プロフィールにもある通り、禁煙して2年半以上を経過した。
もう、吸いたい気持ちは全く無い。
これは誠に歓迎すべき事なのだが、困った事に、増えた体重が元に戻らない。
当然の帰結として、健康診断の検査値が“多め”になってきた。
当然の帰結として、『脂肪細胞、アジポサイトカイン、インスリン抵抗性』などのキーワードが以前より気になる。
Nature Vol. 436 (337-338) /21 July 2005
AはアディポカインのA
A is for adipokine
アディポカイン類は脂肪組織の質量とエネルギー状態の変化を伝達するシグナルとして働くホルモンで、体の燃料の使い方を調節している。脂肪組織由来のアディポカインでビタミンAに結合するものが、肥満とインスリン抵抗性を結びつけていることが今回解明された。
肥満の世界的蔓延にともなって、糖尿病の罹患率も急増している。正常であれば、血中グルコース(ブドウ糖)濃度つまり血糖値は、インスリンの効果的な働きによって制御される。インスリンは血中からのグルコース取りこみを促進させ、肝臓からのグルコース放出を減速させる。肥満と糖尿病いずれの場合も、インスリンの標的となる筋肉や肝臓などの組織がインスリンに適切に反応してグルコース代謝を調節することができない。この「インスリン抵抗性」とよばれる状態の開始は体重増加と密接に結びついており、このことから、脂肪をためこんで大きくなった脂肪組織がインスリンの働きを妨害するシグナル(1つか複数かわからないが)を発するとみられている。この見方と符合するように、 YangたちはNature 2005年7月21号で、脂肪細胞で作られるレチノール結合タンパク質4(RBP4)という因子が、インスリンに対する全身の感受性を損なう可能性があると報告している。グルコースの恒常性を調節することがわかった脂肪組織由来ペプチドの種類は増えつつあり、そこにRBP4も加わることになる。
内分泌器官としての脂肪組織の重要性が最初に浮上したのは、レプチンの革新的発見があった1995年のことである。この脂肪組織由来ホルモンは、摂食行動とエネルギー消費量の両方を制御することで体重を抑える。その後の研究で、エネルギー源の使用量を制御する他の器官へ脂肪組織の大きさやエネルギー状態の変化を知らせる、脂肪組織由来の「アディポカイン」とよばれる一群のタンパク質(アディポネクチンやTNF-α、レジスチンなど)の存在が明らかになった。臨床の観点からすれば、こうした分泌型ペプチドはそれぞれが、肥満からインスリン抵抗性を切り離すような薬剤の標的となる可能性がある。
Yangたちの発見は、糖尿病研究が長年直面してきたパラドックスを解く鍵になるかもしれない。GLUT4はインスリンに制御されるグルコース輸送体であり、肥満してインスリン抵抗性のある齧歯類やヒトの脂肪細胞ではGLUT4の発現が大きく減少するが、筋細胞では減少しない。これは、筋肉がグルコースの処理に大きな役割を果たすことを考えると意外なのだ。このパズルを解くための最初の手がかりは、脂肪組織のGLUT4の発現を特異的に排除したり増加させたりする研究からもたらされた。脂肪組織のGLUT4を欠損させたマウスは糖尿病になりやすいが、GLUT4を過剰に発現させたマウスはグルコースを効率良く処理する。全身のインスリンの効き目の変化は、筋肉や肝臓のインスリンに対する感受性の変化によって生じる。そのため、脂肪が末梢組織とコミュニケーションをとれるような「脂肪組織分泌」(adipocrine)物質の関与が考えられた。ところが、すでに知られる脂肪組織由来因子(レプチンや遊離脂肪酸、TNF-αなど)を調べても、GLUT4を増減させる操作に反応したと思われる因子の正体を、確信をもって明らかにすることはできなかった。
そこで今回Yangたちは、DNAマイクロアレイ技術を使ってほかのアディポカイン類を探した。そして、RBP4が分泌型のタンパク質であって、GLUT4を過剰発現したマウスとGLUT4を欠損したマウスの脂肪組織で相互的に制御されることを突きとめた。Yangたちは広範な裏づけによって、RBP4が、脂肪組織におけるGLUT4抑制とインスリン抵抗性の間をつなぐ隠れた連結部であり、インスリンの働きを広く仲介する中枢因子でもあることを示している。肥満とインスリン抵抗性をもつ5つの独立のマウスモデルでは、血中のRBP4量が上昇し、肥満のヒトでも同様である。GLUT4を欠損したマウスでは、糖尿病治療薬であるロシグリタゾンで 血中RBP4量が低下してインスリン感受性が正常化する。 血中RBP4量を増加させると耐糖能異常を起こし、逆に、マウスでRBP4遺伝子を欠失させるとインスリン感受性は高まる。最終的にYangたちは、フェンレチニド(RBP4排出量を増大させて血中RBP4量を低下させる合成レチノイド)をマウスに投与すると、高脂肪食の摂取で生じたインスリン抵抗性が改善されることを示した。
RBP4がインスリンの働きに影響をおよぼすしくみは部分的に解明されている。RBP4は筋肉で、酵素であるPI-3キナーゼの活性やインスリン受容体基質‐1のリン酸化を低減するので、どちらの作用もインスリンの働きが損なわれていることを示す明確なマーカーとなる。RBP4が増大しても、肝臓のPI-3キナーゼ活性は変化しないが、肝臓のグルコース産生量は、グルコース産生経路の重要酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の発現増大と連動してはっきり増える。
RBP4は従来、その名が示すようにレチノール(ビタミンA)の輸送体として知られてきた。RBP4とインスリンの働きとの結びつきに、レチノールの代謝や送達の変化がかかわっているかどうかは明らかでない。この方向の話として興味深いのは、PEPCKの発現がレチノイドによって促されるという事実だ。この作用には、RBP4によるレチノール・リガンドの送達の増進がかかわっている可能性がある。しかし、YangたちはRBP4が培養ラット細胞でPEPCKの発現やグルコースの産生を促進することも示した。これは、このペプチド(つまりRBP4)が直接作用することを意味するのかもしれないが、RBP4に親和性の高い受容体はまだ何も見つかっていない。加えて、レチノールはRARやRXRといった核内ホルモン受容体のリガンドを合成するための前駆体でもある。RXRは、脂肪酸代謝に関与する遺伝子群の転写を制御する受容体ファミリー(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)の相手役を果たす。したがってRBP4は、筋肉もしくは肝臓内の脂肪酸代謝の制御不全(これはインスリン抵抗性のよく知られた要素の1つ)を通じて糖尿病に関係しているのかもしれない。
結局のところ、脂肪細胞のGLUT4-RBP4機構は肥満や食べ過ぎに対応して進化したのだろうか。それとも、他の目的のために進化したのだろうか。おもしろいことに、食事をとらない(一晩の絶食など)とインスリン抵抗性が促され、脂肪組織でのGLUT4発現は激減する。このGLUT4制御状態に応答してRPB4量が上昇するのかどうかは、今のところわかっていない。しかしもし上昇するなら、GLUT4-RBP4機構は、ひどい飢餓状態にあるときに末梢組織によるグルコース取りこみを制限して、グルコースを第一のエネルギー源とする脳のためにグルコースを節約するしくみとして進化したと考えてよさそうだ。対照的に肥満は早い段階で、脂肪細胞におけるインスリン抵抗性の発達をもたらした可能性がある。これによってGLUT4の発現は飢餓状態の場合と同じように減少し、そのせいで脂肪細胞は肥満を飢餓状態だとすっかり勘ちがいしてしまうのだろう。とにかくはっきりしているのは、Yangたちの今回の研究が、脂肪細胞とその分泌する因子類を「駒」にして、糖尿病や肥満の蔓延の核心部分に攻め寄ったということだ。
ここでは、脂肪細胞から分泌される新規の悪玉因子が発見されたとある。ようするに“ダークサイド”の役者がもう一名、登場した・・・と。
このニューフェイス、ちょっと、素性が変わっているのだ。それ故、その存在が附に落ちない。本当に“タークサイド”なのか?と。
抗肥満ホルモンとして見つかっていた“レプチン”が、実は脂肪細胞が分泌していたと Nature に発表されたのが1999年。それ以来、たんなる脂肪の貯蔵細胞じゃなくって、外界からの刺激に応じて活発にレプチンやサイトカインを分泌し全身の諸臓器に信号を送っている、重量からいえば最大の“内分泌臓器”だとの見方に変わった。
さらに、過剰に脂肪を取り込んだ脂肪細胞からはアジポサイトカインが分泌され、インスリン抵抗性を惹起するのだという事もわかってきた。
大雑把に、この辺までは全く理解の妨げはない・・・。
(まめ知識 No.21『食後血糖 180mg/dl』からのスレッド、Lecture , 古文書 library など参照)
しかし、摂取カロリーが同じなのに太る人と太らない人がいて、さらに、太った人の中にもインスリン抵抗性になる人とならない人がいる・・・。この辺から、、、、
---簡単じゃないぞ!!---
高脂肪食が肥満に繋がる・・・・、誰しもが疑いなく思い込んでいる“当たり前の事”だけど、『何で、高脂肪食が肥満になるのか?』と子供が大人に突っ込む質問みたいに、この問題に取り組んでいる研究者がいる。どうして、肥満がインスリン抵抗性を引き起こすのか?と。
どうして、高脂肪食が肥満になるのか?について PPARγに目が付けられたのは、脂肪の分化に関して PPARγ がマスターレギュレーターだと発表されてたからだ。
研究の結果は、PPARγの活性が低いと“肥満にならない”というものだった。PPARγのホモ欠損マウスは致死だから、ヘテロ欠損マウスでのデータになのだが、野生型は脂肪食で“肥満”したのに、ヘテロ欠損は同じ食餌で“肥満しない”のだ。同時に、野生型はインスリン抵抗性になり、ヘテロ欠損は抵抗性にならない。
人間に当てはめてるのには、ヘテロ欠損なんて現実的じゃないから、SNPs を調べる訳だけど、12番目のアミノ酸がプロリン→アラニンに変わる人がいたわけだ。そして、アラニン型はプロリン型のPPARγの活性(発現量といっても良い)が2/3くらいに落ちていたことが解った。
実際にアラニン型のヒトの臨床症例を調べると、太りにくくて、糖尿病発症率が60%抑制されていることが分かった。
というわけで、マウスでも人でも PPARγは、フルな活性よりも半分とか2/3の方が糖尿病になりにくく、肥満になりにくいということが分かったのだ。
そして、これが、倹約遺伝子の考え方に収斂していく。
そう、同じカロリーのエネルギー源を摂取したら、それを無駄に消費しないで脂肪細胞に貯蔵する、さらに、消費したら“熱”でなく“ATP”に変換する・・・・遺伝子の方が、飢餓の時代に適応して、生き残るというアレだ。
どうして、肥満がインスリン抵抗性を引き起こすのか?については、現在、糖尿病治療に用いられているインスリン抵抗性改善剤の作用機序の解明を見なくちゃならない。
さて、このインスリン抵抗改善剤、通称“チアゾリジン系”薬は、PPARγ 刺激薬だ。
・・・・って、アレっ???
太らない為には、PPARγの活性は低い方が良いって言ってたのに、今度は、PPARγを“刺激”するだぁ???
---エネルギー代謝って、複雑だなぁ---
取り敢えず、先を急ごう。
このチアゾリジン系薬剤は、一体どうしてインスリン抵抗性を解除するのか?という事に関しては、以下のような理由が考えられている。(なんか、騙されてるような気もするんだけど、反論の余地はない)
そもそも、人間の脂肪細胞は思春期には完成して、それ以降は分化しない。つまり、使っている遺伝子は思春期以降、同じであるということだ。
そこへ、チアゾリジン系薬剤を加えると、脂肪細胞の前駆細胞が、小型脂肪細胞に分化してくる。PPARγ はその名前の通り、脂肪細胞の分化を押し進める遺伝子の転写因子なのだから。
そして、今まであった脂肪を貯め込んだ大型の脂肪細胞は安定していた発現遺伝子を強制的に変化させられ、アポトーシスを起こしてしまう。
すなわち、PPARγアゴニストを作用させると、脂肪組織にて、脂肪細胞が置き換わるということなのだ。
ここに、インスリン抵抗性が改善される“鍵”がある。
・大型脂肪細胞は、悪玉因子を分泌している。
・小型脂肪細胞は、善玉因子を分泌している。
ということで、大型が小型に置き換われば、結果として“インスリン抵抗性は改善される”というわけだ。小型脂肪細胞が善玉因子を分泌しているのは、《脂肪萎縮症》がインスリン抵抗性を示す事からも、逆説的に証明される。(まめ知識 No.221『アディポネクチン---インスリン抵抗性』からのスレッド参照)
じゃ、PPARγの活性が弱いと、太らないというのは何なのか?って事が考えられるが、それに対する答えは、、、
PPARγを刺激すると脂肪細胞の前駆細胞は小型脂肪細胞になるのだが、この時、分裂を繰り返して数は多くなっている。要するに体重は変わらないってこと。
PPARγを抑制すると、大型の脂肪細胞がだんだんしぼんで小さくなって“小型脂肪細胞”になるので、体重が減る・・・すなわち、高肥満薬として機能する事が予想される。
ただし、PPARγ拮抗薬は、まだ、製品としては無いのだが・・・。
---複雑な制御だなぁ---
このように、PPARγは、刺激しても抑制しても、最終的には同じような結果が期待できる・・・と。
ただし、例えば、アラニン型PPARγ の人を拮抗剤で抑制しちゃったら、脂肪萎縮症と同じだから、かえって、インスリン抵抗性は増してしまう事が予想されるので、一般的ではなく、SNP を調べたあと、すなわち、オーダーメイド医療が進んだ時代になってからじゃなきゃ、まずいけど。
しかし、日本人の96%はプロリン型・・・・。
---だから、良く解らないのだ。---
解らないことは、これだけじゃない。
小型脂肪細胞から分泌している“善玉因子”は、レプチンとアディポネクチンだという事が確認されたのだが、レプチンとアディポネクチンの分泌制御は同一ではない。
肥満すると(大型脂肪細胞からは)アディポネクチンが分泌されないのに対して、レプチンは肥満すると分泌される。レプチンは肥満に対するフィードバックだから、単純に分かり易いけど、アディポネクチンは肥満すると分泌が止まる。
アディポネクチンのイントロンの多型によっても、アディポネクチンの産生量が変わってしまうことも解っている。エキソンの間違いじゃなく、イントロンの SNP だ。
アディポネクチンの効果は、細胞内に AMPキナーゼを増やす。
AMPキナーゼの活性を上昇させることというのは、簡単に言うと、例えば運動すると、ATP が分解されて、AMP が出てくる。そうすると生体は ATP を元に戻そうとするので、糖や脂肪を使って ATP を作ろうとする。それが AMP によって活性化される《AMPキナーゼ》と呼ばれるもの。それが活性化されると、糖取込担体、グルコース・トランスポーターが膜に移送されたり、脂肪酸の取込があがったりする。運動療法に効果がある理由でもある。
効果器の側、すなわち、肝臓と骨格筋に対しても働き方が違う。アディポネクチンの受容体が、肝臓と筋肉では違うのだ。
ちなみに、基礎代謝も上げる。
糖を燃やすと、通常、ATPに変わる。ミトコンドリア電子伝達系での出来事だ。その ATP に変わる分を熱に変えてしまうわけだ。UCP がキーワードになる。基質を燃やしたときの電子の流れを、ATP 産生に向かわせず、途中でリークさせるイメージ。
さらに、骨格筋のインスリン受容体をノックアウトしてもインスリン抵抗性は惹起せず、肝細胞のインスリン受容体をノックアウトすると抵抗性が惹起される。
また、GLUT4 に注目すると、肥満してインスリン抵抗性のある齧歯類やヒトの脂肪細胞では GLUT4 の発現が大きく減少するが、筋細胞では減少しない。と・・・・。
そうなのだ、レプチンまでは『太ったから、太った脂肪細胞から食欲を抑制する因子が分泌される』と、全く、違和感なく受け入れられる理論だったのだが、アディポネクチンあたりから・・・・。
そして、今回の Natuer の『AはアディポカインのA』。
肥大した脂肪細胞から分泌される“悪玉”???。どうして、フィードバック抑制じゃなく増加させるんだろう??
しかも、ビタミンA の輸送担体???
ビタミンの輸送担体が、エネルギー代謝に関与する・・・、しかも、肝臓にて糖新生を促進する。
絶食時に血中濃度が上昇する事に関しては、、、、
飢餓に際して、血中ブドウ糖濃度を維持する為(脳の保護の為)、インスリン抵抗性を惹起するのだとの解釈は、非常に納得してしまったが、倹約遺伝子との関係はどうなるのだ??
この、ニューフェイス、生命の維持の為(脳の保護)に働くとしたら“ダークサイド”に入れといていいのか??
閑話休題
“生きている”という、ある意味哲学的な内容をも含む現象に直結するエネルギー代謝だけに、色々な現象を説明する為、尤もらしい機序が考え出された訳だが、聞けば、どれも理論的に正しいと思わざるを得ない。
そのロジックに破綻はない。
各政党がマニフェストを掲げて、色んな事を言っているが、日本を良くするという方向では、全く同じだ!それのどれが正しいか?は、結局は神のみぞ知るところなのだろうが、生物のエネルギー代謝の現象一つとっても、色々な見方から、色々な解決策(治療薬)が開発されて、結構、役に立っているのだから、どの政党が政権を取っても、そこそこ同じ結果だと思う事も出来るが、圧倒的に“副作用”だけが目立つ薬も存在する事だから、どの政党でも良いというわけにはいかない!!
生物の進化の過程で、飽食の時代は無かった。それゆえ、このような内部環境(肥満)に対して、どう対処すれば良いのか?のスクリプトは用意されていなかったというのが、本当のところなのだろう。
国の舵取りにしても、今の日本のような状況は、過去に一度もないわけだから、対処するためのスクリプトは、事前に用意できる訳もなく、参考に出来る時代もない訳だ。
とりあえず、わかっていることは、今のままじゃ、行く末は見えているということだろう。だから、全てにおいて“改革”が必要なのだが・・・・。