパク質移動を促進している。タンパク質移動に関与し、RABGGTによって修飾されるC. elegansのrab-7およびrab-5を標的としたRNAiを実施したところ、生殖細胞系のアポトーシスが誘導された。しかし、酵母の自食作用特異的遺伝子相同体を標的としてRNAiを実施してもそうはならず、向アポトーシス反応にはエンドソーム-リソソーム機能の破綻が重要であることがわかる。

では、アポトーシスを引き起こすFTIは、RABGGT経路に影響を及ぼすのだろうか。Lacknerらは、線虫のRABGGT活性を阻害すると、向アポトーシスFTIに反応してアポトーシスレベルが高くなり、このことがRABGGT阻害能と相関していることを明らかにしている。これは、哺乳動物の細胞にも当てはまるのだろうか。FTIをさらに19種類スクリーニングしたところ、FTIによるアポトーシスとRABGGTの阻害とのつながりが強まった。さらに、Lacknerらは、ヒト肺癌細胞系を用いて向アポトーシスFTIとアポトーシスを引き起こさないFTIとを比較し、両化合物ともFTase を阻害するものの、RABGGTを阻害するのは向アポトーシスFTIのみであることを突き止めた。さらに、哺乳動物細胞のRABGGT を標的としたsiRNAによってもアポトーシスが誘導された。

Lacknerらはこのほか、RABGGTの - または - サブユニットをコードするmRNAが、正常組織と比較して、さまざまなヒト腫瘍試料にきわめてよく発現していることを示している。このように、上記所見からは、RABタンパク質の翻訳後修飾の阻害によってアポトーシスが誘導されることがわかり、これが一部のFTIの作用様式を明らかにしている。しかも、RABGGTおよびおそらくはリソソーム-エンドソームの移動が今後、治療標的となりうる。

さて、この論説からわかることは、これまた、明快だ。

本来、酵素阻害剤は基質特異性があるので、結合できない酵素には影響を及ぼさないと考えられる。FTI は FTase には結合できるけど、RABGGT には結合出来ないはずだった。

だけど、何故か、ある種の FTI は RABGGT の働きを阻害する。

RABGGT は、エンドソーム-リソソームおよびオートファゴソーム-リソソームのドッキングおよび融合により、タンパク質移動を促進している蛋白質をゲラニル化する酵素だ。
結局、このゲラニル化が上手く行かないと、その細胞はアポトーシスに陥る。(論説では、RABGGT のターゲット蛋白である rab-7 , rab-5 を RNAi でノックアウトしてこのカスケードを破綻させて見ているが、同じ事だ。)


この事実から、スタチン系のガン予防を考えてみると、結局、HMG CoA reductase 阻害により、ゲラニル化の原料が減少する訳だから、RABGGT を阻害するのと同様に、アポトーシスが誘導されると。

結局、スタチン系のガン予防効果は“増殖の抑制とアポトーシスの促進”の二本立てで考えられると言うことだ。
 
 
 
って、尤もらしい機序を展開してしまったが、全くのシロウトの理屈のこねくり回しである為、そのまま覚えないで貰いたい。また、考えが誤りであったり、或は、そんな事は周知の事実だよっていうのであれば、どうぞ、指摘してくだされ。
(回りに指摘してくれる人がいない時にこそ、ネットの威力を痛感します。有りがたいですよね。)

2005年06月22日

サプリメントでも目から鱗が落ちことがある

思い込みは危険だ。
しかも、盲信してしまっている事は、疑うことすらしないし。


JAMA誌2005年6月15日号に、『Fish Oil Supplementation and Risk of Ventricular Tachycardia and Ventricular Fibrillation in Patients With Implantable Defibrillators』っていう論文が掲載されている。

埋め込み型除細動器使用者では魚油サプリが逆効果(催不整脈)を示すと言うのだ。

今の今まで、魚油は良いことはあっても、悪い事は一つもないだろうって思ってた。
何で、思い込んでいたか、今更、理由なんて思い付かない。さしたる根拠、証拠もなしに、そう思い込んでいたのだ。エスキモーの人達に心血管疾患が少ないのは、魚を食べてるアザラシを主食にしているから、オメガ-3多価不飽和脂肪酸(PUFAs)を多量に摂取している・・・なんて話は頭にこびりついている。それくらいしか、思い付かないのだが、何故か、盲信していたところがあった。


MMJ (JAMA 日本語版の頃からだが) の付録で Evidence Based Supplements (EBサプリメント) なる雑誌が付いてくるのだが、『フン、サプリメントなんて』・・・って半分眉唾ながらも、ペラペラめくって読んでいるのだが、これがなかなか、効果の理屈が理論的だし、臨床データも馬鹿にならない。でも、魚油に付いては、新しいトピックスも無いだろうって思い込みから、じっくり読んだことも無い。
 
 
 
そんなこんなで、今までは、セイヨウオトギリソウくらいは、医療用医薬品との併用に注意してあげてもいいかって位の位置づけだったサプリメントだが、魚油も要注意の一つとして、脳味噌に叩き込まなきゃならなくなった。
 
 
 
何故、こんなショッキング(予想と反対)な結果が出たのか?

これにも、思い込みが関係する。つまり、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)は突然死を惹起するものだとの思い込みだ。
論文では埋め込み型除細動器使用者の心臓突然死と関連付けている訳じゃなく、あくまでも不整脈が惹起されるとしている。
魚油の効能を調べるにあたり、エンドポイントを突然死に置いている試験では、魚油は突然死を防ぐ効果があるとの結果が出る訳だが。。。
今回の結果は、逆に、オメガ-3PUFAsによる心臓突然死予防効果は、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)の抑制を通じて得られているのではないことを示唆しているとも言えるわけだ。

もともと、心室頻拍(VT)/心室細動(VF)と突然死は因果関係がないのなら、ショッキングでもなんでもないデータのなだが、本能的にも不整脈は“命がヤバイかも”って思わせるから、心情的には納得がいかない。
 
 
 
不整脈と突然死の関係も単純じゃない!ことにも驚いたが、もしかしたら、見かけ上、不整脈と突然死が因果関係有りとされていることも、実は、全く関係ない因子が関与している可能性も有るって事だ。


兎に角、コレステロールの生合成経路一つ取ってみても、最終段階の産物だけが生理機能に関与している訳じゃなく、複雑なの段階にあるそれぞれの産物も、また、生理機能を担っている訳だし、心臓の生理だって単純じゃない事は想像に難くない。単に今ある知見だけを根拠にいろいろ治療している訳だが、結果オーライなだけかもしれないいと思うと、やりきれない。(そう言えば、スタチン系薬剤服用者では CoQ10 の de novo 合成も抑制されるのでサプリメントで補充した方が良いなんてものあった。理由は左心室機能パラメータが改善するからだってさ。横紋筋融解と CoQ10 が関係有るってなデータが出ると面白いんだけどね。)


でも、やりきれないのは医療従事者の立場としてであり、個人的には、生命の神秘に迫れるので、楽しい!!

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2005年07月05日

世の中の至る所に転がっている話?

一般的な概念からすると、全体を考える上でその一つの要素と見られるものは、簡単に考えがちだ。要素は単純な方が都合が良いから、そういう思い込みもあるだろう。

このような考え方に警告を鳴らす論説が掲載されている。まず、ご覧頂きたい。(例によって、トピックスにも収載したので、後日、本家のリンクが切れた後は、こちらを利用してくだされ。)

免疫療法:そんなに先を急がないで... Lesley Cunliffe

腫瘍反応性T細胞をin vitroで活性化および拡大してから患者の体内に戻す養子細胞移植療法(ACT)は、転移性充実性腫瘍に対する臨床反応をなんとか上手く誘導できる数少ない癌免疫療法のひとつである。ACTが特に魅力的なのは、特異的T細胞を、その機能的特性により選択した上で患者に移植できる点である。しかし、T細胞分化のどの段階が、in vivoでの腫瘍の治療奏効に関わっているかは十分に検討されておらず、現在のT細胞選択基準ではin vivoでの有効性が保証されない。

Gattinoniらは、CD8+ T細胞の機能を種々分化段階(ナイーブ、初期エフェクター、中期エフェクターおよびエフェクター)で分析し、これが腫瘍退縮をメディエートするT細胞の能力に影響を及ぼすかどうかを、マウスモデルを用いて明らかにしている。それによりGattinoniらは、高度に分化したエフェクターT細胞は、in vitroで最も効果的な抗腫瘍作用を備えているが、in vivoでの効果は、ようやく初期エフェクター段階に達したT細胞の100分の1であることを突き止めたのだ。実際、診療所で使用するT細胞の選択に現在用いられている特徴(インターフェロン 放出とin vitro細胞毒性)は、in vivoでの抗腫瘍有効性と負の相関関係にある。

マイクロアレイ分析を実施したところ、高分化T細胞ほどBID、BADおよびFASリガンドといった向アポトーシス分子をコードする遺伝子や、複製老化を引き起こす遺伝子の発現レベルが高かったことから、こうした細胞がin vivoであまり「フィット」しないことが明らかになった。しかも、移植したT細胞のin vivoでの増殖能は実際、in vitroでの抗腫瘍機能を漸次獲得するごとに低下する。

初期エフェクターT細胞を分析したところ、CD26Lマーカー(CD62Lhigh)を高レベルで発現し、外見は対になるCD62Llowと類似しているものの抗原接種後にすぐれた抗腫瘍効果を示す亜集団が特定された。CD62Lhigh細胞は優先的にリンパ節に戻り、このマーカーが移植されたT細胞に、接種の結果として腫瘍抗原を発現しているプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)を狙わせることが、分析から明らかになった。T細胞分化によりCD62Lが消失すると、APCとの相互作用が損なわれ、T細胞のin vivoでの活性化および増殖が弱まることによって、抗腫瘍活性が抑制される。

以上のことから、リンパ節ホーミング分子の発現レベルが高い初期エフェクターT細胞が、ACTに用いるT細胞として最良のものということになる。しかし、臨床的に治療効果のある細胞数を得るのに必要なin vitroでのT細胞拡大の段階では、必ず分化およびこの重要な細胞マーカーの消失が引き起こされる。目下、T細胞増殖の誘導にはインターロイキン2 (IL-2)が用いられているが、IL-2は分化をも誘導する。しかし、Gattinoniらは、IL-15が分化と増殖とを引き離して大量のT細胞を産生することでCD62Lが保持されやすくなり、ACTで用いた場合の効果が著明に大きくなることを明らかにしている。

以上の所見は、臨床治療法としてACTをさらに開発するのにきわめて重要となる。しかもGattinoniらは、現在のT細胞選択基準を、分化度が低く効果の高いT細胞を選択するものに改める必要があると提案している。


ご用とお急ぎの方の為に、簡単に説明すると(簡単だから誤解される可能性が有るので、道筋が見えたら、原典を必ず見くだされ)、がんを治療する方法の一つに、免疫力を高める方法がある。その免疫力の指標を試験管の中で調べた結果は、実際の体の中での実際の効果と一致しない。そればかりか、反比例するというものだ。

20050705rubens-judgement-paris.jpg
 
 
 
私達は、日常生活で、気軽に“免疫”という言葉を使っている。
人それぞれにイメージする“免疫”があるのだろう。
そして、その“免疫力”と言う言葉を使うシーンは、ほとんどの人の場合、健康に付いての会話の中でである。

『あの○○は、免疫力を高めるから、健康に良いのよ』と。全体(健康)を考える上での一つの要素(免疫)として扱っている。

理屈は、単純明解で整然としている。反論の余地はない・・・・ように見える。


しかし、この「免疫力が高まる」という現象が、実は単純な指標では計れないものだとしたら・・・・、反論の余地は十分に残されていると言えるだろう。


たとえば、怪しい“キノコ”の免疫力増強を詠って、少数の“ガンに効いた”症例を裏付ける為に、実験によるデータを添付して、科学的ても尤もらしく説明しているサイトや広告を見かけるが、こんな、実験だけで、トータルの表現形としての免疫を証明出来るものではない事を、この論説は証明している。
 
 
 
私は、免疫学をライフワークとしているが、免疫学は、理解が深まれば深かまるほど、結果が予測出来なくなる。逆に、結果を見れば、その道筋は簡単に説明できるだが・・・。

免疫は、主人公が一人、二人の単純なストーリーではなく、それこそギリシャ神話に登場する神々のように数多くの主役が織り成す、壮大なスケールの物語なのだ。トロイア戦争が起こった原因を考える時、ゼウス陰謀で、諍いの神エリスがテテュスとペレウスの結婚式にリンゴを投げ込む事まで考えなきゃならないのと同じだ。パリスが誰が一番の美女かを選ぶ事が、自分の父親を(知らずに)殺すに至る事、絶世の美女ヘレネと恋に落ちる事(戦争の直接の引鉄)を、一連の繋がりと考える事も出来るし、独立した事象と考える事も出来る。

目に見える形での出来事でさえ、結果に与える因果を証明する事も難しいのに、分子や細胞と言った目に見えない世界で起こる結果の因果を証明するのに、ごく一部(試験管の中での一つの化学物質“サイトカイン”など)だけに注目して、結果を云々するほどナンセンスな事は無い。


免疫現象は、健康の一部の指標ではなく、生命の根幹を担う“システム”なのである。

であるから、一部の現象を、しかも、体から切り離された試験管での結果が、システム全体としての表現形を予測するには、土台、無理が有るのだ。(一般の方には、『免疫の意味論』と『生命の意味論』多田 富雄 著を読まれる事を御勧めする。)
 
 
 
しかし、現実の世の中では、たった一言“免疫”で事は済んでしまう。専門じゃ無い人、一般の人はそんなもんかもしれない。(だから、騙されるとも言えるのだが・・・)


まぁ、こんな話は、業種・業界を越えて、世の中の至る所に転がっているのかもしれない。

私にとっては、インチキ健康情報を、一刀両断にする頼もしいツールを手に入れたようなもんだから、素直に嬉しいのだが・・・。
 
 
 
p.s.フロイトは歴史的事実を程程に受け入れつつ、モーゼの行動をその精神的な面から解釈し、彼をユダヤ人ではなくエジプト人であるとした大胆な仮説を『モーセと一神教』の中で唱えている。もしかしたら、これが事実かもしれない。
人は、あまりにも、当たり前の事として事実を見せられると、新しい発想が出来なくなってしまう。また、それを拒否する。
だから、なまじ、色んな事を知らない方が、真実に近づけるという考えも有る。

でも、この『事実として眼球で確かに見ている』・・・・と言った事さえ、オリヴァー・サックスの「火星の人類学者」を読んでいると信じられなくなる。

一体、どうしたらいいのだろう?
結局、人間の智慧なんて浅知恵で、どうでも良いのかもしれない。

2005年07月11日

カウントダウン開始 --- シミジミと。

『医薬品の処方が各個人の薬物代謝能や薬物標的分子の応答性の差異を生じる要因(遺伝子多型)を考慮せずに行われていた』ことが驚きとなる日が、もう、そこまで来ています。

Office Oh!NO のテーマというか、サブタイトルというか、私からのメッセージというか・・・。


今だからこそ、って言う事じゃないんだけど、、、たまたま、目に付いた記事に思いが・・・・・。

ロシュ・ダイアグノスティックスのプレスリリースによると、シトクロムP450の遺伝子型調べるDNAチップの臨床試験を年内に3件開始するという。


本当に、時代は、もうすぐそこまで来ているなぁ!!って、カウントダウンが開始されたみたいで、感慨深い。

ロシュと言えば、すぐに思い出すのが“PCR法”の開発者が所属している会社ということだ。やっぱり、遺伝子関係は強いのかなぁ!って単純に思ってしまう。
 
 
 
ある時期(約一月間)、とある場所に仕事のお手伝いをしに行っていた事がある。そこに、たまたま、日本で一番入学が難しい大学薬学部の博士課程の学生さんが研究に来ていて、私も興味津々でぺちゃくちゃと。。。。その学生さんの研究テーマは、たしか遺伝子診断キットに用いる遺伝子を釣り上げる為のプローブの作製だったと記憶している。

で、将来、何するの?と聞いたら、ロシュに行くと。そこで遺伝子の研究を続けるんだと言っていた。

やっぱり、遺伝子やるならロシュなのだと。
 
 
 
以前、WebMaster's impressions に『危険・・・?』(2001/05/07)と題して、日本の医療費(国民の血税)からも莫大な額が海外に流れているという事を書いた。

医療における知的所有権のほとんどが欧米に独占されている事実に、日本に金が落ちるようにしなきゃ(日本の研究者が頑張らなくっちゃ)、日本の将来、真っ暗闇よ~って内容だ。この延長線上に、優秀な研究者を優遇せよ!とか、優秀な人材には手厚い待遇を!との考えに至る訳だ。

結果の平等を求める、共産主義的な民族である日本人には、難しいのかもしれないが、そんな事をやっていると、優秀な人は海外(外資系企業)に行くだけだ。“頭脳”が海外に流出してしまうのを目の当たりにしている私には、他人事には感じられない。
 
 
 
共産主義国には宗教は存在しない。その無宗教なところも日本に似ている。資本主義はキリスト教から出発しているということを、今一度、再確認したほうが良い。

日本人は“資本主義”を誤解している。たぶん、『自分が得するために競争的に努力する。』って思っている人がほとんどだと思う。

---ちがうんだなぁ---

受け売りなんだけど、資本主義は、Justice and Utility という形而上理念の現実型、実践型だ。巨大資本を獲得できる優秀な人間が頑張って、「ひとまず」たくさん利益を得る。

その次に、その利益を弱者に配分するのが資本主義の基底にあるキリスト教の精神なのだ。
(マックス・ウェーバー著「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」より。注:1)


でも、日本人は、キリスト教の精神(ってゆーか宗教)が無いから、結局、『自分が得するために競争的に努力する。』だけになっちゃうのかもね。

日本の偉い人達は、そういう事だと、とっくに知っていたので、取り敢えず目に見える形で“平等”を目指したのかもね。
 
 
 
今回の WebMaster's impressions は、ほんとに、雑感だなぁと、思う。ほとんどの場合、書き始める時には最後の一言が決まっている事が多いからだ。

しかし、今回のは、書き出す時には、『シミジミ』しかなく、思い付きが思い出に到達して、別な思い付きを呼び・・・、ほとんど脈絡が無い。。。たまには良いかっ!


注1::論文書く時の、リファレンスの孫引きひ、孫引きのようなもので、自分で読み切って主旨を得た訳じゃないので、偉そうにしてゴメンナサイ。

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2005年07月15日

クローンの逆襲(エピソードⅡ)

昨日、スターウォーズ・エピソードⅢを観てきた。
当日は、早起きして、The Phantom Menace(エピソードⅠ)と Super Battle Droid(エピソードⅡ)で復習してから出かける用意周到ぶり(バカ)だ。実は、その前日には、シリーズ最終話となるエピソード6を見て、アナキンとルークの心の交流を再確認している。

唯一の不安は、娘の茉莉(2歳7ヶ月)だ。
スターウォーズシリーズは、何故か気に入っていて、ニモ(ファインディング・ニモ)とエルモ(セサミストリート)の次にジャージャービンクスで、ご機嫌がとれる。

大音響さえ、何とかなれば見続けられるだろう、騒いだらどちらかが連れて出ればいいとの安易な判断(事前にどちらが出るかも決められない優柔不断)で連れていったのだが、結果から言えば、最後まで、騒ぎもせず親を映画鑑賞に集中させてくれた。(途中の1時間半位、お昼ねしちゃったのも、結果に多いに貢献)

さて、タイトルを revenge of the sith(エピソードⅢ)とせず、クローンの逆襲としたのは訳があるのだが、それは、 Nature June 30, 2005 (続きに本文あり) に面白い報告があったので、シャレてみたからだ。

WebMaster's impressions に書くくらいだから、映画の話で終わる訳は無いのは、お察しの通りだが、これ、本当に“世界初の発見”だから、びっくり仰天したわけだ。


こっちの『クローンの逆襲』は、アリの世界の話しだ。ここに登場するアリは、どう考えて良いやら、いろんな価値・判断基準などに影響を与えてくれそうだ。


無性生殖から有性生殖に切り替える事が、種の繁栄(遺伝子を後世に残す)に繋がることは、生物学のセントラルドグマだ。すなわち、多細胞生物にとっては、無性生殖より有性生殖の方が遺伝子の改変の確率が高まるので、環境によるスクリーニングで選択される確率が上昇するからだ。

しかし、有性生殖はエネルギー面から見ると、実は、ムダが多い。(注1)

このアリ達は、過去の産物である無性生殖によって遺伝子を残している訳だから、一見、退化と呼べそうな“在り方”をしているが、実は、その無性生殖による環境適応能力のデメリットを社会システムでカバーするという、エネルギー面から見ても無駄の無い、非常に進化したシステムを構築しているのではないか?との見方も出来る訳だ。


で、その“社会システム”とやらを作る為だけに、“有性生殖”を用いているというのだから、びっくりなわけだ。この方法(有性生殖)で生まれてくる子孫達は、文字どおり“兵隊アリ”なのだ。女王と雄を守る為だけに存在する。(注2)
そして、その社会(種)の中の“残すべき遺伝子”は、無性生殖(単クローン生殖)によって賄われている。(注3)
決して、遺伝子の多様性が増した方の子孫を残すわけじゃない。


生物学的には、ヒトとサルの子孫が残せないように、種が異なれは子孫は残せない。
この点で、このアリ達は、有性生殖で子孫を残せるのだから、“同じ種”の生物と定義できるのだが、雄・雌それぞれの子孫は、遺伝子的には交じり合う事は無いのだ。

当然の事だが、D Queller が Nature の News and Views で『実際には、このアリの女王と雄は別種として分類すべきなのかもしれない』と述べているが、別種なら尚の事、共存にとっての理想系かもしれない。(注4)
 
 
 
もしかしたら、考古学的・古生物学的には、無性生殖から有性生殖への“missing link”なのかもしれないが、最終?進化とも見なせる点で、非常に興味深い。

この事実を、リチャード・ドーキンスなら、どう考えるのだろうか??
是非、是非、是非、知りたいところである。
 
 
 
そして、この事実は、現代の人間達が考える、男らしさ、女らしさ、ジェンダーフリーなどに始まる、平等、公平、平和などの価値観に対して、アチンテーゼになるような気がしてならないのだが・・・。(考えがまとまらない・・・)
 
 
 
 
注1:人間を見ればわかるように、お気に入りの女性を“落す”為には、膨大なエネルギー(時間と金と根気)を使っている。

注2:この兵隊アリ達が、何故、独自に自分達の子孫を残さないのか?これはこれで、興味深い。もしかしたら、レオポンのような雑種第1代なのかも?!

注3:雄は、自分の遺伝子が、雌(女王)の遺伝子を残す為だけに使われる(有性生殖による兵隊産生)のが、癪だから、自分も単クローン性に遺伝子を残す事を考えたのだろうって解説しているが。。。これが女王(雌)に対する(雄)クローンの逆襲・・・。

注4:お互いに、勝手に遺伝子は残すが、それを守る為には、合理的な方法を取る。すなわち、人間世界で言えば政略結婚にも似てるようにも思えてしまうからだ。政略結婚が役に立たたず、戦争なんて事もあるんだけど。。。

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2005年07月20日

α-リポ酸の正体

本当は、こんな事ではいけないのだろうけど、私は、サプリメントには“興味”がない。サプリメントと名が付くだけで、いっしょくたに、、、


---どうせ、眉唾---


Evidence Based Supplement なる雑誌が MMJ の付録で付いてくるという話は、以前、書いた。積極的にサプリメントの情報を集める事は、、、魚油で目から鱗が落ちたはずなのに、喉元過ぎれば、、、である。

で、結局、この雑誌を定期(1月に一度)に読む事しかしていない。

その Evidence Based Supplement にα-リポ酸のことが書いてあった。このα-リポ酸、名前からは構造も想像できなかったので、調べようとは思いつつ、実際には調べていなかった。

そこへ、good timing でα-リポ酸の解説が・・・・。
 
 
 
---ふむふむ、なるほど---


である。

α-リポ酸、一般名を Thioctic acid という。S と C 原子8個を想像させる名前だ。
で、解説を読み進める。

なんと、医療用にも同成分があるではないか!!(CoQ10 と一緒だ!!)
医療用は、COOH を -NH2 で保護してあり、チオクト酸アミド Thioctic Acid Amide となっている。体内に取り込まれれば、すぐさま分解して Thioctic Acid を生成する。

化学名の方が、構造を想像しやすい。チオクト酸アミドは、1,2-Dithiolane-3-pentanamide、チオクト酸だと、1,2-Dithiolane-3-pentanoic acid だ。

20050720thioctic_fig01.gif

構造からは還元作用がありそうだ。サプリメント風に言うなら“抗酸化作用”。
主作用は解糖系(TCA cycle)の代謝活性の促進となっている。

そして、この医療用医薬品の用法を見ると、1日の最大量は60mgとなっている。
 
 
 
---なんで、こんなもんで痩せるんだろう?---
 
 
 
凄いのはここからだ!

心拍変動のあるⅡ型糖尿病患者へ、1日量800mg投与。忍容性は良好・・・というより、有害事象は無し。効果も??

インスリン感受性の改善を見る試験では、1日量1800mg。忍容性は良好・・・というより、有害事象は無し。効果は、有るかもしれない・・・。
 
 
 
オイオイ
 
 
 
医療用の30倍ものんで、何とも無いのかよ!

医薬品でいいのか?

尤も、ビタミン剤も大量投与で不具合が出る訳はないが、体内で生合成出来ないから、医薬品として摂取するんだろう!

α-リポ酸は、ビタミンのような作用が有るけど、体内で生合成出来るから、よっぽど偏食(1ヶ月間、マクドナルドハンバーガーとか?)しなければ、欠乏症にもならないじゃないか!!

遺伝子異常で合成酵素を欠いている人ならともかく、普通の人がα-リポ酸を摂取しても(サプリメントとして摂取する量を)、毒にも薬にもならないということが解った。
 
 
 
痩せる根拠など、全く見出せなかったのだが、本人が満足していれば毒にはならないので、よしとしよう。(ホントに善しとしていいのか??)

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2005年07月26日

味方の筈がもしかしたら敵?

免疫学:B細胞が腫瘍進行を導く

Kirsty Minton
Associate Editor, Nature Reviews Immunology

慢性炎症性疾患と発癌との間につながりがあると報告する研究は多い。しかし、発癌部位で炎症性の自然免疫細胞の動員がどのように開始されたり、維持されたりするのかは明らかになっていない。Lisa Coussensらは、マウス上皮癌モデルを用い、自然免疫細胞による炎症を助長する上でB細胞が担う重要な役割を報告しているが、それは適応免疫細胞が新生物発生に対する「サーベイランス」に関与しているという見方とは異なるものである。

K14-HPV16マウスは、ヒトケラチン14プロモーター/エンハンサーの制御下で、ヒトパピローマウイルス16型の癌遺伝子を発現し、上皮癌の多段階発癌を来たす。前癌段階は、顆粒球やマスト細胞といった自然免疫細胞の皮膚浸潤を特徴とする。しかし、K14-HPV16マウスと、T細胞およびB細胞がない組換え活性化遺伝子1欠損マウス(K14-HPV16/Rag1-/-マウス)とを交配すると、この浸潤は大幅に抑えられる。皮膚浸潤の抑制には、K14-HPV16マウスと比較してマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)の活性が低いことが関連していた。MMP9は白血球から分泌され、組織リモデリングに対して作用し、血管新生の増殖因子である血管内皮増殖因子(VEGF)を細胞外マトリックスから放出するという形で、発癌における役割を担っている。これに対して、K14-HPV16/Rag1-/-マウスは、K14-HPV16マウスよりも皮膚溶解物中のVEGF 濃度が低く、血管新生マーカーも少ない。

K14-HPV16/Rag1-/-マウスには典型的な前癌段階の炎症特性がないため、上皮癌はあまり進行せず、末期癌となったのは、K14-HPV16マウスが47%であったのに対して、K14-HPV16/Rag1-/-マウスは6.4%に過ぎなかった。すなわち、このモデルでは、適応免疫系であるT細胞およびB細胞がないために、前癌段階の炎症および腫瘍進行が妨げられている。

Coussensらは、この過程でB細胞がもつ特異的な役割を吟味するため、抗体沈着物を調べた。B細胞は、前癌段階の皮膚には浸潤せず、皮膚の抗原に特異的な抗体の全身的な産生によってその作用を発揮すると考えられる。免疫グロブリンG (IgG)およびIgMの沈着は、1カ月齢までにK14-HPV16マウスの皮膚から検出でき、慢性炎症の発生に伴って6カ月齢まで増大した。望ましい特異性をもつ感作B細胞および/または記憶B細胞を備えているものと思われるK14-HPV16マウスから、K14-HPV16/Rag1-/-マウスへB細胞を養子移入したところ、皮膚の白血球浸潤をはじめ、血管新生などの下流の特徴の回復によって、B細胞の重要な役割が確認された。K14-HPV16マウスからの血清移入にも類似した作用があり、B細胞に想定されている、抗体および/またはサイトカインなどの可溶性メディエーター産生を介しての全身作用と一致している。

Coussensらは、このモデルではB細胞が前癌状態での慢性炎症を助長することにより、腫瘍の進行上できわめて重要な部分を占めているとの結論を導いている。したがって、ワクチン接種など、B細胞応答の刺激を目的とした治療法を発癌傾向のある患者または前癌疾患を有する患者に用いる場合には、注意が必要である。


でも、たぶん、B細胞は味方とか敵とか、善とか悪とか、利益が有るとか無いとか・・・考えてないと思う。(脳が無いから当たり前って突っ込みは無しで・・・。)
ただ、与えられた仕事を黙々とこなしているだけで、その仕事が全体にどういう影響を与えるのかは考えていないハズだ。

人間は、何かを見たり、何かが起きると、それに尤もらしい理由が欲しくなるものだ。
人間は、脳で考えていながら、ついそれを忘れて“客観的”に見ていると勘違いし、それに理由がある事(主観的)が自然であると感じてしまうらしい。
理由を付けることで、何も変わらなくても“精神的に”落ち着く。
カウンセリング治療はほとんどこれと言って良い。取り敢えず、今の症状に原因を与えてあげれば良いのだ。これは、何も精神科に限った事ではなく、『アレルギーですね』『ストレスですね』なども良い例だ。


おっと、脱線・・・。


この“現象に理由を付けたくなる”・・・ということがすでに、非科学的といわざるを得ない。

自然科学は客観性が大切だ。客観的に事実だけを拾い集め、その中から法則性を見出す。物理学にしてもしかり、化学にしてもしかり、生物学にしてもしかりだ。(脳が考えているなら、これも主観的じゃん・・・って突っ込まないでね)

医学がサイエンスなら、客観的な事実だけからその法則を見出さなければならない筈で、当然『事実はそれ以上でも以下でもない』となる。


しかし、、、


そこに、主観的な評価が介在するところが、医学が科学じゃない事の証明になる。


物理学をサイエンスと呼ばない人は居ないだろう。どこかに明確に線引きをしてある訳じゃ無いけど、客観と主観のと間には、曖昧ながらも線引きがある筈だ。

(私は、損得にあると思っているのだが・・・損得の概念はマウスにもある古い脳の機能だ)
 
 
 
この客観的な事実と主観的な希望をうまく利用して、健康産業は成り立っていると言える。

つい先日も微妙なケースに遭遇した。
事実を告げれば、金銭的な不利益を被らせずに済むのだが、当事者は満足できない。満足させようとすると、そこに、主観を介在させるざるを得ない。微妙に的の外れた科学的なデータを示し(的を得たデータが存在しないし、ネガティブなデータはペーパーになりにくいからしょうがなく)、ウソをつくのだ。経済的には不利益を被らせる訳だが、当事者は大満足。身体的には影響無し・・・・。

“場の雰囲気で話が進んでしまった”ので、自然科学者の立場としては本意ではない結果を招いてしまったのだが。。。。

回りくどい言い方だが、ようするに、サプリメントの需要と供給の話。
 
 
 
とかく、現代人は“健康”ってものは、良い事をすればどんどん良くなるもんだと錯覚している。そこが(健康産業にとっては)付け入る隙であり、(医療人にとっては)誤解を解く為に苦労するところなのだが。

しかし、本当は、健康なんて『悪い事しない』の反対が『良い事をする』じゃなくって、『何もしない』が概ね正しい(と思う)。
“良い事”と思っている事は、ある面から見れば良い事だけど、別の面から見れば悪い事もあるのは、良くある事だからだ。

生命の仕組みが解明されてない以上、闇雲になにかをやっても意味が無い。めくら滅法やってりゃ、偶には、良い事もあるわけで、そういったモノがエビデンスとして世に出てくるのは、BMJ に掲載された論文の通り。良くない結果は論文にならないというヤツ。
 
 
 
 
閑話休題
 
 
 
炎症は組織の再生を目的とする生理現象だ。

しかし、炎症が増大すれば早く治癒するかといえば、それは違うと誰でも感じる。適切な時期に適切な程度で炎症が起こることが大切だとは専門的に勉強せずとも、うすうす感じているもんだ。

でも、これに、科学的なデータが加わると、とたんにそちらを信用してしまう。というか、本来多面的である筈の現象を一面的で都合の良い解釈だけを信じるようになってしまう。(データ自体にウソは無いが、全体の一部であり、特定の面からみたデータという事実は公開されていない場合)

特に免疫学的なデータは、正常な人の判断を迷わせる。予防接種はすべて利益があるという思い込みだ。昔からある医療技術だからということもあるし。


ワクチン接種はジェンナーの種痘以来、人類に利益をもたらした。これを覆す、、、否定できる事実はない(と思う)。

問題があったとすれば、その投与経路にだろう。

注射という投与経路は、全く、自然じゃない。自然じゃない方法で投与された抗原が、たまたま、偶然、結果的に、人類が望む結果をもたらしたけだ。パスツール・コッホ以来、試行錯誤の結果、残っているものだとも言える。期待外れの作用だったが為に日の目を見なかったワクチン(抗原)は沢山有るのだ。強烈な免疫応答を引き起こしたり、あるいは逆だったり。

それ故、最近では、その抗原の投与経路に、より自然に近い“経口投与、経鼻粘膜投与、経気管支粘膜投与”などの方法が臨床試験されているわけだが。(さらに、genotype を考慮してワクチンの量すらコントロールし、免疫が付く or 付かないを考慮して、接種そのものを有無を決める時代になるのも、そう遠くない事だと思われる。)
 
 
 
生命現象を細切れにして、部分的にミクロな面に着目して、全体まで拡張する事の愚かさは、『世の中の至る所に転がっている話?』でも指摘した事だ。

でも、免疫現象自体は、生命現象の全貌は分からなくても、人間にとって有益な現象が含まれる事は間違い無い。


今回の Nature の論説では、良かれと思った予防接種で“発がん”の危険があるという事を知らせている。

本来、医学がサイエンスなら『良かれと思う』事自体がいけない。
良かれじゃなくって、こうすれば必ずこうなるという事実だけがあれば良いのだ。


結局、免疫に過剰に期待しない。そして、免疫を侮ってもいけないということだろう。免疫系は人間の意志(脳の生理作用)とは関係なく、与えられた仕事をこなしているだけなのだから。(クロストークしていても脳が免疫系の上位中枢ではない)

これが事実で、これ以上でも以下でもないのだ。

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2005年08月19日

ハゲに福音?

そういえば、教科書に載っていたキリスト教の伝道師“フランシスコ・ザビエル”は河童のような“頭部の造型”だと記憶していたのだが、あらためてネットで検索してみると“フサフサ”に描かれている絵の方が、圧倒的に多い。

20050819zabiel.jpg『ザビエル』といえば、昔から、頭頂部からの脱毛が著しい場合の述語のように用いていたので、誰しもが連想するフランシスコ・ザビエルは、私が想像するものと違いはないものと思う。


さて、休み明けの一発目が“ハゲ”に関する話題だ。

私自身も、20代の頃から比べると“自然ソリ込み”がかなり進んできた。今現在、進行しているのか、はたまた、休止しているのかは定かではないが、気になる事は間違いない。

さすがに、高級鬘を作ろうなどとは思わないし、植毛にお金をかける気持ちもさらさらない。ただし、確実な薬物療法が開発されれば、試してみたいと思っている。


まずは、http://www.natureasia.com/japan/news/nature/7053/922.php をご覧頂きたい。
ここでは、細胞の寿命やガンとの関連で取り上げられる事の多いテロメラーゼを取り上げている。そのテロメラーゼの一種である TERT と呼ばれるタンパク質が“テロメラーゼ能”以外の活性を持つ事が発見されたという内容だ。

皮膚に限らず、細胞代謝回転が早い組織では幹細胞が分裂を繰り返し、過不足なく細胞を供給している。先の TERT はガンの90%で活性化しているのだが、正常な皮膚細胞で TERT を活性化すると、ガンにならず、あ~ら不思議“毛”がフサフサになっちゃったって事がマウスで示されたのだ。
 
 
 
---人間様ではどうなんだい?---


はやく、答えが知りたい。

TERT のテロメラーゼ活性と、休止中の毛嚢幹細胞への刺激作用は分離できるのだろうか?

そうなったら、スゴイ事になるぞ!!!何処の企業が製品化するのか知らないが、早速、株でも買っておかなきゃ・・・・。
 
 
 
 
閑話休題

いつの頃から、バケは“恥ずかしい事”になったんだろう。

昔々の日本じゃ、ちょんまげを結うのに、わざわざ剃っていたくらいだから、ハゲは恥ずかしどころか、便利な体質?だったはずだ。
私など、髭を毎日剃るのだが、面倒くさくて“永久脱毛”しようかと思った位だから、毎日、奇麗に頭部を剃る事は、大変だったに違いない。

中国大陸でも、弁髪とか・・・それ以外知らないが・・・あったくらいだし、頭髪を剃り落とすという事が“オシャレ”だったのだろうか?それとも、禿げちゃったから、しかたなしに束ねた髪型が“カッコイイ”ので、流行ったとか!!!

西洋ではどうだ?
こっちでは、驚くほど、ハゲの“絵”が無い。ギリシャ神話の神々も、皆、フサフサだし、現存する絵・彫刻などの資料を見ても、禿は無い。

フォルスタッフ・・・シェークスピアの歴史劇に登場する間抜けなヤツ・・・みたいなキャラクターなら“ハゲ”が似合う。(実際、禿かどうかは知らない。が、デブなのは知ってる。)ということは、西洋では、ハゲは間抜けなキャラクターだったのか?


ユル・ブリンナーを初めて映画で見た時は、ショックだった。
子供の頃の“ハゲ”は、チビ・デブ・ハゲと、馬鹿にされる対象の言葉だと思っていたからだ。それが、終始、カッコイイ役どころなのだ。荒野の7人、王様と私、天地創造でも役どころに破綻はない。

当時、男優セックス・シンボル No.1 と言われたバート・レイノルズが、実は“禿”だったとカミングアウトした時も、ビックリした。ずぅ~っと、まわりを騙してたんだってさ。
鬘で、徐々に伸びる髪を実現していたんだから、想像を絶するお金を髪にかけていたんだろう。

でも、ハゲで頑張っているブルース・ウィリスは、禿じゃなきゃ、あの“味”は出ないし・・・。

東洋では、禿はカッコイイ→カッコワルイ
西洋では、禿はカッコワルイ→カッコイイ

と、感覚が変化したのか??

いやいや、そんな事は無い筈だ。だって、外国企業が“毛生え薬”を作ってるんだから、禿は“治したい体質”だと思ってる筈だ。


結局、禿が似合えば、それは“セクシー”となるのだろう。所詮、男がオシャレをするのは、女を射止める為なのだから、禿が似合えば、禿は間抜けでもなく恥ずかしくも無いという事だ。
 
 
 
クールビズなんて、カッコ付けた言葉の割に、日本のみなさん、カッコがよろしくない。(誰とは言わないけど)
ラフな恰好でもビシット決めても、格好が良いのは、西洋人だ。たとえ禿ていてもだ。

この差は、何ナノだろう?


TERT の制御で毛髪の成長をコントロール出来るようになった時、一番、恩恵を受けるのは日本人なのかもしれないな!!

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2005年09月06日

生活習慣病とマニフェスト

プロフィールにもある通り、禁煙して2年半以上を経過した。
もう、吸いたい気持ちは全く無い。

これは誠に歓迎すべき事なのだが、困った事に、増えた体重が元に戻らない。

当然の帰結として、健康診断の検査値が“多め”になってきた。

当然の帰結として、『脂肪細胞、アジポサイトカイン、インスリン抵抗性』などのキーワードが以前より気になる。


Nature Vol. 436 (337-338) /21 July 2005

AはアディポカインのA
A is for adipokine

アディポカイン類は脂肪組織の質量とエネルギー状態の変化を伝達するシグナルとして働くホルモンで、体の燃料の使い方を調節している。脂肪組織由来のアディポカインでビタミンAに結合するものが、肥満とインスリン抵抗性を結びつけていることが今回解明された。


肥満の世界的蔓延にともなって、糖尿病の罹患率も急増している。正常であれば、血中グルコース(ブドウ糖)濃度つまり血糖値は、インスリンの効果的な働きによって制御される。インスリンは血中からのグルコース取りこみを促進させ、肝臓からのグルコース放出を減速させる。肥満と糖尿病いずれの場合も、インスリンの標的となる筋肉や肝臓などの組織がインスリンに適切に反応してグルコース代謝を調節することができない。この「インスリン抵抗性」とよばれる状態の開始は体重増加と密接に結びついており、このことから、脂肪をためこんで大きくなった脂肪組織がインスリンの働きを妨害するシグナル(1つか複数かわからないが)を発するとみられている。この見方と符合するように、 YangたちはNature 2005年7月21号で、脂肪細胞で作られるレチノール結合タンパク質4(RBP4)という因子が、インスリンに対する全身の感受性を損なう可能性があると報告している。グルコースの恒常性を調節することがわかった脂肪組織由来ペプチドの種類は増えつつあり、そこにRBP4も加わることになる。

内分泌器官としての脂肪組織の重要性が最初に浮上したのは、レプチンの革新的発見があった1995年のことである。この脂肪組織由来ホルモンは、摂食行動とエネルギー消費量の両方を制御することで体重を抑える。その後の研究で、エネルギー源の使用量を制御する他の器官へ脂肪組織の大きさやエネルギー状態の変化を知らせる、脂肪組織由来の「アディポカイン」とよばれる一群のタンパク質(アディポネクチンやTNF-α、レジスチンなど)の存在が明らかになった。臨床の観点からすれば、こうした分泌型ペプチドはそれぞれが、肥満からインスリン抵抗性を切り離すような薬剤の標的となる可能性がある。

Yangたちの発見は、糖尿病研究が長年直面してきたパラドックスを解く鍵になるかもしれない。GLUT4はインスリンに制御されるグルコース輸送体であり、肥満してインスリン抵抗性のある齧歯類やヒトの脂肪細胞ではGLUT4の発現が大きく減少するが、筋細胞では減少しない。これは、筋肉がグルコースの処理に大きな役割を果たすことを考えると意外なのだ。このパズルを解くための最初の手がかりは、脂肪組織のGLUT4の発現を特異的に排除したり増加させたりする研究からもたらされた。脂肪組織のGLUT4を欠損させたマウスは糖尿病になりやすいが、GLUT4を過剰に発現させたマウスはグルコースを効率良く処理する。全身のインスリンの効き目の変化は、筋肉や肝臓のインスリンに対する感受性の変化によって生じる。そのため、脂肪が末梢組織とコミュニケーションをとれるような「脂肪組織分泌」(adipocrine)物質の関与が考えられた。ところが、すでに知られる脂肪組織由来因子(レプチンや遊離脂肪酸、TNF-αなど)を調べても、GLUT4を増減させる操作に反応したと思われる因子の正体を、確信をもって明らかにすることはできなかった。

そこで今回Yangたちは、DNAマイクロアレイ技術を使ってほかのアディポカイン類を探した。そして、RBP4が分泌型のタンパク質であって、GLUT4を過剰発現したマウスとGLUT4を欠損したマウスの脂肪組織で相互的に制御されることを突きとめた。Yangたちは広範な裏づけによって、RBP4が、脂肪組織におけるGLUT4抑制とインスリン抵抗性の間をつなぐ隠れた連結部であり、インスリンの働きを広く仲介する中枢因子でもあることを示している。肥満とインスリン抵抗性をもつ5つの独立のマウスモデルでは、血中のRBP4量が上昇し、肥満のヒトでも同様である。GLUT4を欠損したマウスでは、糖尿病治療薬であるロシグリタゾンで 血中RBP4量が低下してインスリン感受性が正常化する。 血中RBP4量を増加させると耐糖能異常を起こし、逆に、マウスでRBP4遺伝子を欠失させるとインスリン感受性は高まる。最終的にYangたちは、フェンレチニド(RBP4排出量を増大させて血中RBP4量を低下させる合成レチノイド)をマウスに投与すると、高脂肪食の摂取で生じたインスリン抵抗性が改善されることを示した。

RBP4がインスリンの働きに影響をおよぼすしくみは部分的に解明されている。RBP4は筋肉で、酵素であるPI-3キナーゼの活性やインスリン受容体基質‐1のリン酸化を低減するので、どちらの作用もインスリンの働きが損なわれていることを示す明確なマーカーとなる。RBP4が増大しても、肝臓のPI-3キナーゼ活性は変化しないが、肝臓のグルコース産生量は、グルコース産生経路の重要酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の発現増大と連動してはっきり増える。

RBP4は従来、その名が示すようにレチノール(ビタミンA)の輸送体として知られてきた。RBP4とインスリンの働きとの結びつきに、レチノールの代謝や送達の変化がかかわっているかどうかは明らかでない。この方向の話として興味深いのは、PEPCKの発現がレチノイドによって促されるという事実だ。この作用には、RBP4によるレチノール・リガンドの送達の増進がかかわっている可能性がある。しかし、YangたちはRBP4が培養ラット細胞でPEPCKの発現やグルコースの産生を促進することも示した。これは、このペプチド(つまりRBP4)が直接作用することを意味するのかもしれないが、RBP4に親和性の高い受容体はまだ何も見つかっていない。加えて、レチノールはRARやRXRといった核内ホルモン受容体のリガンドを合成するための前駆体でもある。RXRは、脂肪酸代謝に関与する遺伝子群の転写を制御する受容体ファミリー(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)の相手役を果たす。したがってRBP4は、筋肉もしくは肝臓内の脂肪酸代謝の制御不全(これはインスリン抵抗性のよく知られた要素の1つ)を通じて糖尿病に関係しているのかもしれない。

結局のところ、脂肪細胞のGLUT4-RBP4機構は肥満や食べ過ぎに対応して進化したのだろうか。それとも、他の目的のために進化したのだろうか。おもしろいことに、食事をとらない(一晩の絶食など)とインスリン抵抗性が促され、脂肪組織でのGLUT4発現は激減する。このGLUT4制御状態に応答してRPB4量が上昇するのかどうかは、今のところわかっていない。しかしもし上昇するなら、GLUT4-RBP4機構は、ひどい飢餓状態にあるときに末梢組織によるグルコース取りこみを制限して、グルコースを第一のエネルギー源とする脳のためにグルコースを節約するしくみとして進化したと考えてよさそうだ。対照的に肥満は早い段階で、脂肪細胞におけるインスリン抵抗性の発達をもたらした可能性がある。これによってGLUT4の発現は飢餓状態の場合と同じように減少し、そのせいで脂肪細胞は肥満を飢餓状態だとすっかり勘ちがいしてしまうのだろう。とにかくはっきりしているのは、Yangたちの今回の研究が、脂肪細胞とその分泌する因子類を「駒」にして、糖尿病や肥満の蔓延の核心部分に攻め寄ったということだ。

ここでは、脂肪細胞から分泌される新規の悪玉因子が発見されたとある。ようするに“ダークサイド”の役者がもう一名、登場した・・・と。

このニューフェイス、ちょっと、素性が変わっているのだ。それ故、その存在が附に落ちない。本当に“タークサイド”なのか?と。
 
 
 
 
抗肥満ホルモンとして見つかっていた“レプチン”が、実は脂肪細胞が分泌していたと Nature に発表されたのが1999年。それ以来、たんなる脂肪の貯蔵細胞じゃなくって、外界からの刺激に応じて活発にレプチンやサイトカインを分泌し全身の諸臓器に信号を送っている、重量からいえば最大の“内分泌臓器”だとの見方に変わった。

さらに、過剰に脂肪を取り込んだ脂肪細胞からはアジポサイトカインが分泌され、インスリン抵抗性を惹起するのだという事もわかってきた。


大雑把に、この辺までは全く理解の妨げはない・・・。
(まめ知識 No.21『食後血糖 180mg/dl』からのスレッド、Lecture , 古文書 library など参照)


しかし、摂取カロリーが同じなのに太る人と太らない人がいて、さらに、太った人の中にもインスリン抵抗性になる人とならない人がいる・・・。この辺から、、、、


---簡単じゃないぞ!!---


高脂肪食が肥満に繋がる・・・・、誰しもが疑いなく思い込んでいる“当たり前の事”だけど、『何で、高脂肪食が肥満になるのか?』と子供が大人に突っ込む質問みたいに、この問題に取り組んでいる研究者がいる。どうして、肥満がインスリン抵抗性を引き起こすのか?と。

どうして、高脂肪食が肥満になるのか?について PPARγに目が付けられたのは、脂肪の分化に関して PPARγ がマスターレギュレーターだと発表されてたからだ。

研究の結果は、PPARγの活性が低いと“肥満にならない”というものだった。PPARγのホモ欠損マウスは致死だから、ヘテロ欠損マウスでのデータになのだが、野生型は脂肪食で“肥満”したのに、ヘテロ欠損は同じ食餌で“肥満しない”のだ。同時に、野生型はインスリン抵抗性になり、ヘテロ欠損は抵抗性にならない。

人間に当てはめてるのには、ヘテロ欠損なんて現実的じゃないから、SNPs を調べる訳だけど、12番目のアミノ酸がプロリン→アラニンに変わる人がいたわけだ。そして、アラニン型はプロリン型のPPARγの活性(発現量といっても良い)が2/3くらいに落ちていたことが解った。

実際にアラニン型のヒトの臨床症例を調べると、太りにくくて、糖尿病発症率が60%抑制されていることが分かった。

というわけで、マウスでも人でも PPARγは、フルな活性よりも半分とか2/3の方が糖尿病になりにくく、肥満になりにくいということが分かったのだ。


そして、これが、倹約遺伝子の考え方に収斂していく。

そう、同じカロリーのエネルギー源を摂取したら、それを無駄に消費しないで脂肪細胞に貯蔵する、さらに、消費したら“熱”でなく“ATP”に変換する・・・・遺伝子の方が、飢餓の時代に適応して、生き残るというアレだ。
 
 
 
どうして、肥満がインスリン抵抗性を引き起こすのか?については、現在、糖尿病治療に用いられているインスリン抵抗性改善剤の作用機序の解明を見なくちゃならない。

さて、このインスリン抵抗改善剤、通称“チアゾリジン系”薬は、PPARγ 刺激薬だ。


・・・・って、アレっ???

太らない為には、PPARγの活性は低い方が良いって言ってたのに、今度は、PPARγを“刺激”するだぁ???


---エネルギー代謝って、複雑だなぁ---


取り敢えず、先を急ごう。

このチアゾリジン系薬剤は、一体どうしてインスリン抵抗性を解除するのか?という事に関しては、以下のような理由が考えられている。(なんか、騙されてるような気もするんだけど、反論の余地はない)

そもそも、人間の脂肪細胞は思春期には完成して、それ以降は分化しない。つまり、使っている遺伝子は思春期以降、同じであるということだ。

そこへ、チアゾリジン系薬剤を加えると、脂肪細胞の前駆細胞が、小型脂肪細胞に分化してくる。PPARγ はその名前の通り、脂肪細胞の分化を押し進める遺伝子の転写因子なのだから。

そして、今まであった脂肪を貯め込んだ大型の脂肪細胞は安定していた発現遺伝子を強制的に変化させられ、アポトーシスを起こしてしまう。

すなわち、PPARγアゴニストを作用させると、脂肪組織にて、脂肪細胞が置き換わるということなのだ。

ここに、インスリン抵抗性が改善される“鍵”がある。

・大型脂肪細胞は、悪玉因子を分泌している。
・小型脂肪細胞は、善玉因子を分泌している。

ということで、大型が小型に置き換われば、結果として“インスリン抵抗性は改善される”というわけだ。小型脂肪細胞が善玉因子を分泌しているのは、《脂肪萎縮症》がインスリン抵抗性を示す事からも、逆説的に証明される。(まめ知識 No.221『アディポネクチン---インスリン抵抗性』からのスレッド参照)


じゃ、PPARγの活性が弱いと、太らないというのは何なのか?って事が考えられるが、それに対する答えは、、、

PPARγを刺激すると脂肪細胞の前駆細胞は小型脂肪細胞になるのだが、この時、分裂を繰り返して数は多くなっている。要するに体重は変わらないってこと。
PPARγを抑制すると、大型の脂肪細胞がだんだんしぼんで小さくなって“小型脂肪細胞”になるので、体重が減る・・・すなわち、高肥満薬として機能する事が予想される。

ただし、PPARγ拮抗薬は、まだ、製品としては無いのだが・・・。
 
 
 
---複雑な制御だなぁ---
 
 
このように、PPARγは、刺激しても抑制しても、最終的には同じような結果が期待できる・・・と。

ただし、例えば、アラニン型PPARγ の人を拮抗剤で抑制しちゃったら、脂肪萎縮症と同じだから、かえって、インスリン抵抗性は増してしまう事が予想されるので、一般的ではなく、SNP を調べたあと、すなわち、オーダーメイド医療が進んだ時代になってからじゃなきゃ、まずいけど。

しかし、日本人の96%はプロリン型・・・・。
 
 
 
---だから、良く解らないのだ。---
 
 
 
解らないことは、これだけじゃない。

小型脂肪細胞から分泌している“善玉因子”は、レプチンとアディポネクチンだという事が確認されたのだが、レプチンとアディポネクチンの分泌制御は同一ではない。

肥満すると(大型脂肪細胞からは)アディポネクチンが分泌されないのに対して、レプチンは肥満すると分泌される。レプチンは肥満に対するフィードバックだから、単純に分かり易いけど、アディポネクチンは肥満すると分泌が止まる。

アディポネクチンのイントロンの多型によっても、アディポネクチンの産生量が変わってしまうことも解っている。エキソンの間違いじゃなく、イントロンの SNP だ。

アディポネクチンの効果は、細胞内に AMPキナーゼを増やす。
AMPキナーゼの活性を上昇させることというのは、簡単に言うと、例えば運動すると、ATP が分解されて、AMP が出てくる。そうすると生体は ATP を元に戻そうとするので、糖や脂肪を使って ATP を作ろうとする。それが AMP によって活性化される《AMPキナーゼ》と呼ばれるもの。それが活性化されると、糖取込担体、グルコース・トランスポーターが膜に移送されたり、脂肪酸の取込があがったりする。運動療法に効果がある理由でもある。

効果器の側、すなわち、肝臓と骨格筋に対しても働き方が違う。アディポネクチンの受容体が、肝臓と筋肉では違うのだ。

ちなみに、基礎代謝も上げる。
糖を燃やすと、通常、ATPに変わる。ミトコンドリア電子伝達系での出来事だ。その ATP に変わる分を熱に変えてしまうわけだ。UCP がキーワードになる。基質を燃やしたときの電子の流れを、ATP 産生に向かわせず、途中でリークさせるイメージ。
 
 
 
さらに、骨格筋のインスリン受容体をノックアウトしてもインスリン抵抗性は惹起せず、肝細胞のインスリン受容体をノックアウトすると抵抗性が惹起される。

また、GLUT4 に注目すると、肥満してインスリン抵抗性のある齧歯類やヒトの脂肪細胞では GLUT4 の発現が大きく減少するが、筋細胞では減少しない。と・・・・。
 
 
 
 
そうなのだ、レプチンまでは『太ったから、太った脂肪細胞から食欲を抑制する因子が分泌される』と、全く、違和感なく受け入れられる理論だったのだが、アディポネクチンあたりから・・・・。


そして、今回の Natuer の『AはアディポカインのA』。

肥大した脂肪細胞から分泌される“悪玉”???。どうして、フィードバック抑制じゃなく増加させるんだろう??

しかも、ビタミンA の輸送担体???
ビタミンの輸送担体が、エネルギー代謝に関与する・・・、しかも、肝臓にて糖新生を促進する。

絶食時に血中濃度が上昇する事に関しては、、、、

飢餓に際して、血中ブドウ糖濃度を維持する為(脳の保護の為)、インスリン抵抗性を惹起するのだとの解釈は、非常に納得してしまったが、倹約遺伝子との関係はどうなるのだ??


この、ニューフェイス、生命の維持の為(脳の保護)に働くとしたら“ダークサイド”に入れといていいのか??
 
 
 
閑話休題


“生きている”という、ある意味哲学的な内容をも含む現象に直結するエネルギー代謝だけに、色々な現象を説明する為、尤もらしい機序が考え出された訳だが、聞けば、どれも理論的に正しいと思わざるを得ない。

そのロジックに破綻はない。
 
 
 
各政党がマニフェストを掲げて、色んな事を言っているが、日本を良くするという方向では、全く同じだ!それのどれが正しいか?は、結局は神のみぞ知るところなのだろうが、生物のエネルギー代謝の現象一つとっても、色々な見方から、色々な解決策(治療薬)が開発されて、結構、役に立っているのだから、どの政党が政権を取っても、そこそこ同じ結果だと思う事も出来るが、圧倒的に“副作用”だけが目立つ薬も存在する事だから、どの政党でも良いというわけにはいかない!!


生物の進化の過程で、飽食の時代は無かった。それゆえ、このような内部環境(肥満)に対して、どう対処すれば良いのか?のスクリプトは用意されていなかったというのが、本当のところなのだろう。


国の舵取りにしても、今の日本のような状況は、過去に一度もないわけだから、対処するためのスクリプトは、事前に用意できる訳もなく、参考に出来る時代もない訳だ。
とりあえず、わかっていることは、今のままじゃ、行く末は見えているということだろう。だから、全てにおいて“改革”が必要なのだが・・・・。

2005年09月16日

Normal Distribution

『喫煙者意識曲線が、ただしい正規分布曲線を描くことになる。』
   --学校で習った偏差値はこう使え!!--


20050916tabaco.jpg


ついに、名古屋大学で始まった。発がん性におけるタバコの感受性検査。

さてさて、“嫌煙家”,“愛煙家”双方にとって、言い訳が苦しくなる時代に突入したといえる。双方とも、敵を論破する為には、新しいロジックの構築が必要になってきた。


嫌煙家のいいぶん。煙草には“発がん性”があるんだから、自ら吸わないばかりか『副流煙』まで、自分の健康を害するものだとして、愛煙家を標的にした攻撃をしかけていた。

→→→しかし、自分はタバコでは発がんしない遺伝子型だったとなると、信念も揺るぎかねない。さらに、副流煙すら“被害”とはならないのだから、喫煙者を非難する勢いも失せる。


愛煙家のいいぶん。副流煙によって肺癌にまでなる人がいるのだから、喫煙者はその行為の罪深さを思い知れ!!強制的に“煙草を吸わされる”側の人権は、いかに守られるべきか?といった攻撃に、ただただ、耐えるだけだった。

→→→自分がタバコで発がんしない遺伝子かどうか調べもしないで、副流煙の被害を盾に取りことさら強調し、喫煙者を非難すること、内政干渉と同じである。

ところで、元喫煙者の私にとって、タバコというものの認識は“嗜好”以外には感じ得ない。

喫煙者だった頃、レストランなどで喫煙する行為を“常識はずれで、知的レベルの低い人”のような言葉を(インテリぶったおばさんに)浴びせられたことが、これに反発する方向に作用してないとは言い切れないが、人類の歴史と共に始まった?行為が“嗜好”以外の呼ばれ方をされていい筈が無い。(自身ないけど)

この“嗜好”に批判的な意見、それも理路整然としていればいるほどのものをお見舞いすると、相手のプライドを徹底的に傷つけることが出来る。

こうなると、、、

『おんどりゃ、黙って聞いてればいい気になりやがってぇ。俺のじいさんはなぁ、タバコ吸いながら100まで生きたんだよぉ』となる。

しかし、このたばこ発がん感受性試験の結果を知っていれば、『あなたには、解らないかもしれませんが、私の CYP1A1 に関する SNP は活性が弱いタイプで、さらに GST 活性も悪いのです。すなわち、煙草による発がんからは寛容になっています。』と言える。

ただ、理路整然とした“お返し”をお見舞いすれば、さらに、引くに引けない相手のプライドをペシャンコにすることにもなるので、“喧嘩”を助長することは間違い無い。(かな?)


だから、このタバコの発がん感受性試験、“煙草の害も知らない無知”という片方の極端の他に、反対側の極端である“知ってて喫煙する”タイプの人を出現させる原動力になると考えられる訳だ。(ほんとか?)


『喫煙者意識曲線が、ただしい正規分布曲線を描くことになる』といった所以である。

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2005年10月04日

ピロリ菌とリレーショナルデータベース

20年、定期購読している雑誌がある。

我ながら、良く続いていると思うが、雑誌の性格ゆえ、古いものには本来の価値はなくなる。

その雑誌は『医学のあゆみ』だ。
購読を始めた頃のタイトルは『醫學の歩み』だ。いかにもって感じがする。この“偉そうな”な感じが気に入って、読み出したことも事実。だから、名前が“軽く”なってがっかりもした。後に、第一期編集員の三浦義彰先生とお話が出来た時、読んでてよかったぁって思ったものだ。おかげで色々と話が弾み、その後、三浦先生には、お目にかかる度に、何冊かの著書を頂いり、『食卓の生化学』連載の時に別刷を頂けたのも『医学のあゆみ』を読んでいたお陰だと思っている。

今、手元に残っているのは、1990年1月からの分だ。ここからタイトルが今の『医学のあゆみ』になった。残念ながら『醫學の歩み』は5年前の自宅の引越しの際、廃棄してしまった。

その『医学のあゆみ』だが、本来の価値は無くなるが、古くなると別の価値が出てくる。

歴史的な資料としての価値だ。
 
 
 
閑話休題

掲示板で、北の薬剤師さんが話題提供して下さった『ピロリ菌』、当然、登場したのは、私にとっては正に“医学のあゆみ”そのものの経験だった。(北の薬剤師さんは情報キャッチ早かったですねぇ。書き込みを見て、あわてて、詳細を調べちゃいました)
それまでは、攻撃因子/防御因子~~ってな事で、理解し納得していたことが、感染症?って、コペルニクス的転換を強いられた訳だから、そりゃ、印象に残るトピックだったのだ。

で、いつの頃から『ピロリ菌』が話題に上り始めたのかと、過去の雑誌を当たって調べようとしたのだが、とても調べられるもんじゃなかった。だが、それが切っ掛けとなり、色々なことが思い出された。

パソコンを覚え始めた当初、MS-ACCESS というリレーショナルデータベースで医学のあゆみのサマリーデータベースを作成しようと試みた記憶もその一つだ。

Windows 3.1 が発売になった後だ。
それ以前、MS-DOS を使い、パソコン通信をしていた私は、通信仲間(システムエンジニア、薬剤師、臨床心理士、心理カウンセラー、精神科医)とオフ会と称し、頻繁に飲み会をやっていた。新宿のワシントンホテルの上の方のラウンジ“○○○○○○”だ。一緒にスキー旅行などもした仲間なので、オフ会主体の、パソコン通信は連絡用って感じだった。

みんな、かなりのパソコンの使い手で、彼らの影響をもろに受けた私は、彼らの一言一言に“洗脳”されて行く。
その中の一言、『これからは、RDB を使いこなさなくっちゃ駄目だ。一緒に始めようよ』。これが効いた。それ以来、この言葉は私の頭に染み付いてしまって離れないのだ。


さて、RDB というものが、Windows 3.1 と MS-ACCESS が発売になって、はじめて実感としてわかるようになった時、住所録などをカード型データベースで作っていた私は、ピンと閃くものを感じた。(2000年前なら、神の啓示だ)

せっかく読んでいる医学の情報雑誌も読みっぱなしで忘れてしまったんでは勿体無い。デーベースとして自分のパソコンに格納できれば、すぐにキーワードですぐに思い出せるじゃないかと。

というわけで、MS-ACCESS と格闘を始める事になる。この為の器は比較的簡単に作成できた。あとは、データの入力だ。。。。。。
 
 
 
---もう、うんざりだな---


そうなのだ!リレーショナルデータベースは器を作るのは、大変なことは間違い無いが、データを入力することの方が遥かにしんどい。なにしろ、内容を思い出す切っ掛けを作る事が目的だから、タイトルだけじゃダメ。論文のサマリーの部分までをデータとして入力しなきゃ役に立たない。
というわけで、約5年分のデータを入力した時点で、ギブアップした。

だから、完成していれば“ピロリ菌”をキーワードに、論文中の出現頻度を調べればわかったのに!との思いが、思い出を引き出したのだろう。
 
 
 
その後、その考えは、ホームページ開設に引き継がれ、データベースは自分が何処にいても利用可能となるのが本来の姿であるとの思いに繋がり、Information Technology の上段に『SQL と Linux を自在に操ることを目標にしています』とあるのは、それ故なのだ。

パソコンが目の前に無い時は、携帯電話を利用して自分のデータベースにアクセス出来る環境構築が目的だったから、携帯電話版の Office Oh!NO のメニューもあの構成にしてある。


ここだけの話(女房は知らない)、おねいちゃんいる飲み屋に行った時に、医学関連の質問されて即座に答えて“モテモテ”になるなんて野望も一部にあったことは否めない。しかし、一度も役に立った事は無いのだが・・・・。
 
 
 
 
もう一つ、ピロリ菌との関連で思い出すことは、1995/04/21 に発売になった“爆風スランプ”のアルバム『ピロリ』だ。2番目の曲タイトルが、ズバリ『ヘリコバクター・ピロリ』。
ちなみに、歌詞の内容だが、たしかCDが何処かにあった筈だが見当たらないので紹介できないのが残念だが、1回目は笑えたが、2回目以降は、そんなに笑える内容じゃ無かったような・・・。
 
 
 
 
というわけで、ピロリ菌が世に知れ渡ったのは、1995/04/21 以前であることは間違い無い。

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2005年10月19日

喫煙は病気

《喫煙は病気、積極治療を 医学会が初の診療指針 禁煙社会目指し具体例も 女性には「美容に悪影響」》

ショッキングな記事タイトルだ。
ショッキングというより、滑稽かもしれない。

昨晩、医療系ニュースが配信されてくるメールに目を通したら、気になったタイトルがあり、サイトを訪れたのだが、まず、笑ってしまって、その後、無性に腹が立ってきた。

【たばこを吸うのは「ニコチン依存症と関連疾患からなる喫煙病」であり、患者(喫煙者)には「積極的禁煙治療を必要とする」-。日本循環器学会など9学会の合同研究班が18日までに、一般医師向けの初の診療指針「禁煙ガイドライン」を作った。
指針は11月以降、循環器学会などのウェブサイトに掲載される。】とのこと。

喫煙を“病気”扱いするのかい?医学会は?あん??


ふと、来年の診療報酬改定が3%のダウンの見通しとの記事が、脳細胞に蘇ってきた。


---ハハぁ~~~~~ン---


考える事は、みなさんと一緒である。


医療不信、医療不信と騒いでいる当の本人が、その種を撒いていたんじゃ、払拭できる筈もない。
 
 
 
閑話休題

EBM(Evidence Based Medicine)と言う言葉をご存知だと思う。そう、証拠に則った医療を行うという意味だ。
この言葉に、何の破綻もないのは当然だ。証拠と言う言葉を使う限り、それ自体はアプリオリに“正しい事実”という“概念”があるからだ。

私は、この言葉が流行り出した時『医療の世界は独裁政治になるなぁ』と感じた。
恐怖と暴力による独裁ではないが、情報を上手に操ることよる独裁である。民衆は独裁者を疑わないという意味では同じだと感じるからだ。
そして当事者は、言葉の綾で真実(真理)を証明する義務から開放される。簡単なキーワードを用いて、その錯覚を利用するのである。分かり易い言葉を用いて魂に訴えるやり方と変わらない。
 
 
 
私は、医療には統計学が馴染まないと思っている。
理由は、簡単だ。統計学の数字(全てが確率)では、個人の予後を推測する事は絶対不可能だからだ。

じゃ、何故、現代医療は統計学を Evidence (証拠)としているのか?
理由は、簡単だ。それ以外に現実的な手段が無いからだ。(医師の経験と感じゃイカンと言う人が増えたからだ。)
理想はわかっている。個人の遺伝子情報をデータベース化し、その遺伝子型ごとに統計を取るのだ。この場合の統計は、もはや、統計学の解析を必要としない。何故なら、結果は『0か100』だからだ。


分かり易い例を取ろう。

高血圧と高脂血症(高コレステロール)のエビデンスだ。
簡単に!
血圧180の人と130の人を用意する。もちろん複数だ。180の人は200人、130の人は100人がいい。
まず、180の人を2つのグループに分ける。治療するグループと無治療のグループだ。それぞれ100人ずつとする。全員を経過を観察する。10年としよう。
結果は、
180の無治療グループの中から、3割くらいの人が心筋梗塞、脳梗塞などを発症する。
180の治療グループの中から、1.5割くらいの人が心筋梗塞、脳梗塞などを発症する。
130のグループの中から、1割くらいの人が心筋梗塞、脳梗塞などを発症する。

結果の考察はこうだ。
『降圧剤の治療は、心筋梗塞、脳梗塞などを発症に対して、統計学上、有意な差を持って効果がある。』
 
 
 
・・・・・
 
 
高脂血症の例も同様に、、、
『高脂血症治療薬の治療は、心筋梗塞、脳梗塞などを発症に対して、統計学上、有意な差を持って効果がある。』
 
 
 
・・・・・
 
 
 
このデータで、『なるほど、俺も長生きする為に、薬を飲まなきゃ』って、素直に、納得できる方もいるだろう。

でも、このデータから言える事は、治療をしても効果が無い人(血圧は下がっても心筋梗塞、脳梗塞発症する)が半分いて、尚且つ、7割の人は、高血圧を放っておいても何も起こらず、かつ、高血圧とは関係なしに心筋梗塞、脳梗塞は発症するということだ。

実は、この事は、誰でも知っている。近所のじいさんが血圧が高いのに病院にも通わず、タバコもプカプカ吸いながら100歳まで生きた。しかし Evidence (証拠)なんて形で目の前に出されると、『あのじいさんは例外なんだな!』と、勝手に解釈しちゃう。横文字の神通力かもしれない。『あのじいさんに Evidence (証拠)と言う言葉は似合わないもんなぁ』なんて、訳の分からん事をいいながら。(おっと余談!)

このデータから100%の精度で予測可能な事はただ一つ『高血圧は放っておくと、まずい人(まずいタイプの遺伝子を持った人)が少なからずいる』ということだ。

それ以上でも以下でもない。


これを現代の医療業界は、『治療が必要』なことを証明できる“証拠”としているのだ。


是非は、各人に任せよう!


そして、この事実を知っているのと、知らないのでは、Evidence (証拠)という言葉の持つ本当の意味を理解できないと思う。
 
 
 
 
ところで、実際は、何故か?高血圧を無治療として試験するのは“人道的ではない”ということで、こんな試験は組めない。(結果的に高血圧なのに無治療だった人のデータはある。180で3割というのはその数字。すこし多めだが。)
そう、最初から“高血圧は(全人類にとって)悪者”のバイアスがかかっている。

コレステロールの方は、今年の11月まで、何故か結果発表が引き伸ばされているのだが、MEGA Study と呼ばれる大規模臨床試験で対照として“無治療”グループが設定されている。まぁ“無治療”とはいっても、食餌療法は行なっているのだが、結果が非常に楽しみだ。
 
 
 
 
さて、この臨床試験が本当の意味で Evidence (証拠)となるには、血圧180の人が無治療だった場合、10年後に100%の人が心筋梗塞、脳梗塞などに罹患し、降圧剤による治療を行なった場合、100%の人に心筋梗塞、脳梗塞などが発症しないとなる必要があると思う。

だって、『3割の人が心筋梗塞、脳梗塞になるったって、その3割に、俺が入るのかわかるのかよ?』って言われちゃえば、現代の Evidence (証拠)じゃ、ぐうの音も出ないからだ。(だけど、3割に入っちゃったら大変だから、予防の為に薬を飲もうよという考え方もある。副作用は出ないという前提で。)


この為には、血圧180の人を、遺伝子型のパターンに分ける必要があるのだ。(手前味噌で恐縮なのだが/苦笑)

動脈硬化関連遺伝子を一つ取り上げ、仮にXとし、そのXに幾つの多型が10個あれば、X1~X10まで分類し、それぞれでの10年後の心筋梗塞、脳梗塞などの罹患率を、治癒率を調べれば、精度が上がる。もちろん他の動脈硬化関連遺伝子の連鎖や、あるいは独立した要素も含めるのは当然だ。X1のタイプの人は、5割の確率だが、X3のタイプの人は、1割しか心筋梗塞、脳梗塞を起こさないというように。

さらに、動脈硬化は高血圧からだけなるわけじゃない。その他の疾患感受性遺伝子の多型にも目を配らなきゃならない。バイオインフォマティックスが登場する必然だ。


しかし、遺伝子型を調べるには、経費がべらぼうにかかる。日本の国家予算どころか、GNP も使い果たしてしまうかもしれない。それに自分の(疾病罹患)未来がみえてしまうのは・・・・・。
 
 
 
もう一つだけ、お知らせしておこう。我々は知ったつもりでいるけど、実は、ほとんど知らないという事実の紹介だ。

『私たちが知っている細菌は、実は、1%にも満たない。何故なら、全世界の細菌の約99%は、人工的に培養することができず、したがってその正体を明らかにできないからだ。』

我々は大方の微生物を知ったつもりでいる。なぜなら医学部や薬学部では、微生物を取り扱う教科書は『病原微生物』なのだ。だから、関係無い(と思い込んでいる)微生物はその存在すら意識する事が無い。故に、微生物といえば、病原微生物しかわれわれの身の回りにはいないと錯覚している。

病原とならない微生物が我々の生命活動に関与していないかというと、そんな事は無く、おそらく、大きな部分で関係していると思われる。
しかし、全体の1%の微生物しか知らないのに、その生態系(と言っても良い)を壊すような“抗生物質”を疑いも無くじゃんじゃん使っている。100%じゃない Evidence (証拠)を信じて。
 
 
 
 
『喫煙は病気だ、Evidence (証拠)がある。』と言われたら、さて、貴方は、どうしますか?

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2005年11月04日

RSウイルス感染症治療に RNAi 医薬品が治験申請

米Alnylam Pharmaceuticals社は11月1日、RSウイルス感染症患者を対象に同社のRNA干渉(RNAi)医薬品であるALN-RSV01の治験申請を米食品医薬品局(FDA)に行ったと発表した。

感染症を対象にした初めてのRNAi医薬品が治験申請された訳だ。


これって、私にとって、凄いスピードで世の中が動いているように感じられるのだが、私が“歳を取った”せいなのだろうか??

私にとっては RNAi 現象が医療分野に応用が出来るかも?と色めきたってたのが、ついこの間のような気がするのだか・・・・。
 
 
 
さて、昨日は娘の七五三のお祝いをした訳だ。いままで全く知らない世界だった事も、子供の行事を通して知るようになる訳だが、、、

【昔は医療・衛生的に未発達で乳幼児の死亡率が高く、成長する子供は幸運とされていました。そのため「七つ前は神のうち」といわれ、7歳未満の子はまだ神に属するものとされ、神がその運命を決めると考えられていました。そこで人々は数々の儀礼を行うことで、子供の無事な成長を祈りました。そして7歳の祝いはその不安定な時期を乗り越えた節目の儀礼であったため、特に7歳の祝いを重視する地方は多かったようです。】

現代の「RNAi医薬品が治験申請された」事実と比べると、ギャップの大きさにはなんとも言えない感情が湧き起こってくる。

そして、お参りに行った先の神社では「これのどこが少子化なんだろう?」って感じさせられるほどの“人・人・人”“子供・子供・子供”。


テレビでは朝から「どうして少女が・・・」とか「家庭環境がどうとか」と相変わらず遺伝子と環境の関わりを無視した無味乾燥なニュースを垂れ流している。
 
 
 
 
なんか、映画のワンシーンのような感覚、、、音が途絶え、画像だけがフラッシュバックするような・・・・感覚に囚われてしまった。


別に、今日は何も主張したい事がある訳じゃ無いんだけど、妙な脱力感というか、ヘンテコな感覚に見舞われたので、書いてみた。
 
 
 
20051103neuro0905_homecover.gif多分、明日には、実際に自分で見た訳でもない事に対して、テレビ・新聞・その他メディアを通して入ってくる情報に、現実的なものとしての感覚を“脳”の中に作り出し、イライラしたり、喜んだりするんだろうなぁ・・・。

2005年11月05日

【キャベツやブロッコリーに肺がん予防効果】

タイトルはお昼の“みのもんたの番組”や“あるある大辞典”で興味を引く為に使われる常套手段だ。ただし、、、、
『キャベツやブロッコリーに肺がん予防効果、ただし遺伝子型によって異なる』のだ。

20051105lanset.jpgこれは、臨床系医学雑誌 Lancet誌2005年10月29日号に報告された内容だ。(本論文の原題は「Effect of cruciferous vegetables on lung cancer in patients stratified by genetic status: a mendelian randomisation approach」。)

いままで、“みのもんたの番組”や“あるある大辞典”では無責任極まりない事に、一番大事な“効果はその人の遺伝子型による”ということを敢えて“恣意的に”言わないで、あたかも“万人に効果がある”かのような番組作りに励んできた。

根拠となる医学論文雑誌には“敢えて書かなくても”読み手(専門家)は遺伝子型の影響があることは、先刻承知の事なのだが、知らない人には理解出来ない事をいいことに、敢えて“誤解”してくれることを期待しつつ、番組み作りに励んでいたのだ。

その根拠となる医学専門雑誌が、敢えて『ただし遺伝子型によって異なる』との内容の論文を掲載したのは、どういう意味があるのだろうか??

その意図は解らなくても、“みのもんたの番組”や“あるある大辞典”が恣意的にデータを提示する行為の抑止力になる事だけは確かだ!!!


ばんざぁ~い。


ところで、朝日新聞の記事に煽られて、今、医療機関のインフルエンザ治療薬“タミフル”の買い占めが始っている。(お陰で、私のところも一回支払いを済ませねばならないタイミングで買わざるを得なかった。実は出入りの業者さんに他の病院で新聞を見せられたって教えてもらったのだ。やっぱり朝日ですよって)

朝日新聞のこういう態度?なんとかギャフンと言わせたいのだが、良い方法は無いものか?インフルエンザが流行ったら『ホラ、私が言っといたお陰で、治療薬が病院に足りない自体にならなかったでしょ』というつもりなのだろう。流行らなかったらどうせ知らん振りだ。
メーカーは増産体勢に入っているので、供給不足にはならないって言ってるし、そもそも、罹患した後に服用する治療薬にどれほどの効果を期待しているのか?発熱が5日続くところが4日で済むという次元の話なのだが、まるで“特効薬”で飲んだら全快でもするかのような記事の書きっぷりだ。

治療薬より“予防接種”を推奨しろっての!!!!!


先の総選挙の投票前、自民党は党のコマーシャルの掲載に当たり、全国紙に小泉党首の顔写真を掲載したのだが、朝日新聞だけには声をかけなかったそうだ。自民党はその予算を、なんとスポーツ新聞に回したんだってさ。(苦笑)

これ、、、、(・∀・)イイ

医療系の団体は、広告を打つ時は、ことごとくこの戦法を使って痛めつけてやったら良い。

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2005年11月09日

忘れないでね!ワ・タ・シ

ちょっと前の新聞に、マリリン・モンローが J.F.ケネディ大統領の誕生日にプレゼントしたロレックスの腕どけいがオークションに出品されたなんて記事があった。
J.F.ケネディ大統領は、秘書から手渡されたプレゼントを一瞥して『捨てとけ』と言ったとか。。。。マリリンに『ワ・タ・シのこと、忘れちゃいやよん』なんて・・・(あぁ~勿体無い)


何処をどう巡って、現代のオークションに出品されたのか・・・・。


今、医療の世界でも忘れ去られようとしているかつての『スター』がいる。
その名は、『HIV』。ご存知、エイズの原因ウイルスだ。一世を風靡した20年前と比べると、なんと、存在感の薄いことか・・・・。残念!


なんて言ってる場合じゃない。


去る4月25日、AISD動向委員会は、日本の HIV 感染者・AIDS発症累計者がついに1万人を越えたと発表した。東京都ではエイズ予防期間と題してキャンペーンをはっている。東京都では一日に一人以上の割合で感染者が増加しているのだ。(11/16~12/15まで無料相談と無料検査を実施している。詳しくは、http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp 。不安な方は自分と自分のSEXパートナーの為に検査を受けるべき。)

でも、こんな数は氷山の一角で、実態は数倍以上、秘め事の世界のことだから、数十倍はいるかもしれない。

にもかかわらず・・・・・国民は“過ぎたこと”,“自分には関係ないこと”と納得?し、マスコミは視聴率・購買部数が上がらないから取り上げない。

でもって、どうでもいいような“インフルエンザ”を大々的にキャンペーンしている。
(1万人の HIV と インフルエンザの感染者がいたら、どっちが多く死ぬと思ってるんだ??)


これって、何かに似ているなぁと思ったら、北が核兵器を開発しそれを乗っけて飛ばす為の弾道実験をやっちゃっている事に対して真剣に非難しないで、首相が靖国に参拝することを非難している姿勢に似ているのだ。

マスコミにとって絶対的重要度はあまり重要ではないらしい。

第3次世界大戦が勃発する危機があっても、フランスの暴動の方を優先して放映するのかと問いたい。第3次世界大戦は絵空言かもしれないが、ADIS は実際、起こってるんだぜ!!と。
 
 
 
さて、“インフルエンザ報道-騒動”のとばっちりで、ついに昨日『タミフルの出荷停止』命令が発令された(もう、笑うしかない。ハハハ)。多分、どこの医療機関でも暫くのあいだ、この騒動が沈静化するまで購入できないものと思われる。

そんなことは、もう、どうでも良いのだが、今回、指摘したいのは、マスコミの“インフルエンザの毒性”の伝え方だ。どう考えても、まともじゃない。民衆のパニックを狙っているとしか考えられない報道の仕方だ。

病気に対する間違った印象を与える、あるいは助長する様な行為は、過去にも苦い経験が有りすぎるほどあるのに、全く、学習していない。


ということで、まず、インフルエンザウイルスの毒性について説明してみよう。専門用語では“ビルレンス”という。化学物質じゃないので“毒性”という言い方に違和感を感じるので、ビルレンスを使って説明することにする。(RNA なんだから化学物質には違いないんだけどね)

これをご覧になって頂きたい。インフルエンザのビルレンスに関する最新の情報だ。
スペイン風邪ウイルスがよみがえった』(日本語記事無料公開中!)

これをご覧頂ければお分かりのように、結局、ヘムアグルチニンが人体内で特定の(臓器にある)酵素で切れるか、普遍的な(全身にある)酵素で切れるかによって、ビルレンスの強弱が決まっている。それプラス、増殖の速度だ。

分かり易い説明は手前味噌だが、ここをご覧頂きたい。『Q&A:インフルエンザウイルスの強毒株と弱毒株

インフルエンザウイルスRNA のもっとも変異しやすい部分が、ビルレンスに直結しているといえる。

これらから言えることは、過去に強ビルレンスの“スペイン株”がどういう形で変異したかは、その宿主が鳥だったのか人間だったのかは問わないということだ。過去の例では宿主への偏向が“鳥”、“鳥と人間”、“人間”のうち、たまたま、『鳥と人間』だったに過ぎない。

逆を言えば、鳥をバタバタと殺したウイルスでも、それが人間をもバタバタ殺すウイルスだとは言えないのである。


今の報道の仕方をを見ていると『鳥でインフルエンザが流行ったから、凄くヤバイ。みなさん注意しましょう』って感じられる。


ただし、Nature の論説でもあるように、生物兵器に利用される可能性のある情報なので、安易にビルレンスに言及できない。だから、マスコミはビルレンスについては詳しい(正確・客観的な)報道は控えているのだと言うのなら、何も申すまい。


私は、鶏の味方でも養鶏業者の回し者でもないので、『疑わしきは罰する』でバンバン鶏を殺しても良いけど、鶏を皆殺しにしても人間-人間感染のウイルスの中から強ビルレンスのウイルスが出現しないという事ではないということも覚えて置いてもらわねばならない。

このようなマスコミの偏った報道(鳥をやっつければ安心)が、AIDS のように間違った認識を植え付けることは必至だと指摘しておこう。

2005年11月15日

タミフル騒動

20051115.jpg今朝の新聞朝刊やズームインスーパーでも取り上げていた“新型インフルエンザ”。“鳥”を前面に押し出さなくなったことは評価できる。

しかし・・・・・

『不毛だよなぁ・・・』が実感だ。

どうしてか?

踏み込みが甘すぎてかえって誤解を招くし、何しろ売れ線狙いにしか思えないからだ。
 
 
 
そもそも、人には疾患感受性遺伝子が存在し、病気のなり易さが存在する事は厳然たる事実だ。結果の平等を求める日本人には、誠に受け入れ難い内容だと思う。だから今までも、その不平等に関しては“見て見ぬふり”をしてきた。多分、これからもそうだろう。今、まさに“インフルエンザ”に関する報道がそうなのだから。

厳然たる事実から、先に言っておこう。

全く同じインフルエンザウイルスに感染しても、死ぬ人もいれば死なない人もいる。これって、時の運じゃない。遺伝子で決まっている事だ。

免疫学的な個性と言い換えても良い。その他、乳幼児や高齢者などの免疫不全者だ。免疫系が発達途中にあるものは、成人と比べて免疫不全状態であり、免疫の中枢(胸腺)が脂肪組織に置き換わってしまった老人もまた、成人と比べて免疫不全状態なのだ。老人には例外無く胸腺が存在しない。老化現象だからしょうがない。
 
 
 
話はいきなり飛ぶが、昔、テレビアニメ『ポケモン』がやり玉に挙げられた事があった。
テレビの画面を見入る事で、子供たちに発作が生じたからだ。
あの時の状況と現在の新型インフルエンザの報道の在り方が、非常に似ているのだ。

ポケモンの時に発作を起こした子供たちは、実はてんかんの素因が有った子供たちだ。デレビでも新聞でもこの事は一切触れていないが、これも事実だ。だから、運が悪かった子供が“発作”を起こした事にして、ならば『ポケモンが悪い』と。

インフルエンザも万人が時の運で“死ぬかもしれない”という立場を取るから、『じゃ、鳥が悪いんだ』という方向にむかうもの当然だ。


要するにスケープゴートを作っている訳だ。


鳥に向かった矛先は、取り敢えず引っ込んだみたいだが、今度は治療薬を“神聖化”し始めたのだ。『特効薬』だと。


20世紀のはじめ、フレミングがペニシリンを発見した。これとタイミングを同じくして、感染症で死ぬ人の数が減ってきた。

グラフを見せられれば、誰でも、ペニシリンのおかげだと“信じる”だろう。

でも事実は、ペニシリンの供給が世界の隅々まで行き渡るより早く死亡率が減っているのだ。しかも、ペニシリンの供給が都市部には満足できる状態になっても農村部にまで回らなかった時でさえ、農村部の感染症の死亡率が減少してきていた。

これって、どう解釈したら良いの?ということで、公衆衛生学の研究者達は考えた。
『衛生環境の改善と、栄養状態の改善しか考えられない』と言う結論に達したのだった。世代交代による生物としての“進化”などは考えられないのは誰にでもわかることだ。


薬の効果を“神聖化”しても意味の無い喩として引用したエピソードだが、作用機序の面からも“特効薬”にはなり得ない。これは、、、、

インフルエンザウイルスをお城に忍び込んだ敵方の忍者だと思ってもらえば良い。
まず、タミフルは侵入そのものを防ぐ薬じゃない。はじめの侵入は防げないのだ。

弱毒なインフルエンザウイルスは、最初お城の中にある1部屋だけに侵入する忍者と考えれば良い。何で入れないの?って答えは、入り方を知らないからだ。そしてその部屋で、自分を増やす訳だ。それも、何千何万倍にも。増えた後は、その部屋を出ていって、隣りの部屋々々に入って同じ事を繰り返す訳だが、増えた後、次の部屋に入るタイミングを防ぐのがタミフルだ。そして、特定の部屋にしか入り方を知らない忍者が増えるだけだから、結局、被害は局地的だ。(臨床的に感染は気道粘膜に限定される)

臨床的には症状が出た時点で、とっくに隣りの部屋に移っている。インフルエンザウイルスは部屋を出る時、その部屋を壊していくからだ。だから、炎症が起きる。これが自覚できる症状になるわけだ。

弱毒なインフルエンザウイルスは、自分を複製するスピードが遅い。だから、隣りの部屋に移る段階をシャットアウトすることで、まだ、ウイルス合成量のピークを迎えるのに間に合う、、、つまり臨床的な効果が出る。ピークは体の免疫力とウイルス増殖が拮抗するところだ。それに、そもそも、入れる部屋が限られている。だから、タミフルを飲まなくても死にはしない。


では、強毒なインフルエンザウイルスはどこが違うのか。

まず、お城に入ってから忍び込む部屋が1つじゃない。最初からほとんどの部屋に入り込むのだ。それは入り方を知っているからだ。だから、それぞれの部屋で増えた後、別の部屋に移動する為その部屋を壊したら、、、、一回の移動で、お城の部屋はほとんど壊れてしまう。(臨床的には全身の細胞に、、、脳へも感染できる)

タミフルが活躍するタイミングより先に、お城は崩壊するのだ。

臨床的には数値で表せないが、人間の細胞60兆個全てに最初から感染する訳じゃないので、タイムラグがある。だから、タミフルを飲む意義があるとも言える訳で、タミフルを飲むタイミングが少しでも遅れれば、それだけ致命的になるわけだが、、、、
増殖速度が速いので、免疫系が始動するまでに、死に至るくらいの数の細胞がダメージを受ける、なにしろはじめから全身の細胞に感染できる訳だから、タミフルを飲んでも、なすすべが無いのは変わり無いので服用に意味が有るかどうかとも考えられる。


結論、ヤバイウイルスが誕生したら、タミフルがあっても、全然、安全じゃないのだ!!!


インフルエンザ罹患を防ぐのは、予防接種、手荒い、うがい、、、、、当たり前だけど、これに勝るものはない。殺菌剤(イソジン)を使わなくてもうがいの効果は変わらないというデータの出ているくらいだから、水で良い。

インフルエンザウイルス RNA の変異の少ない所をターゲットにしたワクチンを接種して、それを分泌型 IgA として大量に気道粘液から分泌させるのが、究極のインフルエンザ対策だなのだ。(全身に感染できる強毒性のウイルスでも最初の侵入門戸はは気道だから。それから、体に回っちゃったことを考えれば、血中の IgG も必要不可欠だけど。。。。おっと、これは専門的すぎる・・・)
 
 
 
さて、私が問題にしたいのは、遺伝子の多様性は種にとって必要な事なのに、これを“悪い事”のようなイメージを植え付けるような報道の在り方と、世の中には、怖い事も有るけど、対応する手段は必ず有るという間違った認識を植え付ける事だ。


『予防接種、手荒い、うがいなんか、、、タミフルがあればいいんでしょ!』
『それに、行政もやっきになって備蓄に走ってるんだから、効くんでしょ!タミフルは』

などと、国民が勘違いしていない事を祈るしかない。
 
 
 
 
マスコミは、疾患感受性遺伝子が存在することは事実だけれど、それを口にする事は“差別”に繋がるなんて考えているんだろうか??
どうせ、そんな事だろうとは思っているんだけど、間違ったままじゃ放っておけないので、疾患感受性が差別にならない理由を示しておこう。


まず、先に説明したインフルエンザウイルスに弱い遺伝子を持った個体は、社会においてデメリットばかりかと言うと、全く違う。これが免疫学的な個性と表現できるのは、インフルエンザに対して強い個体は、全ての疾患において強い訳じゃなく、別の疾患に付いて見れば“弱い”ということもあるからだ。

例えば、女性に自己免疫疾患が多いのは、免疫システムの働きが男性より強いからだと考えられているし、女児乳児期の死亡率が低いのはこの為だと言われている事からも理解できると思う。免疫反応が強いのと過敏なのは、表裏一体、紙一重なのだ。鎌状赤血球症の遺伝子はマラリアに耐性だから、残っているのは有名な話しだし。

また、糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症になり易い人達は、食糧難の時代には、逆に生命力が強いと言う事が出来る。これら全ては倹約遺伝子と関係が有るからだ。
スポーツをするには都合の良い骨格や筋肉も維持する為には大量のエネルギーを必要とする。ならば、小さい体で、筋肉量も少ない方が良い訳だ。

食料一つとっても、疾患と大きな関連がある訳だ。例えば、オゾン層の破壊で紫外線が増えれば、ミスコードを取り除く遺伝子が大きく物を言うことになるし、環境全ての影響を考察する事は、どれがメリットでどれがデメリットだなんて言えなくなるのは、容易に想像できるだろう。


ただ、遺伝子を考える上で、難しいと思わせるのが、塩基配列だけで事は判断できないと言う事だろう。

【エピジェネティクス】という言葉がキーワードになる訳だが、これ、一言で言うと、『DNA 塩基配列には変化を起こさず、かつ、細胞分裂を経て伝達される遺伝機能の変化、またはそれを探究する学問』だ。

具体的には、DNA メチル化、ヒストン蛋白の修飾、クロマチン高次構造の変化などの組み合わせによる遺伝子発現調節のことだ。

遺伝的と言う言葉を使うと、すぐさま、A , G , C , T の並び方だけに意味があるって思ってしまいがちだが、並びが同じでも、遺伝子の発現が違うことがあると言うことも知っておかねばならない。そしてエピジェネティクスは、全ての生命現象に関わっているのだから、疾患感受性も関わっている。そのため、特定の疾患で関係する遺伝子を釣り上げようとしても、100%にならないという現象が起きる。ベーチェット病と HLA-B51 が100%にならないのだ。
 
 
 
 
なになに、結局、病気のなり易さ、なり難さって、罹ってみなきゃわかんないってこと?

と聞かれれば、その通りだと言うほかない。でも、知っててわからないのと、知らなくてわからないのでは、対処の方法が天と地ほどの差になるので、知らないといけないのだ。
 
 
 
 
危機管理と言う面からは、インフルエンザウイルスの怖さを啓蒙することは良いことなのだが、むやみにパニックを起こさせない様にとの配慮からか、間違った方向に、国民を導いてしまうのは、とんでもない話しだし、エイズとの扱いの“差”に疑問も感じたので、一連のエントリーとなった訳だ。それに、マスコミに言われなくても、知恵で防げる感染症には医療業界は粛々と対応している。(ちなみに私の職場ではエイズの啓蒙は途切れず続けている。当たり前だけど)

2005年11月19日

常識を覆す

20051119cover.gifBMJ に、またまた、『へぇ~~~~っ』って論文が掲載された。
タイトルは、、、
【てんかんの家族歴は統合失調症の危険因子】だ。統合失調症は、以前、精神分裂病と呼ばれていたものだ。“精神分裂病”という病名が“差別”に当たるのではという“民意”に応えて、精神医学会が変更した病名だ。(最近、病名か良く変わる。愚の骨頂だと思っている。)

で、何が常識を覆すのかって事だが、従来、“てんかん”と“統合失調症”は精神科の臨床では“対極”に位置する病気だと“信じられて”いたわけだ。
それが、“同極”にあるという論文が発表されたんだから、常識を覆したといわれる訳だ。
 
 
 
私がこれを読んで感じたのは、一般大衆の“差別意識”の働き方に、「無意識に真実を避けることによる無責任なイメージ」を作り上げる事が関係しているのでは?ということだ。

鳥インフルエンザ騒動のエントリーでも書いたことだが、ポケモンをスケープゴートにして“真実”を隠す事自体が、誤解を招く事を助長すると感じている。

それが証拠に、私の周りの“一般大衆”を代表するような方々に【てんかん】や【統合失調症】に対するイメージの“本音”を聞いてみたのだが、『突然、何するかわからない人』『雰囲気が怖い』、ダウン症に到っては『気持ち悪い』なんて言葉も出てきた。

措置入院させる施設などにいる統合失調症の患者さんに対するイメージなどは、もっと辛辣なものになるのだろう。

『気持ち悪い』なんて言葉を発することに罪悪感を感じるから、それ自体(病気の本質や存在)を無視してしまうのだろう。(本音を語る時、顔面は紅潮し、鼻息は荒くなり、言葉を発するのがオドオドしてたいた事からも、“罪悪感”を感じている事は明らかだ)


でも、考えてみて欲しい。日本の世の中、1年間に1400件余りの“殺人事件”が発生しているのだが、ほとんど全部が一般大衆による事件だという事だ。イメージと実態のギャップは非常に大きい。

精神病患者をスケープゴートにして、日常の平穏を浴したい気持ちがそうさせるのかもしれない。(司法にもそういう面がある。無意味な精神鑑定)


マスコミがポケモンの歪んだ報道をしたり、【てんかんの家族歴は統合失調症の危険因子】を無視して全く報道しないのは、真実を伝えれば、一般大衆の抑えていた良心の箍が外れて、精神病患者をスケープゴートにする行為に拍車がかかることを懸念しているとすれば、それは大きな間違いだと言う事を指摘しておこう。

初等教育のところでも触れたが、『ダメダメ』『シナイシナイ』ではなく、病気の真実は小さい頃からドンドン触れさせた方が良いと考えている。ようするに、“慣れさせる”であり、特別な事じゃなくありふれた事にさせれば、『突然、何するかわからない人』『雰囲気が怖い』、ダウン症に到っては『気持ち悪い』なんてこと無くなる筈なのだ。


マスコミは、もし、結果が悪い方に転がったら、責任を取りたくないので、当たらず触らず、どうでも良いニュースを“大事件”であるかのように脚色し、真実に触れないで置く事の罪悪感?から逃避しているように見える。(報道する事を避ける事に罪悪感を感じていてくれるのなら、まだ救われる業界だ。マスコミは)

また、一般大衆も最初は意識していたんだろうけど、新聞・テレビ・雑誌で触れられている事だけを気にしていれば、“良識ある社会人”としてみられると“思いたい”と思いつづけた結果、それが当たり前になってしまった。

一般大衆はとにかく“平均値”を求めたがる。
漫画『ブラックジャックによろしく』の小児科編でダウン症の子を持つ事の“苦悩”を取り上げていたが、あの苦悩は“平均値”から外れる事への“恐怖”がそうさせているのだろう。

“平均値”から外れる事への恐怖は、どのように形成されていったのかを考える時、日本における、このようなマスコミの報道姿勢を抜きには論じられないだろう。


こういう視点で眺めると、日本の社会の至るところに、歪みが見えてくる。

最後に一言・・・

1918年のスペイン風邪の死者の本当の死因は“細菌二次感染”とも言われている事を、報道する媒体は皆無だ。これって、何を意味するのか?細菌二次感染なら有効な抗生物質だってあるんだぞ!!っと。

2005年11月21日

推奨するには科学的根拠の妥当性に問題あり

またまた、BMJ ネタ。
『推奨するには科学的根拠の妥当性に問題あり』
--- アルツハイマー病患者に対するコリンエステラーゼ阻害薬の効果:無作為化試験のメタアナリシス ---

日本では、482.4 円の薬価が付く“アリセプト錠”が臨床使用されている。医療機関の収入源になっている事だけは“妥当性に問題なし”だ。


20051121bilding_s.jpgさて、姉歯一級建築士が“やらかした”ニュースで持ちきりの今日この頃。彼のインタビューで気になっていた事があるのだが・・・・、それは、、、。


『プレッシャーが在ったんですよ』


、、、、プレッシャーって、マンションの販社から『安く仕上がるように設計してね』って依頼されたってことだろう?
なんで、これがプレッシャーなんだ???
プレッシャーに感じると言う事は、一級建築士は“安く仕上げる事”をしたくなかったと感じているからに他ならない。
何故、したくなかったかと言えば、『安く仕上がる=強度に問題が出る』ことを知っていて、尚且つ、安全な建物、ひいては安全な街作りの最終責任が自分達にあると思っているからだといえる。


・・・・一級建築士って、そんな責任を感じて仕事してるなんて、今の今まで知らなかった。。。。というより、気にしていなかった。土木・建築に関わる全ての人達の“良心”によって行われているとばっかり思っていたからだ。
 
 
 
法律上(建前)ては、全ての医薬品は、最終的に薬剤師の手によって、必要な人に手渡されることになっている。

『国民の薬物を介した安全を守るのは我々である』と思っている薬剤師が、実は、国民に全くそんな期待をされていないのと似ていると思ってしまった。
 
 
 
ここで一句!!

“国民の安全守るは薬剤師”人の振り見て我が振り直せぇ~~~。
 
 
 
 
閑話休題

日曜日には、劇的ビフォーアフターを見るのが楽しみだ。ここでは、一級建築士がわんさか出てくる。

最後には涙まで流して感謝される・・・・クリエイティブで、人に感謝されて、良い仕事だなぁなんて思っていた。これが一級建築士の一面だろう。

中学や高校の友人達と酒を飲むと、『いいよなぁ、薬剤師は。楽して保証されてて』って良く言われる。これが、薬剤師以外の人達の偽らざる気持ちだろう。


だから、やたらに薬学部が新設されて、薬剤師の免許持ちが増える。

でも、こんなもんなのかもしれないね。日本人みんなで、日々適当に生きる・・・、何か起きたら、個人的に責める。私自身も仕事を通して、国民の安全とか、医療費の無駄を抑制するとか、考えるより先に、薬理学(分子生物学・免疫学)に興味、知的好奇心があるからこの職業を続けているのが“本音”だもんね。


なんか、今日はシニカルでペシミスティックな私・・・。

2005年11月22日

過体重者の減量に延命効果ない

こんな御時世に、まったく、不謹慎な話だけど、そういうデータが出ちゃったんだからしょうがない。

こんな御時世って言ったのは、世の中、メタボリックシンドロームで浮かれているからだ。

太っただの、油だのって言ってるけど、ついこの間公表された MEGA study のデータをみても、特定の臨床検査値がその人の余命を決めるなんて事は無いって事が証明されちゃった事と合わせてみると、興味深い。

MEGA study ・・・どんな内容かと言うと、トータルコレステロールが高目の人(平均は250)をスタチン系と呼ばれる治療薬で治療するグループと無治療のグループに分け、スタチン系の病気の発症予防効果を6年間追跡して調べたものだ。

日経新聞に載ったからご存知の方も多いと思うが、『心筋梗塞発症予防効果は33%』なんて見出しが躍っていた。

でも、実態は・・・・
無治療のグループで、心筋梗塞を起こした人が“3%”。
治療したグループで、心筋梗塞を起こした人は“2%”。

3%が2%に減ったから、発症予防効果が“33%”となる。


---なんか、騙されてる、俺って?---


こう思う人は正常だ!

トータルコレステロール250の人は、無治療でも6年間は97%の確率で、何も起きない事か“証明された”と言う事も出来る試験結果な訳だ。
しかも、治療薬を服用しても、2%も心筋梗塞を起こしているのは、笑っちゃう。発症予防効果が100%、すなわち、3%が0%に減ったのなら、《何がなんでも薬を飲む方が良い》となるのだが、真面目に服用しても、2%も心筋梗塞を起こしちゃうということが“証明された”と言う事も出来る訳だ。

本当なら、このまま MEGA Study は継続して10年、15年、20年、25年のデータ、すなわち、コレステロール250をほったらかしにして、どの位の人数が生き残るのかを調べて欲しいところだが、お金が無いので無理だとの事。

6年目までは“線形データ”なので、12年目には心筋梗塞を起こす人は6%ということになるハズなのだが、、、この先、対数グラフよろしく、発症者が激増するのか、はたまた、発症者はプラトーに達して、増えないのか???誰にもわからない。


初発の心筋梗塞の死亡率は4割程度だそうだ。だから、生き残った人には治療を施さねばならない。それにかかる医療費は、無駄な人(97%)に治療薬を飲ませてもお釣が来るという理屈を、製薬メーカーからはよく聞く。だから、医療費の抑制にも寄与するんだと。

でも、医療費って、もともと、国家予算で決まっているもので、いきなり増えたからって全部が支払われるものじゃない。

それに、NEJM 337:1052-1057,1997 に掲載された論文、『禁煙は短期的な医療費抑制効果はあるけれど、長期的には医療費は増える』というのがある。禁煙で呼吸器系の疾患を免れて生き延びた人が、別の病気になのるで、医療費は増えるのだと。

非常に残酷な論文だけど、真実だと思う。


---人が増えれば、医療費は増える---


当たり前の事だ。


喫煙を病気にして『保険適用』する事が決まったけど、これが医療費抑制の為だと言っているなら、騙されない方が良い。医療費は徐々に増えて、増税は確実にやってくる。
 
 
 
さて、タイトルの『過体重者の減量に延命効果ない』だが、内容はこうだ。


〔デンマーク・コペンハーゲン〕過体重者では、減量は心血管リスクと 2 型糖尿病リスクの低減につながる。そのため、肥満を解消すれば寿命は延びるとの期待は大きい。しかし、コペンハーゲン大学病院予防医学研究所のThorkild I. A. Sソrensen教授は「フィンランドの研究者と共同で調査を実施したところ、結果は期待に反するもので、若干の減量に成功した群のほうが死亡リスクが高いというデータが得られた」とPLoS Medicine(2005; 2: e171)に発表した。

 同教授らは、1975年に約 2 万人の調査協力者に身長と体重を自己申告してもらい、過体重と判定された約3,000例について減量の意思の有無を確認し、81年に実際に減量できたかどうかを検証した。さらに、body mass index(BMI)が25kg/m2を超え、共存症が見られない対象者については99年まで観察を継続した。その結果、この期間中に268例が死亡したが、減量の意思があり、実際に体重を減らすことができた群(BMIは平均1.21kg/m2低下)で死亡リスクが高い(ハザード比1.86)という結果が得られた。

 今回の結果について、同教授らは「減量の際に脂肪だけでなく、脂肪以外の組織が失われたことも考えられ、一口に減量と言っても健康への波及効果には複雑な要素が絡んでいる。体重の増減が健康に及ぼす影響をより正確に解明するには、さらに研究を積み重ねていく必要がある」と述べている。


 
 
 
結局、急激に太ったならまだしも、太っちゃったら、太っちゃったで、体の側が【適応】しちゃうから、急激な減量なんて、かえって良くないよ!!って事だろう。

我々は、データ、データ、情報、情報と巷に溢れる“「体に良いよ」って幻惑するもの”に惑わされ、人間の体に適応能力がある事を忘れてしまっているのではないのか?

そんな気がしてならない。人間の浅い知恵で「良い事」を考えたって、たかが知れている事も忘れている。まるで『遺伝子を普通に語れるようになって出直してこい』って人体が怒りの声を発しているようだ。

2005年12月09日

ボクシングとプロレスの戦い

20051209ari3.jpg風邪の予防には水でうがいを --- ヨード液では予防効果なし

をご存知の方は多いと思う。このニュースでイソジンでのうがいを止めて、水でやろぉ~っとて思い直したって人も多い。

で、ポピドンヨードを発売している明治製菓は、反撃の隙をうかがっていた訳だが、先日、地区担当の MR さんが、『ご存知だと思いますけど、京都大学の~~~』って持ってきた資料が、Medical Tribune 2005年11月10日の別刷、『第5回アジア太平洋消毒会議』の内容を記したものだ。

その時は忙しかったので、『ハイハイ、ご苦労様』って受け取っただけだったが、ふと、今、机の上にある印刷物に目を通してみた。
 
 
 
---こりゃ、異種格闘技だな---
 
 
 
20051209rusuka1.jpgはっきり言って、まったく、風邪の予防効果に対する反論になっていない。お粗末なくらい的外れな内容だ。

こんなものに金を賭けるなら、もっと違うところに金を賭けろよ!!

明治製菓は抗生物質で成長した企業だから“菌を殺す”ことに異常な執念があるのだろう。
でも、時代は“菌と共に”だ。頑なに過去の主義を守る事も大事かもしれないけど、方向を間違うと存続の危機に陥る事も考えておいた方がいいんじゃないかな。
 
 
 
痴呆の治療薬に効き目無しと判断された時、それまで製造販売していた製薬企業は潔く“負け”を認めず『薬の薬理効果が否定されたのではありません』などとイイワケがましい事を言っていたのを思い出した。

そのうち、忘れ去られる事なんだけど、なんともみっともない。

こんな時こそ、明治製菓は『追試を行なったけど、全く京都大学の結果と同じだった。風邪の予防には殺菌剤は必要ない』と潔い態度を示せば、信頼される企業として名を挙げられたのにね。結局、『イソジンうがい液』の売り上げを守りたい為に反論したんだろうけど、別の使い道に活路を開いた方がいいんじゃないの??

『うがい以外に使わないで』なんて書いてないで、積極的に“風俗店に行く時に”と奨めればいい。実際、お店じゃ使ってんだから。それに、抱きパブなんかで、前の客が舐めまわした後の消毒をしない乳房を舐める気になんのか?

肺炎だとか、院内感染だとか、老人病棟とか、、、、それも大事だけど、性病予防にも使えるんなら臨床的な試験をすればいいじゃん。コンドーム無しでやっちゃった後、すぐにイソジンでゴシゴシ洗ったら、これだけ予防になりました・・・ってね。


健常な成人の口腔内細菌叢を乱す事を推奨するような(商魂逞しい)行動は、直ちに止めた方が良いと思うぞ。

先ずは、根回し・・・。

20051209cover_nature.jpgさて、今年も残り少なくなって、寒さも増してきた。気分的なもんだろうとは思うのだが、やっぱり疲れが溜まっていると感じる今日この頃である。つまらないニュースばっかりなので、文章を書くのも億劫だったのだが、、、、、


やっぱり疲れは気分的なものだった。

今朝、いつものように Nature のサイトで情報チェックしてたら、血圧が上昇して気分がスッキリとなる記事があったのだ。しかも2本も。
可能ならば、Nature, vol. 438, no.7069 December 08, 2005 に目を通してもらいたいのだが、簡単に紹介すると、、、、

■『ドーパミンがなくても喜びは起こる』
■『腫瘍は転移先のロケーションを前もって準備する』

というものだ。

今までは、美味しい食べ物や SEX での快感、薬物での陶酔感など、どれをとっても脳内化学伝達物質“ドーパミン”がキーワードだった。『ドーパミン無くして快感無し』とまで言われていたのだが、この論文では、ドーパミン欠損マウスとモルヒネを使って実験している。これは、薬物から動物がどの程度の快感を得るかを測定するために通常使われている方法なのだが、結果は、脳内にドーパミンが無いにもかかわらず、モルヒネの快感を感じているというものだ。

腫瘍の方は、腫瘍自身が遠隔転移前にその転移先に“移住”し易くする為の準備を整えているというものだ。簡単に言うと転移先に腫瘍細胞が碇を下ろしやすくする下準備をするのだが、逆に言えば、この“下準備をさせない”事で癌患者における転移の広がりを阻止できる可能性があることを示しているワケで、まったく新しい、今までに無い治療法の概念が成立する可能性を秘めているワケだ。


今回のエントリーは、この事に絡めて何かを言いたい訳じゃなくって、ずばり、この事実だけで瞳孔が散大してしまったので書いたワケだが、『先ずは、根回し』っていうのは、生命現象全般に一般化できる出来ることなのだろうか??などと、新しい疑問も沸いてきた。
それから、“快感”をドーパミン抜きで語るには、一体、どんなロジックが・・・?

まだまだ、奥が深いな人体は。(新しい発見があるたびに、このように感心している気がする)

2006年01月20日

アレルギー体質と RNA 編集

私が高校生の頃に学んだ生物学では、1つの遺伝子からは1つの蛋白質が作られるということだった。。遺伝子は1つの蛋白質に対応しているという、いわゆるワトソンとクリックのセントラルドグマを学んだ訳だ。DNA → RNA の情報の流れには、イレギュラーは無いと。

ヒトゲノムプロジェクトが終了して、遺伝子のドラフトシークェンシングから選られた結果は、遺伝子は2万数千だと言う事なのだが、実際にはヒト生体の構造と機能を司る蛋白質は10万種類と言われている。

単純に考えても1つの遺伝子から5種類の蛋白質が作られなければならない事になる訳だ。

そのセントラルドグマを崩壊させる一つの原因?が RNA 編集という訳なのだが、解明されればされるほど、生命現象の根幹を担っているということが明らかにされ、最近、この分野の研究は、やけに活発で、しかもスゴイ広がりを見せている。


さて、その中でも身近と言う事で、特に興味を引いたのが、アトピーとの関係だ。アトピー患者の IL-12Rβ2 鎖に、RNA 編集 (C-to-U) が見られるという発見なのだが。(花粉症には言及されていないが、花粉症の原因としても多いにあり得ることだ。)

なぁ~~~~~~るほどぉ~~~~~~~。

IL-12 が産生される状況で、その情報がまともに伝わらない、すなわち、IL-12 受容体に機能の喪失があるんじゃ、Th1/Th2 が Th2 に傾向するのも無理はない。

その IL-12受容体の mRNA、wild が C のところ、variant では U に変わっているって事なので、C-to-U 編集が起こった為に、アレルギー体質を獲得してしまったと。。。。


これって、一体???

C-to-U 編集が起きなきゃまずい遺伝子もあるし、C-to-U 編集が起きちゃまずい遺伝子もあるって事になる!!!!

C-to-U 編集を実現する酵素は、AID/APOBEC ファミリーだ。mRNA 上のどの C をターゲットにするかを決めるのは、ACF という寸法なのだが、AID/APOBEC の発現を制御したり、ACF の発現制御する因子が他にあって、それが環境の影響されるとしたら、一体、DNA の立場ってどおなるの???
 
 
 
閑話休題

20060120baby-einstein.jpg子育で、一番の“悩ましい”のが、如何なる教育法が“良い子”を作るのか?って事なのだが、昔から『氏か育ちか』として、色んな人が一家言あるわけで、私なんぞも、一応は自分が納得できる事は(自分が納得する為に)やっている訳だ。

しかし、やりながらも「こんなの役に立つわきゃねぇよ(氏に決まってる)」って思っていたりもする。

私と女房の間の子が、アインシュタインのような頭脳を持つ筈もないし、モーツァルトのような音楽的才能を発揮する訳はないし、タイガー・ウッズのような運動能力を発揮する訳も無い訳で、「まぁ、親の自己満足だよな」って自嘲的になっていたところもある。それと、世の中のお父さんの多くもそうかもしれないが、奥さんが“良い”と信じてセッセとやっている事を、安易に否定すると“夫婦喧嘩”の元になるので、子育てに関しては、適当に奥さんに合わせているって現実もある。


ところが!!!!だ。


20060120dots.gif環境が、DNA に記された遺伝情報を、文字どおり“書き換える”ことが明らかになってきて、改めて、環境の“威力”を考えさせられた訳なのだ。

まだまだ、解明されていない部分ばっかりだから、これが人為的にコントロール出来るものなのかどうかも解らない訳だが、ちょっと飛躍し過ぎかもしれないけど『氏か育ちか』ってのは、私が思い込んでいたのとは違って、本当の事なのかもしれない。

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2006年01月23日

意味が有るのか?無いのか?

もちろん、こういう知見は大切だとは思うんだけど、果たして、どれほど実際(臨床)で役に立つんだろう?って思ってしまう。

でも、そんな事を言ってたら科学は進歩しないんだから、微速前進でも、もしかしたら、それの“積み重ね”に、後々“意味”が出て来るかもしれないし・・・・。

と、自分の中でも「大切だ」「いや、役立たない」と揺れ動く。

「役立たない」と感じるのは、やっぱり“経験”からで、私は服薬の説明をする時、全ての食事・飲料水に対して否定的な注意はしない。薬の併用時ですら、その副作用がクリティカルな組み合わせ以外、注意した事はない。「一般論としては~~のケースもありますが、、、」とは付け加える事はあったにせよ、それで、不具合を経験した事が無いのだから、結果オーライだ。

“結果オーライ”に嫌悪感を感じる同業者もいるだろうけど、もともと、100%が無いのが臨床なのだから、私はこれで良いと思っている。100%の力を振り絞っても、それが10%~50%の結果にしかならないのなら、あとは、結果を見ながらケースバスケースで対応すれば良いと思っている。


なんの話かといえば、『第26回日本臨床薬理学会』で発表されている“健康食品や飲食物と医薬品との相互作用”の内容にだ。

OATP-B、SULT阻害作用明らかに

 健康食品や飲食物と医薬品との相互作用が問題になっているが、そのエビデンスは十分ではない。シンポジウム「代替医療と臨床薬理」で、東京大学大学院情報学環・薬学研究科(医薬品情報学)の澤田康文教授は、薬物動態関連機能蛋白質のうち、飲料が有機アニオン輸送ポリペプチドB(OATP-B)、硫酸転移酵素(SULT)1A1、1A3の機能に及ぼす影響を検討。グレープフルーツジュース、オレンジジュース、茶類がOATP-B、SULTを阻害すると報告した。


市販後調査、事例把握が重要

 OATP-Bは、estrone-3-sulfateを基質とするほか、スルホニル尿素(SU)薬グリベンクラミド、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)プラバスタチンなども輸送する。既に、グレープフルーツジュース、オレンジジュース、リンゴジュースが、OATP-Aの基質であるヒスタミンH1受容体拮抗薬フェキソフェナジンの輸送を阻害することが知られているが、澤田教授は小腸粘膜細胞に発現するOATP-Bについて、グレープフルーツジュースおよびオレンジジュースがestrone-3-sulfateの取り込みを阻害すること、ジュースに含まれるナリンジンなどの成分が阻害作用を有することを示した。

 さらに、グレープフルーツジュース、オレンジジュース中のバイオフラボノイド類、ポリメトキシフラボノイド類がOATP-Bによるグリベンクラミドの輸送を阻害することが明らかになった。

 過去に、β2刺激薬リトドリン服用者がグレープフルーツ摂取後に、著しい動悸と振戦を発現した。β2刺激薬はおもに硫酸抱合によって代謝される。同教授が飲料の硫酸抱合活性に及ぼす影響を検討したところ、グレープフルーツジュースとオレンジジュースがSULT1A1、SULT1A3の活性を阻害し、緑茶、紅茶などではさらに強い阻害作用を示した。これは、サルブタモールなど各種β2刺激薬を基質とした場合にも認められ、阻害成分として、柑橘系ジュースではバイオフラボノイド類とポリメトキシフラボン類、緑茶では(-)-epigallocatechin gallateなどのカテキン類、紅茶ではテアフラビン類などが影響していた。

 同教授は「市販後調査や事例の把握が重要であり、医薬品と飲食物との相互作用の問題を的確に捉え、積極的に報告する薬剤師の役割は大きい。一方で、研究者は因果関係を即座に評価し、重要性が認識されれば可能な限り適切な臨床試験を実施する必要がある」と述べた。

この内容についてとやかく言うつもりはないんだけど、(とやかく言えば、薬物輸送担体は、当該飲料に暴露された後、何時間影響を受けるのか?ってデータが無い事だ。これは大事だ。尤も、会場では説明があったのかもしれないが、私は出席してないので解らないし、知らなくてもかまわないが・・・)全ての食事の内容、飲料水の内容を検討しなければ、結局、何も言えないのと同じということだ。

人間、毎日、決まったメニューの食事など出来る訳もないし、まして、その日の気分によって胃内排出速度も変化する訳で、これだけで、薬物の吸収率も変化しちゃうのだから、薬物血中濃度を一定に保つなど、土台、無理な話なのだ。

アカデミックな研究の素材としては、良いとは思うんだけど、それを現場に押し付けるのは、時機尚早だと言わざるを得ない。まぁ、これは、個人的な意見だから、時機尚早どころか、「メバロチン服用している人は、お茶も、紅茶も、オレンジジュースもグレープフルーツジュースも禁忌です」と意気揚々と“服薬指導”する薬剤師もいるだろうけどね。

この“禁忌、禁忌”とする行動は間違いどころか科学的には正しい事なのだから、薬剤師の見本だとは思うんだけど、なんか、PL法みたいな杓子定規な感じが漂っていて、私には“好きになれない”。

私に言わせれば、「SU 剤やグリベンクラミドが吸収阻害されるのは、まずいとは思うが、低血糖を起こす訳じゃないし、そもそも、食べ過ぎがいけないんだから、そっちを何とかしろ」、プラバスタチンに至っては、「それ(メバロチン)が吸収阻害されるって?んで?何?なんかいけないの?」って感じだ。それがその人のライフスタイルなら、メバロチンを増量すれば良いだけの事だ。β刺激薬で、動機や振戦の現れる人の方が圧倒的に少ないんだから、出た人にだけ、「今度からお茶や柑橘類は止めてね!」って言っとけば良い。気管支拡張剤とお茶、柑橘類併用でなぁ~んにも起こらない人にどうして「ダメ」って言えようか?


それに、何から何まで、医療人の善意の押し売りはいかがなもんか?

「ダメ、ダメ」が好きな人(患者)も居るだろうけど、嫌いな人(患者)も居る訳で、医療人から見た良い患者(「ダメ、ダメ」が好きで、言う事を良く守る)だけが、良い人生、充実した人生が送れる訳じゃないんだからね。

ちょっと、古い話で恐縮だが、ペギー葉山さんが、ご主人の根上淳氏が闘病生活に入られて、10年?程苦しんで亡くなった後、こうおっしゃられていた。端折って言えば「(私が)厳格な食事制限をしたおかげで、ここまで長生きできた。でも、これで良かったのか?」と。私にはこのように聞こえたのだが、本当だと思った。
10年が5年に縮んだとしても、美味しいものを食べさせて、好きなものも(酒も含めて)飲んで、人生に幕を下ろす生き方も有っただろうになぁと。
 
 
 
こんな知見が必要なのかい?って言った後にもかかわらず・・・なのだが、知識として知っていなければならないの当然の事だ。なぁ~んにも知らずに、結果、「駄目、駄目」と言わない医療人は最低である。こういう知識を必要とされる場合には、過不足無く(患者さんに)伝えられなければ、プロとして失格なのは言うまでもない。

ただし、人生まで背負い込む事が、果たして医療人の仕事なのか?という事にも繋がるわけだから、複雑なのだ。

本来なら、医療を受ける・受けないも含めて、その個人が考えなければならないのだろうが、日本の教育制度では、その「生命とは?」を考える基礎を教えていないと“日本分子生物学会”も指摘している。しかし、そもそも、一般国民が“日本分子生物学会”なんて存在すら知らないし、テレビや新聞がどういうことをやっているのかを知らせてくれる訳でもない。

その内容の一部は・・・

第28回日本分子生物学会 高校教育の必修教科に「生命科学」設定を

科学リテラシー欠如などに対応

 現在の高等学校のカリキュラムでは、「生物」は選択科目であるため生命科学の基礎を学ばない生徒が多く、そのまま医学部などの生命科学系の大学に進む場合もある。福岡市で開かれた第28回日本分子生物学会(年会長=九州大学大学院理学研究院・佐方功幸教授)の特別枠ワークショップ「初等中等教育における生命科学教育の危機的状況に向かって-研究者と高等学校の真の連携を考える-」(世話人=福岡県立修猷館高等学校教諭・福泉亮氏)では、文部科学省に対して必修教科「生命科学」の設立を含めた「高等学校における生命科学教育についての提言」を示し、高校教諭と研究者が討論した。さらにフロアからの意見なども含め再検討し、学会を通して提出する予定だ。


命の尊さを理解する機会もない

 現行の高等学校の「生物 I 」では教科書から遺伝子教育が欠落しており、「生物 I 」を選択する多くの文系の生徒たちが遺伝子・ゲノムなど生命科学の基礎をほとんど理解しないまま卒業する。これにより科学リテラシーが欠如し、現在のバイオテクノロジーを理解し、状況に応じて自己決定できる市民の育成が妨げられる。また、生命科学に関する研究が認知されにくい社会状況がつくられる。

 一方、理系で「生物」を選択する生徒は少なく、生命科学の魅力を知る機会がないまま進路決定する者、全く「生物」を履修しないまま生命科学系に進学する者が多いため、優れた人材が生命科学系に進学しないことや、大学の基礎教育についていけない者が多いことが問題である。

 さらに、青少年における自他の命の軽視や医療現場における生死の在り方「生命倫理」などが社会的な問題となっているが、高校の「生物」ではヒトに関する生や死を直接学び考える機会はほとんどなく、生物学を学習する目的が「命の尊さを理解する」ことならば、現在の「生物」は社会に対する責任を果たしていない。

これって、ここ最近、何度も“日本分子生物学会”で討論されている。まったく、その通りだと思うのだが、どうも“学会”の“広報”の力不足が否めない。もっと、テレビや新聞を使わなきゃ、ダメなんだよね。

自分の人生(生命)に対して、しっかりとしたポリシーを持つ為にも、基本的な事(知識)だと思うんだけど、これが出来ていない。(おかけで健康産業やみのもんたのメシのタネになるわけだが)
 
 
 
ちょっと前に『Digital Divide』なる言葉が流行った。ネットを活用できる人と活用できない人の間に溝が生まれていると言う意味だ。雇用や給与にも差が付いている。ヨーロッパではそれに『English Divide』なる言葉も加わるとの事。これも EU 統合に纏わり、英語が話せる話せないで、雇用や給与に差が出ると言う事を意味している。

『Knowledge is power.』なんて格言はあるが、『Knowledge Divide』はまだ無い。日本では 『Knowledge』が学歴みたいに感じる人が多いので、使いづらい言葉だとは思うが、是非、定着して欲しい言葉だと思う。

生物学の知識は、大きな意味で“生きる力”とでも呼べるものだと思うので、これのある無しが、有意義な人生を送れるかどうかを“隔てる”ことになり得るのだということを意識する為にもね。

2006年01月24日

ジェネリック医薬品の行方

“ライブドアショック”と巷では呼んでいる。
これに関しては、まだまだ、先が有りそうだから(結果的にそうなりそうな)間抜けなコメントは差し控えておくが、あらためて日本人の“責任の所在”を曖昧にする民族性が浮き彫りになった恰好だ。

結局、資本主義経済社会は日本人には馴染まないって事なのだろう。制度を批判する人もいるんだけど、その制度を決めるのも“人”なんだから、最後はメンタリティーの問題だ。

「それは、法律で縛るようなものじゃなくモラルの問題だ」って言ってるうちに、法律自体が実情にそぐわなくなり、一切の問題解決の手段になり得なくなる。法律の速やかな改正が出来ない。

それは、善意の延長線上にある行動には、それが失敗した場合の罰則・救済方法を取り決める事自体を“善し”としない風潮とか、先人の残した遺物に対しては、糞も味噌も一緒にする感情に由来するように思う。
 
 
 
閑話休題

私のフィールドで言えば、ジェネリック医薬品の“問題”がある。何が“問題”なの?って人もいるだろうけど、これが意外と有りなのだ。

それは、ジェネリック医薬品を使うに当たっては、何か問題が生じた時に、責任の所在が曖昧だと言う事だ。(希望した患者?医師?変更して調剤した薬剤師?)

テレビや新聞では(当然だけど)良い事しか言っていない。国のレベルでも個人の財布レベルでも負担が少なくなると。良い面だけがクローズアップされている。

医師の側からすれば、患者に「ジェネリックにしてよ」と言われたら、そうせざるを得ないだろう。でも、何か不具合が生じたら、誰の責任になるのか?って心の何処かにひっかかりも感じるだろう。でも今の法律では医師の責任だ。

4月からは、処方箋の様式まで変更してなんて、気合が入っているみたいだが、「安くなる」「患者の味方」という正義の御旗を掲げているせいか、責任の所在を明確にしようと言う人(当局)が、全く見当たらない。

そんな状況なのに、処方箋に「ジェネリックに変更可」の印でも付けさせようとしているんだけど、土台、派茶目茶で無理な話なのだ。何か有ったら“ライブドアショック”になりかねない。

仮に処方箋が「ジェネリックに変更可」という様式になったとして、今度は患者が薬局に行って薬剤師に「安いヤツにしてね」って言う事になるんだろうが、これで何か不具合が生じても“責任は医師”のままの筈?だ。だって、『医師の知らないところでジェネリックに変更した場合は医師に責任はない』って言う、一般的に考えたら、当たり前のような法律すら、日本には無いんだから。

別に医師の肩を持つ訳でも何でもないんだけど、普通に考えても、おかしいのは明らかだ。自分の責任において発行した私文書(処方箋)が知らないところで改竄(ジェネリックへの変更)されて、不具合が生じたら、それに関しても責任を負うってのは、どう考えても納得が行く筈が無い。

でも、医師会はどうして、こういう事を言わないのか不思議だ。最後まで責任を持ちたいという自負なのか、責任を放棄したら国民から責められるからなのか、処方権というのを大事にしているからなのか???

薬剤師会に関しては、いつも通りの行動パターンだ。まったく、やる気無し、責任は負いたくないけど、美味しいところには参加したい・・・みたいな、主体ではなく、傍観者でいたいという気持ちが見え見えだ。

大昔から、なんども言っているので、今更、言いたくもないのだが、私は『薬物治療のプロなら、薬物治療の最終責任は薬剤師が取る』と言わなきゃ、資質向上もへったくれもないと言ってきた。ジェネリック医薬品の代替え調剤に関しては、薬剤師会から言葉を発して欲しいもんだ。『処方箋に“ジェネリックへ変更可”の印が付いてきたら、薬剤師の責任の基で、患者と相談して変更する。その際の法的な責任はすべて薬剤師が負う』と。

アメリカでは、ジェネリックが普及しているが、処方箋を変更したら責任の所在が医師から薬剤師に移ると、法律に明記されている。そのことを薬剤師会は知らない筈はないのに、やぶ蛇にならない様に、全く触れる人も居ない。まぁ、薬剤師会のこんなていたらくは今に始った事じゃないからしょうがないけど、薬剤師の“職能発揮”は声高に叫ぶくせに、「責任を取る」って一言も言わないのは情けないの一言だ。
 
 
 
先ずは、医療費を抑制したいのだろう。(年金みたいに、ズルズルと破綻は間違いないのだから)

それに、便乗して、後発品メーカーは一儲けしたいのだろう。

私は、後発医薬品を否定してるんじゃない。たとえ、生物学的同等性が担保されない(60%で認可される)としても、人間の体の方がもっといい加減なのだから。

でも、それとこれを同一レベルで議論する事はおかしいし、責任の所在を法律で明記しない理由にはならないと思う。日本で、この制度が受け入れられるかどうかの瀬戸際だと思ってるのだが、責任の所在を明確にしない日本のお家芸では、先は見えていると思う。

ということで、“ライブドアショック”を見てジェネリック医薬品の行方に感じた事を書いてみたのだが、また、いつものように、薬剤師会への叱咤激励になってしまった・・・・。「薬に関する法律の整備くらい、薬剤師会、主導権握れよ!」って言ってみても・・・虚しいだけかっ。ハァ。

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2006年02月10日

前立腺肥大症にノコギリヤシは効かない

まずは、NEJM 9 February 2006 Volume 354, Number 6「前立腺肥大症に対するノコギリヤシ」をお読み下され。

背 景 ノコギリヤシ(saw palmetto)は,米国で 200 万人以上の男性が前立腺肥大症の治療に用いており,米国食品医薬品局が認可した薬物の代替品として推奨されることが多い.

方 法
この二重盲検試験では,前立腺肥大症で中等度から重度の症状を呈する 49 歳を超える男性 225 例を,ノコギリヤシ抽出物(1 回 160 mg,1 日 2 回)またはプラセボに無作為に割付けた.主要転帰指標は,米国泌尿器科学会症状指標(American Urological Association Symptom Index;AUASI)のスコア変化および最大尿流量率の変化とした.副次的転帰指標は,前立腺の大きさ,排尿後の残尿量,QOL,検査値,報告された有害作用の割合などの変化とした.

結 果
1 年間の研究期間では,AUASI スコア(平均差,0.04 点;95%信頼区間 -0.93~1.01),最大尿流量率(平均差,0.43 mL/分;95%信頼区間 -0.52~1.38),前立腺の大きさ,排尿後の残尿量,QOL,血清 PSA 値のいずれの変化についても,ノコギリヤシ群とプラセボ群のあいだで有意差はみられなかった.副作用の発生率は両群で同等であった.

結 論
この研究では,ノコギリヤシで前立腺肥大症の症状や客観的指標は改善しなかった.

「ノコギリヤシ」で Web 検索すると、出て来る出て来る、うじゃうじゃとノコギリヤシサプリメントの販売のサイト。

で、コレ、本当に効果が無いとすると、買って飲んでる人の間で不満の声を聞かないってのがまったく不思議なのだが、実際に「効いている」という声が、一方であることも事実なので、どちらが本当なのか迷ってしまう。

多分、どちらも真実なのだろう。ノコギリヤシサプリメントを飲まないと、たちまち尿が出なくなっちゃうって、実際に飲んでいる人が言うんだから間違い無い。

このNEJM の試験プロトコルにしたって、飲むか?飲まない(プラセボ)で、自覚症状や客観的指標を見てるんだから、単純すぎて落ち度はない筈なのだが、もしかしたら、1年間ってのが“ミソ”なのかもしれない。

まぁ、なんにしても、自費でノコギリヤシを飲んで本人が満足してるんなら「それでいいじゃないか」って思うのだが、エビデンス流行だから、権威のある後ろ盾が欲しいんだろうね。で、誰が欲しがっているのかって事なんだけど、こんな結論じゃサプリメント業界は納得しないから、医療業界の為に組まれた試験かもしれない。「お客を患者にしよう」ってね。


最近、疾患のコマーシャルが大流行だ。


「ED は治せます」、「その薬は医師の処方が必要です」、「爪の水虫は病気です」などなどと。医療費抑制の為に、ジェネリック医薬品を宣伝しておきながら、病気なのか病気じゃないのかわからないような“灰色”の状態の人を患者さん(お客さん)にして医薬品を消費して貰いたい医薬品メーカーの攻防が面白い。(何で制限しないんだろう?)

たしかに、爪白癬は外用薬じゃ治らない。皮膚科(コマーシャルで診療科まで限定するのもおかしな話なのだが、これは今回は突っ込まないで置く。花粉症が耳鼻科って言うのも同様に)に行って内服の抗真菌剤を処方してもらわなきゃならない訳だ。

しかし、、、、爪白癬って、そのままにしておいても何ら不具合があるモノでではない。ただそれだけ。例えば、足の爪が白癬菌によって変形して、しかも肥厚して痛くて歩けない。爪を切ったり削ったりするだけでは生活に支障をきたすというのなら、立派な病気なのだが、松平健が出演しているコマーシャルでは、本人に全く自覚が無いのに、無理矢理病院に連れて行かれる設定になっている。

爪白癬は病院に行かなければイケナイ病気だと“洗脳”する行為だと思うのだが、誰も異を唱えない所をみると、確信犯的な匂いを感じてしまうのは、私だけだろうか??


何故、これを問題にするのかというと、ノコギリヤシの場合は、今回のエビデンスにもあるように服用しても【副作用は無い】のだが、内服の抗真菌剤は、副作用のてんこ盛りだからである。


当たり前すぎて、ついつい、忘れがちだけど、薬物治療の基本は「メリットがデメリットを上回ると判断されたとき」に使用される事が前提だ。

だから、爪が変形し痛くて歩行困難に陥っているのなら、うっ血性心不全、肺水腫、肝障害、皮膚粘膜眼症候群 (Stevens-Johnson 症候群) 、などの副作用が発生するリスクを冒しても服用する選択もありだと思うが、二次的な疾患の原因になる訳でもなく、痛くも痒くもないのに、わざわざ、これらの副作用の危険を侵して治療する必要があるのだろうか?

その他にも、まだ副作用はあるのである。消化器症状、神経症状、腎障害、骨髄障害・・・全く、副作用のデパートである。(笑)しかも、系統(処方頻度は高い)によっては、他薬との相互作用が非常に多く、全ての組み合わせにおいて他薬の効果を高めてしまう。

自分に不利になる証言はしなくても良いという事は、法廷では認められている。だから、自分で言わないのは理解できるとして、薬害にあった方々の団体などは、こういう事を言っているのだろうけど、決して、マスコミには取り上げられない。スポンサー絡みだからなのだろう。


みのもんたの経営する会社が“談合”したって、お昼のワイドショーでもやらないもんなぁ!防衛庁からみの談合は厳しく扱うのに、みのもんたの場合は黙殺・・・、取り上げる、取り上げないは“報道の自由”なんだよね。

多分、というか、絶対、ノコギリヤシが効かなかったなんて、テレビじゃやらないんだろうね。

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2006年03月08日

インフルエンザの流行も下火に・・・

20060307_infru_virus.jpg昨年末、マスコミがあれほど煽っていたにもかかわらず、何事も無くすんでしまった今日この頃、無責任な報道の在り方を責める気力も失せている。

あの煽りを食って、私の業界は、治療薬タミフルの欠品騒ぎで大混乱していた訳だが、結局、タッチの差で大量に仕入れられはしたものの、使い切れずに大量に残ってしまい、薬価改定を迎える羽目になってしまった。(当局からも「タミフル備蓄に協力を」と言われて、販売する筈だったのに、何時の間にか、うやむやになっている始末)

トリインフルエンザの報道に関しては、いつも感じていた違和感の原因が、ひとつ、分かったような気がするので、エントリーを追加する気になった。


それは、nature DIGEST March 2006 Vol 3 No 3 に掲載されている東大医科研河岡教授のインタビュー記事を読んだ事で、ふっと気づいた事だ。

テレビや新聞などで恐怖心を煽るキーワードは“鳥”と“H5N1”という単語じゃないかと思う。多分、一般の人は、この“H5N1”というウイルスの分類を見たら、『これに分類されるインフルエンザウイルスは強毒のウイルスで致死性が高い』って思っているんじゃないかな。そして、“鳥=ヤバイ”と。

こう考えると、報道の後に続く日本人の行動パターンに納得が行くのである。

この単純なステレオタイプの報道の在り方が、私が違和感を感じていた一つだったと思う。世界でも“H5N1”をキーワードにニュースとして報道しているが、特に、日本人は赤血球の表面抗原の違いで“性格”を分類しちゃうような民族だから、尚更なのかもしれないが、“型”に気を取られすぎているような気がしてならない。

このような、真実を述べないで(理解する事が難しいと判断して、端折ってるんだろうけど、本来、科学的な事は端折ってはいけないと思う)、報道する事は、誤解を招く事に繋がる。


事実はこうだ。

“H5N1”には、強毒型と弱毒型が存在する。
すなわち、“H5N1”は、ウイルスの毒性の指標にならない。
鳥にとっての強毒は、ヒトにとっての強毒とは限らない。

“H5N1”で騒ぐのは、ヒト以外も宿主に出来るタイプだから、強毒型への変異しやすいだろうと予測できるからに他ならない。
“H5N1”のような型(分類法)は、肉眼で見ることが出来ない“ウイルス”を肉眼で見えるようにする為の一つの方法に過ぎないのだ。(と言っても、実際に目で見える訳じゃなく、見えるのは一つの性質なんだけど、ワクチンを作るときに重宝する分類だから、世間に広まっているだけだ)

インフルエンザウイルスの毒性の強弱は、ヘムアグルチニン(HA)の遺伝子配列によって決まるとされる。その理由は、Q&A『インフルエンザウイルスの強毒株と弱毒株』を見て頂くだくとして、、、

でも、実は、このヘムアグルチニン(HA)の遺伝子配列(変異)によって毒性の強弱全てが決まるという訳ではない。まだ、解らない機序もあり、ノイラミニダーゼ(NA)の遺伝変異によって強毒化した例も報告されている。


すなわち、H(1~15)型どれでも強毒なウイルスが出現する可能性(ヒトに感染出来ないと考えられているタイプでもヒトに感染する能力を獲得する可能性のあるので)もあるし、H5N1 型が流行っても、全く心配要らないということも“アリ”なのだ。

そして、タミフル神話、、、すでに H5N1 型の中には耐性株が出現している。シアル酸のアナログであるタミフルは、本物の細胞表面にあるシアル酸とは、どこか違いがあって当然だ。NA を変異させて、目標(NA はシアル酸とHA、シアル酸とNA との結合を断ち切る酵素)を見間違わない様に進化(変異)させたのだろう。

すでに、M2 (プロトンのチャネル)に結合して薬効を示すアマンタジンはボロボロだ。耐性ウイルスでは、M2 遺伝子が変化してしまって、M2 にアマンタジンが結合できなくなっている。


正確な情報があれば、パニックにならずに済むのに、正確な情報を伝えない“報道”って一体なんなのだ???
まぁ、『国民の知る権利』を振りかざし、野次馬根性、火事場泥棒を正当化するような人達だから、パニックを起こした方が面白い、ニュースになる、視聴率、購買部数の増加に繋がるという理由で、あえて、誤解を招くような言葉をつかうんだろうけど・・・。

でも、本当は、報道担当者の無知だったなんて落ちだったら、やるせない。(がっくり肩が落ちるよ)


特定の型を怖がりすぎても意味ないし、タミフルがあっても決して安全じゃないのだ。(ちなみにワクチンは鶏卵を使ってウイルスを増やすんだけど、強毒株 H5N1 ウイルスはその鶏卵自体を皆殺しにするので、ワクチンが作れなかったんだってさ。今はその遺伝子の一部を入れ替えて弱毒化した H5N1 ウイルスをリバース・ジェネティクス法で作って、これで H5N1 に対するワクチンを作ってる。)

慌てず、騒がず、流行が終わっても冷静にウォッチし続ける姿勢が、アウトブレイクを引き起こさない為に重要だと専門家は言っている。
 
 
 
と、締めくくってみた訳だが、実は、このエントリーには、もう一つの理由がある。

それは、、、、、ナイショにして置こう。。。(^^;  (うまくいくといいなっ・・独り言です。)

2006年03月14日

オデュッセウスのような知恵を使ってがん治療

パリスにヘレネを寝取られた“間抜けな”スパルタ王メネラオスは、兄であるミケナイ王アガメムノンに、トロイアまでヘレネを取り返し行く協力を求めた。狡猾なアガメムノンは、ついでにトロイアを滅ぼし、金銀財宝を狙ったのだが、この戦争に勝つ為の条件の神託を賜っていた。

その一つが、勇者アキレウスの参戦である。

アキレウスの母であり、海のニンフ(下級女神)のテティスは、アキレウスがこの戦いに参加すれば後世に名を残す事になるが、引き換えに命を落す事になると予見していた。その為、アキレウスをある国に預け、女装して目を惑わしていたのである。

アガメムノンからアキレウス参戦の要請をまかされた知恵者で勇者であるイタキの王オデュッセウスは、この国に訪れ、ある方法を使ってアキレウスを探し出し(あぶり出し)、ついにアキレウスをトロイア戦争に駆出す事に成功する。
 
 
 
その、アキレウスあぶり出し作戦?にそっくりながん治療法の理論が検討されている。

オデュッセウスの使った“ある方法”とは、女性達が喜びそうな装飾品やドレスといったプレゼントの中に、目も眩むようなカッコイイ“武具”を紛れ込ませて手土産とした事だ。本物の“女”達は“武具”には目も刳れないが、女装したアキレウスは、ついうっかり“武具”に関心を示してしまうのだ。そして、その行動を目ざとく見つけたオデュッセウスに正体を暴かれ、口説かれてしまう。(参考:Achilles at the Court of Lycomedes フィレンツェ、ウフィッツィ美術館 蔵)

まぁ、女装したアキレウスなんて、そんな手段を用いなくたってわかりそうなもんじゃんっていう“つっこみ”はギリシャ神話には御法度だ。

で、実は、今回紹介する“がん治療法の理論”にも“つっこみ”ところが無いではないのだが、既存の薬物を全く違う目的で使用するって所に、『おおっ!!』って唸ってしまったので、エントリーを追加した次第である。。


詳しくは、ココ→ http://www.natureasia.com/japan/cancer/0603/3.php を見て頂くとして、簡単に説明すると、既存のがん治療薬“イリノテカン”を投与すると、正常細胞とがん細胞では“違った振る舞い”①をする。その違いを別の“発見器”②で選び出し、選択的に“がん細胞”を叩くと。

その違った振る舞い①ってのが、反応する遺伝子の違い、すなわち、イリノテカン暴露後のリアクションが遺伝子レベルで相違があって、がん細胞だけに特異的な細胞表面蛋白が産生されるって事だ。

発見器②ってのが、その“細胞表面蛋白”に対するモノクローナル抗体で、それに細胞毒素であるモノメチルオーリスタチンE (MMAE)を抱合させたもので、後の治療を補完する
ってものだ。

結局、正常細胞とがん細胞を区別して選択的にがん細胞だけを叩く方法の一つなのだが、事前に使うイリノテカンの“量”が問題だろう。がん細胞に“目印”を付ける程度の少量のイリノテカンを使って、あとは、抱合型LY6D抗体で治療できるのなら理想的だが、イリノテカンを今までのがん治療レジメン程度に使用しなきゃならないなら、この副作用で参っちゃうんじゃないの?って疑問が出てくるからだ。

まぁ、がん治療に限って言えば、既存の方法より優れた治療成績をあげられるならば、多少の疑問には“つっこみ”はギリシャ神話のように御法度なのかもしれないけれどね。

でも、この nature のサイトの論説は、あくまでイノリテカンの効果の持続・補完として説明していて、決して“がん細胞をあぶりだす”方法として解説している訳じゃないんだけど、私には、こっちの線で進めて欲しいなぁって、単純に思ったりしているわけだ。
 
 
 
しかし、どうして、がん細胞だけ LY6D遺伝子 が動くんだろう??
これって、細胞が何かしら困った状況に置かれた訳だから、その状況から“逃避”・“回避”したい為の結果なんじゃないのかな?

でも、細胞表面にそんなもの (LY6D遺伝子) を表出した訳だが、単純な抗体でこの機能?を奪ってあげても、何も起こらなかったんだから、単なる気まぐれなのかもしれないね。

もっとも、遺伝子の動きに“合目的性”を持たせたいのは人間の“知性”であって、遺伝子はもっと自由に気ままに反応しているわけで、偶々、素の抗体でがん細胞が死んだりしたら、そこに“合目的性”を見出しちゃったんだろうけど、そうじゃないんだから、粛々と現象を受け止めるだけにした方が良いのだろう。

神々の行動に“合目的性”なんてある訳なくって、すべて後から人間が考えた理屈であるのだから、遺伝子レベルでの反応に、“合目的性”を求めちゃイケナイ、つまり、“つっこみ”を入れちゃイカンのだなぁと感じた午前中である。

2006年03月18日

酒が弱いと薬が効かない?!

よく質問される事例。
『お酒が強いと睡眠薬は効かないんでしょ?』
『お酒の強さと睡眠薬が効く、効かないは関係ありませんよ』と私。

しかぁ~~~~し、これは知らなかったぁ!!
久しぶりの『へぇ~~~~』である。

20060318_1010400033.jpgで、その内容は、、、
『お酒が弱いと、ニトロが効かない』というもの。

詳しくは「Mitochondrial aldehyde dehydrogenase-2 (ALDH2) Glu504Lys polymorphism contributes to the variation in efficacy of sublingual nitroglycerin」を見て頂くとして、簡単に解説すると、、、

アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が、アセトアルデヒドの代謝とニトログリセリンからの一酸化窒素(NO)生成の両方にかかわる事が判明した為、こういう“格言?”が導き出された。

要するに、お酒が弱い人は NO 生成能力も弱いと言う事が判明したということ。

このアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、エクソン12の変異(504位がグルタミンからリシンに置き換わっている*)によって、アセトアルデヒドを代謝する能力が失われる。(*Glu504Lysは、一般にGlu487 Lysと表記されてきた変異と同じもの。N末のリーダー・ペプチド17個を含めて数えると504位となる。)
このタイプの変異は東洋人に多く(日本人が東洋人に比べて下戸が多い理由:日本人では43%)、変異は常染色体優性遺伝する。

しかし、実験では Gluホモなら全員がニトログリセリンに反応、Lys変異を持つ全員がニトログリセリンに反応しない、という現象が見られなかったのは、ニトログリセリン代謝に関わる他の遺伝子(グルタチオンS-トランスフェラーゼやチトクロームP450など)や環境要因の関与が考えられる。

ただし、ニトロの効果を予測する為に、全ての患者に遺伝子検査をするのが困難な場合は、“お酒の強さ”を利用しても良いんじゃない。


こういう、日常生活で再現され、尚且つ、自覚できる“体質”が、薬物反応に利用できるのって、イイヨね!!いちいち大金かけて遺伝子検査を実施してもいいけど、その御利益はどうなの?って場合には、無駄な検査ってことになっちゃうからね。
 
 
 
ところで、無駄な事はやらないって事で、もう一つ、私の身辺で4月から変わる事。事務的な手続きのに関する事なんだけど。。。。

今までは、1ヶ月あたりの医療費(薬剤費)が高額な患者の調剤報酬明細書(いわゆるレセプト)には処方箋のコピーを“糊付け”していた。4月から(5月に請求する分から)は、このコピーが必要無くなるのである。(今じゃ、永田町のジジイ達だって“メール”って言ってる時代だぜ!!今までこんな旧泰然とした事をやらせていたなんて信じられる??)
 
 
 
閑話休題

この業界に身を置いて、4月から21年目に突入する。合わせて、変化の遅さを痛感する。これって、日本人の“体質”なんだなぁってつくづく思う。

どんなに“良い”と思われる改革でも、それによって職を失う、あるいは利権を失う人が“ごく少数”でもいた場合は、必ず、改革はスムーズに行かない。(コピーが必要無くなれば、事務方の仕事が減り、2010年に始るオンライン請求が実施されれば、紙屋さんが必要無くなる、、、と。)

無駄を省いたって、新しい仕事が生まれ、職を失った人は、新天地に職を求めれば良いだけの話で、ニートなんかやっている奴らは、全員、自衛隊に徴用して、、、、って、おっと脱線。


今日は何の日、フッフゥ~♪】でも書いてるけど、、、、
『【改革】って、ヒトには頭で切り替えられるタイプと体が順応しないとならないタイプがいて、体の順応を待つタイプのヒトが圧倒的に多いと言う事なんだと思う。』って、具体的には“ドパミン受容体遺伝子のイントロンの多型”あたりに答えを求められそうなんだけど、どうなんだろうか??これって、冒険遺伝子って言われているヤツなんだけど、“環境の変化を気にしない=冒険好き”って言えないのかな?


こういう遺伝型を調べて登録しておくと、どんな効用があるのか??

環境変化が“頭で切り替えられるタイプ”は、改革路線の政党・政治家を支持する可能性が高い。
環境変化が“体の順応を待つタイプ”は、保守・守旧路線の政党・政治家を指示する可能性が高い。

なぁ~んちゃってね。でも、今は年齢とか職業とか住んでる地域(農村部、都市部なんて言葉を使ってる)などで支持政党を分析しちゃったりしているけど、遺伝型で支持政党を把握できれば、もっと、ピンポイントで選挙運動が出来るってもんだね。(こんな情報が売買される時代が、すぐそこまで来ているってことかな)

結局、冒険遺伝子のある人は、改革をさほど“心の負担”に感じないから受け入れやすいが(それに改革しなくても気にならなきゃ無関心になるだけで)、冒険遺伝子の無い人は、改革が“心の苦痛”になるので、反対の意思表示は大袈裟になる。
で、大袈裟にいわれれば、『まぁ、そこまで言うんなら、別に変えなくても・・・』ってなっちゃう。人の意見をへし折るって、日本人の最も不得意とする所だからね。

だから、改革をしたい人は、辛抱強く、声を大にして、大袈裟に“改革を叫ぶ”必要がある。大袈裟に反対する人の様にね。


と、抽象的で、しかも脈絡も無いけど、今日はこんなところでお終いにしておこう。

2006年03月25日

行き当たりばったり

Nature March 23, 2006 に、東大医科研河岡教授らの H5N1 に関する新知見が掲載されている。

いつもの事ながら、閲覧には登録が必要なので、まずは、以下をお読み頂いて、、、

 致死性のH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、ヒトの肺で効率よく増殖できるが、ヒトからヒトへの感染はめったに起こらない。今回その理由を説明するのに役立ちそうな知見が得られた。鳥インフルエンザウイルスは、気道中のヒトインフルエンザウイルスが感染しやすい領域とは別の領域に選択的に結合するというのである。

 ヒトあるいは鳥に感染するインフルエンザウイルスがねらうのは、気道の内側を覆う細胞の表面にある同一の分子だが、その分子構造にごくわずかな違いがある。河岡義裕たちは、この違いが患者でどのように表れるかを明らかにしている。ヒトのウイルスが選択的に結合する型の分子は気道上部の細胞に多いのに対し、鳥のウイルスが標的とする型の分子は肺のもっと深い部分、肺胞とよばれる構造中の細胞に多い。

 H5N1型のヒトからヒトへの感染が増えない理由は、これで説明できるかもしれないと河岡たちは考えている。鳥インフルエンザウイルスは選択的に肺の奥深くの細胞へと入り込むと思われるので、感染者が咳やくしゃみによってウイルスをまき散らす可能性が低くなるのだろう。だが、このウイルスが気道上部の細胞への感染力を獲得すると、それはヒトでのH5N1型大流行の恐れを現実のものとする重要なステップになるかもしれないと著者たちは付け加えている。

というわけで、今回は、インフルエンザウイルスの立場で、この変異の意義(『オデュッセウスのような知恵を使ってがん治療』でも書いたように、本来、遺伝子レベルでの変化・変異・対応に“意義”を考えてはイケナイのだが、敢えて・・・お遊びで・・・)を考えてみたくなった。


ドーキンスも言っているように「生物は後世に自分の遺伝子を多く残す」ことに全てをかけている。それ故、“肉体は遺伝子の乗り物”だとも。

だとすれば、一般的に流行するタイプのインフルエンザのように、住む所は沢山あった方がいいし(種を問わず感染できる)、住む所を自ら壊さない(宿主に致命的なダメージを与えない)方が、より多くの遺伝子を次世代に送り込む事が出来る訳だ。

宿主に“咳”をさせる事ひとつとってみても、宿主の側からすればウイルスの排除を促し、気道を確保する生理現象も、ウイルスからみれば自らの“移動手段”(咳をしてもらう事で空気中にばら撒いてもらえる)にもなっている。

だから、宿主へのダメージを最小限にして、くしゃみ・鼻水程度で抑えておく事が理想的と言える。


ところが、エボラ出血熱ウイルスをみればわかるように、宿主を皆殺しにしちゃったんじゃ後世に遺伝子を伝えられない。(非常に細々と生き延びてはいるが・・・世界制覇とは程遠い)

強毒性に変異してしまったインフルエンザウイルスは、「あっ、しょうもないことやっちゃったな!!俺」って感じかもしれない。

住処を気管支でなく肺胞にしてしまった事で、辿り着くのも困難だし、自ら住処を壊してしまう(宿主にとって致命的になりやすい)確率も高まるし、移動の面倒も見てもらえないしと、全く、後世により多くの遺伝子を残す事には、、デメリットしかない風にみえる。


しかし、、、、、

同じ方法で感染を繰り返していると、やがて、相手側(宿主側)に知恵の有る者が現れて『ます、はじめに言葉が有った』などと言い出すかもしれない。。。。。。もとい、感染を防ぐ手段を考え出すかもしれない。

だから、治療薬を使われてやり込められてからそれに耐性になるという無駄な時間を過ごさない為にも、治療薬の使用を切っ掛けにしなくたって、身の振り方を変化させる“手段”を予めテストしているっていうか、いきなり現場に放り出されても(治療薬を使われた場合)、すぐさま、対応する行動に移せる為の訓練をしているのが、ウイルスにとって、より長く(期間)遺伝子を残せる事になるんじゃないかと。

『俺は、やがてくるアルマゲドンでも生き延びる為に、今から、いろんな変化を試したり、練習してるんだよ』ってね。

って、大袈裟に考えてみるなんて言ってはみたものの、これくらいしか考え付かない。やっぱり、バリエーションの一つとして強毒化が(アトランダムに)あるとする方が自然だ。(裏では弱毒化があるように)


ところで、もう一本、気になる論文が Science March 17, 2006, Vol.311 に・・・。タンパク質のファルネシル化が“早老症”を引き起こしているという発見!

 早老症への有望な治療法は?(Promising Therapy for Progeria?)

早老症とは、骨粗鬆症や血管病、頭髪が失われるなど、高齢者に典型的に見られる徴候が子ども時代に始まる点で特徴付けられる稀な遺伝的障害のグループである。

いくつかの早老症障害は、細胞核の構造上の完全性の維持を助けるタンパク質、プレラミンAの機能を変化させる変異によって引き起こされる。早老症の患者から得られた細胞は、核の構築において劇的な変化を示すが、これはプレラミンAがファルネシル脂質修飾のせいで核膜に異常に付着したままになるからである。

早老症のマウス・モデルにおいて、Fongたちはこのたび、タンパク質のファルネシル化を抑制し、すでに潜在的な抗癌活性があるとして臨床向けに開発されていた薬剤(ファルネシル化抑制薬すなわちFTI)が、早老症の症状を改善するということを明らかにしている(p. 1621, 2月16日にオンライン出版; 2月17日のTravisによるニュース記事参照のこと)。

FTIで処置されたマウスはより強い握力があり、肋骨骨折を引き起こしにくく、短期間の研究では、無処置のマウスより僅かながら長生きする。

Ras 蛋白のアンカーとして“表舞台”に登場した感のある“ファルネシル化”だけど、こんなところで“いろいろやっていた”とは、驚きである。っていうか、蛋白質のファルネシル化って“普遍的な事”なのか???(こんなことも知らない私(涙)


プレラミンA がいわゆる“加齢”という意味の“老化”と関係が有るのか、或は、臨床的に“老化”現象に見えるだけの形態形成に関係しているだけなのかってのも興味のある所だが、こういうのを知れば知るほど、人間の体って、“合理的”じゃなくって、行き当たりばったりだなぁって感じる。(シグナル伝達に使う分子をまったく違う目的で使い回していたり、とても設計図が有ったとは思えない作られ方だ)

生命がすべからく“行き当たりばったり”だから、インフルエンザウイルスが“意味の無い『強毒化』”したりするんだろうなぁ・・・・・と思ったりした今日この頃でした。


これって、考えてみると、人間の“社会”の構造とそっくりなんだよね。行き当たりばったりの所が。そういうものなんだろうね。

次に続くのか?と余韻を残しつつ、、本日はお終い。

2006年04月14日

体に良い脂肪?

魚の脂肪は体に良い・・・、良く言われる事だ。データ(エビデンス)も揃っているとも。

そんな訳で、体に良い脂肪を持ったブタが作られた。

Nature Biotechnology 4月号に掲載された論文によると・・・って、これも登録が必要なので、以下をお読み頂きたい。

Nature Biotechnology April , 2006

体によい脂肪として知られるω-3脂肪酸を大量に含む子ブタが作られた。ω-3脂肪酸は自然界では主として魚油に含まれるが、ω-3脂肪酸ブタが市販されるようになれば、ベーコンなどの豚肉製品から大量に摂取することができるようになる。今回Y Daiらから、ω-3脂肪酸をもつ子ブタの作製に関する論文が寄せられた。

 豚肉のω-3脂肪酸含有量を高めるため、Daiらは遺伝子1個を余分にもつ子ブタを作製した。この遺伝子がコードするタンパク質は、別の種類の脂肪酸をω-3脂肪酸に変換する。ω-3ブタを人間の食用として利用するまでにはさらに研究が必要である。今後検討すべき点は、ブタの長期的な健康状態はどうか、ブタが成体になっても高いω-3脂肪酸レベルが維持されるか、肉の味はどうかなどである。

 ω-3脂肪酸は、心血管疾患や慢性関節リウマチ、糖尿病など、さまざまな慢性炎症性疾患に有効であることが確認されたため、近年需要が高まっている。魚類資源は減少しつつあり、また重金属汚染の恐れもあるため、ω-3脂肪酸の新たな供給源となる食品の出現は望ましい。


遺伝子組換(この場合は1つ付加したワケだが、この表現が一般化しているのでこのまま使う)技術によって作られたブタには、本来哺乳類が生合成不可能なω-3脂肪酸を体内で作る事が出来る。

遺伝子組換と聞いただけで嫌悪感を示す人達にとっては、青天の霹靂だろう。『おお、神よ!』って。

私は遺伝子組換食品(ブタも食品とするなら)には、特別な感情を抱いていない。組み替えた遺伝子がクリティカルな働きをするなら、その生命体自体が生存できない。特別な問題点も見当たらず、生存に支障がない、あるいは生存に有利なら、それを経口摂取しても何ら問題はないと考えているからだ。世の中、自然が安全なんて勘違いをしている人が多いようだが、自然は安全じゃなく危険がいっぱいだ。自然が安全なんて思っているから不自然な“遺伝子組換”が嫌われるのだろうが、、、、。(自然は危険がいっぱいだから、授乳が不可欠な仔は植物を摂取しないのだ。乳幼児が野菜を嫌いなのは、そういう太古の昔の本能に依存するからで、現代の食卓に乗っている野菜は、先人達が遺伝子を改変して作り上げた“不自然なもの”と言う事すら現代人は忘れている)


私が、この論文を目にして感じた事は、健康に良いとか健康に悪いって事に何か絶対の尺度があるんじゃないかって感じているであろう世論をぶち壊す切っ掛けに成り得るかも?って事だ。

進化医学の考え方を持ち出せば、ω-3脂肪酸が“体に良い”ならば、魚から進化した哺乳類がω-3脂肪酸を生合成出来る遺伝子を捨ててしまう筈が無い。魚とやがて哺乳類を産み出す系統が枝分れしてから魚にω-3脂肪酸を合成する酵素が獲得されたとしても、それが優れているなら、同じ環境で生存している生命体の遺伝子にも、同様の変異が出現してもおかしくない。変異は偶然の結果だから、もしかしたらそのような変異体が出現したかもしれないが、その当時の生活環境では、それはメリットにはならず、むしろデメリットですらあったかもしれない。あるいは、海の中ではω-3脂肪酸は有利だが陸の上では不利になる・・・とか。

簡単に言えば、世が世なら、健康の尺度も変わり、体に良い事が体に悪い事すらあるんだって事だ。

だから、世の研究者達は、ω-3脂肪酸の“良い面の効能”ばっかりを追い求めるんじゃなくって“悪い面の効能”も追求し、さらには、ω-6脂肪酸の“良い面の効能”も捜し求めるべきだと思っている。


それが明らかになって、それでもω-3脂肪酸が良いってなったら、ブタなんて遠回りをしないで、ヒトに遺伝子導入しちゃえば良い。そうすりゃ、みんな血管系に限っては、丈夫で長生きできる筈だ。(そうすりゃ、人間にとってω-3脂肪酸が良いのかω-6脂肪酸が良いのかハッキリするってもんだ。)

2006年04月22日

薬理メタボノミクス

まだご存知ない方もいらっしゃると思うが、事前に薬物による臓器障害(特に肝臓)を予測する手段として、これから“開拓”される分野だ。具体的には、患者の“代謝表現型”に基づいて個人に適した薬物治療を行う、新しい方法である。

Nature April 20, 2006 に掲載された論文のアブストラクトは無料で閲覧できる(ハズ)ので、興味のある方は見てくだされ。

薬物による臓器障害を予測する分野としては、トキシコゲノミクスがある。以前にも【理系の頭】で触れているが、遺伝子の動きを逐次キャッチしなければならないので、作業大変だしコストも高くつく(タブン)。

薬理ゲノミクスにより患者毎の投与量が決定できそうな気もするが、食事、腸内細菌、年齢、病気、体内に存在するほかの薬剤なども影響するので、一筋縄では行かなそうなのは想像に難くない。


薬理メタボノミクスの根拠は、J Nicholson らが、ラットの尿中の代謝産物を核磁気共鳴法で分析し、代謝にみられるいくつかの特定の特徴を捉える事で、有害量のパラセタモール投与による肝損傷の程度が予測できることを見いだした事に拠っている。

これらの特徴をみれば、薬剤から身を守る仕組みが体にどの程度備わっているかがわかるって訳だ。

でも、この“表現型”で分類できる“体質”が、実際、臨床でどの程度役に立つのかは、今後の研究を待たなきゃならない訳で、個人的にも“トキシコゲノミクス”と共に楽しみな分野ってワケだ。“表現型で”ってところがミソだからね!!フェノタイプでわかるのって、直感的でイイワケよ!!
 
 
 
以上は、『フムフム、早く臨床応用されないかなっ』って内容だ。

ここから、『えっ!!!(驚)』って内容だ。

Science April 14, 2006, Vol.312 に掲載された論文なんだけど、『マウスにはもう一つの胸腺がある』ってモノ。

胸腺は心臓のすぐ上に存在し、そして一生の間に遭遇する多数の病原体から生体を守るT細胞を発生させるためのゆりかごとして機能する。

胸腺は唯一の器官であると考えられてきたが、Terszowskiたち(p. 284、3月2日にオンラインで発行;von Boehmerによる展望記事を参照)は、マウスがしばしば、より小型で頸部に位置する第二の胸腺を有していることを見いだした。

この"頸部"胸腺は、明瞭な胸腺細胞区画間の境界線や胸腺上皮マーカー、そして胸腺細胞を発生させることを含む、より大型の胸部器官を規定する古典的な特徴のすべてを示す。

さらに、このより小型の頸部胸腺由来のT細胞は、機能的にも適格な能力を有しているようであり、そしてこの頸部胸腺を移植することで無胸腺成体レシピエントを生存させることができる。

うーーーん、単純に驚いた。

ってことは、今まで知られていた胸腺の“存在”と“役割(結果)”の乖離が説明できるのか??
ヒトにもあるのか?
役割分担があるのか?機能を補完し合っているのか??


20060422_1.jpg常々、不思議に思っていた事の一つに、記憶T細胞って言ったって10年も生きりゃ良い方だし、胸腺は10歳頃をピークに萎縮(脂肪に置換)して、40歳も過ぎりゃ痕跡?の筈なのに、意外と免疫“機能”は残っているって事がある。

もっとも、老人になると、自己も非自己も認識が甘くなる故、血中のサイトカインレベルは高いし(まともに“ピンポイント機能”してるのか怪しい、ポリクローナルに反応してんじゃねぇ~の?)、自己免疫疾患の発症も多くなるから、大体は見た通りなんだけど、でも、スッキリしてないもんなぁ。時間的なズレも多いしね。

ところで、胸腺って、英語でサイムス(チムス)なんだけど、香草のタイムの語源なんだよね。子ヒツジにしか見当たらない臓器だったんで、昔の人は“若さの根元”だと考えていて、貴重な食材だったそうだ。その香りがタイムの香りというわけ。

で、日本語では“胸”なんて名前を付けちゃったから、これからが大変だよな。実際、ヒトでも存在が確認できちゃったらさ。

『こっちも、心配である。』と本日は、軽いノリで行ってみました。

2006年05月12日

NBC テロ

Nature Biotechnology May , 2006 にこんな新技術が報告された。

A liposome-PCR assay for the ultrasensitive detection of biological toxins

 痕跡量のコレラ毒素とボツリヌス毒素を、現在の最も優れた方法の少なくとも1000倍の精度で現場で検出できる方法が開発された。この2つは、バイオテロの際に食物や飲料水に混入される可能性の高い毒素である。この方法は、わずか3時間で結果が出せる。

 これまでの最も迅速で感度の高い生体毒素検出方法は、犯罪現場で見つかった痕跡量のDNAを大量に増やせることで最もよく知られているPCRとよばれる技術に、牛乳などのような複合試料中から生体毒素を特異的に探し出す抗体の利用を組み合わせることにより、非常に高い特異性をもたせていた。Jeffrey Masonたちはこの方法の感度をさらに高めるために、PCRを誘導する分子をおよそ60個を、周りに生体毒素に対する受容体を付けた中空の油滴(リポソームとよばれる)の中に封入した。生体毒素があれば受容体に結合し、次にリポソームが壊れるとPCR誘導分子が放出されてシグナルを増幅するため、野外で飼育する家畜の尿や排水中の無害な成分によるバックグラウンドがあっても、隠れてしまいそうな少量の生体毒素でも検出ができる。

 この検出法はきわめて感度が高いだけでなく、米疾病対策センターのボツリヌス検出法とは違い、動物を使用しなくてすむ。


20060512_terrorism.jpgさて、こりゃ、面白い発想だよなぁなんて、朝の眠気も吹き飛んで、動物愛護団体も大喜びだぁなんて、感じちゃった訳だが、ふと、日本のバイオテロ対策って、一体、どうなってんだろう?って、興味を覚えた。

というわけで、『テロ対策』『バイオテロ対策』『生物テロ対策』『生物化学テロ対策』『NBCテロ対策』と、一通り、引っ掛かりそうなキーワードで検索してみたのだが・・・、驚くほど、何も無い・・・・。

もしかしたら(っていうより、間違いなく)、敵(テロリスト)に手の内を見られない為に、敢えて当局は情報を制限しているんだろうけど、それにしても、技術の解説くらいはあってもよさそうなものなのだが、、、。


で、解説って言って良いのかどうか、こんなモノまであった。

NBC(エヌ・ビー・シー)テロ

 NBCテロとは、核物質(Nuclear)や生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)によるテロのことです。
 核テロでは、テロリストが核物質を奪取したり核兵器を入手したりして行うテロのほか、原子力施設の破壊行為などが考えられます。
 また、生物テロとしては、細菌(ペスト菌、炭疽菌など)、ウィルス(天然痘など)といった病原性微生物や毒素(ボツリヌス毒素など)の散布などが考えられます。
 化学テロとしては、サリン、マスタードガス、青酸などの有毒化学物質(ガス状の有毒化学物質はいわゆる毒ガスです)の散布などが考えられます。
 特に、病原性微生物や有毒化学物質は、比較的安価で高度な技術を要することなく生産できるため、テロリストが入手し使用する可能性があり、生物化学テロは大きな脅威とされています。
 政府は、炭疽菌事件への対処やワクチン、抗生物質の準備などの対策を進めており、8日には、小泉総理の下、NBCテロ対策についての関係閣僚会議を開き、生物化学テロへの基本的対処方針を決定しました。

小泉首相は、間違いなく『NBC テロ』って言葉は知ってる訳だ。でも、この N , B , C が何の略だか、さらには NBC テロって言葉自体、知っている日本人って、どの位いるんだろう?って、ふと思ってしまった。
 
 
 
閑話休題

ノーベル文学賞に村上春樹氏が有力?なんて騒ぎで、最近、氏の小説を読んだ訳だが、ノーベル文学賞自体を調べていく途中で、大江健三郎氏に対して、こんな批判がある事を知ってしまった。

大江健三郎氏は、文化勲章を『戦争責任のある天皇から貰えない』としながら、『核実験やる必要あんのかゴルァ』の中、強行したフランスからレジオン・ドヌール勲章を貰ったり、そもそも、大量殺戮を目的とした爆薬の開発で得たお金を基金としているノーベル賞を、何も言わずに受賞している節操の無い奴だって事だ。

ぜんぜん、知らなかった私は、『へぇ~、世の中、突っ込むのが好きな奴がいるんだなぁ』って感じ入ってしまった。しかも、面白い事に、この考えをする連中は、産経か読売か?なんて非難している連中もいるのには、びっくりしてしまった。

まさに、『聞く』と『聞える』、『見る』と『見える』、違いは何?って聞かれて、脳の機能を生化学的に表現しないと旨く説明できない事を知らないと、こうなるんだよなぁって事の典型だな!なんて、傍観者してしまった。(脳では全く違う処理している)

ちなみに、爆薬と火薬の違いは、科学的に分類すると、音速をこえる速度で反応するものを爆薬といい、それ以下の速度で反応するものは火薬という。この分類では、ニトログリセリンは爆薬である。火薬は殺戮兵器に利用できないけど、爆薬は殺戮兵器に利用できる。。。。っと。

でも、ノーベルは最初から殺戮したい為に作った訳じゃなく、フリッツ・ハーバーが空気からアンモニアを作った(空中窒素固定法)のも、爆薬を作る為じゃなく、農作物の肥料としての側面もあったわけで、彼らの業績を『見る』人と『見えている』人では、印象が変わるのも当然の事だ。

大江健三郎が“見ている事”と“見えている事”に起因する行動を、また、別の人が“見て”たり、“見えて”いたりする訳で、その辺を自覚していないと、他人を誹謗する事になるんだろう。


イギリス人は、多分、フリッツ・ハーバーが嫌いな筈だ。ドイツでは、空気から爆薬を作る事が可能になった為、ロンドンが火の海になったんだからね。作ったのは誰だ?って。
でも、戦後の荒廃したヨーロッパの大地を速やかに肥沃にしたのも、また、フリッツ・ハーバーの発明によっている訳だ。(弟子のハーンが作った毒ガスが抗がん剤になった話は有名)

20050512_eVolution.jpg『じゃ、最初から、そんに発明しなきゃ良かった』なんて、科学を否定する人もいるんだけど、我々人類は、ネアンデルタール人ではなく、間違いなくクロマニオン人の末裔なんだから、しょうがないわけだ。

そして、多分、『NBC テロ』って言葉を知るだけでも、国民の小泉首相の行動を『見る』『見える』も変ってくるんだろうなぁって感じた午前中のひとときでした。

ちゃんちゃん!

2006年05月15日

また、モラルの問題に帰着するのか?

最近になって、散見(聞)されるようになってきた“病院で携帯電話を使っても問題ない”という話。

先日も、Anesthesia & Analgesia(2006; 102: 535-541)に、エール大学(コネティカット州ニューヘブン)麻酔科・神経外科のKeith Ruskin准教授らが、『病院内で医師が携帯電話を使用したところ医療過誤が減少し、より迅速な治療を施せるなど誤作動リスクを上回る恩恵のあることが示唆された』と報告した。

医療器具との干渉少ない

 Ruskin准教授らは「最新の携帯電話に使用されているテレメトリーはアナログではなくデジタルで、従来のテレメトリー使用の携帯電話と異なり医療器具と干渉することはほとんどない。また、新型のデジタル携帯電話の出力ははるかに高く、従来の携帯電話とは異なる周波数で作動している。携帯電話と医療器具が電磁波干渉するわずかなリスクと、伝達の効率化により得られる恩恵を天秤にかけるべきである」と述べている。

 今回の研究では、電磁波が人工呼吸器や点滴ポンプなどの生命維持装置に誤作動を及ぼすとされているリスクは2.4%にすぎないが、情報伝達の遅延に起因する医療過誤や傷害リスクは14.9%とはるかに高かった。


というもの。

しかし、どうなんだろう?検査機器に影響が少ないからって、医療従事者達がバンバン使っているのを見れば、患者も使いたくなるのは当然なんじゃないか?

医療従事者達は、必要な会話をする為(患者にとって最大の利益を与えられるように)、携帯電話を使う訳だけど、患者の側にすれば『今まで、検査機器や心臓ペースメーカーに影響が出るって言うから、使用を控えてたけど、悪影響無いなら、つかってもイイじゃん。』って理屈で切り返すヤツが、必ず出てくるんじゃないか?

そして、“携帯電話を使わない”という事を、今まで頑なに守ってきた(文化?)人達にとって見れば、その拠り所を失う訳だし、他人に『病院じゃ携帯電話を使うな』って注意する“理屈”も失っちゃう訳だ。
 
 
 
実は、私も、電車の中では“携帯電話”を使う人を見ると、腹の立つ側の人間だ。
話の内容が“緊急を要する”場合には仕方ないと思うが(電車の中で緊急自体が発生しても、電話を受け取った人は何も出来ないから、意味はないのだが)、ただ、他愛の無い会話を、でかい声で続ける人間を見ると、注意を与えたくなってしまう。

で、実際、何度か注意した事もある。今までは運が良く、逆切れされた事は無いのだが、人の健康を害しているという引け目が、謙虚に、注意を受け入れていたとしたら、それが無くなったらと思うと、これから注意するのは、ちょっと恐いかも・・・。

モラルに持ち込んでも、日本人のモラルは期待できない(自己犠牲を伴うと、途端に消極的だ)から、“人の迷惑顧みず、携帯電話をところ構わず使用する側”にでもまわった方が、気が楽かもしれない。。。。(多分、出来そうも無いけど)

2006年05月17日

茨城のウイルス騒ぎは人為?

まずは、これをご覧あれ。

■茨城のウイルスに不自然さ 農水省の鳥インフル調査で

 茨城県の鳥インフルエンザ問題で、農水省は15日、感染が確認された鶏から採取されたウイルスを鶏とアイガモにそれぞれ接種したところ、鶏は感染性が高く、アイガモは感染しないなど通常のウイルスではみられない「不自然な点があった」とする調査結果を明らかにした。
 感染原因をめぐっては、中米のウイルスを基に作られた違法ワクチンを使用した可能性が浮上しており、農水省は「使用の可能性をあらためて示した」としている。
 調査は農水省の専門家らでつくる感染経路究明チームが実施。鶏とアイガモへのウイルス接種試験以外にも、鶏へのウイルス感染後、抗体が5-7日(通常は10-14日)と短期間で作られるなど不自然な点が多く「渡り鳥による感染可能性は低い」としている。
(共同通信) - 5月15日19時18分更新


要するに、違法ワクチンに混入していたウイルスが感染源だってことだ。こんな事は、いまに始まった事じゃないのは、推して知るべしだろう。
食肉(牛肉)に関してだって、一般庶民は大本営発表(当時、肉骨粉を大量輸入しておきながら『事実は無い』だもんね)をいとも簡単に信じちゃうし、この養鶏業者のように、闇でワクチン輸入なんて事も造作も無い事だろう。量が多いから難しいと思うけど、北朝鮮産の覚醒剤も、易々と入ってくるんだから、不可能じゃないんじゃないかな!

そして、テレビや新聞を経由して知ると信じちゃう、ほんと、平和ボケ以外の何ものでもないな。(自分で調べる手段と機会があるのに、それを放棄している、、、のが、一般庶民ということなのだろう。)


まさに、時代は、、、
老子
『大道廃(すた)れて仁義有り。知慧(ちえ)出でて大偽有り。六親(りくしん)和せずして孝慈有り、国家昏乱(こんらん)して忠臣有り。』(第18章)
なんだね。

僭越ながら、解説差し上げると、、、

   仁義なんていうことがほざかれるのは、大道が廃れている証拠である。

   知恵のあるやつが目立つときには、世に偽りがある。

   親子の情が薄れたときに、ファミリーに価値だとかマスコミが吹く吹く。

   国家が混乱したときに、あいつは貞臣だとかいう偽物野郎が出てくる。

って事だ。

まったく、笑っちゃうくらい、的を得てると思わない?
 
 
 
しかし、考えてみると、世の中、科学技術は進歩しても、人間そのものの道徳心っていうか、なんていうか、進歩してないねぇ。老子の頃と全く変り無い格言が生きちゃうんだからね。

もっとも、2000年や4000年なんて、ホモサピエンスが進化するほど時間じゃないんだから、当たり前っていえば当たり前なんだろうけど。。。

結局、ホモサピエンスも生物の進化の過程?(頂点じゃない?だとしたら頂点はどんな生物?)にある種の一つだから、いつまでも引きずるんだろうね。ヒトの行動の原動力は、全て“古い脳”から出力されるインパルスに拠っていると考えれば、当たり前の事だし。

事実、全ての行動を『性欲・食欲』の帰す事が出来るからね。(『シーザーの行く所、敵も無いし(勝つから儲かる)処女も無し(性欲も満たせる。そして強い遺伝子が後世に残され、種としても強さを増していく)』と言う訳だ)
 
 
でも、理解できないのが“おたく”と呼ばれる人間の行動原理だ。もしかすると、非常に高度な精神性(大脳新皮質)に拠って行動しているのかもしれない。

何の為に“おたく”をやるんだろう?“おたく”をやったってモテる(性欲を満たす)訳じゃ無し、お金になる(食欲を満たす)訳じゃない。
多かれ少なかれ、誰でも、大脳新皮質に導かれて“趣味・嗜好”なるものに時間を浪費する事はあっても、ごく一般的な“脳”(おたくじゃない人)では、ある時点で、古い脳のインパルスが大脳新皮質の抑制を回避して、お金を稼いだり、異性を獲得する為の行動に打って出させる事になる。“趣味・嗜好”に突っ走る事を抑制する訳だ。(もっとも、“趣味・嗜好”が異性を獲得する為の手段になるのなら、話は別で、お金が稼げるのなら“趣味・嗜好”とは言わないが。)

でも、“おたく”の脳は、古い脳のインパルスを抑制する事に関しては、おたくじゃない人の脳とは、どこかちがって、この抑制が“強い”のだ。(敢えて言えば、非生物的な行動だといえる)

単純に、“おたく”の脳は“おたくじゃない人”の脳とは、機能が違うんだといってしまえば、話は単純じゃ無くなる。脳の機能は構造に、非常に依存しているからだ。

だから、両者の脳に構造的な違いが無いとすれば、一体、どうして?ってなるわけなのだ。


ところで、最近になって、ひとつ発見した事がある。それは、サッカーの“サポーター”と呼ばれる人達は、非常に“おたく”だという事だ。

以前の、私の彼らに対する“考察”はこうだ。
・・・残念ながら日本にはサポーターの文化はないので、他国の“ものまね”でサポーターをやっている訳だが、その行動原理に『集まって騒ぎたいだけで、対象はサッカーでなくても良かった』とした訳だが、どうも、自分自身でも、しっくりしていなかった。

さらに、こう考えるに至った経緯は、過去のエントリーを参照して頂くとして、最近、この点、すなわち“おたく”だという事に気づいてしまったのだ。

その理由に、選手の顔と名前、出身やチームの母体などなど、サッカーに纏わる事にやたらに詳しいことがある。そして、集まって薀蓄を傾けながら、同じ模様を顔に書いてみたり、同じユニフォームを着てみたり、そして、異常に騒ぎ、贔屓の選手が入れば、異常な情熱を傾けたりと、スポーツとしての楽しみ方ではないのだ。(サッカー業界人の行動の一般社会との接点での解釈を、自分の知っている範囲でのみでしか説明を試みようとしない。というか、それ以外を知ろうとしない)

どう見ても、自身が元サッカー部だったとか、サッカーをやる事が好きだとは見えない。

今までのような見方では、最終的な“行動の原動力”を説明できないのだが、オタクとしてみれば、非常に「そういう事か!!」と納得出来る訳だ。

でも、その“おたく”自体が、私には理解できないので、これ以上の考察が出来ないのが残念なのだが・・・。
 
 
 
しかしまぁ、単純に周りに流されていたり、何かに熱く?なれる自分に酔うところもあるのだろう。そして、もっと、恐ろしい事は、本当は流されているだけなのに自主的に行動しているように見える他人を見て、自分も流されてしまうという、昔のインフルエンザ流行のサーベイランスのような状態なのかもしれないが・・・。

これだとすると、世の精神分析を生業にする人達が、まさに指摘している事だが、要するに“寂しい”のだろう。自分を何処かに所属させておかないと、心のバランスが保てないと。

まさに『六親(りくしん)和せずして孝慈有り」の反証で、ファミリーに価値だとかマスコミが吹いている事が証明するように、親子の情が薄れているわけだ。結局、“家族の崩壊”が招いた現象が、“日本のサッカーのサポーター”の存在なのかもしれない。

だとすると、“おたく”ちゃんも寂しいのかな?
 
 
サッカーワールドカップ開催にあやかって下らない特別番組が増えて辟易しているところなので、こんな展開のエントリーになっちゃった、スマン!

2006年05月23日

『木を見て森を見ず』が『灯台下暗し』だった

がんに於ける“遺伝子の機能喪失”と“染色体の欠失”が繋がった(のか?)

まずは、Nature genetics に掲載された論説を読んでくだされ。(例によって登録が必要なので、ここに引用する)

大腸癌のエピジェネティックなリモデリングによって染色体のバンド全体にわたる協調的な遺伝子サイレンシングが起こる

Epigenetic remodeling in colorectal cancer results in coordinate gene suppression across an entire chromosome band
Jordi Frigola et al.

Nature genetics 38, pp540 (2006)
Published online: 23 April 2006 | doi:10.1038/ng1781

長い領域にわたって協調して起こるエピジェネティックな遺伝子サイレンシングを含む、癌化の新しい機序について報告する。

癌におけるエピジェネティックなサイレンシングは常に、個々の遺伝子を抑制する局所的な出来事として認識されてきた。

しかし、本研究の大腸癌におけるサイレンシングでは、染色体2q.14.2の領域にある4Mb全体が共通して抑制されており、ヒストンH3 Lys9の全体的なメチル化をともなっていることが見いだされた。

ゲノムが抑制された一帯において、DNA高メチル化は3つの別々なCpG島「地区」に局在しており、一番大きな高メチル化地区は1Mbにも及んでいる。

これらのデータは癌細胞におけるエピジェネティックな遺伝子のサイレンシングに対する我々の理解を変えるものである。

すなわちエピジェネティックなサイレンシングは染色体の長い領域に及ぶもので、DNAがメチル化された遺伝子と、その近隣のメチル化を受けていない遺伝子は、ヒストン修飾の全体的な変化によって協調して抑制される。

遺伝子発現の抑制は、長い領域のエピジェネティックなサイレンシングによって起こり、癌におけるヘテロ接合性の消失と同じ意味をもつものであることを提唱する。

ここでも触れられているように、遺伝子のサイレンシングは、今まで、理由も無く“個別に行なわれている”と、誰しもが思い込んでいた訳だ。

そりゃ、そうだろう。遺伝子の振る舞いは、“がばっと、その辺が一緒に発現する”じゃなくって、“個々に制御されながら発現が調節されている”なのだから、抑制されるのは、当然、個々に制御されている・・・・と思う訳だ。

しかし・・・実際は、エピジェネティックなサイレンシングでは、“がばっと、その辺が一緒に抑制される”が本当だった。

でも、考えてみれば、これ!すなわち、“がばっと、その辺が一緒に欠失される”そのものなんだよね。

というわけで、論説の『遺伝子発現の抑制は、長い領域のエピジェネティックなサイレンシングによって起こり、癌におけるヘテロ接合性の消失と同じ意味をもつものであることを提唱する。』となる訳なんだな。
 
 
 
ところで、『ヘテロ接合性の消失』って、意味のわからない人が多いと思うので、解説しておこう。(大筋の説明です。正しく理解したい人は必ず専門書をあたってください)

細胞には、生物としての人間が生きていくのに必要な一そろいの染色体が23本(これをゲノムといい、この状態を1倍体ともいう。)がある訳だが、父方、母方双方から23本づつもらうので、計46本ある(1倍体に対して2倍体という。植物などでは3倍体でも生きられるが配偶子が作れない。いわゆる“種無しスイカ”などがそれである。)のはご存知だと思う。

そして、それぞれ1対の染色体は、どちらかが働いていればどちらかが休んでいるという状態を取っている。

話を簡単にする為に女性のX染色体を例にする。女性は父方のX染色体と母方のX染色体の2本を全ての細胞60兆個に持っている訳だ(当たり前だけど)。

で、このX染色体は2本とも働いているのかというと、そうではなく、どちらか一方だけが、ランダムに働いている。それが決まるのは胎生期の初期だ。働かない方の染色体は高度にメチル化されて、がんじがらめにされているのだ。そのがんじがらめの状態は、細胞分裂しても保持される。

すなわち、肝臓を例にとってみれば、胎生早期に肝臓が形作られて、後は、その数を増やすだけ(成長)になった後は、父方由来のX染色体が機能する細胞と母方由来のX染色体が機能する細胞の混合した状態(生物学的にはモザイクと言う)で成長していくワケだ。

この知見は何の役に立つかというと、女性の場合、何か“デキモノ”が出来た時、特異的なマーカー(遺伝子)に着目せずとも、その細胞の増生が炎症性のものなのか、腫瘍性のものなのかを判断出来るって事だ。何故なら、炎症性の細胞増生なら、X染色体の不活化(X chromosome inactivation :XCI)は、モザイクだが、がんのように一つの細胞が分裂を繰り返して細胞が増えた場合は、XCI は単一、すなわち、クローン性だからだ。


という訳で『ヘテロ接合性の消失』に戻るが、がんの場合の染色体の欠失は、2本の染色体(相同染色体)のうち、1本に起こることがほとんどだ。まれに2本が起きることもあるが、これは例外中の例外だ。

この片方がメチル化されて“機能が抑制されている”事を知らないと、2本のうち1本に染色体の欠失が起きたことで、細胞ががん化することが理解できない。『もう一方が、機能を補完すれば問題ないジャン?』って。
だが、現実には、片方が機能抑制されている。だからこそ、片方の欠失、すなわち、欠失した部分に癌抑制遺伝子があったりすれば、それを失うことだけで、がん化するってことになるのだ。それ故、この知見はがんを理解する時、必要欠くべからざるものなのだ。

さて、今までの教科書では、『がんは遺伝子の変異によるもの』と、遺伝子の機能が先にありきで、『多くのがんで、染色体の欠失、転座が見られる』とされてた。
 
 
 
今回の知見が“大腸癌”だけでなくほかのがんにも当てはまるなら、遺伝子の機能喪失には、染色体の欠失と同等のことが起きている。すなわち、染色体の欠失が、がん化の原因だと、教科書には、まず最初に書かれる事になるだろう。『多くのがんで、染色体の欠失、転座が見られる』とのように結果じゃなく『原因として欠失・転座がある』となるのだろう。
 
 
 
閑話休題

20060523_e0197_01.jpgダヴィンチ・コードである。

観る前に、見落としていることは無いか、点検中なのである。(新約聖書のアンチョコを見直している)
なにか、大きな勘違いをしているようで不安?なのである。

ダヴィンチ・コード日本語訳を読んだのだが、非常に面白かったのは間違いないのだが、大きな疑問が、私の前に立ちふさがって、喉に何かつかえているのだ。これも、大きな勘違いをしているんじゃないかという不安を助長しているのだ。

大きな疑問っていうのは、ダヴィンチはシオン修道会に関わっている身なのだから、アレは隠さなきゃならない秘密のはずなのに、どうして、わざわざ、暗号なんかにしたのか?ってことだ。(まぁ、小説のネタと言ってしまえばそれまでなのだが・・・)

暗号などにせず、当たり前に、誰が観ても“男”に見えるように描いておけば、全く、触れられなかった筈なのに・・・。


最近、発見されたというユダの福音書、もしかしたら、これを読むと、結果だったことが原因だった・・・・なんて事は、、、ないよなぁ!やっぱり。。

というわけで、娘の風邪が治っていれば、予定通り今週の木曜日に映画『ダヴィンチ・コード』鑑賞である。

2006年05月26日

RNAi 現象を根拠とした治療手段に警告

想定外だけど、やっぱりそうなのかぁ!

治療手段として期待されているshRNAに副作用

Nature May 25, 2006

RNA干渉(RNAi)は知られるようになってまだ日は浅いが、既に遺伝子の発現抑制のための貴重な治療手段とみなされるようになっている。

低分子干渉RNA(siRNA)をin vivoで送達する方法の1つは、siRNAを短鎖ヘアピン配列としてアデノウイルスベクターに組み込むというものだ。

ヘアピン配列が動物に導入されると、発現して短鎖ヘアピンRNA(shRNA)とよばれる二本鎖RNAが形成され、RNAi経路によってプロセシングが行われる。

ところが、成体マウスの肝臓におけるshRNAの発現の長期的影響を調べた研究から、警戒を促す結果が出た。

マウス体内で発現した場合、多くのshRNAが有害であることがわかったのである。

毒性は死に至るようなものも多く、分子の核外輸送にかかわる因子であるエクスポーチン-5との結合に関してshRNAと内在性のマイクロRNAが競合することがその原因と考えられる。

shRNAを用いた治療法の開発には大きな関心が寄せられているが、これまで深刻なin vivo毒性を示す証拠はほとんど見つかっていなかった。


RNAi 現象を利用した治療法は、広義の遺伝子治療で、狭義のものと比べて遥かに副作用が少ない・・・・っていうか、副作用なんてあるの?って、私も思っていた。

今回の報告は siRNA を導入するベクターにアデノウイルスを使っているところが、何か“ミソ”なのかもしれないが、他に効率の良い方法があれば、 siRNA で標的遺伝子を翻訳前の段階で“ぶっ壊せる”んだから、こんなに、理想的な治療薬はないわけだ。

でも、実際に『毒性は死に至るようなものも多く・・・』って言うんだから、臨床治験に入ってからじゃ『ロンドンの惨事』を繰り返す事になってしまったわけで、動物の段階でわかって良かったとも言える。


しかし、遺伝子ノックアウトの手段として“理屈通りに”鮮やかに結果が得られる為、こんなにも汎用されていたロジックなのに、マウスで想定外の結果が発生してしまうなんて・・・。もっとも、上手く行っていたのは“細胞”を扱った実験系で“動物”を扱った実験系は、この数自体が多くないから表面化しなかったのかも(っていうか、私はそんな数の上での実情は知らないんだけど)。


なんにしても、新しい技術は『何かあるかもしれない』と常に思っていた方が良いのだろう。
 
 
 
閑話休題

20060526_juda.jpg昨日は、予定ではダヴィンチ・コード鑑賞だったのだが、娘が幼稚園に行けなくて、映画も観に行けなくなってしまった。(娘は本日の幼稚園の遠足には行ったのだが・・・)

MSN (マイクロソフトのポータルサイト) にて、『ユダの福音書』に関するビデオを鑑賞できるので、これで満足することにした。(満足できる訳が無く、消化不良が助長されただけだ)


やっぱり、ヨーロッパの歴史と神学・宗教にある程度の知識がある人にとっては、ダヴィンチ・コードは“笑っちゃう”ような内容の“フィクション”なのだろうが、こっちは、表面的な知識しかないのだから、聖書が全てじゃなく、福音書も都合の良いものだけが選別されてるんだよって言われても、『わかっちゃいるけど、4つの福音書を元に考えちゃう』わけで、いちいち、ダヴィンチ・コードにある“矛盾点”が気になっちゃう。

でも、『ユダの福音書』のようにインパクトのある内容のものが出現?すれば、脳味噌に鋭く突き刺さり、頭の切り替えもスムーズに行きそうだ。

ゲッセマネの園にて、キリスト逮捕の場面。ユダは親しげにキリストに近づき、接吻する。これが合図となり、武装したユダヤ教祭司(兵士)たちがイエスを捕らえた訳だが、これは、予定された事で、イエスの了解事項だった・・・・。

もう少し、時間を溯ると、ユダは民衆の投石を受けて死ぬ夢にうなされていて、それをイエスに告げる。イエスは、それがユダの運命だと。殺される理由は私(イエス)をユダヤの司祭達に引き渡す役目を果たすからだと。

イエスは、自分の死を、本当に予見していたのか?それを受け入れていたのか?貼り付けられてまで『見捨てられたぁ~』なんて恨みつらみを口走っている姿が4つの福音書にも描かれているんだけど、『ユダの福音書』には詳らかではないらしいし。


4つの福音書から描かれて、現在、我々が思い込んでいるストーリーは、他の見解をしたためた福音書の出現で描きなおされなければならないんだろうけど、すでに1600年以上も『事実はこうだ!』って言われつづけてきしまってるので、一朝一夕には、解決し難いだろうね。

なんでも、『ユダ』って名前は、ヨーロッパでは“犬”にも付けず、ドイツでは、人に付けることは法律で禁止しているらしい。(そういや、昔、日本でも自分の子供に『悪魔』って名前をつけたアホがいたけど、アレ、どうおったんだろうね??)
 
 
 
生命の仕組みについて書かれた“福音書”は、実は、いっぱいあって、現代の我々は、その極一部を手に入れただけだから、その中で、生命の仕組みを理解しようとしている。

なんか、キリスト教の真実と似ているよね。その為、『ロンドンの惨事』があったり、RNAi 導入後の『死の副作用』が“想定外”だったりしているんだろうね。

2006年05月28日

旅行者下痢症とギラン・バレー症候群

この時期から夏にかけては、こんなテーマが身近になる。食中毒としての“下痢”があるから、ついつい、気になってしまうのだ。そういった点からも医療は第一次産業に似ているといわれる。その年のスギ花粉の量が売上に直結するから“一喜一憂”しているわけだ。(あっ、コリゃ失礼)

さて、昨年の 6月20日 に『旅行者下痢症に rifaximin』として取り上げているわけだが、偶然にも、今年も旅行者下痢症を取り上げる事になった。

イロイロ事情があって、今年の1月28日号の『医学の歩み』を今ごろになって目を通しているのだが、ここに今回のエントリーに関する総説が投稿されているのだ。

『Campylobacter jejuni 腸炎と Guillan-Barre 症候群』がそれだ。なんで、こんなものを今ごろ取り上げるの?って事なのだが、簡単に言うと、読んでて『へぇ~』ってなったからだ。

なにが『へぇ~』なのか?

それは、Campylobacter jejuni 菌体外膜リポオリゴ糖とヒト末梢神経構成成分のガングリオシドが分子相同性を示し、それ故、Campylobacter jejuni 感染後、抗ガングリオシド抗体産生が誘導され、結局ね自己免疫疾患としての神経障害が誘導され運動麻痺に至ることが証明された事に『へぇ~』ってなったわけだ。


この病原微生物感染後の自己免疫疾患の発症自体は、別に珍しい事じゃない。リウマチなどでもよくある事で、免疫をやっている人にとっては、その機序も含めて、自然な事として捉えられている。でも、専門に臨床をやっている人でないと、Campylobacter jejuni 腸炎後に神経障害による運動麻痺が、この機序で起きている事を“発見”することは、なかなか難しいと思う。(ギラン・バレー症候群は神経内科で診るから、神経内科医が感染症も知らないといけないわけだ。)

Campylobacter jejuni 、これって、旅行者下痢症の原因菌として最も多い細菌なので、タイトルのように、『旅行者下痢症とギランバレー症候群』と敢えて“ショッキング”なタイトルを付けた訳だ。
 
 
 
海外旅行に行ったって下痢くらい・・・なんて甘く考えていると、結末はギランバレー症候群・・・じゃ、シャレにならない。

『ギラン・バレー症候群』ってどんな病気なの?ってことだが、、、ネットで検索するといっぱい出てくるので省略するとして、『原因病原微生物の構成成分がヒト神経の構成成分に似ているので・・・』って記述がなされているが、具体的に Campylobacter jejuni のリポオリゴ糖とガングリオシドに的を絞って解説しているサイトは見当たらなかった。
ガングリオシドはシアル酸を有する酸性糖脂質で、その中の GM1 は四肢末梢神経のランビエ(Ranvier)絞輪に豊富に存在する。GQ1b は動眼神経をはじめとして眼球をつかさどる脳神経の傍絞輪部に発現している。Campylobacter jejuni 感染後には、IgG抗GM1抗体や抗GQ1b抗体が高頻度に検出される。

これらが、ランビエ(Ranvier)絞輪に発現する GM1 に結合し、さらにNa+チャネルを傷害するため、電気伝導が阻害される、、、という訳だ。(これで運動麻痺する)
 
 
 
菌体外膜リポオリゴ糖ほコードする遺伝子に多形が確認され、また、これを認識し抗体産生を誘導する宿主側の遺伝的多形と TCR , BCR のバリエーションも存在する事は当然、考えられる事なので、100人に感染すれば100人がギラン・バレー症候群を発症する訳じゃないから、過剰に恐れることはないとは思うけど、旅行中に体が麻痺したら・・・・って思うと、旅行中に下痢したら、速攻で rifaximin を服用しなくっちゃって考えになるよなぁ。

チョット前までは、『重症化していない感染性下痢に“抗生物質”服用なんて、アホかぁ』なんて思ってたんだけど、『へぇ~』と思うと同時に考えも変わったのでした。

でも、Campylobacter jejuni 腸炎後のギラン・バレー症候群発症に対して、アンチバイオティクス の rifaximin と プロバイオティクスの乳酸菌と、どっちが効果があるのか、知りたいよなぁ!(もし、このエントリーを読んで、エビデンスをご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると幸いです。)

2006年05月30日

貴方なら、どちらを選びますか?

BMJ に(お約束だな)、興味深い論文が掲載されている。

タイトルは、『ワーファリン使用時の出血が臨床に及ぼす影響』。
カナダ、オンタリオ地区のデータベース(医療費請求データ)から導いた、医師が感じる自分自身の判断に対する自信と恐怖ってどんなモノなんだろう?って興味を満たしてくれる結果が得られたもの。

どんな条件でどんな事を調べたかという言うと、、、

ワルファリンを服用中に大量出血して為緊急入院した心房細動の患者を担当した医師
何も飲んでいなくて、脳梗塞を発症して緊急入院した心房細動の患者を担当した医師

それぞれの医師が、その後に、別の何もイベントの発生していない心房細動患者に、予防的にワルファリンを処方する事に、この診療経験がどれくらい影響を与えるか?というもの。


結果は、大量出血を経験した医師は、ワルファリン処方頻度が減少し、無治療での脳梗塞を経験した医師は、処方頻度に影響は無かった。

というものだ。

大量出血って事態に陥るのは、抗血栓薬を処方したことが原因だから、疾病への積極的な関与の結果の“不具合”には“恐怖”を感じ、“未必の故意?”で生じた“脳梗塞”に対しては、“恐怖”も感じず、自分の治療方針に“自信”を見せているということだろう。


心房細動は、長嶋(巨人軍終身名誉監督)さんでさえ、あんなになっちゃったように、ごく、ありふれた疾患で、ストレスとは切っても切り離せない生活環境の現代人にとっては、他人事の疾患ではない。

長嶋さんの場合に、ワーファリンで治療していたかどうかはわからないが、治療してたとすれば、運が悪ければ“脳血栓”じゃなくって“脳出血”だったかもしれない。

カナダの医師の心房細動の血栓予防目的でワーファリンを処方する頻度は約35%で、脳梗塞のイベントを経験した後でも変らなかったそうだ。日本ではどうなんだろう?処方頻度なんて気にしたことも無かったので、ぜんぜん知らないのだが、心房細動を指摘されて、ワーファリン治療にまで及ぶ患者さんの割合って?どのくらいあるんだろう??


医師ですら、治療方針を二分する“命題”なのだから、絶対的にどちらかの選択が正しいということはないのだろう。


だったら、、、、こういう状況(心房細動)になったら、自分だったらどうするか?は前もって考えておくべきで、その考えを診察を受けた時に言った方がいいんじゃないかな!

自分の病気の治療に対して、あまり積極的に発言しない日本人の患者は、病気になった時点で、それは運命!その治療を行なう医師の方針も、また、運命!みたいに受け入れている人が多いように感じるが、自分の人生なんだから、最終的には自分で判断した方が良いんじゃないかなと思ったりする訳で、この論文が、結構、興味深かったのは、そういう理由でもある。(MMJ の“世界の医学誌から”というコーナーで読んだ論文の単なる感想でだから、いつも、こんな事、考えている訳じゃなく、単なる思いつきでもあるのだが・・・。)

直前の経験で治療方針が変ってしまう結果を内包した心房細動治療、出血性のイベントを経験して“ビビッて”自分の治療を担当する医師が、ワーファリンを処方してくれなかったとしたらどうする?

ワーファリンを処方されなかった結果、脳梗塞を起こしたら?

出血と梗塞のどちらを選ぶか??

選択する為には、何を知らなきゃならないか??

ホラ!気になってきたでしょう?!色々と調べてみましょう!!
 
 
 
閑話休題

先日も取り上げた『メタボリック・シンドローム』。マスコミのイイカゲンさに“メガフレア”(チョコボキック程度という評価もあるが)をお見舞いしてあげた訳だが、今回はちょっと方向が違う。

きっと、これを読んだら、『太ってても、いいかも・・・・』って思う・・・ハズ・・・かな?(どっちを選ぶ??デブ?ヤセ?)

肥満に関して、ヒジョウにビミョウな報告があったので紹介まで。報告をしたのは、オハイオ州立大学医学センターの研究チ-ム。雑誌「Critical Care Medicine」に掲載された。

内容は『太めの方が、危篤状態のときにはよくもちこたえる』というもの。

 肥満は健康の敵、何とか体重を減らせないものか、と、現代人は、ほとんどがやせたいと思っている。

 ところが、太めの方がよく生き長らえる、体重が重いほうがいい、という報告が、雑誌「Critical Care Medicine」に掲載された。

 報告をしたのは、オハイオ州立大学医学センターの研究チ-ム。研究者たちが84の病院で6年間に急性の肺疾患で入院した1488人の重症患者を調べた。

 調べたのは、人工呼吸器がつけられた重症の患者ばかりだった。

 すると、肥満度を示すBMIが大きい、つまり肥満度が高い人ほど死亡率が低い、ことがわかった。逆に、肥満度が低い、つまりやせの患者ほど、死亡率が高いことがわかった。

 なぜ、肥満者の方が持ちこたえたかについては、すでに動脈効果性の病気の治療目的で血栓防止の薬などを使っていて、これらの薬が最後に有効に働くのではないか、ともみられている。

危篤になったら、デブの方が生存率が高い・・・って、心中、おだやかじゃ無い人も居る筈。健康の為、禁煙したらストレス溜まって、胃潰瘍になっちゃった・・・なんてジレンマに似ているよね。
 
 
 
私だったら、どちらを選ぶか・・・・、それは、ナイショです。(出血のリスクの少ない抗血栓薬の開発を待つ、、、自分で作っちゃう・・・・なんてね!!)

2006年05月31日

抗原の選択

20060531_1.jpg現在の免疫学で、まだ、解明されていない部分の一つに、外来抗原(細菌、ウイルス)の感染中に自己抗原の認識があった時に、本来、寛容されるべき自己抗原は、巻き込まれて、自己に対する免疫応答が開始されるのか?はたまた、これは、区別されるのか?ってことがある。

自然免疫から獲得免疫への橋渡しの“キーマン”が樹状細胞で、今では免疫応答の指令塔だと認識されている事はご存知だと思う。思い起こせば、マクロファージは単純に捕食と抗原提示だけで、ヘルパーT細胞・サプレッサーT細胞が免疫応答の中枢なんて言っていた頃が懐かしい。と、これは置いといて・・・。

要するに、樹状細胞が発現している TLR への情報の入り方で、樹状細胞がどのような免疫応答を促すが、決定されるといっても良い訳だ。

これは、『旅行者下痢症とギラン・バレー症候群』で触れている感染症後の自己免疫疾患発症の機序とは関係ないのだが、微妙に関係しているとも言える。(っていうか、まだ、厳密に区別されていないし、空間的な次元で結果オーライ=自己免疫疾患が発症しない=なのかもしれない。抽象的な話だが、凶悪犯が存在しても、離島に隔離できれば、一般人に被害はないのと同じで、だから、この世から凶悪犯を根絶しなくても実質的には問題ないのと同じ概念。)


細菌、ウイルス感染の場合は、樹状細胞内にエンドサイトーシスされた後、ターゲットとなるエピトープまでファゴソームで分解されて、MHC-Ⅱ分子と結合した形で抗原提示される訳だが、この時、同時に、エピトープとは認識されない菌体成分やウイルス蛋白質や DNA , RNA が直接 TLR で認識されることで、樹状細胞-ナイーブT細胞の情報伝達の場の環境に、修飾が加えられる。(アポトーシスした自己の細胞が貪食された時には、この TLR からの情報入力が無い、当たり前だけど!で、これが無いから、引き続く免疫反応が起こらない、或は“寛容される”と理解されている。)

具体的には、CpGDNA(CpGモチーフ)が TLR9 に認識されると樹状細胞は IL-12 を産生するようになり、その樹状細胞-ナイーブT細胞の反応の場は、Th1 方向に傾くといったように。(TLR は現在、9種のサブタイプが確認されているが、認識する対象が違うので、組み合わせによって修飾する反応のバリエーションの存在が考えられるわけだ。理論的には9の9乗種類と。)

で、この時、偶然にもアポトーシスを起こした自己の細胞を貪食した樹状細胞が“隣りに居た”場合に、どうなるのか?って事なのだ。
 
 
 
さて、この問題に正面から取り組んで、答えらしきものが提示された。サマリーを以下に示すが、私には、いまいちピンとこないのだが。。。。。どなたか、解説してくだされば嬉しいのだが。


Nature Vol 440 No 7085, 808
doi: 10.1038/nature04596

免疫:『樹状細胞は提示のために微生物抗原をToll依存的に選択する』

Toll-dependent selection of microbial antigens for presentation by dendritic cells

樹状細胞は組織の微小環境の状態を構成的に探っており、微生物および宿主のアポトーシス細胞の両方を貪食する。微生物の貪食により侵入病原体に対する免疫誘導が、そして宿主アポトーシス細胞の貪食により末梢の自己抗原に対する寛容が引き起こされる。

樹状細胞による抗原提示が引き起こす結果は、樹状細胞の活性化状態に依存しており、Toll様受容体(TLR)が誘導する活性化により樹状細胞は免疫原性になるが、一方、自己抗原の定常的提示は寛容につながる。

TLRが誘導する共刺激シグナルの発現は、自己/非自己の識別機構の1つである。

しかしながら、感染中に自己抗原と微生物抗原の両方が樹状細胞に遭遇した場合、共刺激シグナルの誘導性発現により両者は識別されるのか、もし識別されるとすればどのような仕組みで行われるのかは明らかではない。

本論文では、樹状細胞における抗原選択の新しい機構について報告する。

これは抗原の起源に基づく主要組織適合複合体クラスII分子(MHCII)による提示のための機構である。

我々は、貪食された積荷から抗原を提示する効率が、積荷内のTLRリガンドの存在に依存していることを示す。さらに、ペプチド-MHCクラスII複合体の生成は、厳密にファゴソーム自律的な方法でTLRによって制御されていることも示す。


閑話休題

最近、やけに“医薬・生命科学”へのエントリーが続いている。

これも、他に面白いニュースが無いからなのだが、今朝は、久しぶりに考えさせられる出来事があった。

『松本智津夫被告の死刑判決、東京高裁が異議を棄却』によって、『弁護側は最高裁に特別抗告する方針だが、認められる可能性は低いとみられており、松本被告の死刑が確定する公算がさらに強まった』に、元教団幹部が、『これは殉教と取られかねない』と指摘している事だ。

松本智津夫の死刑なんて、断じて“殉教”なんかじゃないんだけど、後々、地下鉄サリン事件の被害者の家族も他界した時代になれば、『まともな裁判にかけられずに死刑にされた』と語り出される可能性もある。

事実、キリスト教が世界宗教に成り得たのは、ペテロの逆磔での殉教とパウロがローマ兵に斬首された殉教に負う所が、非常に大きい訳だ。


---似てるんだよなぁ---


さらに不安材料は、イエス磔刑後、弟子たちがしてたことは、現在のオウム真理教と何ら代わりが無い事だ。入信した人達は個人財産を全部教団に供出させられ、出し渋った人は殺されていた事も事実と言われているし。

イエスの存在そのものがも、「貴方が、他人にして貰いたい事を他人にしてあげなさい」と「隣人を愛しなさい」しか具体的に言わず、抽象的で謎めいた言動ばっかりだったことが幸いし、後世の人達が『これは、こういう意味なんじゃないのか?』などと考えに考え抜いてくれる結果になったように、現在の“黙して語らない松本智津夫の態度”は、後世の人達が都合の良い解釈を産み出す事にならないのか?なんて、考えちゃう訳だ。


そして、松本智津夫が、これを狙って“心神喪失状態”を装っているのなら、、、恐ろしい!!断じて松本智津夫を殉教者呼ばわりしちゃイケナイ!!

って、ほんとは、こんな事、書くことすら、控えなきゃならないんだろうな。“松本智津夫”と“殉教者”との単語が、脳内で結びついて記憶されることを避ける為にもね。
 
 
 
免疫現象について、あれやこれやと考えることは、もしかして、これに似ているのかな?なんて思ったりしたので、エントリーした訳だ。

本当は、免疫現象という舞台に登場するキャストは、行き当たりばったりの反応しかしていなくて、別に決まった行動ルールなんて無いのが現実なのに、そこに、何か真理があり、それを探ろうとしている姿にダブってしまった・・・・・。

でも、免疫現象に思いを巡らす行為と、松本智津夫の不可解な行動に意味付けするのとは、全く別次元の話だよね!そんな事は、解ってるので安心してくだされ。

2006年06月02日

やっぱり、重要なのは“制御”だ

『木を見て森を見ず』が『灯台下暗し』だった”でも触れた通り、染色体は相同なものが2本ずつ、計46本(Y染色体とミトコンドリアは例外。父方、母方双方から受け継ぐ。)あり、細胞毎にどちらかがエピジェネティックに遺伝子発現を抑制されている。

ダウン症という病気では、第21番目の染色体が一つ多い(3本の為、トリソミーと呼ばれる。ダウン症は21番目だから、21トリソミーと呼ばれる)のだが、その“一本、余分な21番染色体上の遺伝子発現”を制御(2本の場合と同程度に)出来れば、結果はオーライとなる。

21トリソミーの表現型が多彩なのは、遺伝子発現抑制の程度と関連しているわけで、本数が重要な訳じゃなく、3本のうち2本が完璧に抑制されていれば、本数に意味はない(ハズ。しかし、現在ジャンクと思われている配列も遺伝子発現制御に一役買っている可能性があり、最終的には本数は重要なのだろう。でなきゃ、3倍体のヒトが出現できちゃう。)。

というわけで、Nature June 01, 2006 に、21番染色体にある遺伝子のうち、どれが過剰に働くことで“ダウン症の表現型”を実現しているのか?という報告があったので、紹介する。

ダウン症候群は染色体を余分に1本もつことによって起こる。つまり、21番染色体にある、1つあるいは複数の遺伝子の遺伝子量が1.5倍に増加することが、この症候群にみられる広範な影響を何らかの形で引き起こしている。

遺伝子ノックアウトマウスを使った研究から、この症候群に関与する有力な候補として2つの遺伝子が同定された。DSCR1およびDYRK1Aの遺伝子量が1.5倍になると、転写因子NFATにかかわるシグナル伝達経路の調節が不安定になるのである。

この発見は、NFATc1~4やカルシニューリンに変異をもつマウスがダウン症候群のほとんどすべての特徴を示すという、以前に示された予想外の知見に続くものだ。

これとは別の研究で、ショウジョウバエのゲノム全体にわたるRNA干渉を使ったスクリーニングから、保存されたNFAT調節因子の存在が明らかになった。

NFATは脊椎動物にのみ存在する転写因子で、この研究では、哺乳類種のタンパク質を人工的に導入したショウジョウバエ細胞を使ってタンパク質の機能を研究するという方法によって、新たな研究分野が開拓された。

NFATタンパク質の細胞内局在を調節する経路は種を越えてよく保存されており、またこの新しい方法によって、通常は脊椎動物に発現する転写因子の調節体を新たに見つけだすことが可能となるかもしれない。


しかし、考えてみれば、トリソミーは受精した瞬間から一本余分な遺伝子産物の影響を受ける訳で、事実、重要な遺伝子が多数乗っている番号の若い染色体のトリソミーは、発生期に致死だ。(注:図のように配偶子形成の段階で1本多いパターンが多い。動きが無ければクリックしてください。)

ということは、出生前診断をして、適切な治療(siRNA が使えそうジャン!!)をしなければ、ターゲット遺伝子がわかったとしても、治療上の意味はないんじゃないのか?

でも、こうなると、また別の問題が持ち上がってくる!適切に治療するなら、出生前診断は理論的には“受精直後から”となるわけだし。。。。そんなことは不可能だし。。。


---倫理的に赦されるのか?---

---胎児はいつから人間なのか?---


ちょっと前に新聞で見た記憶があるのだが、現在の法律では出産間近の妊婦が運転する車を相手に事故を起こし、胎児を死に至らしめたとしても妊婦は無事であれば“業務上過失致死”にはならないとか・・・・。

これなども、役所に出生届が為されていないから、人として認められないという解釈なのだろうが、なんだか、釈然としない。

しかし、『じゃ、第何週齡からは人間です』とも、言えるもんじゃない。っていうか、誰にも決められない。

いつだったか、朝のテレビ番組で辛抱さんが解説してくれたことだけど、日本の医療・福祉関係の国家予算は、老人:乳幼児は25:1の配分比率なのだとか。(もしかしたら、数字は違うかもしれない。うろ覚えだからだ。でも、桁違いだったのは確かだ)

老人はやがて死んでいく。どんなに医学・医療が発達しても死を免れることは出来ない。でも、そんな個体にかけるお金は、乳幼児の25倍。

誰かが“憎まれ役”を買って出ない限り、『老人に金をかけるのは止めろ』とはならないだろう。
 
 
 
閑話休題

もう一つ、これは期待できそうな新発見!

AIDS 治療に関しては、もう、成熟しきった感があり、ピカ新のターゲットはもう無いんじゃないの?って思ってたんだけれど、いやいや、どうして、まだまだ、ありそうですな。そんな、HIV のライフサイクルにおける新しい突込み所が新発見されたので、紹介しておこう。

Nature June 01, 2006

エイズウイルスであるHIV-1がマクロファージに感染し、免疫応答におけるマクロファージの働きが低下すると、HIV-1はクロマチンに自身のcDNAを組み込む。

このことから、感染過程には細胞の核膜が極めて重要だと考えられる。

この予想が、HIVは内核膜の構成成分であるエメリンを欠くマクロファージには感染しにくいという知見によって確かめられた。

つまり、エメリンとウイルスのcDNAとの相互作用を阻害する小分子は、HIV感染の防止に役立つ可能性がある。

こうして、二つの Nature に掲載された論文を眺めてみると、“敵”が外部にあってハッキリとしている疾患の治療に関わる発見は新たな問題を提起することはないけど、敵が内なる者の場合は、新発見が新たの問題を提起するというジレンマから逃れられない。

遺伝子を弄っていくと、最終的にこの問題にぶち当たる。

┐(´∀`)┌ヤレヤレ

BTJ が行なった、生物系の研究者へのアンケート調査では、今後、伸びる技術にメタボロームが一番に選ばれたそうだ。PubMed収載論文数でみると、2004年を境にゲノム関連、プロテオーム関連は減少し、2001年からトランスクリプトームとメタボローム関連が急増している。

興味深い結果だ。

2006年06月20日

Y染色体のトピックス

“Y染色体”、天皇制の論議にも引っ張り出され、世間様にも、大部お馴染みになった感があるが、“知の巨人”などと持ち上げられている某氏も、ここでは頓珍漢な話を展開しているくらい、Y染色体、知名度?と理解度が乖離しているものの代表的な一つだろう。

余談だが、某氏、、巷では、、、
「もちろん立花氏がロッキード事件報道の立役者であることには変わりはありませんが、こと科学をテーマにした立花氏の記述は驚くほどの無知と無理解が満ちています」との評が多い・・・・あっ、名前出しちゃった・・・。

ってことは、どうでも良くって、このY染色体について、常々、不思議だなって思っていた事があるのだが、その謎が解けた!!って、、、やっぱりなんだけど、、、、それで大丈夫だったんだぁ!!って感じたので、紹介する。

NATURE GENETICS に掲載された論文なんだけど、『ヒトゲノム構造の多型とY染色体』ってタイトルで、どうしてクローン性の遺伝で受け継がれるY染色体に、バリエーションが多いのか?(そもそも、存在するのか?)って事に答えを出している。

ここで、『クローン性の遺伝で受け継がれる』ってのが、意味不明な方もいらっしゃると思われるので、ちょっと説明しておこう。

常染色体とX染色体が受け継がれる場合、配偶子(精子や卵子)形成時の減数分裂前に染色体は相同組換えを起こし、父方の遺伝子と母方の遺伝子の“ガラガラポン”を行っている。厳密には、全ての遺伝子が独立してガラガラポンされる訳ではなく、大雑把な領域毎に入れ替えが起きるので、物理的に接近して存在している遺伝子は、いつも、セットになって組み替えられている。この状態を“連鎖している”と言い、逆に遺伝子の物理地図を作成する時の情報にもなっている。

このようにして、生物は遺伝子の多様性を獲得し、将来の環境の変化に対応する為に準備している訳である。(現在の進化生物学では、『将来の環境の変化に対応する為に染色体を組み替えている訳じゃなく、組み替えを行う事が出来た種だけが残っている』とのように考えるが、ここでは、理解しやすいように、それを目的にしたので、誤解なきよう!!)

で、Y染色体はどうなのよ??

って事だが、Y染色体は、相同組換えを起こす相手がいない。従って、相同組換えでは遺伝子のバリエーションは増やせない。すなわち、自己の複製を後世に伝えるだけ、これすなわち、“クローン性の遺伝”ってわけだ。


---ん?じゃ、どうするのか?---


って、現実問題としての疑問が残る訳だ。当然、答えは、“突然変異”を期待するってことになる。

でも、まてよ!突然変異なんて積極的に起きたら、進化するどころか“致死”になっちゃうんじゃないのか?

そんな事じゃ、“突然変異”を受け難い性質を持った個体の方が、後世へ遺伝子を残しやすいんじゃないのか?

って疑問もある訳で、この論文では、その辺の答えも用意してあったのだ。


Y染色体は“突然変異”を受け入れやすい性質を持っていたのだ。研究者達は130万年、52,000世代のY染色体を調べてこの結論に達しており、へたすると、『アダムとイヴ』に辿り着きそうな、遠い昔まで、どうやって溯ったのか、私には想像できないけど、そういうことらしい。(その辺まで溯れば、実際にY染色体は1人の男に辿り着くのだろう。結局はクローンなんだから。)

もっとも、変異を受けやすいのは、主として4つの領域であり、この領域は、(誤解を恐れずに言えば)どうでもいい領域で、“男にする”大事な領域には、変異を起こしづらくなっているいう巧妙さである。

しかも、“男にする”大事な領域は、いわゆる“男にするためのスイッチ”みたいなものだから、ここの変異は、男に“するか or しない”であり、“しない”に変異する個体は、メスと接合できない訳だから、遺伝子を残せないわけで、Y染色体システム、うまく出来てる訳だ。(ヒトの体はデフォルトでメスです。それをY染色体上の、ある遺伝子がメスをオスに作り替えるスイッチを入れる事に拠り、オスになります。)

Y染色体のバリエーションは“突然変異”に拠っていたのである。安全に確実に。
(常染色体上の遺伝子もアレルとして存在するには“点突然変異”は必要だし、SNP がメジャーになった今、常染色体でも“点突然変異”を無視する訳にはいかないんだけど、ややこしくなるから省略、スマソ)

“突然変異”をイレキュラーな事とする感覚では、“クローン性の遺伝では、バリエーションが存在する事が理論的におかしい”になってしまうのだけれど、“突然変異”は当然の事として受け入れれば、なにも、バリエーションが存在する事は不思議でも何でもないのだ。

喩は悪いが、交通事故。誰しもが交通ルールを守っていれば、事故なんて起きないし、それが理想だけれど、誰しもが交通事故は“有る”ことを前提として物事を考えている。

これと、Y染色体の“突然変異”は同じと考えれば良いのだ。
 
 
 
突然変異で塩基配列に“異常事態”が生じると、その塩基配列を修復するシステムが備わっている事は、誰でも知っている。このシステムが上手く働かないと“がん”になるって教えられたからである。そして、“突然変異”というのは、生物にとって“好ましくない”現象だと刷り込まれている。

と、これらの常識から導き出されるY染色体のイメージは、『Y染色体は、アダムとイヴの時代から、ずぅ~っと変らず、アダムのY染色体の遺伝子を引き継ぐ事になる』であり、『日本人なら、イザナギとイザナミから始まって、神武天皇のY染色体の遺伝子を、日本人なら、誰一人として、寸分違わず、同じものを持っている筈』になる筈なのだが、、、、現実は違う。

現実的にはY染色体にバリエーションが有る事は、誰でも知っている。

疑問にも思わなかった人もいただろうけど、Y染色体にバリエーションが有るというのは、逆に言えば、不思議な事なのだ。

というわけで、Y染色体をフィーチャーし、逆に辿れば神武天皇に当たる“血筋”なんて事に拘って“男子男系”を主張してるのは、日本テレビ・ズームインスーパーで中西何某が、『○△□○国のチームが勝った。その勝因を探ってみると、後半、早々にメンバーチェンジが有った(注1)』というロジックを展開しているのと、同じ位ナンセンスなんだけど、天皇家はそのナンセンスな事を2000年も続けてしまっているわけで、キリスト教徒に『イエスは何年何月からは“人間”と思え』と強要するくらい、こっちにも無理が有る訳だ。

結局、理詰めでナンセンスな事を証明しても、人の信念とか信心する気持ちには納得させられないのだろう。(私は、逆にナンセンスな事を2000年も続けてしまった事にこそ、意味が有ると考えてます。意味が有ったら、普通すぎる。やっぱり天皇は男系でしょう。理由なんか要りません。)

女系天皇容認は、する or しない どちらにしても、禍根を残す事は避けられないのだろうね。

Y染色体は、『そんなことは、知らないよ!俺に関係ないもんね』って、言ってんだろうなぁ!


注1:このナンセンスさが理解できない人は、『ガーナの国民は黒かった。だから、黒人は皆ガーナ人だ』に違和感を感じないことでしょう!!
┐(´∀`)┌ヤレヤレ。

2006年07月01日

盲点

『灯台下暗し』ってより、『盲点』に入ってしまったものが見えた!ってくらい、『えっえ~~~~~~~』ってことが、Nature に掲載されていた。

Nature June 29, 2006

生物学では数十年前から、哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。しかし最近、ハーバード大学のある研究室が行った2つの研究が、この定説に疑問を投げかけた。

その1つ目の結果では、雌の性腺は成体になってからもずっと卵母細胞の再生能力を保持していることが示唆された。

もう1つはさらに意外なもので、卵母細胞が血液または骨髄の細胞に由来している可能性を示していた。

これらの研究は、化学療法を受けたり、早発閉経が起こったりした女性でも受胎能が回復する見込みがあるという点で関心をよび、多くの注目を浴びてきた。

そのため、これらの結果の一部を疑問視する論文が6月14日のネイチャー電子版に発表されると、この問題に関する議論が再燃した。

今週号に掲載されているこの論文で、ハーバード大学の上記とはまた別のグループは、2匹のマウスの循環系を合体させた実験について報告している。

骨髄細胞または循環血中のほかのいかなる細胞についても、成熟した卵母細胞の生成が可能であることを示す証拠は得られなかった。

血流によって卵巣に移動した細胞は、血液中にある正常な白血球の性質を示したのである。


そうなのだ、『哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。』って事は、『そういうものだ』って、今の今まで、当然のように思っていた。多分、高校の生物学あたりで仕入れた知識だから、掛け算の“九九”のように、それ自体を疑うなんてことは、有り得なかったのだろう。

知ってしまえば、これ自体が驚く事じゃないので、『えっえ~~~~~~~』は、内容にびっくりしたんじゃなくって、その事に疑いの目をむけたことに対してなのだが、普通の人は、そんなことには目をむけないのだから、『灯台下暗し』ってよりは『盲点』の方が、ピッタリするかなって感じた今日この頃である。


それから『やっぱり、そうか!!』ってのが、コレ!

Science June 23, 2006, Vol.312

概日時計は、短期間、光に当てることで新しい位相にリセットされるが、このリセットの分子レベルの解明は未だに不明確であった。

ショウジョウバエでは、光感受性タンパク質であるクリプトクロム(cryptochrome)は、光に反応してコンフォメーションを変化し、クロック成分のタンパク質であるTIMELESS(TIM)と結合する。

この相互作用がトリガーとなってTIMを分解し、その結果クロックのリセットをする。

この光誘発性リセット感受性の弱い変異体のハエをスクリーニングすることで、Kohたち(p. 1809)は、JETLAG(時差ぼけ)と呼ばれる遺伝子を同定した。

この遺伝子は光を受けた後、TIMを分解するのに必要である。

JETLAGはTIMと複合体を作って存在し、分解のためのタンパク質のタグ付けとなるユビキチン結合を増加させる。

このように、JETLAGは、ユビキチン結合させるためにTIMを標的とするF-boxタンパク質である。その結果、光に反応して急激な分解をする。


ハエでの結果だけど、ヒトでも同様だろう。(私が断言する事は憚られるけど)生理現象を“タンパク分解”を以って行なっている“系”は多いはず。

ハエ続きでもう一つ、、、

Nature June 29, 2006

PINK1遺伝子が常染色体劣性若年性パーキンソン病に関連することが最近明らかになったが、今回2つのグループがPINK1に対応するショウジョウバエの遺伝子について研究し、この遺伝子がin vivoではミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの機能に必須であることを示している。

またこの遺伝子は、家族性パーキンソン病に関連するもう1つの遺伝子で、パーキンというE3ユビキチンリガーゼをコードしているparkin遺伝子とも遺伝的な相互作用がある。

ショウジョウバエのpink1-parkin経路は、神経変性の分子的機序に関する研究や、治療に役立つと思われる薬物のスクリーニングのための有力な手段となるだろう。

このパーキンソン病も“タンパク分解”がキーワードだ。


閑話休題

一旦出来上がったモノを壊すのが苦手。

日本人を象徴している言葉だと思う。例を挙げればきりがない。『前例に無い』は一旦作ってしまった制度・法律・やり方・方法などなどなどなどを、自分が当事者の時に“変更”したくないという事だ。どうでもいい事は『自分の功績だ』って言うくせに、『もしかしたら責任を取らなきゃならなくなる?』って事に対しては、及び腰である。

その昔、サイエンスの分野でも“分解系”は“軽く見られて”いた。しかし、、、

今、“分解系”の勢いは止まらない。

生命現象において、作ったものは秩序正しく“壊される事”が大変重要だということが理解されたからだ。

人間が太古の昔から、自分の目で見えている現象だけで考えた事、例えば、家畜やペット・作物は、死んだり腐ったりしたらその辺に捨て、知らないうちに土に帰っていたので、“分解”なんてものは、『なんとなく進むもの』なんだと、アプリオリに脳に定着してしまったのだろう。高校の生物学で『哺乳類の雌は一生の間に排卵する卵子を卵巣にもった状態で生まれると考えられてきた。』って学んだのと同じように、それは、“疑う”対象になっていなかった。


しかし、現在の生命科学の分野では“分解系”なくして、生命現象は語れない。

“分解系”が上手く機能しなくなると、例えば、脳ではアルツハイマーやパーキンソン病になるわけだ。
 
 
 
日本が世界一の“老人国家”になったらしい。

そして、そのしわ寄せが、これだ。

お産ができない! 激減する産婦人科医 柳田邦男(やなぎだ・くにお) 「現論」

記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2006年6月30日】


 昨年春、島根県沖に浮かぶ隠岐の島を訪ねた。町民対象の隠岐学セミナーの講師を引き受けたのだが、島の人々の悩みごとを聞いて驚いた。

 「来年(つまり今年)3月でこの島には産婦人科医が1人もいなくなるので、その先は島でお産ができなくなるのです」というのだ。

 私は事態を想像し絶句した。自分がこの島の若者で伴侶が妊娠中だったら、と。出産の日を待つとは、みずみずしい期待感に胸がふくらむ思いの日々のはずだ。誰でも胎児の定期健診や出産を支えてくれる医療機関が身近にあるのをあたり前だと思っている。

 島の若い世代は今後、どうするのか。隠岐の島々には約2万3000人が住んでいる。隠岐病院の産婦人科医は1人だけだった。年間に約130件の出産がある。つまり医師1人が毎月10件余りの出産を担当してきたのだが、高齢出産の増加により、難しい出産に直面することもある。

 陣痛はいつ始まるかわからないから、医師は年間を通じて24時間態勢でいなければならない。難産後のケア、未熟児のケアもあれば、外来もある。息抜きもできない過労を強いられていた。最後まで頑張った医師が事情があって退職するというのだ。

 ▽米紙も報道

 私はそのことが気になっていたので、最近になって、隠岐病院の運営に携わる人に聞いた。やはりこの4月から産婦人科は閉じられていた。

 出産は松江や出雲などの総合病院に行かなければならない。本土まではフェリーで約2時間半、悪天候で欠航することが多い。出雲までの航空便は1日1便で満席が多い。妊婦は1カ月位前から、本土に渡り、宿泊先で待機しなければならない。もう1人子がいると大変だ。経済的にも精神的にも負担が大きい。

 町では急ぎ予算を組んで、本土での出産者に宿代・交通費として1人17万円を補助している。今年4月から11月までの出産者と出産予定者は70人に達している。この日本の異常さは、最近アメリカのワシントン・ポスト紙にルポ記事として大きく報道された。

 この国は壊れつつある。続発する高級官僚、銀行、新興投資企業、一流企業などの不正事件や、若者や少年少女の凶悪事件。その報道に接する度に、そう感じる。そこに、「安心して子どもを産み育てられる」ための基盤さえが壊れ始めたのだ。

 ▽逮捕の衝撃

 産婦人科医の減少が加速している。高齢出産などによる異常分娩(ぶんべん)や障害児出産の増加の中で、産婦人科医が医療ミスを提訴される例が全診療科の中で一番多いため、若い医師が産婦人科医になりたがらないのだ。とくに昨年福島県で帝王切開のミスを問われた医師が逮捕、起訴された事件は、研修医や医学生に衝撃を与えた。悪意でないのに凶悪事件と同じに扱われるのはいやだと。

 毎年4月に全国の大学病院産婦人科に入局する新人医師数は、3年前までは300人前後だったが、今年は100人近くも激減し213人だった。大学病院の産婦人科は自らの診療態勢の維持が精いっぱいで、地域への医師派遣に苦労している。

 産婦人科医が過労に陥らずに安定した診療を行うには、1病院に常勤医が2人以上必要だ。だが、大学病院以外の病院・診療所の産婦人科医数は昨年7月現在で、1施設当たり平均1.74人。1人きりの施設が多い。しかも、全国の産婦人科医の4分の1は60歳以上。10年後を考えると、慄然(りつぜん)とする。

 隠岐の島では町長らが医師探しに奔走した結果、県立病院が産婦人科医を増やして、今年11月から隠岐病院に2人常勤態勢で派遣することになった。1人は海外で勤務中の島根出身の女医で、ネットで事情を知り、帰国を決意したという。

 隠岐の島の事態は全国に共通する。安心して子を産めない地域は若者に見捨てられ、荒廃する。それは国土と精神の荒廃につながる。この国は言葉では郷土愛を謳(うた)うけれど、未来を担ういのちの誕生を、本気で大事に考えているのか。国の少子化対策は、この問題を視野に入れていない。出生率低下は進むばかりだろう。国、自治体、医療界、医学教育界が挙げて取り組まなければ、手遅れになる。(ノンフィクション作家)

=柳田邦男氏の略歴=

 やなぎだ・くにお 1936年栃木県生まれ。東大経済学部卒。NHK記者を経て作家活動に。災害、事故、科学、医療問題などをテーマに執筆。著書は「マッハの恐怖」など多数。


今まで作ってきた全ての“取り決め”(言葉の漏れがあるとイケナイので“法律”のように限定的な言葉は、敢えて避けます)を“適切にぶっ壊す為”に新しい“取り決め”を作り、その事に、日本人みんなが慣れる事が必要な時期に来ていると思う。


p.s.本日のエントリーは、自分の言葉少なく終わってみた。
このテーマで行くと、特に、医療制度と薬剤師を取り巻く環境に対しては、収拾が付かなくなっちゃうからである。

昨日の薬事日報では、“日本調剤”の日本薬剤師会からの脱会が報じられていた。薬局においては3年後からオンライン請求が始まるので、これを境に大手チェーン薬局(日本の調剤の半分以上を担っている)がこれに続くのは必至である。日本薬剤師会に所属している事に全くメリットが無いからである。

すでに崖っ縁に立たされている訳だが、これを意識している人が、会長以下、理事の間で何人くらい居るのだろう?(いつまで「薬剤師が必要だ」と国民を騙しつづけられるのか?)

2006年07月23日

Klotho

Klotho という単語、知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らないと思う。で、『スペルが間違ってるんじゃねぇ~の? Clotho だろ!』って人も、中にはいるはず。

Klotho は、ある遺伝子に付けられた名前。

Clotho は、ギリシャ神話に登場する“人間の運命を決定し監視する三女神”の一人。(三人まとめて“The Fates(フェイツ)(ファタエ)/Moirai(モイライ)”とも呼ぶ)

三女神は、それぞれ、、、
クロト (Clotho) つむぎ手は生命の糸をつむぐ。
ラキシス (Lachesis) 配り手は、生命の糸の長さを計る。
アトロポス (Atropus) 切り手が、その糸を切る。
という役割を担っており、この女神達が下した運命をオリュンポスの神々であろうと覆す事は出来ないが、ゼウスだけは、運命の秤で知る事だけは出来たらしく、ゼウスが運命の執行人なら、モイラたちは、運命の決定者ということみたいだ。

出自も色々で、『三人はエレボス(暗黒)とニュクス(夜)の間に生まれた。』との説もあれば、『神統記』によればゼウスの二番目の妻テミスとの間に生まれたとある。

で、その運命を“紡ぐ”という所から、寿命に関係する遺伝子として、1997年、日本の黒尾らによって発見された遺伝子に付けられた名前が“Klotho”だ。

ちなみに、この女神達は“老”いたイメージで知られており、シェークスピア『マクベス』に登場する3人の魔法使いのモチーフになったとも言われているそうだ。(と、何処かで読んだ記憶があるのだが、違ったかな?違ってたらスマソ。)

そして、ディズニー映画『ピノキオ』の主題歌、『星に願いを』の歌詞にこの女神達が登場している。
こんな感じ。

♪Fate is kind
→運命の女神は親切です
♪Fate steps in and sees you through
→運命の女神が入り込んであなたを見抜くのです
 
 
 
閑話休題

寿命と老化、、、ほとんどの人は『寿命と老化は大いに関係があり、老化しなかったら死なない(寿命は無い)んじゃない!』って思っているハズ。

しかし、驚くべき事に、寿命や老化を研究している人達のイメージは、かつては、違っていた。寿命と老化は別々な因子で規定されると。全く別な現象なのだと。しかも、実験室で行なう実験では、この感覚が裏付けられる結果ばかりが選られていた。古くは1961年ヘイフリックの“ヒト体細胞の分裂回数限界”が報告され、寿命は遺伝子にプログラムされている・・・からテロメアの発見・・・を通して寿命が研究されてきたのとは別に。。。。

老化の研究は“分裂の限界”とは、全く別分野の人達がやっていたわけで、その中で Klotho が発見され、『なぁ~んだ、老化と寿命は関係あったんだ』となり、研究者達の“感覚”は一般の人達に近づいてきた・・・というわけだ。

今『アンチエイジング』なる言葉も一人歩きし、関連する商品も、後から後から雨後のたけのこ状態だが、商品に対する効果の期待は、当然の事ながら、開発している側、消費する側に“大きなズレ”があることは間違い無い。

商品だけなら、まだトラブルの基にもならないが(なるかっ?)治療薬の開発者や治療法の研究者達が、一般の人達との“感覚のズレ”があることは、ちょっとどころか多いに問題ありだと思う。“寿命”、“老化”という言葉でイメージするものが違うのだから、目的と得られる結果も“ズレ”が生じるところに。(死に対する感覚が違う。)

最近、新聞に取り上げられる事も多くなってきた分娩時のトラブル、いつも感じるのだが、医療行為者と出産をする側に大きな“感覚のズレ”がある。どちら側の感覚が“正しい”などという次元の問題ではない。難しい問題だ。(こっちは生に対する感覚の違いか?)


『生まれてくる』『死にゆく』どちらも、医学的な面だけでなく宗教的な意味もある事だけに、余計に“感覚のズレ”に起因するトラブルが多発するのだろう。

私には『宗教的な』という言葉を使わないで、別な言葉に置き換える能力が無い為に、この“宗教的な”に嫌悪感を感じる人には申し訳ないが、『何も、長く生きる事だけが正しいわけじゃないだろう』って事だ。


先日の改正医療法の成立により、9月から老人保健の3割が実現する。
『1割と3割じゃ、凄い違う。年寄りは死ねって事だな』と、憤りをぶつけていく人が、最近、増えてきた。

しかし、良く考えてみれば、この憤りは誤解に根差している事がわかる。

日本では、誰が広めたのか知らないが『一度、薬を飲み始めたら、一生、呑み続けなければならなく、止めたら死ぬ』という“常識”がまかり通っている。
しかも、医学の専門を極めた人の間にも、実は結構いる。この人達は生命現象に対する知識が無いと言うわけじゃなく、逆で、大変造詣が深いのだが、残念な事に、極め過ぎているが故に、生命現象を自分のフィールドでしか説明出来なくなっているからだ。(まわりが見えない、いわゆる“専門バカ”・・・失礼!)

実際は、服薬を中止しても“直ぐには死なない”薬はいっぱいあるし、制度の変更で明るみに出た『飲まなくても変り無い、ばかりか、飲まない方が良い』と白日の下に曝された薬があった事は記憶に新しいわけで、薬を減らす良い機会だと、ポジティブにとらえる道もあると思うのだが・・・・。そして、絶対、服薬が必要な人と、そうでも無い人がいるという現実も、改正医療法によって、炙り出されてくると思う。
 
 
 
先日、痴呆の母を息子が殺したという事件の判決があった。この裁判は検察側も弁護側も涙無くして弁論できないという、希に見る事件だと報道されていた。殺人を犯したのだが、執行猶予3年が下ったそうだ。

そして、この手の事件が増えているとも、伝えられた。

人間をトータルで診ないツケが、こんなところに回ってきたとしか言い様が無い。血管にしか注目しない、心臓にしか注目しない、そんな医療を続けて来た結果が、心臓は動いているけど、“脳が溶けてなくなった生物”を産み出す事になったわけだ。

救急医療が進歩して“植物人間”が急増したのに似ている。

患者の意志を尊重すると言いながら、具体的にどうしていいのか、医療人にもわからない。

人は、昔、老化と病気(高血圧、動脈硬化、骨粗しょう症など)を同じものだと考えていた。しかし、なまじ、生半可な医学知識が蔓延してきて、老化と病気が“別なもの”だと感じるようになった。まるでこれは、専門家が、研究を進めるにつれて、老化と寿命を違うものだと感じる様になっていったのと似ている。この場合は、さらに研究が進んだおかげで、同じものらしいと感じて来ているようになった。


現代人にも、明らかに病気と呼べるものを除き、老化と病気を同じものとして、また、昔のように感じる事が出来るようになるのだろうか?

人は、それぞれ、寿命に個人差がある。当然だ。人の“運命”と言い換えても良い。90歳まで生きる人は、薬を飲まなくても生きられる。そして、その人は絶対痴呆症にならない。痴呆症になる人は、それが運命で寿命だったはずだ。それを“薬を使って”生き長らえさせるから“不幸”に見舞われる。

『あの人が90歳まで生きたのだから、私も90歳まで生き長らえないと気がすまない』。

こんな所にまで“平等意識”が侵食しているのかもしれない。やはり、医療は、医学だけでは片手落ちで、宗教が必要なのだ。つくづくそう思う。“人間の運命を決定し監視する三女神”は存在するのだ。
 
 
 
p.s.・・・・、なんだか、まとまりのない文章になってしまった。

書き始めた時は、『人の感覚は、全く当てにならない』ことを例にとって、昭和天皇の靖国神社参拝についての意見が書かれた極秘メモと、これをネタに身勝手な持論を展開している合祀論者、分祀論者双方に一撃をくらわす予定だったのだが・・・・、サンデープロジェクトを観ていて、あまりのくだらなさに辟易してしまった事もあって、方向がずれてしまったみたいだ。(この文章は、けっこうダラダラと時間をかけて書いているのだ。)

この問題に関しては、私は、福田康夫元官房長官の党首選辞退も含めての態度に感心してしまった。さすがは、一流の政治家だ。以前、田中角栄の亡霊に・・・なんて書いたことは撤回しなきゃならない。

福田氏は、この問題を中国・韓国の首相参拝非難と絡めて論じては『絶対いけない』というスタンスを貫いている。自民党内において、党首選の争点が靖国問題になれば、中国・韓国に付け入る隙を与える事になり、思う壺で、未来に禍根を残す事だけは、絶対、あってはならない事だとしているからだ。

私も、全く、同感、福田氏の態度は大賛成である。

もし、私が分祀を肯定する理由を探すとすれば、中国・韓国のことは、全く考えない。
考えるのは、同じ日本人に対して、申し訳が無いだろうということだ。
当時の日本の庶民がどんなに情報が規制されていたとしても、ほとんどの人は、うすうす、負け戦だと感じていた訳で、泣く泣く親や子供、妻や恋人と別れて戦争の最前線に向かわなければならなかった、そして亡くなったわけだ。その事に対して、戦争を起こした責任は取るべきだと考える。現在の参拝反対論者、分祀論者は、必ず中国・韓国の顔色をうかがっている。引っ込みがつかなくなる前に、はやく気付いて欲しいものである。

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2006年07月29日

IL-23は腫瘍の発生と増殖を促進する

今、“炎症”をやってきた人達の間では、ちょっとしたトピックスになっている。

長年、『関係あるっ!』『そう見えるだけじゃない?』、、、と繰り返されてきた論争に、一応の決着が付いた・・・・のか??
多くのヒトの腫瘍で見つかる、インターロイキン-23(IL-23)によって引き起こされる炎症が免疫系から腫瘍を守り、さらに血管形成を促進することで腫瘍増殖を助長しているらしい。

IL-23 ノックアウトマウスでは、がんは出来にくいから、関係あるどころじゃないのだけれど、結局、マウスだからねぇ!!ヒトでノックアウトして経過観察できればいいんだけど、IL-23 が淘汰されずに、存在して機能していることは、何か意味がありそうだ!!

IL-23 promotes tumour incidence and growth

慢性炎症は悪性腫瘍の発生率の増加と関連すると長い間考えられており、また制御機構の類似性は100年以上前から示唆されてきた。

例えば、自然免疫系の細胞の浸潤、マトリックスメタロプロテアーゼ活性の上昇、および血管新生や脈管系の密度の増加などは、慢性炎症と腫瘍関連炎症との類似点の例として挙げられる。

逆に、腫瘍浸潤性T細胞や上皮内リンパ球の細胞傷害活性に依存した免疫監視機構による早期の悪性腫瘍領域の除去は、がん発生のリスクの律速要因と考えられている。


本論文では、腫瘍関連炎症の発生と腫瘍免疫監視の欠如とをつないでいる分子機構について報告する。


ヘテロダイマーを形成するサイトカインであるインターロイキン-23(IL-23)の発現はヒトの腫瘍で増加するが、その近縁にあたるIL-12の発現は増加しない。

これらのサイトカインの発現は、腫瘍の微小環境における局所の炎症反応や上皮内リンパ球の浸潤を拮抗的に制御している。

IL-12が細胞傷害性T細胞の浸潤を促進するのに対し、IL-23はマトリックスメタロプロテアーゼMMP9の発現上昇などの炎症反応を促進し、血管新生を増加させるが、CD8 T細胞の浸潤は抑制する。

IL-23の遺伝的あるいは抗体による除去により、形質転換した組織への細胞傷害性T細胞の浸潤が増加し、化学物質による発がんに対し抑制効果が示された。

また、移植した腫瘍は、IL-23を除去した宿主やIL-23受容体欠損マウスで増殖が抑制された。

がんの免疫治療の大部分が固形腫瘍に対する免疫応答を賦活しようとする方法であるが、腫瘍組織へのエフェクター細胞の浸潤はしばしば重大な障害となっているようである。

我々はIL-23が、腫瘍発生を促進する炎症過程と、適応免疫系監視細胞の腫瘍への浸潤の失敗とをつなぐ重要な分子であることを示す。

しかし、『 IL (インターロイキン)』って、専門領域の権化みたいなもんだよなぁ!

知ってる人にはなんでもないけど、知らない人にはとことんわからない。

免疫系を制御する“目に見えないネットワーク配線(モバイルネットワーク網)”みたいなものって言えば、あたらずとも遠からず・・・かな?
この際、樹状細胞やマクロファージ、T , Bリンパ球や NK , NKT などの細胞は、ネットワークを構成する各ノードって言えばいいか。
このネットワークはサーバ/クライアント型のようにも見えるし ピア to ピア 型のようにも見えたりする。
IL はネットワーク網で、IL の各種は、各ポートに対応しているって感じでいいかな。

例えば IL-4 は ポート80番に向けて発射されたパケット・・・みたいに考えれば、なんとなく見えてくるかも。135とかは、、、ヤバイよみたいな(笑)

で、わかったようなインターロイキン、実は、知ってる人にも、全部が見通せていてるわけじゃない。例えば、機能が冗長だったりして、素性を見抜けないことが多い(笑)。インターネットの全てを把握できないのと似ている・・・。
インターロイキンと限定せずにサイトカインと枠を広げた方が、より、高い山に登って全体を見下ろす感じになり機能を知るには良いけど、雲がかかったみたいに、ますます見通しが悪くなる。

この、機能が冗長だったりする事一つとっても、実はサイトカインの進化(歴史)が見えてきて面白い。ある状態に置かれた時に発射する信号を、進化の過程で別な目的に使ったりを繰り返しているからだ。
サイトカイン分子自体に機能が有るわけじゃ無く、それを受け取る受容体に機能が有り(細胞内リン酸化カスケード)、受容体も複数の分子を組み合わせていて構築されており、その一つの分子に着目すれば、複数のサイトカインの受容体として使われていたり、また、その一つをコピーして(トランスポゾン、レイロウイルス、RNA )改造して、別のサイトカインの受容体にしたりして、いわゆる“スーパーファミリー”を形成しているし・・・と。

結局、同じサイトカインに着目しても、進化の度合いや生きている時間が圧倒的に違うから、ヒトとマウスで違った結果が得られるのは、当然のことだ。
 
 
 
閑話休題

『ローマ人の物語』って、私にとって、面白くって考えさせてくれる事がすっごく多いんだけど、生命の進化の過程や生物学と一緒にしてみると、『歴史に学ぶ』って言葉は、間違いではないが、意味が無いって事だなぁって思えてくる。

結局、歴史は結果論で、原因が一つ(に見え)でも、時代が変われば、環境が変わるから同じ結果にならない。現代に同じ原因を投げ込んでも、同じ結果は絶対得られない。

サイエンスでは、再現性の無い実験結果は、取り扱わない。現代における問題解決に歴史を持ち出しても、何にもならないわけだ。。。。って考えてたら、塩野 七生 氏も書いていた。『歴史は大人の楽しみだ』って。歴史を教訓めいた事に使うと、運がよければ賞賛されるけど、運が悪けりゃ嘲笑される・・・と。うんうん、納得。

よく、DNA に刷り込まれるって言葉を安易に使っている人を見かけるけど、これも、非常に勘違いされているなぁって感じる。例えば、ユダヤ人は虐げられてきた歴史が DNA に刷り込まれているとか、ユダヤの世界とイスラムの世界が相容れないのは、お互いの歴史が DNA に刷り込まれているからだ、、、なんて記述だ。

生物学的な実態を構成する分子 DNA には、このような感情は刷り込まれない。解決不能な問題の比喩に使っているのだろうけど、信じているとしたら、それこそ、嘲笑の対象だ。『こんな感情を生む“脳”を構築するんじゃないの?』なんて反論もしたいだろうけど、残念ながらこんなことはない。

感情を紡ぐのは、あくまでも親から子へ伝えられる“口伝”だけだ。あるいは、教育と言ってもいいだろう。自分がユダヤ人だと知らなければ、その人は、イスラムを憎む事は無いように。(漢民族や朝鮮民族が日本人を嫌いなのは、歴史教育で刷り込まれているからで、憎む DNA があるからじゃないのと同じだね。特に北朝鮮の教科書は嘘まで書いてあってひどいらしい・・・。日本は原爆落としたアメリカを悪く書いてないのに・・・。おっと、脱線!スマソ!!)

DNA に刷り込まれる“歴史”は、地球に生命が誕生してからの35億年の記録だ。わずか、2000年や3000年くらいの過去じゃ、体質(DNA)は変わんないのだ。

だから、同じような失敗をする。

現代社会において1週間前、1ヶ月前、1年前くらいの間違いが教訓になるのは、その失敗を体で覚えるからであって、他人の失敗だったとしたら、記憶に残る失敗すら教訓に出来ない場合もある。ましてや、自分が経験してない(位の昔々の他人の)失敗は、何度でも繰り返すのは、当然なのだ。(戦争をなんども繰り返すなんて、人類は愚かだといっている人がいるけど、生物としてのヒトを知らないからだともいえる。)同じ対処法でも、時代が違えば結果は違うんだから、『歴史は大人の楽しみだ』にしておくに限るわけだ。

気が付けば、私の大好きな生物学も、仕事の役に立っている訳でもないし、問題解決の手段にもなっていない。

だから、楽しいのかもしれないな。

2006年08月21日

亀田兄弟と大腸菌の片利共生ストラテジー

大腸菌の片利共生ストラテジーは、他の腸内細菌にも言える事なのか??

すんげぇ論文が Science 誌に掲載された。

昨日、NHK スペシャルでやっていた『黄教授「ES細胞論文ねつ造」』でも然り、編集者は『実験データの捏造は見破れない。(研究者の)倫理観に頼るしかない』と言っていたが、この論文はどうなのだろうか?

大腸菌は早くからゲノムシーケンスが解析されていたにも関わらず、今頃?になって、こんなにビックリの新発見が飛び出すなんて・・・・・。

というわけで、とにかく、紹介しよう。

細菌による奇襲攻撃(Bacterial Sneak Attack)

Science August 11, 2006, Vol.313

大腸菌において、ゲノム・アイランドに機能的な非リボソーム性のペプチド・ポリケチド合成酵素(pks)の遺伝子クラスタが発見されたが、これは感染した宿主細胞DNAにDNAの二重鎖切断を引き起こし、次には有糸分裂を妨害する。

Nougayredeたちは、このpksアイランドが、共生する大腸菌系統にひろく分布しており、プロバイオティック薬剤として利用されている系統においても発見されるということを見出した(p. 848; またHayashiによる展望記事参照のこと)。

この遺伝毒性効果は細菌によって開拓され、細胞周期をブロックすることによって、腸管上皮の更新速度をゆっくりにしている。つまり、病原性と片利共生のこの関係は、想定されていたよりはずっと複雑である可能性がある。

こうした知見は、大腸癌の発生における微生物の役割についての手掛かりを与えてくれるかもしれない。


これ読んで、結構、興奮してしまった私、ふと、昨日の NHK スペシャルを思い出してしまったのは、多分“亀田効果”だと思う。

Science 誌に投稿しても掲載される確率は7%!掲載されれば一流の研究者の仲間入りだ。功名心に駆られ、データを捏造してしまうのも無理からぬ事だといえる。黄教授の場合は、細胞自体、存在しなかったのにも関わらず・・・・ってことだけど、大腸菌の場合は、だれでも追試できる内容だから、捏造は有り得ないとしてもである。

私の中では、、、


---亀田兄弟、おそるべし---


である。疑わなくてもいいものまで疑ってしまうのは、私の職業柄は良い事なんだけど、疑心暗鬼にまでなりそうで、なんだか、ちょっと、亀田兄弟に逆恨みの気持ちまで芽生えて来ている。(情けないけど。とほほ)

功名心といえば、『脳の中の幽霊 ふたたび』を今朝から読み出しているわけだが、この本の始めの方で“功名心”に触れている部分がある。そして、功名心の本体は、依然として謎に包まれているそうだ。

私にも、扁桃体が関与している事は、なんとなく想像付くのだけれど、黄教授や日本の大学教授達が連発している“八百長”の原動力は、一体、何処から来るものなんだろう??

八百長といえば、インドネシア(だったかな?)では、誰も知らない選手とのカードは亀田大樹の勝ち以外は有り得ない。昨日の試合を見なかったのは、言うまでもない。
 
 
 
閑話休題

私が、この論文にビックリさせられたのは、、、

腸管の上皮細胞は生活サイクルが短く、1日~数日で入れ替わっている事が知られている。これまでは、この時間的なサイクルはヒトの遺伝子によって制御されていると考えられていたわけだ。
ウイルスならヒトの遺伝子に影響を与える事は知っていたし、ウイルスと遺伝子の境は曖昧だし、今となってみれば『そういうもんだ』とアプリオリに近い感覚で“感じて”いる訳だけど、まさか、細菌までもが、ヒトの遺伝子に影響を与えているとは、思いもよらなかったからだ。

とすると、当然、他の腸内細菌はどうなのよ?って事になる。

医療漬けによる世界一の長寿国日本のヒト腸内フローラと、医療なんて殆ど受けないで長寿のルーマニアのヒト腸内フローラは違うと聞いている。

当然なんだけど、大腸菌だけでなく小腸に住んでいる細菌達も、なにかしらヒト細胞の遺伝子の制御に関係しているのかもしれない。大きな外科手術後、静脈栄養のみで経腸栄養を絶つと腸管粘膜が萎縮するのは、栄養吸収する必要が無くなって腸の機能が“負の適応”をしてしまっただけでなく、腸管粘膜の維持に細菌の遺伝子制御が必要だったからではないのか?

もっと、過激に想像してみれば、アトピー性皮膚炎患児の皮膚にはブドウ球菌が多いわけだが、ヒトの常在菌すべてが、ヒト細胞の遺伝子発現に関係していると考えれば・・・・。(学者じゃない私はサイエンスで遊んでも許されるから、どんなに想像力を逞しくしてもイイのだ!パラサイト・イヴみたいに、、、、と思ってたら、ピーター・ブライアン・メダワーが『科学は本質的に真実かもしれないものへの想像力豊かな旅』って言ってたらしい。さすが、ノーベル賞学者の言うことには重みがあるなぁ!)
 
 
 
p.s.本日のエントリー、亀田兄弟と大腸菌の片利共生ストラテジーには何の関係も無いのだけど、私の中では、以上のように繋がってしまったので、こんなタイトルにしてみた。

そして、謝らなければならない。『ゴメンナサイ!』。タイトルで釣っているのは、想像の通りである。亀田兄弟ネタでは1日1000件のアクセスがある。この快感は忘れられない。これも私の中の“亀田効果”の一つなのである。(もう、やめようと思いつつ、禁断の果実【亀田兄弟】を知ってしまった私・・・もう、元に戻れないのだろうか??)

2006年08月26日

メタボリックシンドロームによる全死亡率の予測

20060826_34522atw.gif近頃、マスコミにもおなじみの“メタボリックシンドローム”、健康“洗脳”番組でも恰好の材料として“恐怖感を植え付け”、“こうすれば良い”と消費を促す役目を担っているキワモノだ。(何故、キワモノと言い切るかといえば、あちらこちらで“ボロ”が出始めているからに他ならず、神通力が失せたらマスコミでは取り上げられなくなるからだ。)

日本人による日本人の高脂血症の長期予後データが示され、高脂血症治療薬を販売している製造メーカーは色めきたっているが、アジアが中心の世界地図を上下逆にして見るがごとく、高脂血症をほったらかしている人100のうち、何人が6年後に、高脂血症が原因の疾患でイベントが発生するかを見てみれば『えっえぇ~』とびっくりするような内容のエビデンスになっている事を示すデータでもある事を忘れてはならない。

そして、この MEGA Study を補完するような論文が BMJ に掲載されている。(タイトルはこのエントリーのタイトルと同じ)

1970年から最長32年にも及ぶ前向きコホート試験で、50歳、70歳の時点でメタボリックシンドロームか否かの評価を受けた男性2322人のデータだ。
『1970年の時点で、メタボリックシンドロームの概念はないだろう』ってことは言いっこなしにしよう!現時点でだって、明確な定義とは言えず非常に曖昧なのだから。

で、32年後のメタボリックシンドロームの人と非メタボリックシンドローム人の生き残っている数の割合の差は、ほぼ、10%位だ。これを全死亡でなく心血管死でみてみると、ほぼ、同様に10%弱の差になっているので、『メタボリックシンドロームが人を死に至らしめる直接の原因は心血管死となり、それが全死亡での差となっている』と言いたいのだろう。BMJ の論文では、そこまでは断言しておらず『この結果が他の集団でも確認されれば、メタボリックシンドロームの診断は臨床上有用である』としているのだが・・・。

このデータで、30年フォローアップした時点での生き残っている人数は、メタボリックシンドロームで50%、非メタボリックシンドロームで60%だ。
心血管系に限れば、メタボリックシンドロームで30%弱、非非メタボリックシンドロームで20%強だ。

BMJ の論文では、『メタボリックシンドロームは、全死亡においても心血管死亡においても、長期予後の指標になる』としている。


MEGA Study では、高脂血症の患者に対して薬物治療を施しイベント発生を33%予防できるとしている・・・・、これには、公に言えないし、文章として論文に書けない別の真実がある。いわゆる“タブー”ってやつだ。

何故、33%なのだろうか?


そして、メタボリックシンドロームは“指標にしかならない”が正しいのである。

メタボリックシンドロームの診断を付けるには、色々な検査項目がある。

この検査項目が数値化されているが故に、この数値を是正すれば、『メタボリックシンドロームによって表れる現象をすべて回避できる』と考えてしまう事になるのである。


ここに、マスコミが“こうすれば良い”と健康関連商品の消費を促す余地を与えてしまっている訳だ。

メタボリックシンドロームになる人のうち、少数は、単なる生活環境によるもので、積極的な治療で数値を是正する事により御利益があるかもしれないが、その他の人は、メタボリックシンドロームになる体質(遺伝子)を持っているので、見かけ上の因子(高脂血症、高血圧、高血糖など)を是正しても、効果が得られていない事を、BMJ の論文は暗に示している。(『長期予後の指標になる』という言葉で、真実に触れる事を避けている。っていうか、治療した群が対照にないから、治療効果には言及できないので、これは私の意図的な強引な展開なのだが・・・)

同様に MEGA Study でも、その事を示している。

コレステロールが高くならない人に比べて、コレステロールが高くなる人は、心血管系のイベント発症率が高くなる。6年くらいの短い期間では、微々たる差(グロスでは3%くらい)だが、事実は事実だから、これについては、私も否定しない。

でも、この3%の人の中で、コレステロールを下げても、全員、正常人のようにはならず、正常人のような恩恵を受けるのは、33%、つまり、3人に2人は、コレステロールを下げても意味は無いのだ。(注)


---体質だから、臨床検査値を弄っても(高値を下げても)意味がない---


これを言ってしまうと、『氏か育ちか』で“氏”すなわちその家系の“血”に対して評価する事になるから、タブーなのだ。

ポケモンを見て癲癇症状を示した子供たちの親に対して『癲癇の素因があります』とは言えないのと同じなのだ。

この事を公に言えないのを良い事にして、マスコミは商魂たくましく、『数値を是正すれば、正常人と同様になれますよ』と言っているのだ。

100歩譲って、臨床検査値を弄る事に意味があるとしても、“メタボリックシンドローム=食い過ぎ”とすれば、摂食と寿命との関連の研究からも、小食(食事制限したラットは寿命が2倍になった)が寿命を延ばす(より高年齢で死ぬ)わけで当然の事と考えられ、こんなデータが BMJ で堂々と掲載される内容なのかと言わざるを得ない。

ならば、メタボリックシンドロームに対する決定打!!一言。『腹、8分目に医者要らず』だ。


今回は、天下の BMJ(IQと寿命とか平気で掲載しちゃうのに)がメタボリックシンドロームの疫学で『この結果が他の集団でも確認されれば、メタボリックシンドロームの診断は臨床上有用である』みたいな、非常に遠慮した謙虚な結論に『・・・ん?なんかおかしいなぁ!』って感じたので、文章にしてみた。
 
 
 
閑話休題


20060826_honda.jpgところで、、、、韓国に国ぐるみで特許を盗まれて怒った本田宗一郎の言葉、、、、

「韓国とは絶対に関わるな!」

ってのは、興味深い。

かつて、本田技研の創業者、本田宗一郎氏が技術支援の為に、台湾と韓国へ技術支援に行き、しばらくして台湾から、、、、

『日本と同じものが作れるようになりました。是非見に来てください!』

と連絡が入ったそうだ。そしてしばらくして韓国からも連絡がはいった。

『日本と同じものが作れるようになりました。もう来なくてもいいです。』

韓国は本田とのライセンス契約を一方的に解消し、エンジンからデザインまで全くのコピー品を”韓国ブランド”として販売し始めた。本田宗一郎氏は大変失望してこう話したそうだ。


「韓国とは絶対に関わるな」


韓国のオーバイレースファンの間では、
WGP 125cc クラスはデイリンとアプリリア、ジレラの三つ巴だね」といわれているらしい。
日本人が「いや、ホンダだろ」と返したところ「ホンダのエンジンは、デイリンが作ってる、日本がすぐ他国の技術をこっそり使うクセはよくない。アニメも韓国がほとんどつくってるのに日本の作品として放送してるじゃないか」とマジ顔で怒られた。

という“逸話”があるらしい。
 
 
 
日本の国でも、こと、健康や医学的な領域では本当の事を言えず、それをいいことに健康関連産業やマスコミ、一部(大分?)の医療機関の食い物にされるという、言論統制のようなことが、まかり通っている?

真実を信じたくない、、、
日本人では『コレステロールを下げても、体質がダメなら、下げる事に意味は無い』
韓国人では『韓国産のバイクやドラえもんが日本産だった』

積極的に騙されたいって気質は、どっちもどっち・・・・か!?(韓国のほうが、騙す側の性質は圧倒的に悪いが。)


注:私は、常々、予防が100%になる遺伝子型の人を抽出して、薬物治療が出来るような医療が正しいと言っている。見かけを是正しても、恩恵が無い人に対する薬物治療は無駄だからだ。勘違いしている人がいるかもしれないが、オーダーメイドの治療が出来るというのは、治療が無駄な人には『無駄だ』と宣告する医療でもある。正しい医療が“夢と希望”を奪う事にもなるのだ。

しかし、考えて欲しい。今ある“夢と希望”っていうのは、もしかしたら“インチキ”かもしれないという事を。インチキでも死ぬまで本当の事は知らないでいたいというのなら、私の言う事は無いが。

2006年09月01日

マスト細胞と移植拒絶

20060901_5cbd0a60.jpgいやー、久々の『へぇ~~~~~~~』である。

私がへぇ~~~って感じる時、それは、今まで頭の中で整理がついていた事柄に対して、整理し直さなくてはならない事実を突き付けられた時、、ってのが多い。

次のような新知見が、その典型だ。

(写真は人の姿を真似しているサボテン・・・・って、擬態なんてこんなモノ。ヒナを守ろうと親トリが怪我した振りをするのは我が子を思う心、、、なんてモノはトリには無いのと同じ・・・。)

マスト細胞と移植拒絶
Nature August 31, 2006
マスト細胞は免疫系の重要な構成要素で、アナフィラキシーや喘息などのアレルギー反応での応答細胞としての働きが最もよく知られている。

最近の研究では、マスト細胞が自然免疫と適応免疫の両方で免疫調節性細胞として機能すると考えられるようになった。

また、その遺伝子発現プロファイルからは、移植組織に対する免疫寛容にもかかわっているという意外なことも指摘されている。

今回マウスを使って、マスト細胞が免疫抑制において重要な役割を果たしており、調節性T細胞に依存する末梢での免疫抑制に必要とされることが確認された。

これはまた、インターロイキン-9(IL-9)が活性化T細胞とマスト細胞動員の間をつなぐ役割をもっていることを意味しており、IL-9、マスト細胞およびその免疫に関連する遺伝子産物は移植拒絶を防ぐ薬剤の標的となると考えられる。


私の中では、マスト細胞って言われれば、『Ⅰ型アレルギーの際、ヒスタミンを遊離するエフェクター細胞だ』ってイメージが出来上がっている。アナフィラキシー様反応のような非アレルギー反応の場合には、直接の主役でもあるとも認識している。

しかし、この Nature の論文を見ると、マスト細胞はエフェクターではなく、モジュレーターに近い役割も担っているようだ。TLR が発見されてから、樹状細胞が一躍、免疫の主役級にのし上がった時のように、マスト細胞も、今までは見向きもされなかった IL-9 の効果(IL-9受容体の細胞内情報伝達系の解析)により、主役級に躍り出たのだろうか??

遺伝子発現プロファイルから得られた情報、すなわち、マスト細胞側に IL-9 、T 細胞側に IL-9R がある事からの機能の予測なんだろうけど、どうして、いままで気づかなかったんだろう??

IL-9 が“血小板の前駆細胞の増殖促進機能”として発見されてしまった経緯が、ここ数年 Th1 , Th2 理論で進んできた免疫学の世界の視野を狭めてしまったのかもしれない。

Th1 , Th2 , 樹状細胞の間に IL-9 の入る余地はなかったからなぁ。
 
 
 
さて、近々の自分の中でのトピックスはコレ!!

■RNAiの影響は子々孫々まで続く
Nature August 24, 2006
RNA干渉(RNAi)が治療法として使えるかどうかを左右する重要な要素の1つが、阻害効果の持続期間である。

RNAiによる転写抑制が次の世代へ遺伝することは、これまでにマウスで立証されている。

今回、線虫でRNAiによって1回転写を抑制すると、この抑制が有性生殖で何世代にもわたって、しかもその後は引き金やRNAi装置がなくても半永久的に受け継がれることが明らかになった。

■転写性遺伝子サイレンシングの仕組み(The Art of Transcriptional Gene Silencing)

Science August 25, 2006, Vol.313

RNA干渉(RNAi)は、相補的な小さな干渉(si)RNAを介して配列をサイレンスすることを狙う。

siRNAはAgoタンパク質に結合されるが、そのうちのいくつかは標的RNAを「スライス」し、不活性化させることがある。

RNAiは、転写後のレベルと転写レベルの双方で遺伝子発現をサイレンスする。

転写後の遺伝子サイレンシングでは、siRNAがメッセンジャーRNAを標的にする。

転写性遺伝子サイレンシング(TGS)におけるsiRNAの標的は、DNAでも、それによって産生されたRNAのどちらでもありえた。

Irvineたちは、スライスされないよう保護され、孤立した分裂酵母のAgoタンパク質に変異を起こした(p. 1134)。

この変異体タンパク質は、TGS活性を非常に減少させたが、これは、siRNAが転写を消すようコードするDNAよりも新生RNAと相互作用していることを示唆するものである。

さらに、TGSの隣接遺伝子への伝播には、標的転写物および「スライス(切断)」された新生転写物の読み過ごし転写(read-through transcription)が必要なのである。

■植物が子孫に伝えるもの

Nature August 31, 2006

植物は明るすぎたり暗すぎたり、また暑すぎたり寒すぎたりといった不快な状況から逃げ出すことができない。

その代わりに、ストレスに対してさまざまな生理的応答をすることで、耐性の度合いを変化させている。

シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、病原体と同じような働きをする化学物質、あるいは紫外線といったストレスにさらされると、ストレスを受けた個体だけでなく、意外なことに直接ストレスを受けないその子孫でも、数世代にわたって変化がみられることがわかった。

シロイヌナズナはおそらく、まだ知られていないエピジェネティックな仕組みを使って、受けたストレスを「覚える」のだろう。

この現象には、獲得形質が染色体を介して遺伝するという、ラマルクの崩れ去った学説を思わせるところが、ほんのわずかながらありそうだ。


ポストゲノムシーケンスは、やっぱり遺伝子発現の制御だ!しかも、エピジェネティックな影響が発見されるに連れ、現象から考察され、やがて、古典的な生物学により否定され、また、最先端の生物学で肯定されようとしている“古の進化論”などが面白い。

進化医学に初めて触れ頃感じ始め、ネオ進化論7部作を読んだ頃には確信になり、『脳の中の幽霊 ふたたび』の中で、著者も書いていたので自信を持って言える事だが、現代の医学・生物学は“生物の進化”抜きには説明が出来なくなってきている。

生命現象には、その表現型があるべく理由がある。(いや、形態学的には無いとも言えるが・・・例えばヒトの耳の骨は爬虫類時代には顎の骨として発達した。ヒトに進化する時に、ちょうど、そこにあったから、それを別の目的で利用した・・・こんな事は進化では日常茶飯事。)

『キリンは高い所の葉を食べようとして首が長くなった』は、今では否定されているのだが、最先端の生物学の知見を加味すると、簡単に否定も出来ないってわけなのだ。
エピジェネティックな仕組みが次世代に遺伝するのなら、それが翻訳のルールになるって事も考えられる訳で・・・


免疫学にも、まだまだびっくりするような発見があり、遺伝子の発現制御やその翻訳された蛋白質の相互作用っていうかネットワークには、まだまだ、数え切れないほどのお宝が埋まっている。

ライフワークにしているこの分野では、これからも溢れるくらいの新発見が待ち受けている事を思うと、やっぱりワクワクしてくるのだが、あんまりスピードが速いと付いていけなくなりそうで、くれぐれも私の理解のスピードを越えないよう・・・なんて願ったりしている今日この頃である。

今回のエントリーは、社会の問題と関連付けずに、あっさりとこれでオシマイ!!

2006年09月12日

PROactive試験 と 9.11

20060912_bust.jpgPROactive試験 2006年世界循環器学会議(スペイン、バルセロナ)でノッティンガム大学内科・外科学部(英国)のRobert G. Wilcox, MDは、絶妙な解析をしている。

いや、一線を超えての“推定”の領域まで“表現”しているわけじゃなく、ありのままを伝えているのだが、そのありのままが、『結局、そういうことジャン!』って、ちょっと解っているひとにはあからさまな発言に感じられるのが面白い。(いや、私の考えすぎかもしれないけど・・・)

結局、脳卒中の発症には『HbA1c、収縮期血圧および拡張期血圧、およびトリグリセリド、HDLコレステロールの増加、LDL/HDL比の低下』なんてものは、関係なく、人類がまだ知ることの出来ていない“体質”によって決まっちゃうんだよ・・・・って言っているように思えてならないのだ。

なんと、身も蓋もない事を言う人なんだろう!(・・・て言ってないってバ。でも、私、こういうその気にさせる人、大好き)

それに引きかえ、Ryden博士は、未だに生物の多様性を無視した古典的な統計学に根ざしたコメントをしている。

脳卒中既往の有無にかかわらず、『HbA1c、収縮期血圧および拡張期血圧、およびトリグリセリド、HDLコレステロールの増加、LDL/HDL比の低下』に差があるんだから、『結果が異なるというこの知見は「理解しがたく」、明らかな生物学的説明は得られない』だってさ!!

ちょっと、おじいさん(高齢)なのかな?この博士は??

というわけで、気になるその【PROactive試験】とは、、、

PROactive試験 : ピオグリタゾンは糖尿病患者における再発性脳卒中を抑制

提供:Medscape

以前に発表されたPROactive試験のサブグループ解析では、ピオグリタゾン投与により糖尿病患者の脳卒中リスクは減少したが、それは脳卒中の既往歴のある患者に限られることが報告されている

Susan Jeffrey
Medscape Medical News

Reviewed by Gary D. Vogin, MD


【9月4日】以前に発表された試験であるProspective Pioglitazone Clinical Trial in Macrovascular Events(PROactive)の事前に指定したサブグループ解析では、ピオグリタゾン (商品名アクトス、武田/Eli Lilly社)投与により、2型糖尿病患者における脳卒中のリスクは低下したものの、それは脳卒中の既往歴のある患者に限られ、脳卒中既往歴のない患者には治療による有意差は見られなかったことが報告されている。

この試験において、ピオグリタゾン投与を受けた脳卒中既往歴のある患者は、再発性脳卒中がプラセボ投与患者より47%減少した、とノッティンガム大学内科・外科学部(英国)のRobert G. Wilcox, MDは、2006年世界循環器学会議(スペイン、バルセロナ)で話している。

しかし、ピオグリタゾンは、HbA1c、血圧、およびトリグリセリドの低下、ならびにHDLコレステロールの増大など、生化学的パラメータを改善したものの、この調査期間中に初発脳卒中のリスク低下における有効性がプラセボを上回ることはなかった。

「ピオグリタゾンによる長期治療が脳卒中既往歴のない糖尿病患者にも同様に有効であるか、また脳卒中既往歴のある非糖尿病患者にも有効かどうかについては、今後の研究が待たれる」とWilcox博士は述べている。

PROactive試験は、武田薬品工業株式会社およびEli Lilly社の資金援助を受けている。

エンドポイント

脳卒中における有効な二次的予防治療は、抗高血圧治療、抗血小板薬治療、脂質低下治療である、とWilcox博士は同会議で参加者に話している。「しかし今のところ、糖尿病患者において、血糖降下療法が脳卒中の発生率に及ぼす効果について決定的なエビデンスは得られていない」とWilcox博士は述べている。

ピオグリタゾンはペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γ(PPAR-γ)アゴニストであり、2型糖尿病治療用の血糖降下薬(antiglycemic agent)として承認されている。同剤は血糖降下のほかにも、トリグリセリドおよびC反応性タンパク質の減少、HDLコレステロールの増加などの作用があり、その全てが心血管リスクに好ましい作用をすると思われる。

主なPROactive試験は、脳卒中の既往歴、心筋梗塞(MI)、血行再建、末梢動脈性疾患などの大血管疾患の存在、ならびに冠動脈疾患の客観的所見により心血管イベントのリスクが高いと考えられる2型糖尿病患者5238例を対象としたランダム化、二重盲検、プラセボ比較対照試験であった。

患者はピオグリタゾン 45mg/日またはプラセボの投与にランダムに割り付けられ、さらに本患者集団に推奨されている標準的薬剤、すなわち抗高血圧薬;メトホルミン、スルホニル尿素剤、インスリンなどの血糖降下薬;アスピリンなどの抗血小板薬、スタチン系およびフィブラート系などの脂質低下薬の投与を受けた。

2005年10月に発表された(Lancet. 2005; 366:1279-1289)主な試験結果では、同試験の一次エンドポイント、すなわち全ての原因による死亡、非致死的MI(無症候性MIを含む)、脳卒中、大きな下肢切断術(足首より上)、急性冠動脈症候群、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮的冠動脈形成術(PCI)といった心臓の処置、下肢の血行再建が非有意に10%低下した。しかし、死亡、MI(無症候性MIを除く)、および脳卒中からなる二次複合エンドポイントについては、ピオグリタゾン投与により16%という有意の減少が認められた。

脳卒中のエンドポイント

試験全体において、ピオグリタゾン投与群では脳卒中86件、プラセボ群では107件と、同剤により脳卒中は19%減少し(HR, 0.81; 95% CI, 0.67-1.07)、統計的に有意ではないものの、同投与は有意である傾向が認められた。

同会議で発表された事前に指定されたサブグループ解析では、PROactive試験の研究者らは脳卒中の既往歴のある患者(n=984)および同既往歴のない患者(n=4,254)において脳卒中のエンドポイントを検討した。

Wilcox博士は、脳卒中既往歴のある患者では、ピオグリタゾン投与を受けなかった患者より同投与を受けた患者の方が再発性脳卒中のリスクが低下し、そのリスクは投与群では10%から約5%へ有意に低下した、と報告している。


しかし、脳卒中の総リスクがはるかに低い脳卒中の既往歴のない患者では、新たな脳卒中は有意に減少しなかった。

ピオグリタゾン投与による試験開始時からの生化学的変化および糖尿病に関する変化では(プラセボ群に比べて)、HbA1c、収縮期血圧および拡張期血圧、およびトリグリセリドが大幅に減少し、HDLコレステロールの増加はさらに大きく、LDL/HDL比の低下は大きかった、とWilcox博士は話している。脳卒中の既往歴のない患者でも、同パラメータに非常によく似た変化が認められた。

多変量解析からは、脳卒中の既往歴それ自体が患者の全コホートにおける再発性脳卒中の最強の予測因子であることが示された(HR, 2.88; P<0.0001)、とWilcox博士は話している。ピオグリタゾンおよびスタチン系薬剤の使用は、脳卒中の既往歴のある患者において、脳卒中または再発性脳卒中のリスクに有意な作用のある唯一の因子であった。

脳卒中の既往のない患者では、主なリスク因子は、HbA1c、クレアチニン・クリアランス、末梢血管疾患の存在であった。

脳卒中の既往歴のある患者と同既往歴のない患者では、有害事象の報告に差がなかった、とWilcox博士は述べている。この集団に対するピオグリタゾン投与に多少の懸念が持ち上がった全試験の知見と同様に、ピオグリタゾン投与でより多くの患者が心不全と一致する臨床的特徴により病院に入院した、いずれの集団でも死亡率は変わらなかった、とWilcox博士は付け加えている。

占星術と臨床試験

この会議で発表された最新の試験結果のために、カロリンスカ研究所(スウェーデン、ストックホルム)のLars Ryden, MDが討議者として招待されていた。Ryden博士は、オックスフォード大学(英国)のPeter Sleight, MDらによるISIS IIのデータの現在有名なサブグループ解析を話題にした。同解析がてんびん座とふたご座の星座の下で生まれたMI患者ではアスピリン治療が有害になることを示していることに言及し、サブグループ解析の危険性について研究者らに警告して「これを実際に信じる人はいないだろう」と語った。「結局このような結末に至ったサブグループ解析の似たような例がある」。

Ryden博士は、このPROactive試験のサブ解析に対して、ピオグリタゾン投与による血圧およびコレステロール分画などの生化学的マーカーに同様の変化が認められることから、脳卒中の既往歴のある患者と同既往歴のない患者では結果が異なるというこの知見は「理解しがたく」、明らかな生物学的説明は得られない、との懸念を表している。

全試験の主な結果は優れている、とRyden博士は結論し、これらの知見についてPROactive試験の研究者らを賞賛している。「この知見は満足していてよい。十分に有望な知見である」。


World Congress of Cardiology 2006. Presented September 3, 2006.


Medscape Medical News 2006. (C) 2006 Medscape


閑話休題

ちょっと前に読み終えた【脳の中の幽霊 ふたたび】によると、どうして男は“チラリズム”に弱いのかを“脳の進化”から説明している。

このエントリーに“そそる”写真を添付したのはその為だ。ラマチャンドラン博士は、木の上で生活をするようになった人類の祖先が、どのように視覚情報を脳で処理するかという考察から“チラリズム”、すなわち、モロに見えちゃっているより、見えそうで見えないものの方が、より、脳が活発に活動すると言うことを説明しているのだ。

具体的には【脳の中の幽霊 ふたたび】を読んでもらうことにして、私が PROactive試験 において Wilcox 博士 の解析に興味を覚え、より興奮するのは“チラリズム”に興奮する脳のせいなんじゃないかな?って、ふと感じたのだ。

でも、ここで、このような医学的な臨床試験において、“チラリズム”で興奮するか、なにも感じないかの個人差は、存在するらしい。私は、このようなシチュエーションでも“チラリズム”で興奮するタイプみたいだ。


さらに、Nature 507-508 (2006) によれば、『ザトウクジラの年齢は、耳垢に生じる層状の輪の数を数えることにより精度よく知ることができるが、そのためにはクジラを殺して解剖しなければならない。クジラを生かしたまま、年齢を知ることはできないのか?』という論文が掲載されている。

この件も、これだけしか書かないで『後は自分で読んでね』ってされると、無性に読みたくなったり自分で考えちゃう人(脳が活発に活動する)とそうでない人に別れるだろうから、ここでも、私は『知りたいよぉ~』の“脳”を持っていることになる。


昨晩、TBS で 9.11 を振り返る番組が放送されてた。TBS = インチキ = 筑紫哲也 って認識が形成されている私にとって、少なくとも インチキ = 筑紫哲也 だけでも払拭してくれる内容であることを期待して観たのだが、英国 BBS の作った部分以外は、まったく、ガッカリさせられる内容だった。

筑紫哲也の“意味不明なのに偉そうなコメント(みんな知ってるし、感じているのに、俺だけが・・・みたいな)”と、名前は忘れたけど若いアナウンサーの日本人犠牲者の父親への“意味不明なインタヴュー”には、さすが TBS だと、妙に感心してしまった。

私が、この番組を見たかったのは、『何故ふたつのビルが崩落したのか?』だったからだ。私は、飛行機が激突した部分より上の階が潰れるのは理解出来るとしても、ビル丸ごとが一気に崩落したことが、いまだに“呑み込めない”でいる。

昨晩の番組は、まったく、私を納得させてくれる内容ではなかった。でも、この番組に関しては、『まぁ、当たり障りの無い事が好きな日本人的な気質を如実に表しているなぁ』って感じで、眺めることも出来なくはないが。。。

意味の無い事をさも意味があるかのようにでっち上げ、ことさら重要な問題であるかのように口角泡飛ばして議論する事が、どうして日本人気質なのかと問われれば、、、
女性・女系天皇を認める・認めないで世論調査やったり、閣議で決めようとしたり、侃侃諤諤やってるんだけど、次世代では、生殖医療の進歩により、必ず男子が生まれることになり、女性・女系天皇を認める法律を作っても形骸化するだけで、意味無い事をさも重要な問題ぶってやっているから、って答えておこう。

これ一つとっても良くわかる上に、今朝のニュースでは、何処かの図書館が例の高専女学生を殺した19歳の少年の実名報道した読売新聞を閲覧禁止にしたことでも納得されられるだろう。議論の俎上に挙げらることすら、控えよう・・・事勿れ主義・・・の図書館職員。


本当に大事な事は、誰かが傷ついたり不利益を被るから先送り・・・。

『知りたいよぉ~』って、ツインタワーが、何故、崩落したのか知りたい人は私だけではないだろう。どうして知りたいことがイケナイ=不道徳なんだろう(不道徳とは言われてないけど、そんな雰囲気だよな)?建築学を志している若い人達にとってみれば、これを知る事は有意義な筈だ。崩落を詳しく研究している人もいるのにも関わらず、どうして、詳しく放映しないのだろう?

『感情を逆なでする』みたいな苦情を恐れて、どうでもいい意味不明なコメントにならざるを得ない・・・、TBS だけじゃなくマスコミ全てにおいて、こういう姿勢なんだよなぁ・・・。何故か、日本では軽薄なコメトンしか出来ない久米宏や筑紫哲也、古館伊知郎なんかがもてはやされる・・・。(この連中の筆法は似ていて、例えば、中国・韓国は、国益に反するんだから、最終的には靖国参拝問題なんてちっぽけな問題で日本との関係を悪化させようなんて思う訳が無いのに、そういう非常に軽い問題を重く見せて、それを批判することで『どうだ、俺の人道的で勇気ある発言は』みたいな事に終始している。反体制のポリシーに中国・韓国を出汁に使っているともいえる。でも、反体制が“カッコイイ”なんて、いまの若者は思わない・・・。)

アッ!結局、国民のレベル以上のマスコミは形成されないのか・・・・。納得。

2006年09月15日

p53 の正体は?

20060915_1.jpgこれが真実だとすると、今までの“理解”“解釈”ってなんなの?って感じなんだけど、p53 にしてみりゃ『ふん、俺の事、なぁ~んにもシラネぇくせに、勝手に俺の役割なんてもんを決めやがって・・・ぶつぶつ』ってところなんだろうなぁ。

いままでの p53 の働きは、次のように理解されていた。
●放射線や薬物、あるいはその他の理由で DNA に異変が生じてしまった時に、そのまま、細胞分裂を許してしまうと、分裂後の細胞にも誤まった DNA の配列が伝わってしまう。
●これは、マズイので、細胞を分裂できないような状態にさせる。
●その間に、DNA に生じた誤りを修正する。修正出来そうもなければ“自殺”に追い込む。

要するに、DNA の修正の為の時間稼ぎに分裂をストップさせる事、これが“発がんの抑制”の“本態”だと理解されていた。


しかし、、、、Nature September 14, 2006 によると、、、、

p53の2つの顔

p53タンパク質は脊椎動物におけるDNA損傷に対する応答や腫瘍抑制の重要なメディエーターである。

一般に、これら2つの性質の間には因果関係があり、p53は腫瘍細胞におけるDNA損傷やゲノム異常に応答して増殖停止やアポトーシスを誘導することにより腫瘍を抑制すると考えられている。

今回 Christophorou たちは、内因性p53の活性化を可逆的に切り替えられるマウスモデルを用いて、放射線照射に対してp53により誘導される病的応答は、放射線照射により発生する腫瘍のp53を介した抑制とは関連性がないことを明らかにしている。

一方、放射線照射後時間が経ってからp53の作用を回復させると、放射線による病的影響は起こらなくなるが、腫瘍抑制効果の多くは残る。

これらのデータから、DNA損傷に対するp53の応答と腫瘍抑制活性は互いに関連のない作用であり、各々別のシグナルによって誘導されていると考えられる。

同様の結論が別の実験からも得られており、マウスでは腫瘍抑制タンパク質であるARFが存在しないと、p53コピー数の増加によるがん予防作用の増強がみられないことがわかった。

この結果もまた、発がん性のシグナル伝達がp53による腫瘍抑制誘導に重要であるのに対し、DNA損傷の結果起こるp53活性化は腫瘍の最終的発生に影響が少ないことを示している。

A Burns は News and Views で、これらの結果がp53活性のモデルにどんな意味をもつかを考察している。


である。


発がんを抑制するのは、分裂をストップさせる事とは関係が無かったって訳なのだ。

誰が考えたって、G1 停止、 G2 停止作用が発がん抑制と“因果関係”にあると思うジャン。説明としても、すっごく“シックリ”来るし。

でも、世の中って、本来“シックリ”しないのが“当たり前”で、“シックリ”するのが、ほぼ、例外なのかもしれない。

精神的な疾患などは、その最たる例で、現在の病状に対する“理由が欲しい”為に精神カウンセリングが存在するのに似ている。

過去のトラウマを探り当て、それによって現状が解決される訳じゃないのに、何かにすがりたい・・・。しかも、探り当てたトラウマが、本当の原因かどうかも怪しいのに。

要するに、ヒトは、結果に対する理由を欲しがる“生き物”なんだろう。。。。理由に対する評価は、人それぞれだけど。(大雑把に二分できる?)
 
 
 
閑話休題

チャールズ・パーシー・スノー が提唱したとされる『理系と文系』について、【脳の中の幽霊 ふたたび】でラマチャンドラン博士は、『やがて思考的に見たこの分類はナンセンスな時代がやってくるだろう』としている。妙に納得したのだが、時間が経つに連れて、、、


---どんな内容で証明したんだっけ?---

ってなってきた。この本は購入したものじゃなくって図書館で借りてきたから、直ぐに読み返せない。


今現在の世の中のものの考え方・解釈の仕方をみると、やっぱり、そういう分類の必要性があるなぁ!って感じる。

理系の脳人間では、当たり前の思考ロジックが、文系の脳人間では当たり前でないのを良く感じるからだ。

わかりやすい喩では、レトロスペクティブな臨床試験とプロスペクティブな臨床試験の違いが、文系では直感的に感じられていない事が挙げられる。
もっと、わかりやすく言えば、『それは結果論だよ』の“結果論”と表現する事例の“感じ方”が違う。

具体的には、『靖国参拝7割が支持「8・15で良かった」64%』の日刊スポーツ社会アンケートに寄せられた、反対意見の以下の表現に象徴される。

「いつまでこんなことがもめてるのか、いいかげんにしてほしい。アジアとどう向き合っていくか、日本の代表なんだからかんがえてほしい、あと、お国のために戦ったといって欲しくない、あれはお国のためになんなかったんだから」(HN:山)

この『お国のために戦ったといって欲しくない、あれはお国のためになんなかったんだから』の部分がそれだ。

この発言に、直感的に“違和感”を感じるのが“理系”で感じないのが“文系”の脳と言える(と思う)。


しかも、この意見は、知っている単語を並べただけの、意味不明な文章でもある。

このロジックでは、お国の為にならなかったとしているが、この人は、今、世界第2位の経済大国の日本を、どのように感じているのだろう?

100歩譲って、今の日本が当時の日本人の望んだ形とは違うものだったとして、望んだ形にするには「戦争しなかった方が良かった」との結論に持っていきたいのだろうが、理系の脳ではこれを“結果論”と呼ぶ。

この意見のような結論のもって行き方が、現在の状態の原因を過去に求めるレトロスペクティブな試験に対応するのだが、この考えは“試行的お遊び(古代ギリシャの詭弁・レトリック)”としてなら面白いが、国の将来を構築する為に適用するのは適切ではない。

医学的なエビデンスを構築するのと同様である。

ある人の医学的な将来を判断するのにレトロスペクティブな試験結果をエビデンスと呼ばないのと同じ事なのだ。現時点で最善だと思う行為を証明する為には、未来に向かってその結果を蓄積していかなければならない。これをプロスペクティブな試験という。

例えば長寿試験。レトロ・・では『長生きしたのは、こんな事をしてたからだ』というバイアスが入り易い。先入観があり、そういう結果が得られている他の目的で行われた試験結果を選びたくなるもんだ。例えば、ビタミン剤の服用の有無に注目したとする。そうすると、ビタミン剤を飲んでいた人の方が長生きした人の数が多いというデータが選られるだろう。この結果から、すなわち、ビタミン剤は長生きの秘訣であるとの結論を導くのがレトロ・・だ。

文系の脳は、これに違和感を感じない。

プロスペクティブな試験では、試験の条件としてビタミン剤以外の長寿との因果関係に影響を及ぼしそうなファクターを揃えるわけだが、レトロではそれが出来ないのだ。他の目的で行われた臨床試験の結果を、長寿の因子を探る為に再利用するのだからね。

レトロ・・では、ビタミン剤を飲んでいた人達は、健康に対する関心が高いから、毎朝、ジョギングをしていたかもしれないし、早寝早起きしていたかもしれない。ジョギングや早寝早起きが長寿をもたらす真の因子だったとしても、先のレトロ・・な試験では、見かけ上、ビタミン剤の効能に繋がってしまうのだ。


ある時点で、戦争を選択するのは、その時点で最善だと思われたから実行したのであって、その結果は、開戦時の条件を揃えないで評価することは意味無いのである。

しかも、戦争は100回ヤッテ100回ともメリットが無いなら、誰もやらない。そもそも、戦争することと、現在の国の状態を結び付けるのはナンセンスなのだ。


というわけで、靖国参拝のアンケート自体が、アジアの平和を希求する目的でなされたとしたら、全く持って“ナンセンス”な行為といえるのだが。。。。
 
 
 
『歴史から見た・・・』を政治や外交の方法論に適用するのは、楽しくディベート、或は時に激しくディベートする為にやるもんだ。そう、知的な遊び、大人の遊びとして。

そして、テレビ局は、番組作りにはもってこいだからやっているんだとばっかり思ってたんだけど、文系の脳の持ち主達は大マジだったのかもしれない。歴史が政治や外交の手段選択の根拠になると。


アジアの平和と秩序を維持する為には、本質的には歴史は振り返る必要は無いし、意味が無い。

生きていく為に背に腹は変えられない状況に置かれた時、人(生物)は感情を優先する事は無いのだから、中国・韓国が過去の歴史がどうたらこうたら言って、アジア首脳会談を拒否する行為こそが、愚の骨頂なわけだ。『会話をしよう』と言っている日本に対して、それを拒否する態度こそ、非難されて良い。

逆に言えば、中国・韓国がそんなことを言っていられるのは、アジアの平和が保たれており、上手く行っているからだとも言える。(靖国参拝より、中国の核軍備拡大の方が、1億倍も危険じゃないのか?文系の脳はレトロ[過去]とプロ[未来]を同時に同等に扱ってしまうと、私が感じる所以だ)


世論を形成している“日本人の歴史観”は、以前にも言及しているが、歴史学者を除いて、ほぼ、歴史小説に依存している。しかも、お気に入りの小説家、一人二人の小説しか読んでいないので、その解釈が、その小説家の解釈にほぼ近づく。そして他を顧みない事が多い。(当然と言えば当然で、歴史は教養であって真実を求めるサイエンスじゃないんだから)

理系の脳では、ある現象の解釈は、たとえ尊敬している研究者の解釈であっても、それが“怪しい”となれば、その“理解”はさっさと捨てて、その他の理論、多数の研究者、それも反対の解釈をも積極的に取り入れるように出来ている。

要するに、真実を知りたいが一番で、自分のポリシーにまで高めてしまった事でも、新発見の方が合理的なら、すぐ、乗り換えちゃうのである。良い悪いはべつとして、昨日までの解釈をあっさり捨てて、今日からはこの理論で行けるのだ。

高校時代の文系・理系の比率がそのまんま、社会の比率だとすると、7割~8割が文系脳の持ち主と言う事になるのだが、“世論”などという“化け物”に為政者が振り回される日本において、自分の認識を曲げる環境に無い“文系脳”によって、その世論が形成されているのだ。

歴史を真実を知る学問として利用するなら、サイエンスに高めなくてはならないが、それは“歴史の性質上”絶対、不可能だ。

そして、現状を解釈する為に、歴史を振り返るのは、精神疾患でトラウマを適用するのに似ているということと、人類の歴史から学べるものは『ヒトは歴史から学べる生き物ではない』ということを知らないとイケナイ。(“人”ではなく“ヒト”としている事に注意)

でも、歴史から学ばない事を“嘆く”のが文系の脳で、歴史から学べない事を“受け入れる”のが理系の脳・・・・なのかな!?
 
 
 
さて、p53 に対する、私の見方だが、今まで p53 の理解に使っていた脳の領域を倍に拡張し、今までの“思い込み”を相対的に50%に下げて、これから得られるであろう知見を詰め込む領域を確保した。

そして、その領域が100%と感じられる時期が来た時に、また、p53 に対するあらたなイメージが生成されると思う。

こんな事を考えるている、、、、私は、つくづく、理系の脳を持っているんだなぁって感じる。


p.s.さて、今朝のニュース『死亡事故における飲酒運手の割合・・沖縄ワースト1位』。
このニュース、何か先入観というか、思考バイアスに訴えかけて、何かを言おうとしているのだろうけど、理系脳の私には、『さっぱり、意味不明』です。ハイ。

p.s.もしかしたら、ここを読んでいる方もうすうす感じているかも・・・。
「いつまでこんなことがもめてるのか、いいかげんにしてほしい。アジアとどう向き合っていくか、日本の代表なんだからかんがえてほしい、あと、お国のために戦ったといって欲しくない、あれはお国のためになんなかったんだから」(HN:山)
この意見って、頭悪い人なんじゃないのか?って事を!
(文系・理系以外に、この“頭が悪い”って分類をしなくっちゃいけないんだけど、ここまでの分類は、如何に私でも・・・怖い。タブーだと思うけど、世論はこの“頭が悪い”人の意見も多分に反映されている・・・・・汗)

2006年09月20日

早漏症の治療にdapoxetineが有用である可能性

20060920_sexy.jpg日本では“秘め事”である異性間 SEX のクオリティに踏み込んだ論文が、Lancet. 2006;368:894, 929-937.に掲載された。BMJ しゃなく、Lancet ってとこに、普通に驚いてしまったので、取り上げる事にした。

いきなり、話がそれるが、異性間 SEX のクオリティを公に語る事は、西洋では恥ずかしい事じゃないとしたら、《BMJ しゃなく、Lancet ってとこに、普通に驚いてしまった》と感じた私の感覚は、バリバリの日本人なのだろう。やっぱり、少し抵抗ある。いや、仕事と割り切っていれば、SEX のクオリティを“嫌らしくなく”する事は可能だけれど、そうじゃないシーンでは、やっぱり・・・。場末の居酒屋で、脂ぎった中年の親父が『ガハガハ』言いながら『俺のスゴイぜ、30分ヒイヒイ言わせっぱなし・・』みたいな話をしている・・・、これは論外。

で、その内容にも驚いたのだが、、、、ショボイ。正直、『こんなショボイ成績で一喜一憂するのか?西洋人は??あん?』である。

まぁ、とりあえず、読んでみて下され。

早漏症の治療にdapoxetineが有用である可能性

提供:Medscape

dapoxetineを必要に応じて投与する治療法が中等症から重症の早漏症男性に対して有効であることが、二つのランダム化臨床試験において示された

Laurie Barclay, MD
Medscape Medical News

Reviewed by Gary D. Vogin, MD

【9月12日】dapoxetineをオンデマンド(必要に応じて)で投与する治療法が中等症から重症の早漏症男性に有効であるという二つの無作為割付化臨床試験の結果が、『Lancet』9月9日号に掲載された。

「dapoxetineは短時間作用型選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で、特に早漏症の治療を目的として開発されたものである」とミネソタ大学(ミネアポリス)のJon L. Pryor, MDらdapoxetine研究グループの研究者らは記述している。「この薬剤の作用機序は、ニューロンでのセロトニン再取り込み阻害とその結果生じるセロトニン活性の増強に基づくものと考えられている。うつ病の治療に認可されているSSRIが安定血中濃度に達するのに2週間あるいはそれ以上要するのと比較して、dapoxetineは特異な薬物動態プロファイルを有しており、短時間(約1時間)で最高血清中濃度に達した後、速やかに排泄される(初期血中半減期1.2時間)。

合衆国内の121施設において、二つの同じデザインの12週間ランダム化二重盲検プラセボ対照第3相臨床試験が独立かつ併行して実施された。データはあらかじめ決められていた総合解析に供された。中等症ないし重症の早漏症で異性パートナーと安定した関係にある男性患者が、プラセボ(870人)、dapoxetine 30mg(874人)、あるいはdapoxetine 60mg(870人)のオンデマンド投与(必要に応じて、予想される性的行為の1-3時間前に内服)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、ストップウォッチで計測した膣内射精潜時(IELT)ならびに安全性・認容性であった。

本研究はプラセボ群の672人、dapoxetine 30mg群の676人、dapoxetine 60mg群の610人で完遂された。dapoxetineはいずれの用量でも、プラセボと比較して有意にIELTを延長した(P<0.0001)。プラセボ群、dapoxetine 30mg群、dapoxetine 60mg群のそれぞれにおいて、治療開始前のIELTは平均0.90 ± 0.47分、0.92 ± 0.50分、0.91 ± 0.48分であったが、研究終了時点(12週あるいは最終外来診察時)ではIELTは平均1.75 ± 2.21分、2.78 ± 3.48分、3.32 ± 3.68分であった。いずれのdapoxetine用量でも初回投与時にすでに有効であった。

dapoxetine 30mg・60mg群のそれぞれにおいてよく見られた有害事象は、嘔気(8.7%対20.1%)、下痢(3.9%対6.8%)、頭痛(5.9%対6.8%)、めまい(3.0%対6.2%)であった。臨床的に最も重要な心血管系の有害事象としては失神の報告があったが、その発生率は低く、2つの臨床試験の統合解析では全ての群で同様の発生率であった。しかし、失神の発生率はプラセボよりもdapoxetine内服時の方で高率と報告している臨床研究もある。

「オンデマンドでのdapoxetineの投与は、中等症ないし重症の早漏症男性に対する有効かつ概ね認容性良好な治療法である」と著者らは記述している。「早漏症のために起こる苦悩や対人関係の困難さを考慮すると、特に最重症の早漏症患者に対しても有効な治療法が利用可能であることは、早漏症男性の受診を促し、その結果、男性とそのパートナーに大いに利益をもたらしうるものである」。

この研究の問題点は、より軽症の早漏症患者あるいは勃起障害が並存している患者、その他の原因による二次的な早漏症患者にまで一般化できないこと、研究対象がほとんど若い白人患者に限られていたことが挙げられる。

ALZA社は、本研究のデザイン・データ収集を行い、著者のうちの2人を雇用しており、さらに他の2人の著者と財政的関係がある。Johnson & Johnson社との財政的関係を開示した著者も複数存在する。ALZA社とJohnson & Johnson社はdapoxetineの製造元である。

併載されているコメントにおいて、 Universita Vita Salute San Raffaele(イタリア、ミラノ)のFrancesco Montorsi, MDとAndrea Salonia, MDは、早漏症に対する有効な治療法は明らかに必要であると述べている。

「研究期間を通じてdapoxetineの認容性は良好であり、明らかな安全性に関する問題はなさそうである」とMontorsi博士とSalonia博士は記述している。「我々の経験では、早漏症患者のほとんどは明らかに、長期間の内服治療よりもオンデマンドの治療法を好む。オンデマンドのdapoxetine投与が早漏症患者に提供しうる重要な治療法となることを期待する。」

Montorsi博士とSalonia博士は関連する財政的関係は無いと報告している。


Lancet. 2006;368:894, 929-937.


Medscape Medical News 2006. (C) 2006 Medscape


特に、難しい表現も無いと思われるので、一般の方にも、ほぼ、意味が伝わると思うが、一つだけ、一般的でない“単語”の意味を説明しておこう。「研究期間を通じてdapoxetineの認容性は良好であり、・・・・」の『認容性』だ。言葉としては知っていても、生活の中では使う事は無いし、感覚的にわかりづらいが、この手の論文には必ず顔を出す単語だから、知ってて損はないと思う。

英語の Tolerability を訳したもので、副作用が有ることがわかっていて使わざるを得ない医薬品の場合に、使われる。

そして、患者が、副作用に十分耐えられる程度であれば、『忍容性が高い(良い)薬物』であると表現し、逆に、耐えられない程のひどい有害作用が発生する場合は、『忍容性が低い薬物』と表現する。

で、そのショボさなのだが、まず、ペニスをヴァギナに挿入してから、ストップウォッチを押させているのだが、こんな事させられるだけで、日本人、、、いや失礼、私なら射精までの時間が延長すると思う。もしかしたら、誰かに見られているような気がして、射精しないかもしれない。それを白人の連中は、、、。

次に、0.90 ± 0.47分だった人に、プラセボ(ニセ薬)を飲ませたら、1.75 ± 2.21分になったと。

・・・・・・・、約1分で射精していた人が、プラセボだけで、2倍になっている。って言っても2分弱。で、再高用量の実薬の結果が奮ってる。3.32 ± 3.68分である。

・・・・・・・、確かに平均は、1分から3分になっている、まぁ、これはいい。3分±3分って、入れたら、即射精しちっゃた人もいたって事かよぉ~~~~~~~!(いや、この場合の±3分ってのは、データの切り捨てをやっていない証拠にもなるし、統計学上、しかたない事なのだが・・・・)
 
 
 
閑話休題

いつかは、書こうと思っていたネタなのだが、、、

『話を聞いて、悩みを共感して、生えた喜びを一緒に味わいたいなっ』とは、リーブ21のコマーシャルで、女性社員がのたまっているお言葉である。

『話を聞いて、悩みを共感して、●●た喜びを一緒に味わいたいなっ』って言葉だけを聞くと、非常に心優しい女性のようだが、“●●た”が「ハゲの毛が生えた」だぜっ!!

『俺の“ハゲ”の悩みなんて、絶対、お前にはわかんねぇよ』って男性、多いんじゃないかな!共感なんかして欲しくないし、生えた喜びを一緒に味わって欲しくない。淡々と事務的にやってくれ。

こんな事、コマーシャルで言わせるなんて、リーブ21って会社は、アホなんじゃないのか??コスプレもののエロビデオで、女医に扮する AV女優が患者に向かって『わぁ~、いっぱい出たねぇ!よかったねぇ!私もうれしぃ~』って言いながら、不感症患者役の男優のペニスをしごいているようなシーンを思い出すような“違和感”を感じるのは私だけだろうか??
 
 
 
この手の悩みは、解消する為、介入者が突っ込めば突っ込むほど、感覚的なズレが生じる。

さて、早漏症の治療薬治験について、後半「この研究の問題点は、・・・・」とあるが、相手の女性の“クオリティ”を考慮していないところを指摘していない。全く、片手落ちである。

・・・・・って、そんな事、指摘できるわきゃねぇよな!試験に参加した女性を全員品定めしてからなんて、出来るわきゃない。

結局、一見、完璧で公正な治験のようだが、よくよく突っ込めば、このような治療薬に対して公正な結果を得る為のプロトコルは作れないって証明に・・・・


お後が、よろしいようで。

2006年10月04日

ストレスは癌の血管新生を促進する

キター━━━━ (*゚∀) (∀゚*)━━━━━━!!!!!!!!!!!!

20061004_mona_kiss.jpg思いもよらない薬の、素晴らしい薬効が“発見”された。

もし、ヒトにも応用できるなら、かなぁ~り、画期的だ。副作用が出尽くしている所も、、、
(・∀・)イイ

(って、ちょっと、ふざけちゃったけど、真剣に狼狽しちゃったので、悟られないようにする為でした。)

でも、ふと、冷静になって考えてみると、後ろ向きコホートで、答えが出そうな気もするんだけど、誰か、やってないのかなぁ??

βブロッカーと Ca 拮抗薬とかその他の降圧剤を使った試験なんてゴロゴロしてるんだから、途中で“発がん”で脱落した例をカウントするだけでも、事足りそうな・・・。ってそんなに簡単じゃねぇ~か!!

というわけで、まずは読んで下され。(写真は滝川クリステルに記事を読ませるという“絵”にしたかったんですが、こっちの方が256倍面白いので、関係無いけど、使っちゃいました。ゴメン。)

ストレスは癌の血管新生を促進する

Nature Reviews Drug Discovery September, 2006

ストレスが癌に及ぼすと思われる影響については、盛んな議論が行われている。この2つの間のつながりに関する研究のほとんどが、ストレスは免疫応答を低下させて癌を引き起こすという抑制的な影響に注目しているのだが、今回、もっと直接的な関連が見つかった。

Thakerらはマウスの卵巣癌モデルで、ストレスホルモンが腫瘍の血管新生に影響を与え、それによって腫瘍の成長と転移が盛んになり、癌の進行が加速され得ることを実証し、Nature Medicineに報告している。

著者らはストレスと癌の間のつながりを調べるために、免疫系が働かない「ヌードマウス」をまず1週間ストレス条件下においた後に、腹膜腔にヒト卵巣癌系列細胞を注入した。ここでのストレスは物理的拘束によるもので、マウスを周期的に運動できないようにする。この処置により、視床下部-下垂体-副腎系および交感神経系の活動が高レベルになるが、これは慢性的ストレスの特徴である。癌細胞を注入して2週間後、腫瘍の悪性度にはストレスの有無によって大きなちがいが生じた。ストレス下にあるマウスでは、腫瘍結節の数や腫瘍重量増加が「ストレスのない」マウスの2から3倍だったのである。さらに、対照マウスでは腫瘍は腹膜腔だけに限られていたのに対し、ストレス下に置かれたマウスの50%で腫瘍は肝臓や脾臓に広がっていた。卵巣癌細胞の異なる細胞系列や、同位性乳癌モデルを用いて行った同様の実験から、このようなストレスの影響が多様な腫瘍細胞系列ではっきりと認められることがわかった。

分子レベルでは、この影響は、ストレス誘導性の組織カテコールアミンによって活性化される腫瘍細胞β2アドレナリン受容体によって伝達されることがわかった。この受容体は卵巣癌細胞系列のほとんどで過剰発現されている。ストレスの影響はβ2アドレナリン受容体拮抗薬によって模倣することができ、β遮断薬であるプロパノロールで阻害された。β2アドレナリン受容体を持たない卵巣癌細胞系列変異体と、β2アドレナリン受容体を低分子干渉RNAでノックダウンした腫瘍細胞は、ストレスの影響に「免疫性」が見られ、この受容体が中心的な重要性を持つことがさらに確認された。β2アドレナリン受容体の下流では、カテコールアミン作動性刺激が、サイクリックAMPプロテインキナーゼA依存性経路を介して血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を誘導することがわかった。その結果VEGFの濃度が上昇し、腫瘍の血管形成が増進した。卵巣癌細胞はこの仕組みにより自身への血液供給を増強しているらしい。

免疫機能、神経化学的機能および内分泌機能へのストレスの影響はよく知られているが、今回の研究は、神経内分泌ストレス応答が腫瘍細胞のホルモン受容体を介して悪性組織の増殖と活性にも直接影響することを明らかにした最初の報告である。もし、この機構がヒトでも確認されれば、卵巣癌やおそらくは他の種類の癌、特にβ遮断薬が安全かつ容易に使える癌の管理に大いに関係してくると思われる。著者らは他の内分泌シグナル伝達経路もまた、環境次第で腫瘍細胞の生物学的性質に影響を与えるだろうと考えており、神経内分泌機能を標的としたCNSレベルでの治療的介入が、悪性疾患の進行に対するストレスの有害な影響から患者を守る新しい戦略となるだろうとしている。

血管新生を促す生理物質を探索し、その阻害剤を・・・なんて躍起になっていたにもかかわらず、臨床的な効果はさっぱりだった血管新生阻害剤は、もしかして、この流れに収束しちゃうの??って感じ??

だって、こっちだったら、高血圧の診断が付けば、いくらでも投与できるし、忍容性は悪かろう筈も無いしで、βブロッカーで駄目なら、他にすりゃ良いだけだし・・・・ってね。

まぁ、主流にはならないにしても、強力な助っ人には成り得るよね。もしかしたら、後10年もしたら、解熱鎮痛剤だったアスピリンが、抗血小板剤として認識されるように、βブロッカーといえば、薬価の安い“血管新生阻害剤(補助剤)”としての地位を確立しているかも!!

期待しよう!!


ついでだから、もう一本、紹介しておこう。

新しい抗うつ薬の強力な標的

Nature Reviews Neuroscience September, 2006

Nature Neuroscience誌9月号に掲載される研究によると、TREK1とよばれるカリウムチャネルは、抗うつ薬の新しい標的となる可能性がある。通常よく用いる抗うつ薬の標的は、神経伝達物質セロトニン量の上昇によりはたらくと考えられているが、TREK1チャネルは、脳のこれとは異なるシグナル伝達経路を通じて作用するのかもしれない。

 Michel Lazdunskiと共同研究者らはTREK1チャネルの遺伝子を欠損しているマウスで研究した。このチャネルは通常、神経細胞の静止膜電位を設定する背景電流にかかわっている。

うつ病のモデルに使われるいろいろな行動テストでは、対象マウスは抗うつ薬処置を受けたかのように行動した。それに加えて、セロトニン作動性の活性増加も示し、おだやかなストレスに応答するストレスホルモンのコルチコステロンの分泌量が健常マウスが示すよりも多くなかった。

さらに、Lazdunskiらは、TREK1チャネルは通常の抗うつ薬により直接阻害されることも報告している。

 TREK1の遺伝子を欠損するマウスが抗うつ薬の投与を受けたように振る舞うという今回の発見は、カリウムチャネルの“遮断薬”となる低分子物質が治療に効果がある可能性を示唆している。

 TREK1がセロトニンによらない経路を通じて抗うつ効果を示すことが明確になれば、将来のTREK1チャネルをねらった治療が通常の抗うつ薬よりも速効性で副作用が少ない可能性が考えられる。

K チャネルといえば、それこそ、細胞の1個1個にあるわけだから、よくよく、そのサブタイプの特異性を見極めないと、マウスじゃ良かったけど、ヒトじゃ・・・って。

しかし、新世代の SSRI や SNRI が自殺との関係を取沙汰されている昨今、違った抗うつ剤の開発は必要だし、脳機能の解明のツールとしても役立ちそうで、こっちも、期待出来そうな研究である。

まぁ、その前に、『既存の抗うつ薬の“作用機序の一つ”が解明された』って事でも良いとは思うんだけどね。この研究の評価は。(自分で実験しないで、評価だけしている私は、お気楽です。ハイ。)

2006年10月13日

浅尾慶一郎の質疑に見る民主党員の BDNF の SNP

20061013_mangekyo.jpg民主党は、モナーは論外として、先の田中眞紀子氏に質疑の時間を与えたり、今回の浅尾慶一郎氏の質疑の内容を見てもわかる通り、まったく、政権を取るに値しない事が確定したので、解散を命ずる。

浅尾慶一郎氏の“暴走”だったとしたら、こいつは“クビ”にしなきゃならない。もっとも、11日にも森裕子氏が週刊誌ネタで質問している事から、党是(民主党の国対の考え?)と考えるのが無理が無い。


こんな下らない低次元な内容を質問する為に、私は税金を払っているんじゃない。


安倍首相も、そもそも、こんな質問に答えなくても良さそうなものだし、自分への批判ほど大切な意見は無いんだから、積極的に読まなきゃ駄目だ。批判から目を背ける総理とかのネタにされちゃうyo。安倍首相って、釣られやすいんだよねぇ。これが、私が、最も心配している所でもある。麻生さんなら、こんな質問に“釣られ”ないんだけどねぇ!

こんな質問は、どっちに答えても、安倍総理のメリットはない。足を引っ張る(日本の事なんか最初から考えてない)事しか考えていない、ハナクソのような野党のずる賢い連中が、考えた質問なんだから、真っ向勝負はしちゃいけないんだよ。

ローマ人、いや、ローマの時代の名将ベスト4だって、真っ向勝負なんて数えるほどで、勝負をかわす事には、なんのためらいも無かったんだから、恥ずかしい事じゃない。

安倍総理には、何がなんでも、憲法第9条改正と教育改革を実現して欲しいのだから。

安倍首相「私を中傷する週刊誌は読まない」

読売新聞 2006年10月12日(木)23:32

 「私の誹謗(ひぼう)中傷を含む週刊誌の記事はあまたある。そういう週刊誌を読むつもりはない」――安倍首相は12日の参院予算委員会で、こう語った。
 民主党の浅尾慶一郎氏の質問に答えたもので、首相は「私は日本のためにすべての時間を割いていきたい」と強調。また、こうした週刊誌を名誉棄損で訴える意思があるかどうかとの質問には「歴代首相の中で、週刊誌の記事をいちいち取り上げて訴訟を起こした人はいないと思う」と述べた。11日の同委で、民主党の森裕子氏が首相を批判する週刊誌の内容をそのまま引用する形で質問したことに、首相は一時声を荒らげたが、この日は冷静に受け流していた。


閑話休題

さて、Science 誌 October 6, 2006, Vol.314 に非常に興味深い論文が掲載されている。

不安なマウスと不安な人間(Anxious Mice and Men)

Science October 6, 2006, Vol.314

抑うつ症や不安障害に寄与する遺伝子は未だに知られていないが、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子に最近発見された一塩基変異多型(【略】SNP)Val66Metが、ヒト集団によくある気分障害や不安障害に関係しているかもしれない。

Chenたちは、BDNF Met/Metバージョンを発現するトランスジェニックマウスに、ヒトで記述されていたのと同様の脳の解剖学的変化と記憶の変化があると報告している(p. 140)。

この対立形質の変異体はまた、ヒトにおける不安に関する表現型の特徴を再現するが、これら変異マウスは一般的に広く使われている抗うつ薬には応答しなかった。


“不安”という精神状態は、“出来事”に対する人のリアクションに非常に大きな影響を与える。

核弾頭を搭載したミサイルが、実際に日本人の多く住む何処かの都市に着弾し10万単位の人が死んだら、間違いなく、日本人全員が不安を感じるのだろうけど、現段階では、感じ方に“温度差”があるのは仕方の無い事なのだろう。

事実、韓国盧大統領は北朝鮮の核実験を「こんな小さな問題」と感じているし(政治的なブラフだとは思うけど、本心かもしれない)、日本の社民党・共産党は、先ずはじめに“日本の核武装”を心配している。(これも、政治的な演出だとは思うが、本心かもしれない)


アメリカからは、『日本はアメリカの核の庇護の下で、安心して寝ていられる』と軽く見られ、ブッシュは『極東の事は自分達でやれ!』と軍事力での介入はする気が無いらしい。ハワイ島においては迎撃態勢は完了したが、沖縄の米軍基地を守る為の配備が・・・沖縄の人垣に阻まれて・・・・。もし、日本人の為に血を流してくれるのなら、日本海側に配備する必要があるのは、戦略の素人だってわかる。

アメリカの若者が、自分達で何もする気も無い日本人の為に、自らの命を懸けてくれるだろうか?ふつうは、『嫌だ』って言うわな!ブッシュだって、イラクでアメリカの若い命が沢山犠牲になって、アメリカ国民から『なんで、アメリカが犠牲に?』との疑問を突き付けられているんだから、いくら小泉さんとの約束だったとしても、日米安保はお座なり、いや、なおざりにするのは当然と言える。


という状況下で、まず、『日本の核武装阻止』を決めちゃうのは、順番が違うと思うわけだ。

でも、これも、(BDNF)遺伝子に発見された一塩基変異多型(SNP)、すなわち、BDNF の66番目のバリンがメチオニンに置き換わっている人では、そうは感じないという・・・・、事かもしれない。(ヒトとマウスでは、遺伝子の役割も違っている事はあるし、マウスでの結果がヒトに当てはまらないとしても、リアクションの違い位はあるだろうとの素人考えによっているわけだが・・・。)

私の遺伝子型が、Val か Met のどちらなのかはわからないが、私の“脳”は『先ず、日本人の安全を最優先する。核兵器なんて持たない方が良いに決まっているけど、最悪の事態を迎えそうなら、核武装もやむなし』との結論に導かれる“発火”をするみたいだ。そして、目的(日本国民の安全)の為の手段に“足枷”にならないように憲法を変えたいと。

(この BDNF だけで、考え方が決まるわけじゃないので、くれぐれも誤解なきよう!)

『話せば、わかる!』なんて考えている人は、遺伝子の SNP なんて想像も付かないんだろうなぁ!だから、【人間は皆同じ思考回路を持っている】という事を前提としているとしか考えられない結論に行き着く。人間なんて色々な考え方をするんだよ!北朝鮮のチリチリパーマの考えがわかんないのは当然!多様性がなかったら、ホモ・サピエンスとしての遺伝子を後世に残せないし、多様性があったからこそ、現在、地球上にヒトが生きているんだからね。

それに、言葉のコミュニケーションが万能だと思わない方が良い。言葉はコミュニケーションの一部だ。言葉を持たない生物は、ボティランゲージ、人間の言葉で言えば“暴力”“武力”でコミュニケーションしている。チリチリパーマに言葉で通じなければ、体で理解してもらう。地球上の生き物だから、当然だ。

これも、私の遺伝子型が“発火”させている(笑)。

2006年10月17日

スタチン類は癌のリスクを低下させない

20061017_image3.jpgさてさて、性懲りも無く、またこの話題だ。スタチン系のコレステロール低下作用には全く興味が無い私は、スタチン系のこれには興味がある。

いわゆる、化学発癌予防薬としての効果だ。

以前、ここの clone(マリンンパの雑感)『スタチンのガン予防効果の新機序?』で、 sionoiri 氏とコメンントのやり取りが出来て、大変実りのあるエントリーネタだったわけだが、また、今度もネタになるのだろうか??

結局、がん化の定義の問題もあるし、何を以って“発がん抑制”とするのかにも因るんだけど、がん化の瞬間(こんな表現あるのか?)ミクロな一部分をみれば“抑制的”に見える事もあるし、また逆もあり、がんの発育の環境と言った面からでも、一面だけを捉えれば、促進にも抑制にも見える。また、癌化した細胞のもとの臓器によっても、それは結果が違うと。


---なんだか、“戦争”の評価に似ているなぁ---


そうなのだ、小さな宇宙とも表現される“人体”、この中での出来事は、地球上で各国の外交や戦争や平和にも似た、一言では、とても表現できないもののように感じてしまう。

トータルとして、平和になるか戦争になるか?戦争が起きたとしても、局所では“悲しみ”“恨み”が発生しても、大きな目で見れば、、、太平洋戦争のように、あるいは満州国設立のように、一言では表現できない事なのだろう。ラストエンペラー溥儀は何を思っていたのだろう?(溥儀にしかワカンナイから、考えても無駄。後世の人間が分析して熱く語るのだけは、カンベンなっ!って感じ?)日本がこのまま、腐って自滅していくのを食い止めるのは、もしかしたら、政治じゃなく、北朝鮮のミサイルが着弾する事かもyo!(おっと脱線)


ひとつひとつのミクロな積み重ねで、大きなモノが見えてくるのか?

それすら、まだ、答えは出ていないのだろう。

でも、スタチンが結果として“がん”のリスクを低下させないって、メタアナリシスで答えが出るのか?

他に方法が無い現在、これに頼るしかないんだけど、個別に適用出来ないデータで、臨床的に何が言えるのだろう?NNT が 117 のコレステロール低下治療のようにね。

その人にとっては、オール or ナッシングなわけなんだから、『%』で言われてもねぇ!


というわけで、ご覧ください。

スタチン類は癌のリスクを低下させないという、新たなメタアナリシス結果

提供:Medscape

今までで最大規模のメタアナリシスが行われ、以前の結果と同様に、スタチン類は癌リスクを低下させないという結論が出た。ただし、癌リスクの低下を示す疫学研究も複数存在する。

Zosia Chustecka
Medscape Medical News


【10月11日】スタチン類と癌リスクに関する今までで最大規模のメタアナリシスが行われ、癌リスクは低下せず、スタチン類には予防効果がないことが結論づけられた。

『Journal of Clinical Oncology』9月25日号に発表されたこの最新のメタアナリシスは、アテネ大学(ギリシャ)のStefanos Bonovas, MDらが実施した。35のランダム化臨床試験の対象になった109,143例の患者のデータに基づいており、「同種のメタアナリシスの中ではもっとも規模が大きく、包括的なものである」と論説記事で述べられている。

癌リスクに対してスタチン類に予防効果がないという結論は、2006年初めに『Journal of the American Medical Association』に発表された大規模メタアナリシスのひとつ(Dale KM et al. JAMA. 2006;295:74-80)を含む、他のメタアナリシスすべてにおいて一致するものである。すべての報告において、関連性は否定されている、と論説委員は記している。

これとは反対に、全ての癌や局所癌の発症においてスタチン類が癌リスクの低下に効果があるという結論を導いた疫学研究が複数あることもこの論説記事で指摘されている。これら研究のひとつとして2005年の『New England Journal of Medicine』に発表された研究(Poynter JN et al. N Engl J Med. 2005;352:2184-2192)は、多くの関心を集めた。この研究はイスラエルの症例対象研究にもとづいたもので、結腸直腸癌のリスクが47%減少したとしている。

しかしながらその他の疫学研究ではスタチン類には癌リスクへの予防効果が見つからず、ごく少数とはいえ、むしろ癌リスクが増加したとする研究も存在することを、論説委員であるウィスコンシン・マディソン大学のKyungmann Kim, MDが指摘している。

「現段階で引き出すことができる唯一の結論は、スタチンの使用と癌リスクとの間の関連性は、(1)良くても決定的に確証されておらず、(2)悪ければまったく効果がないということも考えられる」とKim博士は記している。

事態はもう後戻りできないのか?

「この知見が臨床医に与える影響はどのようなものだろうか?」とKim博士は問いかけている。スタチン類を多発性骨髄腫と転移性大腸癌に対する治療として、また乳癌と大腸新生物に対する予防的化学療法(さらに神経形成異常に対する臨床試験が開始される予定)として使用した場合を研究する早期段階臨床試験がすでに複数開始されている、と同博士は指摘している。

「もし、万が一、これらの研究によって信頼性のある予備データが得られた場合、この矛盾を解決する明確で単純な方法は確定的なランダム化対照比較試験を実施することである」。しかし、確定的ランダム化試験を実施できる期間はそう長くは続かない。この薬剤の使用が急速に広まって適格な患者群を見つけることが困難となり、データの夾雑の問題が出てくるためである。「事態は、もう後戻りできない状況になっている」と同博士は述べている。


J Clin Oncol. Published online September 25, 2006.

Medscape Medical News 2006. (C) 2006 Medscape

ところで、とあるブログで『閑話休題』の使い方を“コメント欄”で指摘されていた人がいた。『話の内容からすると、間違ってない?』って。

私が誰かのエッセイか何かで始めてこの単語を目にした時、まったく意味が解らなかったので、辞書を引いた事があった。で、余談モードを抜けて、本筋に戻すって意味だって知ったんだけど、ブログを書くようになって、タマに、くだらない内容の方が、実は書きたかったりした場合、敢えて“余談”に見える方を『閑話休題』して書き進める事があるんだけど、こういう使い方は、間違っているのだろうか??

スタチン系の発がん抑制を書いている時に、戦争責任の話に“余談”して、スタチン系の本題に復帰する時に『閑話休題』で抜けるのが正しいとは思うんだけど、書いてて【燃える】のは、実は戦争責任だったりする場合は、どうなるのだろう?

タイトルもスタチン系だし、引用もスタチン系だしという事で、どんなに主張したい事が戦争責任だったとしても、『閑話休題』で戻るのはスタチン系が正しいのだろうか?

そうすると、AAAと話しが続いて“余談”が挟まり、閑話休題、AAAが正しい使用法なのか?

AAAを枕にして閑話休題、本題って流れでは、誤用なのだろうか??

いや、人の振りして我が振り直せって奴です。ハイ。スタチン系とは何の関係ないっス!
 
 
 
閑話休題

化学発癌予防って、実は、週刊【医学のあゆみ】で特集されていた事があった。(Vol.204 No.1 2003.1.4~)この時は、スタチンだけじゃなくって、酪酸、ビタミンD、カロチノイド、NSAIDs、ビタミンC、ビタミンE、グルタチオン、SOD、ホリフェノール、植物性素材、果実成分、フラボノイド、アントシアニン、カルコン、クルクミン、ニンニク、イソチオシアネート、葉酸、ビタミンB12、食物繊維にラクトフェリンなどに、理屈をくっ付けて、発がん抑制効果を示していた。

ふむふむ、こういう“見方”もあるのかぁ!と感慨深かった。

臨床的に“効果がある、無い”は大切なんだけど、細かい部分の(屁?)理屈を知るのも、なかなか、面白いものなのだ。

そう、歴史の解釈に似ている。。。。2000年前のヨーロッパが解るのは、カエサルとキケロの書き残したものがあるからだといわれているように。これだって、たった二人の記述なんだから、本当か?って言われれば、それまでだ。二人が創作作家だったりする可能性だってあるわけなんだからね。

でも、面白いものは面白い。

2006年10月20日

PD様の脳障害にニコチンが保護効果

20061020_tabacoimage.jpgまずは、これを読んでみて下され。

PD様の脳障害にニコチンが保護効果

動物実験でリスクが25%低下

〔ニューヨーク〕 独立非営利研究組織であるパーキンソン病研究所(カリフォルニア州サニーベール)のMaryka Quik氏らが行った5年に及ぶ新研究によると、ニコチンはパーキンソン病(PD)で生じるのと同じタイプの脳障害に対して保護効果があるという。この研究はPDに特徴的な脳機能の漸進的な低下を引き起こすMPTP(1-methyl-4-phenyl-1、2、3、6-tetrahydropyridine)で処理された実験動物で施行され、Journal of Neurochemistry(2006: オンライン版)に発表された。6か月にわたりニコチンを投与された動物は、ニコチンを投与されなかった動物に比べMPTPによる傷害が25%少なかった。


細胞の生存を促進

 ニコチンの脳保護効果は、PDの発病率が喫煙者で低いことを説明するとともに、早期PD患者の治療にニコチンが有効かもしれないことを示唆している。

 PDは進行性の神経変性疾患で、中脳の小さな細胞群の死により引き起こされる。これらの細胞の漸進的減少により、正常な身体活動に必要な化学的メッセンジャーであるドパミンが減少する。

 この研究を助成した米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)のDavid A. Schwartz所長は「人々に喫煙を勧めようとは思わないが、この結果は明らかなPD症状のない動物におけるドパミン産生細胞の生存をニコチンが促進することを示唆している。また、PDの進行を減速させるためのニコチン使用も考えられる」と述べている。

 研究者らは、これらの知見に基づいてたばこの煙のどのような成分がこの効果を引き起こすのか考察した。筆頭研究者のQuik氏は「われわれはニコチンに注意を集中している。なぜなら、研究の結果ではPDにかかわる脳領域のドパミン放出をニコチンが刺激するからである」としている。

 この理論を試験するため、同氏らはドパミン産生脳細胞を選択的に破壊するMPTPを用いて実験動物を処置した。半数の動物には低用量のニコチンを 6 か月間併用投与した。この間、ニコチン用量は、たばこの煙に含まれるレベルにまで徐々に引き上げた。


成長因子の放出を刺激か

 試験の結果、MPTPのみを投与された動物はドパミン含有脳細胞機能の75%を喪失したのに対して、MPTPとニコチンを併用投与された動物では50%にとどまった。Quik氏は「この結果が示すように、ニコチン治療は細胞損傷を25%軽減した」と述べている。

 この効果に関する直接の説明はできないが、研究者らは神経細胞の成長と修復に決定的役割を果たす内因性蛋白質である成長因子の放出をニコチンが刺激するためと考えている。さらに、同氏は「ニコチンはMPTPで誘発される損傷から細胞を保護する免疫系を活性化させることも考えられる。PDの症状は線条体終末におけるドパミンが80~90%欠落したときにようやく発症する。つまり神経終末の損傷が80%か60%かの違いは、発症するかしないかの違いになるかもしれない」としている。

 現在可能なPD治療は、日々の症状の軽減に限られているが、疾患の進行を遅らせ、さらには予防するためにニコチンが用いられる日が来るかもしれない。同氏は「現在の対症療法では疾患の進行を止められない。症状は悪化し、管理がいっそう困難となる。神経保護により疾患の進行を止め、症状の悪化を防ぐ治療を受けられるようになるであろう」と付け加えている。


これを読んで『ふむふむ、タバコも“害”ばっかりじゃないんだぁ』って思った方、貴方が、もしアメリカ市民だったら、今度のアメリカ議会の中間選挙で、間違った選択(というより、情報操作の被害にあう)をさせられてしまうかも知れない。

20061020_Pierrot_LE_FOU.jpgこの研究では、喫煙者の特徴、喫煙者の性癖は疾患の発病率と関係が無いかのような前提で考察を進めているが、IQや職業別の喫煙率を見る研究から、IQの低い層ほど、また、知的レベルの低い職業ほど喫煙率が高いという調査結果と、『瘋癲の寅さん』でも触れたけど、高学歴=勉強好き=「例えば、ドパミンが長期に不足していると、パーティーに参加するよりも、机に向かって勉強する事を好むようになるかもしれない」のように、知的レベルの高い職業に就く人が、もともとドパミンが少ないって言う遺伝学的な個性があった為の結果だとすると、『喫煙者にパーキンソン病が少ない』理由が『煙草中のニコチンのおかげ』といっていいのかどうか、わからない訳だ。

快楽に溺れない人=喫煙癖があっても禁煙が簡単にできる人は、もともと脳内ドパミンレベルが低いだけなのかもしれない。ドパミンが不足する事がパーキンソン病の原因なんだから、それだけ発症するリスクが高いわけだ。

IQ が低い原因は脳内ドパミンレベルの影響だけじゃないのは明らかだが、パーキンソン病の生涯発症リスクは2%、医師を含む高等な教育を受けたグループは4%で、教育レベルが低い労働者では1%というデータは、これを裏付けている。

喫煙のご利益を云々するためには、“ドパミンが少ないって言う遺伝学的な個性”というバイアスを取り除いた臨床試験をしなくっちゃならない。

また、禁煙が何度も挫折する人は、『自分の意志が弱い』などと、自己嫌悪に陥る事は無い。何故なら、そういう“脳”を持っているからだ。この喫煙を止められない“脳”はパーキンソン病に対しては“強い”んだから、禁煙できない事を自慢して良い。(本当か??)
 
 
 
科学という分野は、仮説を裏付けるデータと共に提供されると、科学とは縁遠い人にとっては、あっけなく信用させる事が出来る分野だと言える。

そして、科学とは縁遠い人の方が数の上では“マジョリティ”なので、この人達の間に形成される“コンセンサス”が“世論”となり、すなわち、万人に『わかった気分』にさせる事になるのである。なんの理由もなく『わかった気分』にひたっているだけなら“実害”はないが、データの提供の方法一つで、色々な印象を植え付ける事が出来る“ネタ”にもなり得るわけだ。上の『喫煙がパーキンソン病に良い』というようにね。

そういう意味で、米議会中間選挙を見てみると、違った面が見えてくると思う。

米議会中間選挙での科学という切り札

Nature October 19, 2006

11月の米議会中間選挙は大きな山場である。民主党が過半数を占めるためには、上院で6議席、下院で15議席を勝ち取る必要があり、ジョージ・W・ブッシュ大統領にとっては、残る任期の間に勢いを盛り返すか、死に体となって何もできずに交代を待つだけかという大きな違いになる。

激しい選挙戦では、民主党も共和党も取って付けたように科学の問題を取り上げて、有権者を動かそうとすることがある。胚性幹細胞研究に対する大統領の最近の拒否権発動は、共和党、民主党のどちらにとっても、自党と他党の候補者の違いを際立たせるよい材料となった。3つの州では、候補者が気候変動、幹細胞、それに(カリフォルニア州ではお決まりといえる)クリーンエネルギーなどの「科学的問題」を主な争点として現職に挑んでいる。

今週のNews Feature特集では、選挙戦で科学がどのような役割を演じているかに注目する。


このように、アメリカ議会の選挙において、アメリカ市民は“科学”という“解ったような解んないような”問題で振り回されている訳だが、実は、日本の我々には、そんな事はどうでも良くって(ホントは良くないけど、当面はどうでも良い)、この選挙において“北朝鮮の核開発”が全く取り上げられていない事に、注意を向けなきゃならないのでは?と思うわけだ。アメリカ市民にとっては、単に極東の問題で『そんな事、私達の生活と何か関係があるのか?』という感覚なのだろう。

当然の事である。

米国大統領は“世界の警察”を自負するアメリカの面目を保つ為にも、極東には介入したい所だろうが、“現場にソッポを向かれ”ちゃ、元も子もない。(大統領が共和党で議会が民主党なんて事になったら、いつぞやの青島幸男都知事状態だし、)事実、アメリカ市民、アメリカ軍に所属する第一線の兵士達、及び、その兵士達の家族にとってみれば、自分達に直接降りかかる脅威(北の核がテロに回った事が事実となれば動くのだろうが)でもない事で、アメリカの若い命が犠牲になる事に、耐えられなくなってきている。(イラク戦争の後遺症)

日本は、もしかしたらリップサービスになってしまうかもしれない“アメリカの核の傘”を本当に信用していて良いのだろうか?もし、北が暴発して、米軍が動いてくれなきゃならなくなった時、アメリカ市民の極東派遣にコンセンサスが得られるのだろうか??


先日、安倍首相と民主党小沢代表との党首討論があったわけだが、自民党の提案をことごとく反対するしか能が無く、代案を出す訳でもない小沢=バカヤロウ=一郎は、さっさと政治家そのものを辞めた方が良い。社民党や共産党は、党の維持に独自の資金ルートを持っているんだから、存在しても構わないが、民主党だけは、存在する“意味”も“意義”も無い。

自分の事(安全)は、自分でやる(守る)のが、当たり前の事だと思うのだが、どうも、日本にいる視野の狭い人達=科学で騙され易い人達は、自分の安全は人に任せておけるものだと思っているらしい。その根拠は、いつも私には理解不可能だが。


ところで、こういった、市民が選択を迫られた時に、どのように行動するのか?を研究する学問領域が興りつつある。学問の垣根を横断するような学問である。

神経経済学。

神経と経済って繋がるのかよっ?

人の言葉を借りれば、『神経経済学とは、大ざっぱに言うと「選択の科学」である。つまり、神経科学、経済学、心理学からヒントを得て、人がどのようにして物事を選択するのかを分析する学問だ。神経経済学は科学であるが、その信奉者たちは楽観的で「意思決定」に関する生物学的にも行動学的にも正確な一般理論に到達できると考えている。』だそうだ。

ヒトは何かしらの選択を迫られた時、意識するしないに関わらず、自分の“損得”を基準にするってことだろう。“経済学”とはいっても、結局“損得”だし、生きていくモチベーションも“損得”だし、自分の遺伝子をより多く残そうとする“本能”も“損得”によって行動の判断をしているのだろう。


非常に納得できる話である。

さて、色んな解釈が考えられる次の命題!貴方なら、どのように解釈しますか?

未婚者は早死リスクが大きい

〔ワシントン〕 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA、ロサンゼルス)のRobert M. Kaplan教授らは、結婚経験のない人は若くして死亡する可能性が高いとJournal of Epidemiology and Community Health(2006; 30: 760-765)に発表した。


結婚は社会と結び付ける役割

 Kaplan教授らは、1989~97年の米国の人口調査と死亡証明書データに基づき約 6 万7,000人の成人を対象に研究を行った。89年に、対象者の約 2 分の 1 が既婚、約10分の 1 が配偶者と死別しており、約12%は離婚, 3 %は別居、5 %は同棲しており, 5 人に 1 人は未婚であった。

 予想できることであるが、高齢と健康状態の悪さは1997年までの死亡の最も強い予測因子で、結婚を継続している群は長い寿命と強く結び付いていた。年齢、健康状態、その他の影響を与えそうな因子を考慮すると、89~97年に死亡する率が配偶者と死別した群では約40%、離婚または別居群では27%高かった。しかし、未婚群は89年の時点で配偶者と同居している既婚群と比べて、同期間に死亡する可能性が58%高かった。

 結婚歴のないことによる“不利益”は健康状態が非常に良好である群で大きく、健康状態が悪い群では小さかった。また女性よりも男性で大きかった。若年層では未婚群における最も多い死因は感染症か外的な要因であったが、中年層と高齢者層のおもな死因は心血管疾患または慢性疾患であった。

 未婚男性は未婚女性に比べ脆弱で、また19~44歳の未婚男性群は同年代の既婚男性群と比べて死亡する確率が 2 倍であった。

 リスクのある習慣の差ではこの違いを説明することはできず、未婚群は既婚群に比べわずかに喫煙率が高く、規則的に飲酒している率が少なく、さらに運動量はわずかに多く、太りすぎは少なかった。

 同教授らは「結婚は社会的つながりのおおまかな代用物である。未婚であることは、より重度の孤独と関連するのかもしれない」と述べている。

2006年10月23日

2型糖尿病に低脂肪完全菜食療法

20061023_food.jpg本来なら、私の【お仕事ブログ】の方に書くような内容なんだけど、最近の経緯上、さにらは、臨床の第一線の方が一番苦労するであろう事に対して、簡単に『食べなきゃ良い』なんて言い放つ無神経さに自戒を込める意味でも、コチラに書くことにする。(一言、『日本の現状では無理なのはわかっているけれど』と添えることを忘れないようにする為に。もし、忘れていたら指摘していただきたい。)


この報告では、紹介する解説にもあるように『完全菜食療法はカロリー、炭水化物、食事量が制限されないという点で、ADA食事療法と大きく異なっている。』

じゃ、完全菜食療法にカロリーを減らした療法を施せば、もっと効果が上がるんじゃないの?たった22週間で、半分の患者の治療薬が「完全菜食療法ではより大幅に削減された」んだから、もっと、強力な内容にすりゃ・・・・・って考えない?

でも、そんなことしたら、22週間も持続できない、っていうか、絶対、被験者は脱落するよな!!私が被験者だったとしても、『何時まで、こんな食事をさせてんだよ!マクドナルドのチーズバーガー食わせろよ!牛ステーキだってたらふく食いたいぞ。こんちくしょう』って。

妻に言わせると『まったく、味音痴!食べられれば何でもいいんだから!』の私には、ある程度耐えられても、お腹が空いただけで人格まで豹変し(ゴメン)、全てにイライラする妻には、1週間も持続出来ないだろな(二人とも糖尿病じゃありませんけど)、完全菜食療法にカロリーを減らした療法なんて。人それぞれ閾値は違っても、遅かれ早かれ脱落は目に見えている。(尤も、マウスではカロリー制限で寿命が2倍なんてデータもあるから、こちらをニンジンとして鼻先にぶら下げれば、少しは、持続するかもしれない?)

結局、糖尿病の治療は、誰の為でもなく自分の為だってのは他でもない患者自身が一番解っている事だ。でも、日本での食環境の現状を考えれば、友達と一緒に食事に行っても、本日の摂取カロリーを計算しつつ“サラダ・バー”しか食べられない自分が、悲しくなっても不思議ではない。

話はいきなり飛ぶが、約3年前まで喫煙していた私は、禁煙を実行するに当たり、お酒を飲みにいったら自分だけ“我慢”している事が阿保らしく、そして惨め(副流煙を浴びつづけ)に思えてしまい『別にいいや、煙草くらい吸ったって』っと考えるだろうなって思ったので、お酒を呑みに行くのも約1年間断りつづけた。

こういう、誘惑っていうか、そういう状態に身を置きながら、生物の本能である“食欲”や“嗜好品”を抑制する事って、Ambivalence な状態に陥るよなぁ!“食欲”を抑制するネガティブフィードバックって、ほとんど機能してないみたいだし(痩せ薬がほとんど全滅)、生物にとってみれば、こんな機能が暴走(遺伝子が変異)しちゃったら、死んじゃう訳だから、強く機能する遺伝子が存在するわきゃ無いしね。(痛覚の無い人の早死にと同じだ)

友達と食事に行かない!お酒を呑みに行かない!をかたくなに守り続けられれば、楽だし、悪さをして刑務所に入ったり、アフガニスタンやチベット自治区に放浪の(命の危険を顧みず)旅をする、或はインドに修行に行くとかすれば、知らず知らずに糖尿病は良くなっちゃう・・・・ってか。でも、全く現実的じゃないよな。

だから、極一般的な(病状の事ではない)患者が食事管理を続けられるギリギリの処方箋なんだろうね。これって。(結果は話半分って事は、わかってるけど・・・・、まぁ、これは当然のこととして、次回以降では敢えて断らないけど、今回だけは断っておく。)


ところで、煙草だけど、今はお酒の席で周りで喫煙されてもまったく吸いたくならないし、意識しなくなっている。でも夢では吸っちゃうんだよなぁ、そして、夢で自己嫌悪して・・・、なんかあるのかな?深層心理に。

ADA推奨の食事療法よりも大きな効果

〔ニューヨーク〕 ジョージワシントン大学(ワシントン)内科学のNeal D. Barnard准教授らは「米国糖尿病学会(ADA)が推奨している現行の標準的な食事療法に比べて、低脂肪の完全菜食療法が2型糖尿病患者の標準的な検査値をより効果的に改善させた」とDiabetes Care(2006; 29: 1777-1783)に発表した。


薬剤投与量が大幅に減少

 研究責任者のBarnard准教授によると、完全菜食療法を行った被験者(49例)とADAの食事指針に従った被験者(50例)のいずれにおいても薬剤投与量は減少したが、特に完全菜食療法ではより大幅に削減された。また、完全菜食療法群では、コレステロール値低下、腎機能、血糖と体重のコントロールに関する改善度においてADA食事療法群よりも統計学的に有意な優位性が示された。

 同准教授は「22週後に完全菜食療法群の21例(43%)で糖尿病治療薬の投与量を減少させることができたのに対し、ADA食事療法群では13例(26%)であった」と述べている。

 一定期間、糖尿病が良好に管理されているかどうかを示すHbA1c値も全例で評価した結果、完全菜食療法群では同値が0.96%減少したのに対し、ADA食事療法群では0.56%の減少にとどまった。

 総体重の減少は完全菜食療法群で6.5kg、ADA食事療法群で3.0 kg、また、LDLコレステロール(LDL-C)の低下は完全菜食療法群では21.2%、ADA食事療法群では10.7%にとどまった。

 同准教授は「腎および肝疾患の指標である尿中アルブミン値の改善度も、完全菜食療法群(15.9mg/日)はADA食事療法群(10.9mg/日)より優れていた」と指摘している。


脂肪摂取量を10%以下に調整

 完全菜食療法はカロリー、炭水化物、食事量が制限されないという点で、ADA食事療法と大きく異なっている。

 Barnard准教授は「完全菜食療法は著しく効果的であると思われる。いずれの食事療法も 2 型糖尿病患者の血糖管理と脂質コントロールを改善させたが、低脂肪の完全菜食療法でより大幅な改善が見られた」と述べている。体重減少やLDL-C低下など肯定的な効果はいずれの食事療法でも見られたが、やはり完全菜食療法で大きかった。同准教授はこの研究結果から、2 型糖尿病のコントロールには薬剤の処方ではなく、食事内容の変更をまず試みるという方法に新たな関心が喚起されるよう願っている。

 今回の研究に採用された完全菜食療法は、信頼される医療のための医師委員会(ワシントン)の登録栄養士、Susan Levin氏が食物脂肪の総摂取量を10%以下となるように厳格に調整したもの。被験者の 1 年間のフォローアップを監督している同氏によると、今回の完全菜食療法が一般的な完全菜食と大きく異なる点の 1 つは、他の面では健康によい食品でも脂肪含有量が多ければ除去することであった。このような除去食品はアボカド、オリーブ油、クルミなどある種の木の実や種子であった。

 同氏は「食事に含まれる脂肪が多いと、細胞レベルでのブドウ糖代謝が阻害されるので、被験者の体細胞から脂肪をできる限り排除した」と述べている。


ビタミンB12を補給

 Levin氏は「食物脂肪の10%制限を達成するには、豆類は脂肪をほとんど含んでいないが、鶏肉は高脂肪の鶏皮を除いた赤身部分でも約25%に近い脂肪を含み、多くの肉類では脂肪分が50%も占めることなどに注意した」と説明。被験者は動物性食品の除去ならびに脂肪の10%制限に加えて、個々の食品に対する血糖の反応を測定する血糖上昇係数の上限を厳守するよう指示された。

 これは、完全菜食療法の被験者では白パンなど精白度の高い穀物を除去しなければならないことを示している。同氏によると、精白食品であってもある種のパスタ、白米、豆腐などは食事療法に取り入れてもよいが、やはり未精白の食品が望ましいという。精白糖とパイナップルやスイカなど糖度の高い果実も除去される。

 同氏は、完全菜食療法の被験者が食事にビタミンB12を補給したことを強調している。ビタミンB12はテンペ(大豆を煮て発酵させてから揚げて食べるインドネシアの食品)などの例はあるが、植物から摂取することが困難である。同氏は「容易に服用できる市販の総合ビタミン剤の含有量で十分である」と述べている。


ところで、ビタミン B12 と脂質代謝って、盲点だよなぁ。そりゃ、教科書を開けば『脂肪・炭水化物の代謝、蛋白合成、赤血球産生の補酵素として働く。欠乏すると大赤血球性貧血や固有受容ならびに振動覚の喪失という神経学的異常を起こす。摂取に上限無し。』とは書いてあるけど、脂質代謝改善ビタミンっていやー、B2 かパントテン酸くらいしか、すっと思い浮かばない。

ふーーん、ビタミン B12 ね。禁煙してから体重が5キロも増えて、トリグリが150を越えちゃって、脂肪肝を指摘されている私は、自分の体で、B12 を試してみよぉ~って・・・・思ったら、そう言えば、別の目的で(L5-S1 ヘルニアによる神経痛)で、毎日 1000μg摂取してたんだっけ。

これ、飲んでるから、この程度の肝障害ですんでるのか、はたまた、まったく効いていないのか??

止めてみればイイジャンって?

なんか、癖になってるので、止めると神経痛がぶり返しそうでコワイ・・・。

それとも、B12 がメチル基供与体となってどこかの遺伝子をメチル化しちゃって、その発現が抑制されたり・・・・ってことはあるのか?脂質代謝に影響する経路の中に??とすると糖尿病を発症し易い体質のヒトでは、B12 の効き目が顕著になる?だとしたら、メチル化された遺伝子を釣り上げれば良い?そんなこと、出来るのか??

B12 投与前と投与後の遺伝子のメチル化状態を調べるには、ターゲットが解らないんだから先ずは俯瞰的に RLGS 法で目星をつけて、って事になるんだろうけど、誰かやってるんだろうか?Neal D. Barnard准教授